あります。東京都が、事業者の備蓄品を3つの層に分けています。①数量の目安まで示されている「水・主食・毛布」、②「特に必要性が高いもの」として挙げられている簡易トイレ・衛生用品など、③「企業ごとに検討」とされているヘルメットや工具類です。予算が限られているなら、この順に買えば外しません。
根拠は東京都帰宅困難者対策条例(平成25年4月1日施行)と、都が出している帰宅困難者対策ハンドブックです。自社の判断ではなく、都の資料がそのまま優先順位になっているので、社内でも説明しやすくなります。
東京都が示している3つの層
| 層 | 中身 | 都の扱い |
|---|---|---|
| 第1層 | 水、主食、毛布 | 1人あたりの数量まで示されている |
| 第2層 | 毛布に類する保温シート、簡易トイレ、衛生用品(トイレットペーパー等)、敷物(ビニールシート等)、携帯ラジオ、懐中電灯、乾電池、救急医療薬品類 | 「特に必要性が高いもの」として品目が例示されている |
| 第3層 | 非常用発電機、燃料、工具類、調理器具、副食(缶詰等)、ヘルメット、軍手、自転車、地図 | 「企業ごとに必要な備蓄品を検討」とされている |
第3層は「要らないもの」ではありません。都が「企業ごとに検討」と書いているとおり、自社の業種や立地で必要性が変わるものです。裏を返せば、第1層と第2層は業種を問わず必要になります。そこが埋まっていないうちに第3層へ予算を回すと、順番が逆になります。
この優先順位は、どこまで使えるか
先に前提をはっきりさせます。この3つの層は、東京都帰宅困難者対策条例と、都が出しているハンドブックに基づくものです。東京都以外に事業所がある場合、同じ内容の条例があるとは限りません。
ただし、「何が全事業者に共通で、何が企業ごとの判断か」という切り分けは、所在地を問わず使えます。水と主食と毛布が要らない会社はありませんし、簡易トイレが不要になる立地もありません。都の資料は、全国共通で必要なものと、事情で変わるものを分けてくれている点に価値があります。
また、条例が定めているのは努力義務です。罰則はありません。それでも社内で通しやすいのは、「自社が決めた基準」ではなく「行政が示した基準」だからです。予算の説明では、この違いが効きます。
第1層は数量が決まっている
| 品目 | 1人あたり3日分 | 品目の例 |
|---|---|---|
| 水 | 1日3リットル、計9リットル | ペットボトル入り飲料水 |
| 主食 | 1日3食、計9食 | アルファ化米、クラッカー、乾パン、カップ麺 |
| 毛布 | 1枚 | 毛布、またはそれに類する保温シート |
3日分なのは、発災後3日間は救助・救命活動を優先させる必要があり、従業員の一斉帰宅がその妨げにならないようにするためです。東京都帰宅困難者対策条例 第7条第2項は、事業者に対して「従業者の三日分の飲料水、食糧その他災害時における必要な物資を備蓄するよう努めなければならない」と定めています。努力義務であって、罰則はありません。
誰の分を数えるのか
ここを間違えると、層の順番以前に数が合いません。ハンドブックは対象をこう定めています。
- 雇用の形態(正規・非正規)を問わず、事業所内で勤務する全従業員。派遣社員やパートを外してはいけません
- さらに外部の帰宅困難者のために10%程度を余分に。来社中の顧客・取引先や、発災時に建物内にいなかった帰宅困難者が対象です
この10%は忘れられがちです。社員名簿の人数で発注すると、来客が来た瞬間に足りなくなります。
では、その「全従業員」を何人と数えるのか。東京都の条例Q&Aは、対象を「発災時及びその直後に職場にいるであろう従業者」としており、在籍人数とは一致しません。数え方は従業員100人の会社は、防災備蓄を何人分そろえればいいですかで整理しています。
従業員100人・300人で計算すると
| 品目 | 計算式 | 100人(+10%) | 300人(+10%) |
|---|---|---|---|
| 水 | 9L × 人数 × 1.1 | 990リットル | 2,970リットル |
| 主食 | 9食 × 人数 × 1.1 | 990食 | 2,970食 |
| 毛布 | 1枚 × 人数 × 1.1 | 110枚 | 330枚 |
水の990リットルは、2リットルのペットボトルで495本、6本入りの箱で約83箱です。数字を並べた時点で、置き場所の話が始まります。多くの会社が「思っていたより置けない」と気づくのがこの瞬間です。
なお、この人数を在籍人数で置いてよいかは別の論点です。当社では、算定の対象人数を「同時に在館する最大の人数から在宅勤務分を除き、常駐する協力会社や派遣、平均的な来客数を加え、徒歩で帰宅できる人数を引いた数」として置いています。これは公表された基準ではなく、当社の設計です。
実務でつまずく5つの点
1. トイレを第3層だと思っている
いちばん多い取り違えです。簡易トイレは、都のハンドブックで「特に必要性が高いもの」=第2層に入っています。ヘルメットや工具と同じ層ではありません。
内閣府も、避難所のトイレの確保・管理について「水・食料等の支援とともに、ライフラインと同様に被災者の命を支える社会基盤サービスの一つとして認識」すべきとしています。水と食料を3日分そろえたのにトイレが無いと、社内に留まること自体が成立しません。必要な数の出し方は災害用トイレは何人に1基必要ですかで解説しています。
2. 置き場所を決めてから買っていない
100人分でも水だけで約83箱です。毛布110枚も加わります。倉庫の容積が、実際には備蓄量の上限を決めています。買ってから置けないと分かると、通路や会議室に積むことになり、避難の妨げになります。
先に「どこに、どれだけ置けるか」を測ってください。置ける量が足りないなら、各フロアへの分散を検討することになります。測るときに何を見るかは防災備蓄の倉庫はどのくらいの広さが必要ですかで扱っています。廊下や会議室に積むことが消防法でどう扱われるかも、そちらに書きました。
