携帯トイレと簡易トイレは何が違いますか。BCP対策ではどちらを備えますか

携帯トイレは「便袋」、簡易トイレは「便器」です。役割が違うので、どちらか一方を選ぶものではありません。BCP対策では、既設の洋式便器に携帯トイレを付けて使い、便器が足りない分と和式しかない分を簡易トイレで補います。先にそろえるのは携帯トイレです。

この2つは、内閣府(防災担当)「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」が別々の種類として定義しています。同じ棚に並んでいて名前も似ていますが、数える単位も、いくつ買うかを決める式も違います。

目次

根拠の数字

ガイドラインは、災害時に使うことを目的としたトイレをまとめて「災害用トイレ」と呼び、6つに分類しています。企業のオフィスに関係するのは、ほぼ①と②の2つです。

分類ガイドラインによる概要オフィスでの位置づけ
①携帯トイレ(保管・回収)既存の洋式便器につけて使用する便袋タイプ。吸水シートや凝固剤で水分を安定化させる。使用するたびに便袋を処分する必要がある本命。既設の個室と洋式便座があれば使える
②簡易トイレ(保管・回収)ポータブル型は便座と一定の処理がセットになっており、し尿を貯留できる。組立式は段ボール等の組立て式便器に便袋をつけて使用する便器を増やす手段。和式の個室や、個室が足りないときに使う
③仮設トイレ工事現場で使う屋外設置型。汲み取りやマンホール直結。国土交通省が「快適トイレ」の標準仕様を定めている屋外の敷地がある事業所のみ。到着まで日数がかかる
④マンホールトイレ下水道のマンホールや排水設備上に便器や仕切りを設置する自治体が避難所に整備するもの
⑤トイレカー・トイレトレーラートイレ設備を備えた車両自社保有は現実的でない
⑥その他(自己処理型)水循環式、コンポスト式、乾燥・焼却式など。処理装置を備える電源の確保が前提になる

①と②の違いを一言でいうと、携帯トイレには便器が付いていないということです。携帯トイレは、便器がすでにそこにあることを前提にした商品です。ガイドラインも「既設の個室ならびに洋式便座があれば使用できる」と書いています。

逆に簡易トイレは、便器そのものを持ち込むものです。ポータブル型は便座と処理機能がセットで、し尿を本体に貯留します。組立式は段ボール等でできた便器で、そこに便袋を付けて使います。つまり組立式の簡易トイレは、便器を1つ増やすだけで、そこで使う便袋は別に必要です。

必要数を出すときの数字は、次の3つです。

項目数値出典
1人が1日にトイレを使う回数5回内閣府ガイドライン(令和6年12月改定)
便器1基あたりの人数災害発生当初は約50人に1基/長期化する場合は約20人に1基同ガイドライン
備蓄する日数まずは3日分を目標に。経済産業省は1人あたり35回分(7日分)が必要としている同ガイドライン/経済産業省「トイレ備蓄 忘れていませんか」

この基準は誰向けか。自社にどう読み替えるか

内閣府のガイドラインは避難所(市町村が運営する施設)向けに書かれたものです。企業のオフィスを名指しした基準ではありません。それでも企業がこれを使う理由は2つあります。

  • 企業向けに、これより細かいトイレの基準が公表されていない。東京都の帰宅困難者対策も、品目としては「簡易トイレ」を挙げるところまでで、種類ごとの数え方までは示していない
  • 人が滞在してトイレを使うという条件は、避難所もオフィスも同じ。1日5回という前提も、便器1基あたりの人数も、建物の用途では変わらない

読み替えで注意する点は1つだけです。ガイドラインの「避難者数」を、自社の在籍人数に置き換えないこと。置き換えるのは、発災時とその直後に職場にいるであろう人数です。この数え方は従業員100人の会社は、防災備蓄を何人分そろえればいいですかで扱っています。

