食物アレルギーのある社員の分は、どう備えればいいですか。BCP対策の備蓄で会社がやること

会社がやることは3つです。①主食を白米のアルファ米に統一する ②個別の対応食は本人に職場へ置いてもらう ③配るときに原材料表示か献立表を見せられる形にしておく。アレルギー対応の非常食を全員分そろえる必要はありません。買う数量は増えません。

目次

根拠の数字

まず、何が「アレルギーの品目」として公に決まっているのかを押さえます。食品表示基準が表示を義務づけている品目は9品目、消費者庁の通知が表示を推奨している品目は20品目です。合計29品目で、これがアレルギー表示の対象です。

区分品目数品目名表示
特定原材料
(食品表示基準 別表第14)
9えび、カシューナッツ、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、落花生義務
特定原材料に準ずるもの
(消費者庁次長通知)
20アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、キウイフルーツ、牛肉、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、ピスタチオ、豚肉、マカダミアナッツ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン推奨(任意)

出典:消費者庁「アレルギー表示について」(令和8年4月時点)。カシューナッツは2026年4月1日に義務表示へ移り、同時にピスタチオが推奨表示に加わりました。ここは後で重要になります。

次に、実際に何が原因になっているかです。消費者庁が概ね3年ごとに行っている全国実態調査の内訳です。

原因食物割合原因食物割合
鶏卵26.7%カシューナッツ4.6%
くるみ15.2%えび3.0%
牛乳13.4%大豆1.3%
小麦8.1%キウイフルーツ1.3%
落花生7.0%マカダミアナッツ1.1%
いくら5.7%そば1.1%
かに0.4%

出典:消費者庁「アレルギー表示について」(令和6年度食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書「即時型食物アレルギーによる健康被害に関する全国実態調査」より作成・N=6,033)。

鶏卵・牛乳・小麦の3つで48.2%。木の実類(くるみ・カシューナッツ・マカダミアナッツ)を足すとこの6品目で69.1%になります。この数字が、あとの「主食の選び方」に直結します。

最後に、国が備蓄についてどう書いているかです。内閣府の取組指針から、食物アレルギーに関する記述を抜き出します。

項目記述(原文)
備蓄する食料「食物アレルギーを有する避難者にも配慮し、アルファー米等の白米と牛乳アレルギー対応ミルク等を備蓄すること」
画一性「乾パン等の画一的なものだけにならないよう検討すること」
配り方「食物アレルギー対応食品等についても、必要な方に確実に届けられるなど、要配慮者の利用にも配慮すること」
表示「提供する食事の原材料表示を示した包装や食材料を示した献立表を掲示し、避難者が確認できるようにすること」
本人からの情報提供「食物アレルギーの対象食料が示されたビブス、アレルギーサインプレート等を活用すること」
専門職への相談「保健衛生関係部局が管理栄養士等の専門職種に相談できるように努めること」

出典:内閣府(防災担当)「避難生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」平成25年8月(令和6年12月改定)11ページ・20ページ。

この基準は誰向けか。自社にどう読み替えるか

上の内閣府の指針は、市町村が避難所を運営するための指針です。企業向けではありません。そして企業に食物アレルギー対応の備蓄を義務づける法令はありません。東京都帰宅困難者対策条例が定めている3日分の備蓄は努力義務で、アレルギーには触れていません。

ではなぜ読むのか。企業が「配慮しているか」を問われたときに参照できる公の記述が、ここにしかないからです。稟議でも監査でも取引先からの照会でも、社内の判断だけで組んだ案より、国の指針の書き方に沿った案のほうが通ります。

そのうえで、東京都は会社の側と本人の側の役割分担を書いています。帰宅困難者対策ハンドブックは、要配慮者自らの日常からの防災準備として次のように書いています。

「食物アレルギーや、嚥下困難等で食事に配慮が必要な場合、対応食を職場や自宅に備蓄したり、携行しておきましょう
東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」令和5年3月・31ページ