3. 消耗品を「そうでもないもの」に分類してしまう
衛生用品(トイレットペーパー等)は第2層です。単価が安く、目立たないので削られやすいのですが、これが無いと第1層・第2層の備蓄がまとめて使えなくなります。簡易トイレにおける凝固剤や処理袋も同じ関係です。
削る順番は「品目を減らす」ではなく「日数を減らす」です。品目を欠くと、その系統がまるごと機能しなくなります。
4. 賞味期限の管理を買った後に考えている
ハンドブックも「水や食料の選択に当たっては、賞味期限に留意しましょう」としています。100人分なら990食です。期限が全部同じ日に来ると、その年だけ費用が跳ね上がります。
購入時に期限をずらしておくか、更新の予算を先に年度計画へ入れておくかを、買う前に決めてください。
5. 10%の上乗せを飛ばしている
来客や、たまたま近くにいた帰宅困難者の分です。100人の会社なら10人分。金額としては小さいのに、無いと「社外の人を追い返す」という判断を現場に強いることになります。
第3層は、どう判断すればいいのか
ハンドブックは、第3層について「上記品目に加えて、事業継続等の要素も加味し、企業ごとに必要な備蓄品を検討しておきましょう」としています。つまり判断の軸は「事業を続けるために要るか」です。避難のためではなく、事業継続のために要るかどうかで決まります。
ひとつ注意点があります。都は燃料について、危険物関係法令等により消防署への許可申請等が必要なことから、保管場所・数量に注意が必要と明記しています。非常用発電機を入れる場合、燃料は「買えば終わり」ではありません。ここを知らずに予算だけ確保すると、保管の段階で止まります。
会社が全部を買わなくてよい部分がある
予算が足りないときに見落とされているのがここです。ハンドブックは「企業等による取組だけでなく、各従業員等自らも備蓄に努めましょう」として、従業員個人が備えるものの例を挙げています。
- 非常用食品
- ペットボトル入り飲料水
- 運動靴
- 常備薬
- 携帯電話用電源
常備薬は、そもそも会社が用意できません。運動靴や携帯電話用電源も、個人の持ち物にしたほうが実態に合います。会社の備蓄品目に入れず、社内の呼びかけで補うと決めるだけで、予算と保管スペースの両方が軽くなります。ここは「買わない」と決めてよい領域です。
食物アレルギーの対応食も、同じハンドブックが本人の準備として挙げています。「対応食を職場や自宅に備蓄したり、携行しておきましょう」とあり、会社が全員分をそろえる話にはなっていません。会社側でやるのは主食の選び方を変えることで、食物アレルギーのある社員の分は、どう備えればいいですかで整理しています。
社内でどう説明するか
この話は、社内では「BCP対策」として扱われることがほとんどです。防災備蓄という言葉より、事業継続計画の一部として持ち込むほうが通りやすい場面が多くあります。
予算が満額つかなかったときに効くのは、「削った理由が説明できること」です。次の言い方がそのまま使えます。
- 第1層と第2層は、東京都が全事業者向けに示している品目です。ここは自社の判断で削っていません
- 第3層は都が「企業ごとに検討」としている範囲なので、当社の状況で判断しました(何を入れ、何を見送ったかを書く)
- 予算が足りない分は、品目ではなく日数で調整しました。品目を欠くとその系統が使えなくなるためです
取引先から備蓄状況を聞かれたときも、この3点で答えられます。
よくある誤解
| 誤解 | 実際 |
|---|---|
| 備蓄は義務なので、やらないと罰則がある | 東京都帰宅困難者対策条例の備蓄は努力義務。罰則の定めはない |
| 社員名簿の人数分そろえればよい | 雇用形態を問わず事業所内で勤務する全従業員が対象。さらに10%を上乗せする |
| トイレは余裕があれば買うもの | 簡易トイレは都の例示で「特に必要性が高いもの」に入っている |
| とりあえず7日分そろえたい | まず3日分。置き場所と更新費用が先に限界を迎える |
まとめ
- 優先順位は東京都の資料がそのまま使える。①水・主食・毛布 ②簡易トイレ・衛生用品など「特に必要性が高いもの」 ③企業ごとに検討するもの
- 第1層は数量が決まっている。1人あたり水9リットル、主食9食、毛布1枚
- 対象は全従業員+10%。雇用形態は問わない
- 削るなら日数。品目は削らない。1つ欠けるとその系統がまるごと使えなくなる
- 買う前に置き場所を測る。100人分の水だけで2リットル×495本になる
- 常備薬・運動靴・携帯電話用電源は、都も「従業員自身の備え」に挙げている。会社の品目から外して社内の呼びかけで補える
当社は非常用トイレの製造・販売を行っており、災害備蓄管理士による備蓄数量の算定と、備蓄品の管理までお引き受けしています。
この記事の出典
- 東京都帰宅困難者対策条例(平成25年4月1日施行)第7条第2項/東京都例規集(2026年9月7日確認)
- 東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」令和5年3月/https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/001/369/202303.pdf(2026年9月7日確認)
- 内閣府(防災担当)「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」平成28年4月(令和6年12月改定)/https://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/2412hinanjo_toilet_guideline.pdf(2026年9月7日確認)
コメント
コメント一覧 (4件)
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