もう1つ、前提として押さえておくべきことがあります。この2つが必要になるのは、断水したときだけではありません。ガイドラインは、水道が使える場合であっても、発災直後は下水処理場等の被害状況が確認されるまで水洗トイレの使用を禁止するとしています。理由は断水していなくても、会社のトイレを流してはいけないのはなぜですかにまとめました。

何を1と数えるのか

この2つは、そもそも数える単位が違います。ここを混ぜると、計算が合っているのに現場で足りない、ということが起きます。

携帯トイレ簡易トイレ
単位枚(回分)基(便器の数)
何で決まるか人数 × 1日5回 × 日数目標とする便器数 − 使える既設の洋式便器数
増える理由日数が延びると増える日数では増えない。長期化して「20人に1基」に切り替わると増える
上限実質的に上限はない(保管場所が許す限り)置ける個室・スペースの数が上限

ガイドラインは、必要な便器の数を出すときに「施設のトイレの個室(洋式便器で携帯トイレを使用)と災害用トイレを合わせた数」として算出するとしています。つまりすでに社内にある洋式便器は、携帯トイレさえあれば1基として数えてよいということです。ここを知らずにゼロから買おうとすると、必要のない数を積むことになります。

なおバリアフリートイレ(多目的トイレ)は、この個数に含めません。ガイドラインは「上記の個数に含めず、避難者の人数やニーズに合わせて確保することが望ましい」としています。1基あると数えて全体から差し引くのは、数え方として誤りです。

計算例:在籍100人の会社と、在籍300人の会社

ここでは話を単純にするため、対象人数がそれぞれ100人・300人だとして計算します(実際は在籍人数ではなく同時在館の人数で数えます)。

携帯トイレ(便袋)は「枚」で出す

1日分3日分(内閣府の当面の目標)7日分(経済産業省の35回分)
100人500枚1,500枚3,500枚
300人1,500枚4,500枚10,500枚

経済産業省が言う「1人あたり35回分」は、1日5回×7日=35回です。内閣府の1日5回と同じ前提の上に立っています。3日分と7日分で、数量はちょうど2.33倍になります。

簡易トイレは「基」で出す。人数からは直接出ない

簡易トイレの数は、目標の便器数から、いま使える洋式便器の数を引いた残りです。前提として、100人の会社に個室が6室(洋式4・和式2)、300人の会社に個室が12室(洋式8・和式4)あるとします。

当初(50人に1基)長期化(20人に1基)使える既設の洋式便器必要な簡易トイレ
100人2基5基4基1基以上(和式2室を活用すれば足りる)
300人6基15基8基7基以上(和式4室+個室以外に3基)

ここで効いてくるのが和式便器の扱いです。ガイドラインは「和式便器の場合には、便器を板等で封鎖し、段ボール製等の簡易トイレ(組立式)を用意すれば、個室の活用ができる」としています。和式の個室は、携帯トイレだけでは使えません。組立式の簡易トイレを置いて初めて1基として数えられます。

300人の例では、和式4室を組立式で活用しても12基にしかならず、長期化した場合の15基には3基足りません。この3基は個室以外の場所(会議室など)にパーテーションで仕切って置くことになります。ガイドラインも「既存の個室以外で使用する場合は、パーテーション等で仕切れば使用できる」としています。

そして組立式を7基置いても、そこで使う便袋は上の表の枚数に含まれています。基数を増やしたから枚数が減る、ということはありません。枚数は人数と日数で決まり、基数は行列の長さを決めます。この2つは別々に積みます。

実務でつまずく点

1. 「簡易トイレ」という名前で売られている中身が、便袋のことがある

この2つの呼び名は、法令で定義された用語ではありません。分類を定めているのは内閣府のガイドラインで、商品名の付け方まで縛るものではありません。そのため、実際の売り場やカタログでは「簡易トイレ」という名前で便袋だけの商品が並んでいることがあります。逆に、便器付きの組立式が「携帯トイレ」として案内されることもあります。