個別の対応食は、本人が職場に置く。これが東京都の書き方です。会社が全員分の対応食を買いそろえる話にはなっていません。同じハンドブックは会社側については「事前に要配慮者の情報を把握しておき」と書いており、会社の仕事は把握と場所の提供、本人の仕事は対応食そのものという分担になります。

会社が買わなくてよい領域があるという考え方は、常備薬や運動靴でも同じです(防災備蓄で、絶対に必要なものと、そうでもないものはありますかで扱っています)。個別の対応食は、その延長にあります。

読み替えの対応は次のとおりです。

指針の記述会社では何をすることになるか
「アルファー米等の白米」主食の選び方を変える。味付きご飯・パン・乾パンを共通の備蓄の中心に置かない
「必要な方に確実に届けられる」誰に何を渡すかを、発災前に決めておく。当日の判断にしない
「原材料表示を示した包装」外装を捨てない。中身だけ配ると確認する手段が消える
「ビブス、アレルギーサインプレート等」本人が周囲に知らせることを選べる手段を用意する。会社が一律に着けさせるものではない
「管理栄養士等」社内にいなければ、判断を要する運用を最初から作らない。調理や取り分けを前提にしない

何を1と数えるのか

ここを外すと、必要な量が何倍にも見えてしまいます。人数で数えません。除去する品目で数えます。

  • 卵を除去する人が3人いても、卵不使用の主食を1品目そろえれば3人に足ります
  • 1人が卵と乳と小麦を除去するなら、その3つすべてを外した品目が必要です。人数は1人でも、品目は別に立ちます

つまり数える単位は人数ではなく、「除去品目の組み合わせが何種類あるか」です。そして備蓄は2つの層に分けます。

中身誰が持つか
共通層全員が食べられるもの。白米のアルファ米と水会社
個別層共通層で吸収できない組み合わせの分だけ本人(会社は保管場所を提供)

共通層を厚くすると、個別層が薄くなります。ここが設計の勘どころです。白米は、原因食物の69.1%を占める6品目(鶏卵・くるみ・牛乳・小麦・落花生・カシューナッツ)をいずれも原材料に含みません。主食そのものが原因食物にあたる、という状況を避けられます。内閣府が「アルファー米等の白米」を挙げているのはこの理由です。

式にすると次のようになります。

共通層の食数 = 算定人数 × 3食 × 日数

個別層の食数 = 共通層で吸収できない人数 × 3食 × 日数

算定人数(=何人分か)の出し方は、この記事では扱いません。在籍人数ではなく「発災時及びその直後に職場にいるであろう従業者」で数えるため、在籍100人でも答えは変わります。従業員100人の会社は、防災備蓄を何人分そろえればいいですかで、委託業者や派遣の扱いまで含めて整理しています。

計算例:算定人数100人と300人

東京都の目安(1人1日 水3L・3食、3日分)で置いた場合です。

算定人数 100人算定人数 300人
3日分の食事総数900食2,700食
3日分の水900L2,700L
主食を白米のアルファ米に統一したとき、
主食が原因食物にあたらなくなる範囲
900食すべて2,700食すべて
仮に、共通層で吸収できない申告が5%あったとして5人 → 45食15人 → 135食
個別層が全体に占める割合5.0%5.0%
個別層を持つのは本人(会社は保管場所)本人(会社は保管場所)

この表の「5%」に出典はありません。計算の形を見せるための仮の数字です。実際の申告数を入れて計算してください。公表されている企業向けの発生率の基準は存在しないため、当社もこの数字を基準として置いていません。

会社が買う数量は、アレルギーを考慮しても変わりません。変わるのは主食の選び方と、外装を捨てない運用だけです。「アレルギー対応食を全員分」で見積もると予算が跳ね上がり、そこで案が止まります。止まる理由を、自分で作らないことが要点です。

