災害用トイレは何人に1基必要ですか

災害用トイレは、災害発生当初は避難者約50人に1基、避難が長期化する場合は約20人に1基が目安です。女性用と男性用の比率は3対1、1人が1日にトイレを使う回数は5回として計算します。いずれも内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(令和6年12月改定)が示している数値です。

ただし、この数字をそのまま自社に当てはめると、多くの会社で計算を間違えます。理由は、これが「避難所」の基準だからです。この記事では、数字そのものと、会社に当てはめるときの読み替え方、そして実際に備蓄を進めるときに必ず詰まる5つの点を、出典付きで整理します。

目次

目安になる数字は4つ

項目数値
災害発生当初のトイレの個数避難者50人あたり1基
避難が長期化する場合避難者20人あたり1基
女性用と男性用の比率3対1(女性用が全体の75%)
1人1日あたりの使用回数5回
出典:内閣府(防災担当)「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」平成28年4月(令和6年12月改定)

ガイドラインは、この4つを国際的な人道支援の基準であるスフィア基準に沿ったものとして示しています。当初の50人に1基と、長期化したときの20人に1基には2.5倍の開きがあります。50人に1基で計画を立てていると、避難が長引いた時点で足りなくなります。

この数字は「避難所」の基準です

ここを取り違えている企業が少なくありません。このガイドラインが対象にしているのは市町村と避難所であって、企業のオフィスではありません。

会社のトイレの数は、平常時については別の法令で定められています。事務所衛生基準規則(昭和47年労働省令第43号)第十七条は、事業者に対して次の数以上を求めています。

区分必要な数
男性用大便所の便房同時に就業する男性労働者60人以内ごとに1
男性用小便所同時に就業する男性労働者30人以内ごとに1
女性用便所の便房同時に就業する女性労働者20人以内ごとに1
出典:事務所衛生基準規則 第十七条(e-Gov法令検索・2026年9月7日確認)。同時に就業する労働者が常時10人以内の場合は、男女に区別しない独立個室型の便所1つで足りる特例があります

並べると、平常時の法令が求めているのは20人から60人に1つ、災害時の目安は当初50人に1基、長期化で20人に1基です。長期化したときの「20人に1基」は、平常時の女性用便所の基準と同じ水準にあたります。

会社は避難所ではありません。しかし東京都の帰宅困難者対策条例のように、災害時に従業員を社内にとどめることを前提とした枠組みがある以上、社内で起きる状態は避難所とほぼ同じです。避難所の目安を参考にするのは妥当ですが、「そのまま当てはめた」のか「読み替えた」のかは、社内で説明できるようにしておく必要があります。

「トイレの個数」の数え方を間違えない

必要数を計算する前に、何を1基として数えるのかを確かめてください。ガイドラインは、施設のトイレの個室(洋式便器で携帯トイレを使用するもの)と災害用トイレを合わせた数で算出するとしています。

  • 既設の洋式便器は、断水しても携帯トイレを使えば個室として使えます。つまり自社ビルにあるトイレが、そのまま主戦力になります
  • バリアフリートイレは、この個数に含めません。避難者の人数やニーズに合わせて別に確保することが望ましいとされています
  • 和式便器は、便器の上に板や段ボールを置いて封鎖し、その上に簡易トイレを設置すれば個室を活用できます

既設の便器を数えずに必要数だけを買うと、実際には要らない数を備蓄することになります。逆にバリアフリートイレを頭数に入れてしまうと、足りなくなります。

従業員100人・300人で計算すると

項目計算式100人300人
便器の数(発災当初)人数 ÷ 502基6基
便器の数(長期化した場合)人数 ÷ 205基15基
携帯トイレ(3日分)人数 × 5回 × 3日1,500回分4,500回分
携帯トイレ(7日分)人数 × 5回 × 7日3,500回分10,500回分
携帯トイレの計算式はガイドラインの「1日当たり必要な便袋の枚数=最大想定避難者数×5回」「備蓄目標数=1日当たり必要な便袋数×日数」に基づきます

備蓄する日数は、ガイドラインがまずは3日分を目標にとしています。便器は既設のものと合算できるので、多くのオフィスでは新たに買い足す数はそれほど多くありません。一方、携帯トイレは100人でも1,500回分、300人なら4,500回分になります。ここが実務で効いてきます。

なお、この人数を在籍人数で置いてよいかは別の論点です。当社では、算定の対象人数を「同時に在館する最大の人数から在宅勤務分を除き、常駐する協力会社や派遣、平均的な来客数を加え、徒歩で帰宅できる人数を引いた数」として置いています。これは公表された基準ではなく、当社の設計です。在籍420人の会社で、算定対象が268人になった例があります。