何が起きるかというと、商品名で数えた結果、便器が1基も増えないまま枚数だけがそろうということです。稟議は通り、納品も済み、備蓄倉庫は埋まっているのに、和式しかないフロアでは1回も使えません。

発注前に確認するのは1点だけです。「便器が付いているか、袋だけか」。付いていなければ携帯トイレ(枚で数えるもの)、付いていれば簡易トイレ(基で数えるもの)です。名前ではなく、この1点で仕分けてください。

2. 和式しかない個室は、携帯トイレでは使えない

上でも触れましたが、独立した論点なので繰り返します。携帯トイレは洋式便座に取り付ける前提の商品です。和式の個室に持ち込んでも、袋を固定する場所がありません。

ガイドラインの手順は、和式便器を板等で封鎖したうえで、段ボール製等の組立式簡易トイレを置くというものです。封鎖するのは、誤って使われて汚水があふれるのを防ぐためです。板は災害用トイレとして売られていません。合板を寸法に合わせて先に切っておくところまでが備蓄です。

築年数の古いビルや、工場・倉庫の付帯設備では和式が残っていることがあります。個室の数ではなく、洋式便器の数を数えてください。

3. ポータブル型の簡易トイレは、貯留式だと満杯で止まる

簡易トイレのポータブル型は、ガイドラインの説明では「便座と一定の処理がセットになっており、し尿を貯留できる」ものです。汚物の処理タイプには、凝固剤を用いたラッピングのほか、コンポスト乾燥・焼却等があり、ガイドラインは「電気の確保等、製品ごとに利用上の留意点の確認が必要」としています。

ここで問題になるのは容量です。ガイドラインは平均的な排泄量を1回あたり約200〜300mlとしています。1人が1日5回使えば、1人あたり1日1〜1.5リットルです。本体に貯留するタイプは、これが満杯になった時点で使えなくなります。汲み取りを頼める仮設トイレと違い、オフィスの室内に置いたポータブル型には汲み取りの手段がありません。

オフィスで選ぶなら、袋を交換して使い続けられるタイプ(ラッピング式)です。コンポスト式・乾燥焼却式は電源を必要とするものがあり、停電を前提とする備蓄とは相性が悪くなります。

4. 個室以外に置くなら、仕切りと動線が別に要る

「便器が足りないので簡易トイレを買い足す」と決めたあと、多くの会社が止まるのがここです。置く場所が個室ではないからです。ガイドラインは「既存の個室以外で使用する場合は、パーテーション等で仕切れば使用できる」としていますが、そのパーテーションは災害用トイレのセットには入っていません。

決めておくことは3つです。どの部屋に置くか(会議室・更衣室など施錠できる部屋)、仕切りをどうするか、使う人がそこまで行く経路が執務スペースを横切らないか。この3つは費用がかからず、いま決められます。先に場所を決めてから基数を確定させると、置けない数を買わずに済みます。

5. どちらを選んでも、使用済みの便袋の処理は発生する

「簡易トイレにすれば、処理が要らなくなる」という理解は誤りです。組立式の簡易トイレは便袋を使うので、出てくるものは携帯トイレと同じです。ガイドラインは、携帯トイレ・簡易トイレの両方について「使用済み便袋の保管場所の確保、回収、臭気対策についての検討が必要である」と、同じ注意を書いています。

さらに必要数の見積もりの注意事項として、使用済み携帯トイレの保管場所の確保、ハエ等の害虫対策、臭い対策、長期間留めないための定期的な回収が挙げられています。

100人が3日使えば1,500枚です。これが建物のどこかに置かれ続けます。直射日光が当たらず、執務スペースと空調が分かれていて、施錠できる場所を先に決めておいてください。決めていない会社では、使用済みの袋が通路や給湯室に置かれることになります。

