社内にとどまった社員は、発災後おおむね4日目以降を目途に、組に分けて順番に帰します。東京都の検討会議のシミュレーションでは、3日間待機したあと一斉に帰宅すると各所で混雑が起きました。国の帰宅行動指針も、時間や方面をずらして帰す「分散帰宅」を基本とし、企業に分散帰宅の方針をBCP等に位置づけるよう求めています。分けて帰すと最後の組は4日目以降も社内に残るため、備蓄は3日分では足りません。

BCP対策で「3日間は社内にとどめる」と決めたものの、「で、4日目の朝はどうするのか」が決まっていない総務の方に向けた記事です。内閣府のガイドライン、首都直下地震帰宅困難者等対策連絡調整会議の事業所向けガイドライン、東京都の報告書と事業所向けマニュアルをもとに、帰す順番の決め方と、それが備蓄の数にどう響くかを整理します。

根拠の資料|国は「一斉に帰さない」を、待機のあとにも求めている

資料書いていること
内閣府「大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」令和8年1月 21ページ(第6章)・参考資料10「一斉帰宅抑制後の帰宅行動指針」(令和6年7月26日)原則72時間(3日間)は待機し、おおむね4日目以降を目途に順次帰宅。帰宅できる状況になっても「一斉に帰宅を開始するのではなく、時間的又は空間的(移動範囲や移動手段等)に分散して帰宅することを基本とする」(分散帰宅の基本原則)
同ガイドライン 49〜50ページ(参考資料10 4(3))企業等は、優先業務や分散帰宅の方針などの行動ルールを策定し、BCP等へ位置づける。従業員が安全に帰宅できたかを事後に報告するツール(メール、SNS、グループウェア等)を用意し、訓練で動作を確認することが望ましい
首都直下地震帰宅困難者等対策連絡調整会議「事業所における帰宅困難者等対策ガイドライン」令和6年7月26日 9ページ従業員の居住地、家庭の事情などの把握に努め、帰宅者の順序をあらかじめ定めておく。帰宅する方面に応じた順序も検討する。安全に帰宅したことをメール等で確認する
東京都「帰宅困難者対策に関する検討会議 報告書」令和3年12月 15〜21ページ都内の滞留者の帰宅をシミュレーション。職場などで3日間待機したあと4日目以降に一斉に帰宅すると、残りの滞留者により各所で混雑が発生。2日目から分散して帰宅させたケースでは混雑が改善した
東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」令和5年3月 46〜48ページ(条例Q&A)一斉帰宅抑制の解除は「都から行う予定はありません」。原則4日目以降に、交通機関の復旧状況と周辺の安全を確認したうえで、順次帰宅を始める

「3日間は社内にとどめる」は、多くの会社のBCPにすでに書かれています。抜けやすいのはその先です。都が「もう帰ってよい」と知らせてくれるわけではなく、帰し始める判断も、誰から帰すかも、会社が自分で決めることになります。

前提の切り分け|この指針は誰向けで、どこまで守るものか

帰宅行動指針は、首都直下地震などの大規模地震で大量の帰宅困難者が出る場面を想定して、国と首都圏の自治体・関係機関がまとめたものです。指針自身が「強制力を伴うものではない」と書いています(ガイドライン22ページ)。ただし、帰宅困難者対策に取り組む企業が「対応を検討する際の参考」として名指しされており、企業向けの事業所ガイドラインはこの指針に基づいて帰宅ルールを作るよう求めています。

「4日目」は区切りではなく目途です。ガイドラインは、被害の状況によっては3日目までに帰宅支援ができる場合もあるので「4日目以降でないと帰宅させてはならないというものではない」とし、反対に4日目以降も応急活動が続いている場合もあるとしています(21ページ)。帰してよいかは日付ではなく、次の3つがそろったかで判断します。

