社員一人ひとりのスマートフォンの充電器やモバイルバッテリーは、社員が勤務先に置いておく持ち物として扱い、会社が人数分を買う必要はありません。内閣府と東京都も、携帯電話用電源を従業員等が自ら備える物の例に挙げています。会社が備えるのは3つです。非常用電源で充電できる場所、安否確認と情報収集に会社として使う端末の電源、そしてスマートフォンが使えなくなったときの携帯ラジオ・乾電池・掲示の手段です。

BCP対策で備蓄の一覧を作っていて、「スマホの充電はどうするのか」と聞かれて答えに詰まった総務の方に向けた記事です。安否確認システムを入れていても、社員の電池が切れれば返事は来ません。国と東京都の資料、総務省の通信の記録、製品事故の調査をもとに、誰の充電を、どこまで会社が受け持つのかを整理します。

根拠の資料|国の一覧では、充電は「社員の備え」と「会社の計画」に分かれて出てくる

資料書いていること
内閣府「大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」令和8年1月 参考資料2(32ページ)会社がそろえる「特に必要性が高いもの」の例に携帯ラジオ、懐中電灯、乾電池。備考で「従業員等自らも備蓄に努める」とし、その例に携帯電話用電源を挙げる。東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」令和5年3月 15ページも同じ並び
同ガイドライン 48ページ帰宅困難者になる可能性のあるすべての人は、勤務先等に「水、食料、着替え、携帯トイレ、生理用品、携帯電話用充電器等」を常備しておく
同ガイドライン 10ページ(一時滞在施設)帰宅困難者を受け入れる施設の管理者は、滞在者が災害の情報を取れるよう「モバイルバッテリーや電源の提供等についても可能な範囲で対応することが望ましい」
首都直下地震帰宅困難者等対策連絡調整会議「事業所における帰宅困難者等対策ガイドライン」令和6年7月26日 参考3(15〜16ページ)施設内待機の計画の例に、情報入手手段の運用方法(電源の確保を含めた管理等)と数量・配置場所、安否確認手段の準備と周知、非常用電源による電源供給の必要範囲の設定
東京都帰宅困難者対策条例 第11条第2項事業者等は、従業者・利用者等に対して安否情報の確認手段の周知と災害関連情報等の提供に努めなければならない

同じ「充電」が、個人の持ち物の欄と、会社が作る計画の欄の両方に出てきます。個人の欄は端末そのものの電池、計画の欄は安否確認と情報収集を止めないための電源です。ここを1つにまとめて考えると、「全員分を買うのか、何もしないのか」の二択になって話が進みません。

前提の切り分け|誰の端末の充電かで、受け持つ人が変わる

誰の端末か受け持つ人会社がやること
社員個人のスマートフォン本人(国・都とも、従業員等が自ら備える物の例に挙げる)勤務先に充電器を置いておくよう呼びかける。持っていない人のために、共用で充電できる場所を決める
会社として使う端末(災害対策本部・安否確認・情報収集)会社台数と、何日動かすかを決めて電源を用意する(事業所ガイドラインの計画例)
社外の人(来所者、一時滞在施設として受け入れる人)会社(受け入れる場合)一時滞在施設になるなら、モバイルバッテリーや電源の提供を可能な範囲で(内閣府ガイドライン)

社員個人の分を会社の品目から外してよいことは、防災備蓄で、絶対に必要なものと、そうでもないものはありますかでも、予算を軽くする方法として書きました。ただし、呼びかけたからといって全員が持っているとは限りません。外すのは「人数分のモバイルバッテリー」であって、「充電できる場所」まで外すわけではありません。

数え方|台数ではなく「充電の回数」で数える

モバイルバッテリーは、1台で何回充電できるかが製品ごとに違います。台数で数えると、同じ10台でも足りる会社と足りない会社が出ます。先に数えるのは、何人の端末を何日動かすかです。

必要な充電の回数=対象の人数 × 日数 × 1日に充電する回数(自社で決める)

用意する台数=必要な充電の回数 ÷ 1台で充電できる回数(製品の表示で確かめる)

「1日に何回充電するか」「1台で何回か」の目安は、国や都の資料にはありません。暑さ・寒さの品目と同じく、国と都が3日分の数量を示しているのは水・主食・毛布だけで、ほかの品目は「物資ごとに必要量を算定」とされています(停電で冷暖房が止まったときの備蓄でも同じ整理をしました)。