この点は、その後に東京都側の資料でも裏づけが取れました。東京都帰宅困難者対策条例のQ&Aは、備蓄の対象を「発災時及びその直後に職場にいるであろう従業者」としています。数え方は従業員100人の会社は、防災備蓄を何人分そろえればいいですかで整理しています。

回数と個数は、どういう関係にあるのか

ここで多くの人が引っかかります。「100人に2基でも、100人が同時に行きたいわけではない。順番に使えば足りるのでは」という疑問です。もっともな指摘なので、数字で確かめます。

便器は「同時に何人が使えるか」、携帯トイレは「延べ何回分あるか」を表します。この2つを掛け合わせると、1基あたりの負荷が出ます。

条件1基あたりの1日の使用回数24時間で割ると
50人に1基(発災当初)50人 × 5回 = 250回約5.8分に1回
20人に1基(長期化)20人 × 5回 = 100回約14.4分に1回
人数とトイレの個数の目安、1日5回という使用回数は、いずれも内閣府ガイドラインの数値です。割り算は当社によるものです

50人に1基は、24時間ずっと、約5.8分に1回のペースで誰かが使い続けている状態にあたります。入って出るまでの時間を考えると、ほぼ余裕がありません。そして、この5.8分は「1日を均等にならした場合」の数字です。実際の利用は起床後などに偏るため、平均で足りていても、その時間帯には行列ができます。

ガイドラインも、「トイレの待ち時間に留意し、避難者数に見合ったトイレの個数と処理・貯留能力を確保することが重要」としています。個数は「並ばずに使えるか」で決まっている、ということです。順番に使えば足りるのではなく、順番に使うことまで織り込んだ数字が50人に1基です。

1日5回で足りるのか

「自分はもっと行く」という感覚を持つ人は少なくありません。ガイドラインの5回は平均的な回数として示されている値で、個人差があることを否定するものではありません。

心配な場合、回数の係数をいじるのではなく、日数で余裕を持たせるほうが説明しやすくなります。「5回では足りない気がするので7回で計算しました」は社内で根拠を問われますが、「3日分ではなく7日分にしました」は国の資料に沿った説明のままで量を増やせます。

予算が足りないときは、どこから削るか

必要数を出したところで、そのまま全額の予算が通ることはまずありません。削る順番を先に決めておくと、金額が半分でも「使える備蓄」になります。当社では、次の順で考えています。

  1. 既設の洋式便器を数えてから買う。ここを飛ばすと、すでに持っている個室の分まで買うことになります。いちばん大きく減らせるのがここです
  2. まず3日分。ガイドラインも「まずは3日分を目標に」としています。7日分は後から足せます。3日分から7日分にすると必要数は約2.3倍になるので、最初から7日分で見積もると予算が通りません。日数の決め方そのものは防災備蓄は何日分そろえればいいですかで扱っています
  3. 消耗品を削らない。ビニール袋・凝固剤・処理袋・消臭剤は本体より安いのに、1つ欠けると備蓄全体が使えなくなります。ここを削るくらいなら日数を減らすほうが健全です
  4. 個室を増やすより、回数分を確保する。便器は既設で足りることが多く、先に尽きるのは便袋のほうです

この順番は公表された基準ではなく、当社の考え方です。ただ「既設を数える」と「まず3日分」の2つは、ガイドラインの記述に沿ったものです。

実務でつまずく5つの点

1. 水が出ていても、流してはいけない

知られていないのに、いちばん影響が大きいのがここです。ガイドラインは、水道が使える場合であっても、発災直後は下水処理場等の被害状況が確認されるまでは水洗トイレの使用を禁止し、災害用トイレを使用することとしています。排水先が壊れていれば、流した汚水は建物のどこかで溢れます。

つまり「断水したら災害用トイレ」ではなく、「揺れたら、確認できるまで災害用トイレ」です。断水していないから大丈夫、という判断が、いちばん危険です。

この使用ルールを平時に決めて社内に周知しておくことが、備蓄そのものと同じくらい重要になります。停電でも、マンションや中高層ビルでは水が汲み上がらず水洗トイレが使えなくなります。この点は断水していなくても、会社のトイレを流してはいけないのはなぜですかで詳しく整理しています。

2. 使用済みの携帯トイレを、どこに置くのか

次に見落とされるのがここです。ガイドラインは注意事項として、使用済み携帯トイレの保管場所を確保し、清潔な管理を実施すること、そしてハエ等の害虫対策・臭い対策等の衛生管理に必要な物資を配ること、長期間留めることがないよう定期的な回収を手配することを挙げています。

100人・3日分なら1,500回分の使用済み便袋が出ます。ゴミ収集は災害直後には来ません。買う前に「どの部屋に、何日分置くのか」を決めておかないと、備蓄した分だけ社内に汚物がたまります。外部倉庫や屋外の一角など、居住スペースから離れた場所を先に押さえてください。