6. 3日分か7日分かを決めないまま発注している

公表されている数字が2つあります。内閣府は「まずは、3日分を目標にしましょう」、経済産業省は「1人あたり35回分(7日分)の災害時トイレの備蓄が必要です」としています。どちらも国の資料で、矛盾しているわけではありません。内閣府は当面の目標、経済産業省は必要量を書いています。

実務では、3日分を最低線として先に確保し、7日分を到達目標として翌年度以降に積み増すのが通りやすい形です。決めておかないと、稟議のたびに「なぜこの数量なのか」を一から説明することになります。先に7日分を目標として書いておけば、翌年の稟議は差分の追加になります。なお、この「3日分か7日分か」はトイレだけの論点ではありません。品目ごとに日数が違う理由は防災備蓄は何日分そろえればいいですかで扱っています。

社内でどう説明するか

稟議書では、この2つを1行にまとめないでください。「災害用トイレ一式」と書くと、数量の根拠が説明できなくなります。次のように、単位ごとに分けて書きます。

品目数量算出根拠
携帯トイレ(便袋)◯枚対象人数◯人 × 1日5回 × ◯日分(内閣府ガイドライン)
簡易トイレ(組立式)◯基目標便器数◯基(対象人数÷20)− 使用可能な既設洋式便器◯基(内閣府ガイドライン)
和式封鎖用の板◯枚和式個室◯室分(同ガイドラインの手順)
パーテーション◯組個室以外に設置する◯基分(同ガイドライン)

この形にしておくと、監査や内部統制で「なぜこの数量か」を問われたときに、資料名を1つ挙げるだけで済みます。金額の妥当性ではなく、数量の出どころが問われるからです。

予算が足りない場合、削る順番は決まっています。先に削るのは簡易トイレの基数です。基数を減らすと待ち時間が延びますが、使えることは使えます。一方で携帯トイレの枚数を削ると、その日から使えなくなります。枚数は人数と日数で決まる値なので、ここを削るのは「足りない備蓄を、足りていることにする」のと同じです。

ただし和式封鎖用の板と、既設の洋式便器を使う準備は削れません。これはほとんど費用がかからず、削っても効果がないためです。

よくある誤解

よくある理解実際
携帯トイレか簡易トイレのどちらかを選ぶ役割が違う。携帯トイレは便袋、簡易トイレは便器。両方そろって初めて使える
簡易トイレのほうが上位互換組立式は便袋を使う。簡易トイレを買っても、便袋の枚数は別に必要
簡易トイレを増やせば、便袋は減らせる枚数は人数×5回×日数で決まる。基数とは無関係
個室の数だけ簡易トイレを買えばよい洋式便器の個室は携帯トイレだけで使える。簡易トイレが要るのは和式と、個室が足りない分
多目的トイレも1基に数えてよい含めない。ガイドラインは一般の個数とは別に確保することが望ましいとしている
断水しなければ必要ない水が出ていても、下水処理場等の点検が済むまで水洗トイレは使用禁止
備蓄すれば処理の問題は片づく使用済み便袋の保管場所・回収・臭気・害虫対策がどちらのタイプでも残る

まとめ

  • 携帯トイレは便袋、簡易トイレは便器。選ぶものではなく、組み合わせて使う
  • 単位が違う。携帯トイレは「枚」(人数×5回×日数)、簡易トイレは「基」(目標便器数−使える洋式便器数)
  • 既設の洋式便器は、携帯トイレさえあれば1基として数えてよい。ゼロから買う必要はない
  • 和式の個室は、板で封鎖して組立式を置いて初めて使える。個室の数ではなく洋式便器の数を数える
  • 3日分を最低線、7日分(1人35回分)を目標に置く。どちらも国が示している数字

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この記事を書いた人

株式会社MOSHIMO HACKは、非常用トイレをはじめとする防災用品の製造・販売と、企業の備蓄数量の算定を行っています。代表の寺澤は災害備蓄管理士(一般社団法人 防災安全協会)および防災士。「作っている側」と「資格を持って算定している側」の両方から、企業の備蓄について書いています。

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