実務でつまずく点

1. いま倉庫にある非常食の表示には、カシューナッツが載っていない可能性がある

2026年4月1日に、カシューナッツが特定原材料(義務表示)に追加されました。ただし消費者庁の事務連絡は、あわせてこう書いています。

「なお、2年間の経過措置期間を設けていますが、可能な限り速やかに表示に努めるよう御指導願います」
消費者庁食品表示課 事務連絡「アレルゲンを含む食品に関する表示について」令和8年4月1日

つまり、しばらくは「カシューナッツを含むが、そう書かれていない加工食品」が流通します。2026年4月1日より前に製造された在庫はもちろん、経過措置の間に製造されたものも改正前の表示で構いません。備蓄は5年前後の長期保存品を買うので、倉庫の在庫はそのまま経過措置の期間をまたぎます。

木の実類は原因食物の20.9%(くるみ15.2%+カシューナッツ4.6%+マカダミアナッツ1.1%)を占めます。さらに同じ事務連絡は、ピスタチオについて「新たに特定原材料に追加したカシューナッツとの交差反応性も踏まえ」表示に努めるよう指導を求めています。

やること:ナッツ類を含む製品を、共通層に入れない。共通層は白米と水に寄せます。判断を表示に頼らずに済む構成にしておくのが、いちばん確実です。

2. 製造ラインでの混入について、表示は義務ではない

消費者庁は、原材料として使っていなくても製造工程でコンタミネーション(混入)が起こりうるとし、対策を徹底しても可能性を排除できない場合について「注意喚起表示を推奨しています」としています。推奨であって、義務ではありません。

さらに「『入っているかもしれない』といった単なる可能性表示は認められていません」とされています。曖昧な表示が存在しないので、書いていない=入っていないと読み違えやすい構造になっています。

表示が保証しているのは「書いてあれば入っている」の方向だけです。社内の説明で、表示が無いことを安全の根拠にしないでください。重い症状の人がいる場合、判断できるのは本人だけです。会社は情報を渡す側に徹します。

3. 配るときに、判断材料が消える

内閣府の取組指針は、避難所について「原材料表示を示した包装や食材料を示した献立表を掲示し、避難者が確認できるようにすること」を求めています。備蓄品を箱から出して中身だけ配ると、本人が確認する手段が無くなります。

  • 外装を捨てない。箱ごと・袋ごと配る
  • 配る前に外装の表示を写真で1枚撮り、備蓄リストに紐づけておく。品番が変わった入れ替え時にも効きます
  • 湯を沸かして配る・取り分ける運用にするなら、献立表は必須になります

ここは費用がかかりません。運用を決めるだけです。そして買った後に決めるより、買う前に決めるほうが早く終わります。

4. 申告を集める行為そのものが、要配慮個人情報の取得になる

「社内にアレルギーの人がいるか調べよう」で、そのまま名簿を作ってしまう場面です。病歴は個人情報保護法の要配慮個人情報にあたり、取得には原則として本人の同意が必要で、オプトアウトによる第三者提供は認められていません。

加えて労働安全衛生法第104条にもとづき、事業者は「労働者の健康の確保に必要な範囲内で労働者の健康情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない」とされています。

実務としては次の形になります。

  • 集めるのは病名ではなく「除去する品目」だけ
  • 「備蓄の算定に使う」という目的を書いてから集める
  • 申告は任意。提出しないことで不利にならないと明記する
  • 扱う担当者を限定する。備蓄の台帳に個人名と一緒に並べない

当社の算定では、個人単位の情報を持たない設計にしています。拠点ごとに「除去品目の組み合わせが何種類あるか」までしか持ちません。個人に紐づけないほうが、集めやすくもなります。

5. 対応食は、災害が起きてからでは買えない

農林水産省は「災害等が起こると、食物アレルギー対応食品を含む特殊食品は手に入りにくくなります」として、家庭には少なくとも2週間分のストックを勧めています(これは家庭向けの目安で、企業向けの数字ではありません)。

支援物資や炊き出しで対応食が届くことを、前提にできません。内閣府の指針も、避難所の備蓄に「牛乳アレルギー対応ミルク等」を含めるよう求めています。つまり事前に置いておくしかないという整理が、国の側にもあります。

