会社が備蓄するのは、そのとき社内にいる人の分です。社員の家族の分を会社が数える公表基準はなく、東京都の条例が事業者に求める3日分も「従業者」の分です。会社が家族のために用意するのは物ではなく連絡の手段です。国の事業所向けガイドラインは、社員が安心して社内にとどまれるよう、家族との安否確認手段を社員に周知する必要があるとしています。

BCP対策の備蓄を見直していて、「社員の家族の分は、会社が持たなくていいのか」と聞かれた総務の方に向けた記事です。東京都帰宅困難者対策条例、内閣府のガイドライン、首都直下地震帰宅困難者等対策連絡調整会議の事業所向けガイドラインをもとに、会社が数える人と数えない人の線引きと、家族のために会社がやることを整理します。

根拠の資料|条例が備蓄を求めるのは「従業者」の分、家族については「連絡手段の周知」

資料書いていること
東京都帰宅困難者対策条例 第7条第2項事業者は、従業者の施設内での待機を維持するために、従業者の三日分の飲料水、食糧その他災害時における必要な物資を備蓄するよう努めなければならない
同条例 第3条第1項(都民の責務)都民は、あらかじめ、家族その他の緊急連絡を要する者との連絡手段の確保、待機・避難する場所の確認、徒歩による帰宅経路の確認その他必要な準備を行うよう努めなければならない
同条例 第4条第2項(事業者の責務)事業者は、従業者との連絡手段の確保に努めるとともに、家族その他の緊急連絡を要する者との連絡手段の確保などの準備を行うことを従業者へ周知するよう努めなければならない
首都直下地震帰宅困難者等対策連絡調整会議「事業所における帰宅困難者等対策ガイドライン」令和6年7月26日 8〜9ページ企業等は、従業員等との連絡の手段・手順を定めておくとともに、「従業員等が安心して施設内に待機できるよう、その家族等との安否確認手段を従業員等へ周知する必要がある」。家族等との安否確認の訓練に努め、例えば毎月1日・15日に災害用伝言板の体験利用ができることを社内報等で周知する
内閣府(防災担当)「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」令和8年1月 7ページ・30〜31ページ(参考資料1)企業等の平時の対応に「従業員等への安否確認手段、従業員等と家族との安否確認手段の確保」。参考資料1(一斉帰宅抑制の基本方針)は、事業所と従業員の間の安否確認方法を定めるとともに、従業員とその家族の間でも、災害用伝言板や災害用伝言ダイヤル171、SNS等の複数の手段を確認し、利用するよう周知しておくものとする
内閣府「帰宅困難者対策の実態調査」平成23年(総務省「平成24年版 情報通信白書」で引用)東日本大震災で帰宅困難になった人が、帰宅時に必要と感じた情報は、家族の安否情報が56.2%で最多。地震に関する被害状況44.5%、鉄道・地下鉄の運転再開時間40.3%が続く

条例は、備蓄の対象を「従業者」と書き、家族については「連絡手段の確保を従業者へ周知する」と書いています。物を持つ相手と、手段を伝える相手が分けて書かれています。

前提の切り分け|家族の分は、家庭の備えに入る

国や都の資料で、家族の分の備蓄は家庭の側に置かれています。首相官邸の「災害が起きる前にできること」は、家庭での備蓄として飲料水3日分(1人1日3リットルが目安)と3日分の食料を挙げ、大規模災害のときは「1週間分」の備蓄が望ましいとしています。社員の家族が社員の自宅にいるなら、その家族の水と食料は、その家の備蓄でまかなう前提です。

会社が数えないといけない「家族」が出てくるのは、家族がその時間に会社の建物の中にいる場合です。次の2つは会社の数に入ります。

  • 来社している家族:東京都の条例は、帰宅困難者の定義に「来店し、若しくは来所する者」を入れています(第1条)。家族でも、発災時に社内にいれば来客と同じ扱いになり、来客分として数えます
  • 事業所内保育所の園児:条例第9条は、学校に加えて「保育所その他の子育て支援を行うことを目的とする施設」の設置者・管理者に、幼児・児童などの安全確保を求めています。社員の子どもを預かる保育所を社内に持つ会社は、園児をこちらの側で数えます

