できます。防災備蓄の数量を出すのに要るのは、拠点ごとの人数(算定対象人数と、そのうちの女性・要配慮者の人数)と、公表されている割合だけです。個人と結びつかない集計値は、個人情報保護委員会のガイドラインで「個人に関する情報」に当たらないとされています。病歴や障害を名簿にして集める必要はありません。
BCP対策の備蓄を見直していて、「アレルギーや持病、障害のある社員を把握しないと数が出せないのでは」と手が止まった方に向けた記事です。品目ごとに何の数字が要るのか、どこまでが個人情報に当たるのか、当日の個別対応はどうするのかを、国の資料に沿って整理します。
根拠の数字|個人情報の線は「特定の個人と結びつくか」で引かれている
| 資料 | 書いてあること | 備蓄の算定にとっての意味 |
|---|---|---|
| 個人情報保護委員会「ガイドライン(通則編)」2-8 | 統計情報は、特定の個人との対応関係が排斥されている限りにおいては、「個人に関する情報」に該当しない | 「この拠点に女性が40名」という集計値は、それだけでは個人情報ではない |
| 同「ガイドラインに関するQ&A」Q1-7・Q2-5(令和6年12月2日更新) | 個人情報に当たらない例として統計情報(複数人の情報から共通の項目を抜き出して分類ごとに集計したもの)を挙げる。統計データは利用目的の特定の対象にならず、統計データへの加工を行うこと自体を利用目的とする必要はない | 人事が持つ人数を集計して備蓄に使うのに、新しく目的を掲げ直す必要はない |
| 同「ガイドライン(通則編)」2-3、個人情報保護法 第20条第2項 | 病歴や障害は要配慮個人情報。取得には原則としてあらかじめ本人の同意が要る | 名簿を作って集めた時点で、同意の手続きが始まる |
| 厚生労働省「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」(平成30年9月7日・令和4年3月31日改正) | 事業者は、健康診断などを通じて得た心身の状態の情報について取扱規程を定める。定める事項は、目的、取り扱う者と権限、同意の取り方、管理、開示・訂正、第三者提供、苦情処理など9項目 | 健康情報を集め始めると、備蓄とは別に規程づくりがついてくる |
| 同 指針 2(9)の注 | 労働者本人が自発的に事業者に提出した心身の状態の情報は、「あらかじめ労働者本人の同意」を得たものと解される | 会社が集めに行かなくても、本人が伝えたいときの受け口があれば足りる |
| 内閣府 帰宅困難者等ガイドライン(令和8年1月)参考資料2 | 数量の目安が示されているのは、水(1人1日3リットル)・主食(1人1日3食)・毛布(1人1枚)。その他の品目は物資ごとに必要量を算定する | 国の目安は、どれも人数に掛けるだけで出る |
出典:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」平成28年11月(令和8年6月一部改正)2-3・2-8・3-1-5・3-3-2、同「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」令和6年12月2日更新 Q1-7・Q2-5、厚生労働省「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」平成30年9月7日(令和4年3月31日改正)、内閣府(防災担当)「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」令和8年1月 参考資料2(いずれも2026年9月30日確認)。
前提の切り分け|「健康情報を持たない」と「人数を数えない」は別の話
この記事でいう健康情報は、病歴・アレルギー・障害・服薬のように、特定の社員の体の状態を表す情報です。これを会社が名簿として持たなくても、備蓄の数量は出せます。ただし人数は数えます。「誰が」を持たずに「何人か」だけを持つ、という線の引き方です。
ここで数える人数は、在籍名簿の人数ではありません。発災時に職場にいるであろう人数(算定対象人数)です。出し方は「従業員100人の会社は、防災備蓄を何人分そろえればいいですか」で扱っています。女性や要配慮者の人数も、この算定対象人数の中の内訳として数えます。
もう1つの切り分けは、備蓄の数量と、当日の個別対応は別ということです。数量は事前に決める必要があります。一方、「この人は何が食べられないか」「どの薬を飲んでいるか」は、当日に本人から聞けば足ります。事前に全部を名簿にしておく必要があるのは、数量ではなく当日の対応のほうだと思われがちですが、次の「実務でつまずく点」で見るとおり、そこも名簿がなくても回ります。