日数は、内閣府と東京都が目安として示す3日分を最低の線とし、当社では7日分を目標に置いています。実際には、3日分をそろえてから段階的に積み増す会社が多数です。

計算例|100人と300人で、全員分を会社が抱えた場合と比べる

下の表は「人・日」、つまり1人の端末を1日動かす単位がいくつになるかです。1日に1回充電すると決めた会社なら、この数がそのまま必要な充電の回数になります。

算定対象人数3日分7日分
100人300人・日700人・日
300人900人・日2,100人・日
3日分は内閣府・東京都の目安の日数。当社では7日分を目標に置いています。東京都内の拠点で帰宅困難者上乗せ(東京都・外部の帰宅困難者のための10%・都内の拠点だけ)をどこまでの品目に足すかは、水・食料と同じ扱いにするかを自社で決めます

300人の会社が7日分を全員分抱えると、2,100回分の充電になります。会社として使う端末だけを受け持つなら、数えるのは本部と安否確認の担当の台数です。人数を正確に数えておくと、「なぜこの台数なのか」を稟議で説明でき、全員分か本部分かの判断を、金額の前に数で示せます。

実務でつまずく点

1. 電話がつながらない日も、メールやアプリはつながりやすかった

東日本大震災の直後、通信事業者は警察・消防への通報などを守るため、携帯電話の音声通話で最大70〜95%の通信規制をかけました。一方でメールなどのパケット通信は、規制がなかったか、あっても最大30%で一時的だったため、音声通話よりつながりやすかったと総務省は記録しています(2011年8月24日)。

安否確認システムやチャットで返事を集める仕組みは、このつながりやすい側を使います。内閣府の実態調査では、災害で被害を受けた会社の38.8%が「安否確認や相互連絡のための電子システム」を有効だった取組に挙げました。仕組みが動いても、社員の端末の電池が切れていれば返事は来ません。安否確認を決めた会社ほど、電源の話を同じ計画に入れておく必要があります。

2. 停電が長引くと、電池が残っていても圏外になることがある

総務省の令和3年版情報通信白書は、東日本大震災で設備の損壊に加え、商用電源の途絶が長期化して蓄電池が枯渇し、移動通信の基地局は約2万9千局が停波したとしています。各社はその後、基地局のバッテリー増設や発電機の設置を進めていますが、手元の端末を充電できても、電波が来なければ使えない時間はありえます。

携帯ラジオと乾電池は、国と都が会社のそろえる物として挙げる例にも入っています。社内への情報提供も、スマートフォンだけに頼らない形にしておきます。東京都の条例は、安否確認手段の周知と情報提供に努めるよう求めていますが、手段は指定していません。ホワイトボードと乾電池式ラジオで掲示するのも1つの形です(東京都の帰宅困難者対策条例では、企業は何を求められていますか)。

3. 非常用電源のコンセントがどこにあるか、誰も知らない

事業所ガイドラインの計画例は、非常用電源について「電源供給の必要範囲の設定(非常用エレベーター、照明等)」を事前に決める項目に挙げています。範囲を決める項目があるということは、非常用電源は建物全体に届く前提ではないということです。充電に使えるコンセントがどの部屋のどこにあるのかを、平時に確かめておきます。

その場所は、社員がとどまる区画と合わせて決めます。昼に選んだ会議室が、停電した夜には照明もコンセントも使えない場所になることがあります(地震のとき、社員を会社のどこにとどめるか)。テナントで入っている会社は、非常用電源の供給範囲をビルの管理会社に聞くところから始めます。

4. モバイルバッテリーを、倉庫に入れたまま何年も置く

NITE(製品評価技術基盤機構)によると、2020年から2024年の5年間に通知されたリチウムイオン電池を使う製品の事故は1,860件で、約85%が火災に発展しました。製品別ではモバイルバッテリーが361件で最も多く、2024年は2022年の2倍以上に増えています。NITEは増えた要因の1つに、防災用品としての需要の高まりを挙げています。

NITEが挙げる注意は、直射日光の当たる場所や暑い日の車内などの高温下に放置しないこと、落とすなど強い衝撃を与えないことです。点検では、充電できない、充電中に以前より熱くなる、膨らんで変形している、衝撃で一部が変形している、不意に電源が切れる、のどれかがあれば使うのをやめます。膨らんだ電池の中には可燃性のガスがたまっています。大容量のポータブル電源は、事故が起きたときの発熱も大きくなるので、より注意が要るとされています。食品のような賞味期限は無いので、買った年を一覧に書き、ほかの備蓄品の点検と同じ日に「充電できるか」を確かめます。