逆に言えば、社員の自宅にいる家族、学校に通う子ども、離れて暮らす親の分を、会社の備蓄に積む根拠はありません。

数え方|数えるのは「その時間に建物にいる人」

当社は、備蓄の人数を在籍人数ではなく、同時に建物にいる人の最大で数えています。そこに常駐する協力会社・派遣と平均的な来客を足し、在宅勤務と徒歩で帰れる人の比率を引きます(当社の算定の置き方。式は従業員100人の会社は、防災備蓄を何人分そろえればいいですかで扱っています)。家族はこの式のどこにも入りません。入るのは、来社した家族が来客として数えられるときと、事業所内保育所の園児を別の枠で数えるときだけです。

園児は人数だけ足しても足りません。乳幼児はミルク、おむつ、食べられる食事が大人と違うので、大人用の水と非常食の数から割り出すことはできず、品目ごとに別に数えます。

計算例|従業員100人と300人の会社

同時に建物にいる人の最大を、そのまま算定対象として計算します。水は1人1日3リットル、食料は1日3食、トイレは1人1日5回で数えます。日数は、当社では7日分を目標、3日分を必須と置いています。携帯トイレには、当社では予備率20%を、東京都内の拠点では帰宅困難者上乗せ10%を、足し算で数量に乗せています。

品目100人・3日分100人・7日分300人・3日分300人・7日分
水900リットル2,100リットル2,700リットル6,300リットル
食料900食2,100食2,700食6,300食
携帯トイレ(上乗せ前)1,500回分3,500回分4,500回分10,500回分
携帯トイレ(都内・上乗せ後 ×1.3)1,950回分4,550回分5,850回分13,650回分

この表に、社員の家族の行はありません。家族の分は、それぞれの家庭で3日分、できれば1週間分を備える分です。会社の表が増えるのは、来客分と、事業所内保育所がある場合の園児の分(品目は別立て)だけです。

実務でつまずく点

1. 家族の無事が分からないと、備蓄があっても社員は社内にとどまらない

会社が3日分を備蓄するのは、社員に社内にとどまってもらうためです。ところが、東日本大震災で帰宅困難になった人が帰宅時に必要と感じた情報の1位は、家族の安否情報(56.2%)でした。事業所向けガイドラインが家族との安否確認手段の周知を求めている理由も、「従業員等が安心して施設内に待機できるよう」と書かれています。家族と連絡がつかなければ、水と食料がそろっていても、社員は歩いて帰ろうとします。家族の分の物を積むより先に、家族の無事が分かる手段を社員に持たせることが、備蓄を使える状態にします。

2. 会社の安否確認システムは、社員と家族の間をつながない

安否確認システムを入れている会社でも、それがつなぐのは会社と社員の間です。内閣府のガイドラインと事業所向けガイドラインは、「会社と社員」と「社員と家族」を別の項目として書き分けています。東日本大震災では、携帯電話の音声通話に事業者によって最大70〜95%の通信規制がかかり、災害用伝言ダイヤル(171)は約346万件、災害用伝言板は約1,362万件使われました(総務省・平成23年)。社員と家族の間は、171、災害用伝言板、web171、SNSなど、複数の手段を家族ごとに決めておいてもらう必要があります。会社の仕組みを入れたことで、こちらが済んだと思い込みやすい点です。

3. 171や災害用伝言板を、一度も試していない

災害用伝言ダイヤル(171)と災害用伝言板は、毎月1日・15日、正月三が日(1月1日〜3日)、防災とボランティア週間(1月15日〜21日)、防災週間(8月30日〜9月5日)に体験利用ができます(首相官邸「災害が起きる前にできること」)。事業所向けガイドラインも、この体験利用日を社内報等で周知する例を挙げています。周知するだけでなく、防災訓練の日を体験利用日に合わせ、社員がその場で家族に伝言を残してみる形にすると、費用をかけずに訓練になります。

4. 家族が車で迎えに来てしまう

内閣府のガイドラインの帰宅行動指針は、発災後は緊急車両の通行が優先されるため、タクシーの利用は期待せず、家族等に車での送迎を依頼することも控えるべきだとしています(47ページ)。さらに、家族や関係者との間で、帰宅しないという選択、安否確認の方法、お迎えや介護が必要な家族がいる場合の対応、自宅が被害を受けたときの合流場所などを話し合って決めておくよう求めています(48ページ)。社員が会社にとどまると決めても、家族がそれを知らなければ迎えに来ます。会社がやるのは、この取り決めを家庭でしておくよう社員に伝えることです。

子どものお迎えや介護でどうしても早く帰る人について、指針は「対応者を家庭内で1名にする等」で移動する人を減らすよう求めています(47ページ)。帰す順番の決め方は地震のあと、社内にとどまった社員は、いつ・どの順番で帰せばいいですかで扱っています。