数え方|品目ごとに、要るのは人数か割合だけ
| 品目 | 算定に使う数字 | 個人の健康情報は要るか |
|---|---|---|
| 水・主食・毛布 | 算定対象人数(公表基準の目安を掛ける) | 要らない |
| 携帯トイレの袋 | 算定対象人数 × 1日5回 × 日数 | 要らない |
| 生理用品 | 算定対象人数のうち女性の人数(当社では1日6枚と置いています) | 要らない。月経の周期などは聞かない |
| アレルギー対応の非常食 | 算定対象人数 × 公表されている有病率の割合(当社では上限側の2%で置いています) | 要らない。申告を集めない |
| 要配慮者用のトイレ | その拠点の要配慮者の人数(当社では5人に1基と置いています) | 要らない。人数は本人から伝えてもらう形で足りる |
5品目のどれも、個人の名前や病名を入力に使っていません。アレルギー対応食は「食物アレルギーのある社員の分は、どう備えればいいですか」、生理用品は「生理用品は何枚備蓄すればいいですか」、要配慮者用のトイレは「車椅子の社員がいる場合、トイレはどう考えればいいですか」で、それぞれ詳しく書いています。
アレルギーの割合は、国の基準として決まった数字ではありません。厚生労働省の資料には成人の有病率を「1~2%」とする報告と「成人は不明である」とする報告が並んでいます。当社は、対応食は余ってもアレルギーのない人が食べられるので、上限側の2%で置いています。生理用品の1日6枚、要配慮者5人に1基も、公表基準ではなく当社の置き方です。
日数は「7日目標・3日必須」で置きます。公表基準は3日分(内閣府・東京都)で、これが最低ラインです。当社では7日分を到達点と置いており、3日分は第1段階と位置づけています(備蓄は何日分そろえるべきか)。日数を延ばしても、算定に使う数字の種類は増えません。
計算例|算定対象人数100人と300人
女性が4割、要配慮者が100人の拠点に1名・300人の拠点に3名(同じ階)いる都内の拠点の例です。携帯トイレの袋には、当社の上乗せ(1+予備率20%+帰宅困難者上乗せ10%)を掛け合わせずに足して乗せています。帰宅困難者上乗せ10%は東京都の条例にもとづくもので、都内の拠点だけが対象です。水・主食・毛布は公表基準の目安のまま(上乗せ前)です。
| 入力と品目 | 計算式 | 100人 | 300人 |
|---|---|---|---|
| 入力① 算定対象人数 | — | 100人 | 300人 |
| 入力② うち女性の人数 | — | 40人 | 120人 |
| 入力③ うち要配慮者の人数 | — | 1人 | 3人 |
| 水(3日分) | ①×3リットル×3日 | 900リットル | 2,700リットル |
| 主食(3日分) | ①×3食×3日 | 900食 | 2,700食 |
| うちアレルギー対応食 | ①×2%×3食×3日(主食の内数) | 2人分・18食 | 6人分・54食 |
| 毛布 | ①×1枚 | 100枚 | 300枚 |
| 携帯トイレの袋(3日分) | ①×5回×3日×1.3 | 1,950枚 | 5,850枚 |
| 生理用品(3日分) | ②×6枚×3日 | 720枚 | 2,160枚 |
| 要配慮者用のトイレ | ③÷5(切り上げ・上乗せなし) | 1基 | 1基 |
7日分にすると、水は2,100リットルと6,300リットル、袋は4,550枚と13,650枚、生理用品は1,680枚と5,040枚になります。入力は3つの人数だけで、どの行にも個人の名前は出てきません。アレルギー対応食は主食の内数なので、買う総量は増えず、内訳が変わるだけです。
実務でつまずく点
1. 「当日のために」と、事前に全員の病歴を集めようとしてしまう
備蓄の算定で健康情報を集めたくなる理由は、たいてい数量ではなく当日の心配です。「発作が起きたとき、持病を知らなかったらどうするのか」。けれども、当日の個別対応のために事前の全社名簿が要るわけではありません。
本人が話せるなら、その場で本人に聞けば足ります。本人が答えられないときについて、個人情報保護法は、人の生命・身体の保護のために必要で、本人の同意を得ることが困難なときを同意の例外にしています(第18条第3項第2号・第20条第2項第2号)。個人情報保護委員会のガイドラインは、その例として、急病のときに本人の血液型や家族の連絡先を医師や看護師に伝える場合、医師や看護師が本人の病歴を家族から聞き取る場合、大規模災害や事故の緊急時に負傷者情報などを家族や行政機関に提供する場合を挙げています。