5. 発電機を買えば、充電の問題は片づくと考える

NITEに通知された携帯発電機の事故は、2020年から2024年の5年間で21件、うち死亡事故が5件です。換気の悪い場所で使った一酸化炭素中毒が多く、1件で複数の人が被害に遭うことが多いとされています。NITEは、屋内や倉庫など排ガスがこもる場所では絶対に使わず、屋外の風通しの良い場所で使うよう呼びかけています。

燃料も、東京都のハンドブックが「危険物関係法令等により消防署への許可申請等が必要なことから、保管場所・数量に注意が必要」としており、量によっては許可申請などが要ります。発電機を候補にするなら、買う前に、屋外で動かせる場所と燃料の置き場所が取れるかを確かめます。

社内でどう説明するか

稟議や上司への説明では、「全員分を買わない理由」と「会社が受け持つ範囲」を一緒に出します。言い方の例です。

「社員個人の携帯電話用の電源は社員の持ち物として扱い、勤務先への常備を社内で呼びかけます(内閣府と東京都も、従業員等が自ら備える物の例に挙げています)。会社としては、事業所における帰宅困難者等対策ガイドラインの計画例に沿って、非常用電源で充電できる場所を〇か所決め、災害対策本部と安否確認に使う端末〇台分の電源を〇日分用意します。通信が止まった場合に備え、携帯ラジオと乾電池、掲示用のホワイトボードを置きます。」

根拠として示せるのは、内閣府ガイドライン(10・32・48ページ)、東京都のハンドブック(15ページ)、事業所ガイドライン(15〜16ページ)と、自社の算定対象人数です。個人の分を会社の品目から外す理由を聞かれたら、計算例の「人・日」を、全員分を抱えた場合と比べる数として見せると、議論が金額の印象ではなく数で進みます。

よくある誤解

よくある理解実際
安否確認システムを入れたので、連絡手段は備えたシステムが動いても、社員の端末の電池が切れれば返事は来ない。事業所ガイドラインは情報入手手段の運用方法に「電源の確保を含めた管理等」を挙げている
モバイルバッテリーを人数分買わないと備蓄にならない国・都とも、携帯電話用電源は従業員等が自ら備える物の例に挙げている。個人の分は社員の持ち物として扱い、会社が受け持つのは、充電できる場所と、会社として使う端末の電源
非常用発電機があるので、どの部屋でも充電できる事業所ガイドラインは、非常用電源の供給範囲を事前に設定する項目に挙げている。どの部屋のコンセントが使えるかは、建物ごとに確かめる
スマートフォンがあれば、ラジオは要らない長い停電では基地局が止まることがある(東日本大震災で約2万9千局が停波)。国の例示に携帯ラジオと乾電池が入っている
モバイルバッテリーは電池なので、置いておけば使えるリチウムイオン電池を使う製品の事故で最も多いのがモバイルバッテリー(NITE)。高温を避け、点検の日に充電できるか・膨らんでいないかを見る

まとめ

  • 社員個人のスマートフォンの充電器・モバイルバッテリーは、社員の持ち物として扱い、会社が人数分を買う必要はない(内閣府・東京都も、従業員等が自ら備える物の例に挙げる)
  • 会社が受け持つのは、非常用電源で充電できる場所、災害対策本部と安否確認に使う端末の電源、通信が止まったときの携帯ラジオ・乾電池・掲示の手段
  • 数えるときは台数ではなく「人数×日数×1日の回数」。1台で何回充電できるかは製品の表示で確かめる
  • 電話がつながらなくてもデータ通信はつながりやすかった。安否確認が動くには、端末の電池が残っていることが前提になる
  • モバイルバッテリーは事故の多い製品。高温を避け、ほかの備蓄品と同じ日に点検する。発電機は屋内で使わない

この記事の論点だけでも、誰の端末を受け持つか、充電できるコンセントの場所、会社として使う端末の台数と日数、電話とラジオ以外の伝え方、モバイルバッテリーの点検と、確かめることが5つあり、拠点ごと・待機区画ごとに繰り返します。備蓄は人の命に関わるので1つも落とせず、これを担当者1人が覚えて回し続けるのは現実的ではありません。当社はそのための管理の仕組みをご用意しています。

当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。自社の人数で数えると、どの品目がいくつ要るかは、算定で出せます。

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