5. 事業所内保育所の園児と保育士が、人数から抜ける

総務の算定は従業員の名簿から始まるので、社内の保育所の園児が抜けやすくなります。保育士が外部への委託なら、常駐する協力会社としても数え直します。保育所の運営を委託している場合、委託先と会社のどちらがどの品目を持つかを決めておかないと、どちらも持っていない品目が残ります。

6. 家族の連絡先を、会社が集めようとする

条例が事業者に求めているのは、家族との連絡手段の確保を社員へ「周知する」ことです(第4条第2項)。災害時の情報提供を定めた第11条第2項も、求めているのは安否情報の「確認手段の周知」です。家族の連絡先や家族構成を会社が集めることは求めていません。当社は、家族の連絡先は名簿にせず、手段の決め方を社員に伝えるところまでにすることをおすすめしています。集めると、保管と更新の手間が総務に残ります。個人の情報を集めずに算定する考え方は個人の健康情報を集めずに、防災備蓄の算定はできますかで扱っています。

予算が限られているときの順番

家族のためにやることは、ほとんどお金がかかりません。最初にやるのは、社員に家族との連絡手段(171・災害用伝言板・SNSなど)を家庭で決めておくよう伝えることと、体験利用日に合わせた訓練です。次に、社内にいる人の分の備蓄を、水と携帯トイレから3日分そろえます。事業所内保育所がある会社は、そのあと園児の分を品目ごとに足します。家族の分の物資を会社の予算で積むことは、この順番のどこにも入りません。

社内でどう説明するか

「家族の分も会社で持つべきではないか」と社内で意見が出たときは、次のように書けます。

「当社の備蓄は、東京都帰宅困難者対策条例 第7条第2項に沿って、発災時に社内にいる従業者・来客の分を対象としています。社員の家族の分は、家庭の備え(首相官邸は3日分、大規模災害では1週間分が望ましいとしています)の範囲です。一方で、事業所向けガイドラインは、社員が安心して社内にとどまれるよう家族との安否確認手段の周知を求めています。当社は〇月〇日(災害用伝言板の体験利用日)に訓練を行い、家族との連絡手段を家庭で決めておくよう全社員に周知します。費用はかかりません。」

家族の分まで積むと、数量の根拠を誰の家族まで含めるかで説明できなくなります。「社内にいる人の分」に線を引いておけば、数量の根拠を人数で示せ、予算の説明が通りやすくなります。

よくある誤解

よくある理解実際
社員思いの会社なら、家族の分まで備蓄する条例が備蓄を求めるのは従業者の分。家族については、連絡手段の確保を社員に周知するよう求めている
安否確認システムを入れたので、家族の安否も大丈夫会社のシステムは会社と社員の間。国のガイドラインは、社員と家族の間の手段を別の項目として求めている
家族が社内にいることはないので、数える必要はない来社中の家族は来客として数える。事業所内保育所の園児は条例第9条の側で数え、品目も大人と分ける
家族の連絡先を集めておくのが、会社の責任条例が求めるのは周知。連絡先を会社が集めることは求めていない
迎えに来てもらえば、家族は早く合流できる国の指針は、家族等に車での送迎を依頼することも控えるべきだとしている

まとめ

  • 会社が備蓄するのは、そのとき社内にいる人の分。社員の家族の分を数える公表基準はない
  • 家族の分は家庭の備え。首相官邸は家庭に3日分、大規模災害では1週間分が望ましいとしている
  • 会社が家族のためにやるのは、家族との安否確認手段を社員に周知すること。社員が社内にとどまれるかはここで決まる
  • 171・災害用伝言板は毎月1日・15日などに試せる。訓練の日を合わせると費用がかからない
  • 来社中の家族は来客として、事業所内保育所の園児は別の枠で、品目を分けて数える

この記事の論点だけでも、数える人の線引き、来客と園児の扱い、社員と家族の連絡手段の周知、体験利用日の訓練、迎えに来ない取り決め、早く帰る人の扱いと、確かめることが6つあり、人の入れ替わりや保育所の開設・委託先の変更のたびに見直しになります。備蓄は人の命に関わるので1つも落とせず、これを担当者1人が覚えて回し続けるのは現実的ではありません。当社はそのための管理の仕組みをご用意しています。

当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。自社の人数で数えると、どの品目がいくつ要るかは、算定で出せます。

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