  • 発災から72時間の、人命救助に重要な期間が過ぎた
  • 混乱がある程度おさまり、移動しても応急活動や群集事故の妨げにならない
  • 通れる帰宅経路がある、または鉄道が運転を再開するなど、移動手段がある

数え方|「組」を何で分けるか

事業所ガイドラインが順序を決める材料に挙げているのは、居住地、家庭の事情、帰宅する方面です(9ページ)。東京都の事業所向けマニュアルは、帰宅方法を考える参考の例として、次の4つを挙げています(108ページ)。

見る情報東京都のマニュアルの例
救助・救命活動の状況特に発災後3日間は、道路などは救助機関の通行を優先。帰宅はなるべく後に
交通機関の復旧状況復旧した方面から徐々に帰宅開始。ただし輸送力に限界があるので段階的に。乗継の方面が復旧していない場合は途中で帰宅困難者になってしまうので、なるべく帰宅を控える
従業員の家族の安否や、従業員自身の健康・ストレス状態など帰宅しなければいけない事情のある従業員から順に帰る
天候・気温・時間帯悪天候や夜間の帰宅は控える

同じページの事例(サービス業・従業員100名以上)は、第1優先を「家庭内事情がある者、勤務地直近(おおむね10km以内)に居住しており徒歩帰宅が可能な者」、第2優先を「おおむね20km以内の居住者で、帰宅ルートの安全性が確認できた者」、第3優先を「おおむね20km以上の居住者で、帰宅ルートの安全性が確認できた者」としています(109ページ)。距離の帯で組を作り、家庭の事情がある人を前に出す形です。これは1社の事例で、国や都が決めた順番ではありません。

自力で歩いて帰るのが難しい人(障がい者、高齢者、妊婦、乳児連れの人など)は、ガイドラインが「特別搬送者」とし、何らかの搬送手段を確保して帰宅を促すとしています(25ページ)。この人たちは歩いて帰る組に入れず、搬送の順番が来るまで社内に残る前提で考えます。妊娠中の社員の場合は妊娠中の社員がいる場合、防災備蓄に何を追加すればいいですかで扱っています。

計算例|分けて帰すと、4日目以降に何人分が残るか

仮に、4日目の朝から1日に3分の1ずつ帰すと置いてみます。1日に3分の1ずつという刻みは、東京都の報告書がシミュレーションで仮に置いた条件を借りたもので、基準ではありません(報告書では2日目から帰し始めています)。水は1人1日3リットル(内閣府・東京都の目安)、携帯トイレは1人1日5回(内閣府の避難所トイレのガイドラインの想定)で数えます。

算定対象人数4日目に社内にいる人5日目に社内にいる人4日目以降の延べ人数水携帯トイレ
100人(33人・33人・34人の3組)67人34人101人日303リットル505回分
300人(100人ずつの3組)200人100人300人日900リットル1,500回分

※1組目が4日目の朝、2組目が5日目の朝、3組目が6日目の朝に帰るとした場合の当社の試算。当社が算定で乗せている予備率などの上乗せをする前の数です。

3組に分けて1日ずつずらすだけで、4日目以降に、ほぼ全員の1日分にあたる量が要ります。4日目の朝に全員を帰すつもりなら0で済む量です。分散帰宅を決めることは、そのまま備蓄の日数を延ばすことでもあります。当社では、3日分を第1段階、7日分を目標として置いています。日数の考え方は防災備蓄は何日分そろえればいいですかにまとめています。

実務でつまずく点

1. 3日待ってから全員を帰すと、帰り道で混雑が起きる

東京都の報告書は、平日14時の発災を想定し、3つの帰し方を比べています。発災直後に全員が帰る、自宅まで10km以内の人だけ先に帰り残りは3日間待機して4日目以降に一斉に帰る、1日ほど待機したあと1日に3分の1ずつ帰る、の3つです。結果は、3日間待機した場合も、4日目以降に一斉に帰ると「残りの滞留者により各所で混雑が発生」でした。報告書は「その後一斉に帰宅することは危険なため、安全な帰宅方法を検討し周知していくことが必要」とし、分散させたケースでは混雑が改善したとしています(19〜21ページ)。