3. 既設の便器は、そのままでは使えない

洋式便器に携帯トイレを付けるときは、便器内の水が浸透しないよう、便座にビニール袋をかぶせて固定し、その上に携帯トイレを付けて使用します。この一手間を知らないと、1回目の使用で便器の水に触れて処理が破綻します。和式の場合は、板や段ボールで便器を封鎖してから簡易トイレを設置します。

ビニール袋と固定用のテープは、携帯トイレとは別に必要です。備蓄リストから漏れやすい品目です。

4. 女性用3に対して男性用1を、どう実現するか

多くのオフィスは男女ほぼ同数でトイレが作られています。比率3対1は、既設トイレの配置を変えずに満たすことはできません。現実的には、災害時に一部を女性専用に振り替える運用を決めておくことになります。

これは物を買う話ではなく、ルールを先に決めておく話です。当日に決めようとすると決まりません。

5. 個室の数だけ買っても、足りるとは限らない

便器を増やしても便袋が尽きれば止まり、便袋があっても個室がなければ使えません。どちらか一方だけを揃えても、少ないほうで頭打ちになります。この2つは数える単位が違います(便袋は「枚」、便器は「基」)。仕分け方は携帯トイレと簡易トイレは何が違いますか。BCP対策ではどちらを備えますかにまとめました。

あわせて、凝固剤・処理袋・消臭剤・手指消毒のように、本体以外の消耗品が回数分そろっているかを確認してください。

社内でどう説明するか

この話は、社内では「BCP対策」として扱われることがほとんどです。防災備蓄という言葉より、事業継続計画の一部として持ち込むほうが通りやすい場面が多くあります。

予算を通すときに効くのは、金額ではなく「なぜその数なのか」が国の資料まで遡れることです。次の3点をそのまま使えます。

  1. 数の根拠:内閣府ガイドラインの「当初50人に1基、長期化で20人に1基、1日5回」。国の公表資料であり、社内の基準ではない
  2. 対象人数の根拠:在籍人数ではなく同時在館の最大人数から算定したこと。その計算過程を1枚にしておく
  3. 期間の根拠:まずは3日分。7日分にする場合は、必要数が単純に約2.3倍になることを示す

監査や取引先から備蓄状況を聞かれたときも、この3点がそろっていれば答えられます。

過去の災害では、何人に1基だったのか

災害仮設トイレの数現場の状況
北海道南西沖地震約20人に1基混乱なし
阪神・淡路大震災約75人に1基この数量が配備された段階で苦情が殆どなくなる
雲仙普賢岳噴火災害約120〜140人に1基不足気味
出典:震災時のトイレ対策(財団法人日本消防設備安全センター・1997年発行)。内閣府ガイドラインに掲載

実績を見ると、120人から140人に1基では足りず、75人に1基でようやく苦情が収まり、20人に1基では混乱が起きていません。ガイドラインが示す「当初50人、長期化20人」は、この経験と整合しています。

よくある誤解

誤解実際
断水しなければ社内のトイレは使える下水の被害が確認できるまでは使用禁止。停電でも中高層階は水が上がらない
50人に1基そろえれば足りる長期化すると20人に1基。2.5倍の開きがある
バリアフリートイレも頭数に入る入らない。別に確保する
携帯トイレを買えば準備は終わりビニール袋・凝固剤・処理袋・保管場所・回収の手配まで含めて備蓄

まとめ

  • 災害用トイレは当初50人に1基、長期化したら20人に1基。女性用と男性用は3対1、使用回数は1日5回で計算する
  • 個数は既設の洋式便器と災害用トイレの合計で数える。バリアフリートイレは含めない
  • この目安は避難所の基準。会社の平常時のトイレ数は事務所衛生基準規則で別に定められている
  • 従業員100人・3日分なら、携帯トイレは1,500回分。300人なら4,500回分になる
  • 買う前に決めることが3つある。使用済みの保管場所、水洗トイレの使用ルール、女性用への振り替え
  • 予算が足りないときは、日数を削る。既設便器を数え、まず3日分から。消耗品だけは削らない
  • 「断水していないから大丈夫」がいちばん危ない。揺れたら、下水の無事が確認できるまでは流さない

当社は非常用トイレの製造・販売を行っており、災害備蓄管理士による備蓄数量の算定にも対応しています。

この記事の出典

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この記事を書いた人

株式会社MOSHIMO HACKは、非常用トイレをはじめとする防災用品の製造・販売と、企業の備蓄数量の算定を行っています。代表の寺澤は災害備蓄管理士(一般社団法人 防災安全協会)および防災士。「作っている側」と「資格を持って算定している側」の両方から、企業の備蓄について書いています。

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