つまり、平時に同意の手続きを組んで全員分を集めなくても、当日に必要なことは当日に聞けます。事前にやっておくのは、本人が「伝えておきたい」と思ったときの受け口を1つ決めておくことです。厚生労働省の指針は、本人が自発的に提出した心身の状態の情報は、あらかじめ本人の同意を得たものと解されるとしています。東京都のハンドブックも、要配慮者自身に対して、介助者の確保や避難経路などを「事前に企業等と情報共有しておきましょう」、薬や補装具は可能なものは「勤務先に常備」するよう呼びかけています。会社が集めに行く形ではなく、本人が伝えに来る形です。
2. 集め始めると、備蓄とは別の仕事が9つ増える
「念のため全員に聞いておこう」で始めると、同意の取り方、保管の方法、見られる人の範囲、異動や退職のときの消し方までを決めることになります。厚生労働省の指針は、心身の状態の情報を扱う事業者に、目的、扱う者と権限、同意の取り方、管理、開示・訂正、第三者提供、組織変更時の引継ぎ、苦情処理、周知の方法を取扱規程に定めるよう求めています。策定には衛生委員会などで労使が関与します。指針が直接の対象にしているのは健康診断などを通じて得た情報ですが、会社が社員の健康情報を持つとどれだけの段取りが要るかの目安になります。
ここまで来ると、備蓄の話は総務の手を離れて止まります。集めなくても数量が出せるなら、集めないほうが早く、しかも正確です。申告は任意なので、集めた名簿は「申告した人の数」にしかならず、実際の人数より少なく出るからです。
3. 小さい拠点では、「何名」だけでも誰のことか分かる
集計値が個人情報に当たらないのは、ガイドラインの言葉では「特定の個人との対応関係が排斥されている限り」です。本社の「女性120名」は誰とも結びつきませんが、社員8人の営業所の「要配慮者1名」は、社内の誰が読んでも1人に行き着きます。
拠点ごとの内訳(女性の人数・要配慮者の人数)は、人数が少ない拠点では個人情報と同じつもりで扱い、見る人を備蓄の担当者に限ります。役員会や稟議に回す資料には、拠点別の内訳ではなく、品目ごとの数量と計算式を載せれば足ります。
4. 人事データを備蓄に使ってよいか迷って、そこで止まる
「女性の人数は人事システムにあるが、採用や給与のために集めた情報を備蓄に使ってよいのか」。ここで止まる担当者は少なくありません。個人情報保護委員会のQ&Aは、統計データは利用目的の特定の対象にならず、統計データへの加工を行うこと自体を利用目的とする必要はないとしています。人事から受け取るのが「拠点ごとの人数」という集計値であれば、この迷いは要りません。
ただし、受け取るのは集計値だけにしてください。「女性社員の一覧」を名前付きで受け取ると、それは個人データのままです。人事に頼むときは「拠点ごとの人数だけください」と、形まで指定します。
5. 数の根拠を「社内で聞き取った結果」にしてしまう
アンケートの集計を数量の根拠にすると、決裁者から「回答していない人の分はどうするのか」と聞かれて答えられません。予算が通らない原因は、金額の大きさより、数の根拠が自社の判断に見えることです。「人数 × 公表された基準(または出典のある割合)」で出した数なら、計算式と出典をそのまま示せるので、稟議で説明でき、予算が通りやすくなります。健康情報を集めない算定は、個人情報の面だけでなく、予算の面でも有利です。
社内でどう説明するか
稟議書や、社員への周知に使える書き方の例です。
本備蓄の数量は、拠点ごとの人数(発災時に在館していると見込まれる人数と、そのうちの女性・要配慮者の人数)と、国の公表基準および出典のある割合から算定しています。
算定にあたり、従業員個人の病歴・アレルギー・障害などの健康情報は取得していません。拠点ごとの人数は集計値として受け取り、個人の氏名とは結びつけていません。
災害時に個別の配慮が必要な方は、希望する場合に限り、総務部(担当:○○)へお知らせください。お知らせいただいた情報は、災害時の対応の目的に限って使用します。
3段落目は、つまずき1の「受け口」にあたります。任意であること、使う目的、窓口を書いておけば、会社が集めに行かなくても、伝えたい人は伝えられます。
よくある誤解
| 誤解 | 実際 |
|---|---|
| アレルギーの人数が分からないと、対応食の数は決められない | 公表されている有病率の割合で置ける。当社では上限側の2%で置き、主食の内数にしている |