3日間社内にとどめるのは、一斉帰宅の混雑を発災直後から4日目へ先送りするためではありません。どの会社も4日目の朝に一斉に帰せば、同じ混雑が4日目に起きます。とどめる計画と帰す計画は、セットで作ります。

2. 「もう帰ってよい」という合図は、どこからも来ない

東京都は条例のQ&Aで、一斉帰宅抑制の解除を「都から行う予定はありません」と書いています。原則4日目以降に、交通機関の復旧状況と周辺の安全を確かめたうえで、順次帰宅を始めてもらう、という書き方です(ハンドブック46〜48ページ)。誰が帰し始めを決めるのかが決まっていないと、合図を待ったまま備蓄を使い続けることになります。判断する人と、その人がいないときの代わりの人を決めておきます。

3. 順番を決めるために、新しく個人の情報を集めなくてよい

事業所ガイドラインは居住地と家庭の事情の把握を挙げていますが、組を作るのに要るのは、帰る方面と自宅までの距離の帯です。当社では、通勤経路の届け出など、会社がすでに持っている情報から方面と距離の帯だけを使うことをおすすめしています。家庭の事情(小さな子どものお迎えや家族の介護など)は名簿にせず、発災時に本人が申し出る形にします。ガイドラインも、やむを得ない事情で早く帰る場合は「対応者を家庭内で1名にする等」で移動する人を増やさないよう求めているので、その確認もこのときに行います(22ページ)。

4. 電車が動き始めても、乗り換えの先が止まっていれば帰さない

帰宅行動指針は、鉄道で帰る人は「目的の駅までの全区間が運転再開したことが確認できてから移動を開始する」としています。乗り継ぎ路線が動く前に帰り始めると、接続駅のホームに大量の人が滞留し、そこに待機場所があるとは限らないとも書いています(47ページ)。運転再開の直後は輸送力が落ちるので、歩いて帰れる距離の人は、なるべく歩いて帰すよう促すことになっています(46〜47ページ)。帰す組は「最寄り駅の路線が動いたか」ではなく、「その人の家の駅まで全部動いたか」で決めます。夜や悪天候のときは、条件がそろっても帰しません。夜の考え方は夜間や休日に大地震が起きたら、会社の防災備蓄はどう考えればいいですかで扱っています。

5. 帰したあと、着いたかどうかを確かめる仕組みがない

社員を送り出したところで、会社の対応は終わりません。事業所ガイドラインは、安全に帰宅したことをメール等で確認し、班に分けて帰すなら班ごとに連絡要員を決めて定期的に所在を確かめることも検討するよう求めています(9ページ)。帰宅行動指針も、帰宅できたかを事後に報告するツールを用意し、訓練で動作を確かめることが望ましいとしています(50ページ)。安否確認の仕組みを入れている会社でも、「帰り着いた」を報告する項目があるかは確かめておきます。

6. 帰り道の持ち物を、会社が渡すのか本人が持つのかが決まっていない

帰宅行動指針は、勤務先に常備しておく物として、一時滞在を想定した物(水、食料、着替え、携帯トイレ、生理用品、携帯電話用充電器等)と、徒歩帰宅を想定した物(歩きやすい靴、日常行動範囲の地図、救急用具等)を挙げています(48ページ)。これは帰宅困難者になる可能性がある一人ひとりの備えとして書かれた項目です。会社の備蓄でそろえる品目の一覧ではありません。

一方で、東京都のマニュアルの事例(製造業・従業員10,000名以上)では、帰る組に出発時にモバイルバッテリーと、経路上の危険に配慮したルートマップを渡し、10km地点まではグループで帰すとしています(109ページ)。会社が帰り道の分を渡すと決めるなら、その数は社内にとどまる間の備蓄とは別に数えます。在館中の分から持たせると、最後の組が帰る前に足りなくなります。充電の考え方は停電したとき、会社にとどまる社員のスマートフォンの充電はどう備えればいいですかで扱っています。