会社としては、社内の呼びかけをここまで具体的にします。「対応食を職場に置いてください」だけでは動きません。置く場所(個人ロッカーか、備蓄倉庫の専用棚か)、何日分か(会社の共通層と同じ3日分でよいのか)、期限が来たときに誰が声をかけるのか。この3つを決めて伝えます。

6. 申告が無いことは、いない証明ではない

申告は任意なので、強制できません。申告しない人もいます。だから「申告がゼロだったので対応不要」という結論にはなりません。

そして、これは共通層を白米に寄せておけば解ける問題です。申告に依存しない設計にしておくこと。申告を集める作業が終わらなくても、共通層の主食は先に決められます。

社内でどう説明するか

稟議・監査・取引先からの照会に、そのまま使える言い方です。4点で足ります。

  1. アレルギー対応の非常食を全員分そろえる案は採りません。主食を白米のアルファ米に統一します。内閣府「避難生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」が、「食物アレルギーを有する避難者にも配慮し、アルファー米等の白米と牛乳アレルギー対応ミルク等を備蓄すること」としています
  2. 個別の対応食は、本人に職場へ置いてもらいます。東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」が、要配慮者本人の準備として「対応食を職場や自宅に備蓄したり、携行しておきましょう」と書いています。会社は呼びかけと保管場所の提供を行います
  3. 申告は任意とします。病歴は要配慮個人情報にあたり、取得には本人の同意が必要です。集めるのは「除去する品目」のみで、備蓄算定という目的の範囲内で、担当者を限定して保管します
  4. 買う数量は増えません。変わるのは主食の選び方と、外装を捨てない運用です

この4点は、白黒でA4一枚に収まります。カラーで複数枚の資料より、出典が載ったA4一枚のほうが決裁は早く回ります。

よくある誤解

誤解実際
アレルギー対応の非常食を、全員分そろえる必要がある不要。内閣府が挙げているのは「アルファー米等の白米」。共通層を白米に寄せれば大半が吸収できる
原材料表示を見れば安全がわかる表示が保証するのは「書いてあれば入っている」だけ。コンタミネーションの注意喚起表示は推奨で、義務ではない
いま買った非常食なら、カシューナッツも表示されている2026年4月1日の施行に2年間の経過措置がある。改正前の表示のまま流通する
支援物資や炊き出しで対応食が届く農林水産省は「災害等が起こると、食物アレルギー対応食品を含む特殊食品は手に入りにくくなります」としている
社内から申告が無ければ、対応は不要申告は任意で強制できない。申告に依存しない共通層を用意する
アレルギー対応は食料の話だけ内閣府は「牛乳アレルギー対応ミルク等」も挙げている。乳幼児が来る事業所は別に検討する
企業にもアレルギー対応の備蓄義務がある義務づける法令はない。内閣府の指針は市町村が避難所を運営するためのもの

まとめ

  • 会社がやることは「共通層を白米に寄せる」「個別層は本人に置いてもらう」「外装を捨てない」の3つ
  • 数える単位は人数ではなく、除去する品目の組み合わせが何種類あるか
  • 原因食物の上位(鶏卵26.7%・くるみ15.2%・牛乳13.4%)を含む6品目で69.1%。白米の主食なら、主食そのものが原因食物にあたる状況を避けられる
  • カシューナッツの表示義務化には2年間の経過措置がある。表示が無いことを安全の根拠にしない
  • 申告は任意。集めるのは「除去する品目」だけで、目的を書いて、担当者を限定する

この記事の出典

株式会社MOSHIMO HACKは、企業の防災備蓄の算定と、備蓄品の管理を代行しています。

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この記事を書いた人

株式会社MOSHIMO HACKは、非常用トイレをはじめとする防災用品の製造・販売と、企業の備蓄数量の算定を行っています。代表の寺澤は災害備蓄管理士(一般社団法人 防災安全協会)および防災士。「作っている側」と「資格を持って算定している側」の両方から、企業の備蓄について書いています。

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