| 拠点ごとの人数も個人情報なので、扱うには同意が要る | 特定の個人と結びつかない集計値は「個人に関する情報」に当たらない。ただし小さい拠点では誰のことか分かるので、見る人を限る |
| 事前に病歴を集めておかないと、当日に医師へ伝えられない | 生命・身体の保護に必要で本人の同意を得るのが困難なときは、同意の例外になる。本人が話せるならその場で聞けばよい |
| 人事システムの人数を備蓄に使うには、利用目的を掲げ直す必要がある | 統計データへの加工そのものを利用目的とする必要はない(個人情報保護委員会Q&A Q2-5)。受け取るのは集計値だけにする |
| 全員に聞いたほうが正確になる | 申告は任意なので、名簿は申告した人の数にしかならない。割合と人数で置くほうが漏れにくい |
まとめ
- 防災備蓄の数量は、拠点ごとの人数(算定対象人数・女性・要配慮者)と公表された割合だけで出せる。病歴や障害の名簿は要らない
- 特定の個人と結びつかない集計値は、個人情報保護委員会のガイドラインで「個人に関する情報」に当たらない。ただし小さい拠点の内訳は見る人を限る
- 当日の個別対応は、本人に聞くか、生命・身体の保護のための同意の例外で回る。事前にやるのは、本人が伝えたいときの受け口を決めることだけ
- 健康情報を集め始めると、取扱規程の9項目がついてきて、備蓄の話が止まる
- 「人数×公表基準」で出した数は、計算式と出典をそのまま稟議に書けるので、予算が通りやすい
この記事の出典
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」平成28年11月(令和8年6月一部改正)2-3・2-8・3-1-5・3-3-2
https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/(確認日:2026年9月30日) - 個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」平成29年2月16日(令和6年12月2日更新)Q1-7・Q2-5
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/2412_APPI_QA.pdf(確認日:2026年9月30日) - 厚生労働省「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」平成30年9月7日(令和4年3月31日改正)
https://www.mhlw.go.jp/content/000922318.pdf(確認日:2026年9月30日) - 内閣府(防災担当)「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」令和8年1月 参考資料2
https://www.bousai.go.jp/jishin/kitakukonnan/pdf/kitakukonnan_guideline.pdf(確認日:2026年9月29日) - 東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」令和5年3月 31ページ
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/001/369/202303.pdf(確認日:2026年9月29日) - 厚生労働省「アレルギー疾患の現状等」平成28年2月3日 9ページ
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10905100-Kenkoukyoku-Ganshippeitaisakuka/0000111693.pdf(確認日:2026年9月17日)
この記事で見た5品目だけでも、品目ごとに使う人数・割合・日数・上乗せの有無が違い、拠点ごとの内訳の扱いまで気を配ることになります。備蓄は人の命に関わるので1つも落とせず、これを担当者1人が覚えて回し続けるのは現実的ではありません。当社はそのための管理の仕組みをご用意しています。
当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。自社の拠点ごとの人数で数えると、各品目がいくつ要るかは、算定で出せます。
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