予算が限られているときの順番

帰宅ルールを決めること自体にお金はかかりません。最初にやるのは、帰し始めを判断する人を決める、方面と距離の帯で組を作る、帰り着いたことを報告する方法を決める、の3つです。買い足しが要るのはその次で、組を分けた結果、最後の組が何日目まで社内に残るかを数え、4日目以降の分を水と携帯トイレから足します。帰り道に持たせる物は、そのあとで決めて構いません。

社内でどう説明するか

東京都の帰宅困難者対策条例は、第4条第4項で、事業者に待機の方針と「安全に帰宅させる方針」を事業所防災計画等に明らかにし、従業員に周知するよう求めています(努力義務)。条例の条文の全体は東京都の帰宅困難者対策条例では、企業は何を求められていますかで整理しています。稟議や計画の見直しでは、次のように書けます。

「当社の計画は3日間の施設内待機までで、その後の帰し方が定まっていません。国の帰宅行動指針と事業所ガイドラインは、待機後も一斉に帰さず分散して帰すことを基本とし、帰宅の順序を事前に定めてBCP等に位置づけるよう求めています。帰す順序を方面と距離で〇組に分け、帰し始めの判断者を〇〇とします。分けて帰すと最後の組は〇日目まで社内に残るため、4日目以降の〇人日分(水〇リットル・携帯トイレ〇回分)を追加します。」

4日目以降の量は、組の数と人数を決めれば計算で出ます。「念のため多めに」ではなく、「最後の組が帰るまでの延べ人数」で示せば、追加の予算も自社の勘ではなく数で説明できます。

よくある誤解

よくある理解実際
3日たったら全員を帰す4日目に一斉に帰すと、各所で混雑が起きる(東京都の報告書)。国の指針は、時間や方面をずらして分散して帰すのを基本としている
4日目になるまでは帰してはいけない4日目は目途。ガイドラインは「4日目以降でないと帰宅させてはならないというものではない」とし、日付ではなく、移動手段と安全で判断する
行政から「帰ってよい」と連絡が来る東京都は、一斉帰宅抑制の解除を都から行う予定はないとしている。帰し始めは会社が判断する
電車が動いたら帰してよい目的の駅までの全区間が動いてから。乗り継ぎの先が止まっていると、接続駅で帰宅困難者になる
3日分あれば、帰宅まで足りる分けて帰すと、最後の組は4日目以降も社内に残る。3組に分けて1日ずつずらすと、ほぼ全員の1日分が追加で要る(当社の試算)

まとめ

  • 社内にとどまった社員は、おおむね4日目以降を目途に、組に分けて順番に帰す。4日目に一斉に帰すと混雑が起きる
  • 帰し始めの合図は都から来ない。判断する人と代わりの人を決めておく
  • 組は方面と距離の帯で作り、家庭の事情は本人の申し出で前に出す。歩いて帰れない人は搬送を待つ前提で考える
  • 鉄道で帰す人は、家の駅までの全区間が動いてから。帰したあとは、着いたことを報告してもらう
  • 分けて帰すと最後の組は4日目以降も残る。その分の水と携帯トイレを、最後の組が帰るまでの延べ人数で足す

この記事の論点だけでも、帰し始めの判断者、組の分け方、歩いて帰れない人の扱い、鉄道の全区間の確認、帰り着いた報告、4日目以降の備蓄の量と、確かめることが6つあり、人の入れ替わりや拠点の移転のたびに組み直しになります。備蓄は人の命に関わるので1つも落とせず、これを担当者1人が覚えて回し続けるのは現実的ではありません。当社はそのための管理の仕組みをご用意しています。

当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。自社の人数で数えると、どの品目がいくつ要るかは、算定で出せます。

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