会社の防災備蓄で、水は1人1日何リットル必要ですか。BCP対策で3リットルが指している水

会社の防災備蓄で必要な水は、1人1日3リットル、3日分で9リットルです。内閣府のガイドラインが示している目安で、東京都の帰宅困難者対策も同じ数量を使っています。ただし、この3リットルは飲むための水です。手洗い・洗面・トイレに使う水は、この中に入っていません。生活用水は別に考える必要があります。

「3リットル」という数字だけを持ち帰ると、ほぼ確実にここでつまずきます。この記事では、数量そのものと、3リットルが何の水を指しているのか、そして備蓄を進めるときに必ず詰まる5つの点を、出典付きで整理します。

目次

根拠の数字

企業の備蓄量は、内閣府のガイドラインの参考資料2に示されています。原文のまま引用します。

一斉帰宅抑制における従業員等のための備蓄の考え方(抜粋)

3 3日分の備蓄量の目安
(1)水については、1人当たり1日3リットル、計9リットル
(2)主食については、1人当たり1日3食、計9食
(3)毛布については、1人当たり1枚
(4)その他の品目については、物資ごとに必要量を算定

4 備蓄品目の例示
(1)水 :ペットボトル入り飲料水
(2)主食:アルファ化米、クラッカー、乾パン、カップ麺
 ※水や食料の選択に当たっては、賞味期限に留意する必要がある。

ここで重要なのは「4 備蓄品目の例示」のほうです。水の品目は「ペットボトル入り飲料水」と書かれています。3リットルという数量は、ペットボトルに入った飲み水の量として示されています。

項目数量
水(1人1日あたり)3リットル
水(1人3日分)9リットル
品目ペットボトル入り飲料水
選び方の注意賞味期限に留意する必要がある
出典:内閣府(防災担当)「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」令和8年1月 参考資料2。同じ数量は「事業所における帰宅困難者等対策ガイドライン」(首都直下地震帰宅困難者等対策連絡調整会議・令和6年7月26日)にも示されています

東京都帰宅困難者対策条例 第7条第2項も、事業者に「従業者の三日分の飲料水、食糧その他災害時における必要な物資を備蓄するよう努めなければならない」と定めており、条文の言葉も「飲料水」です。国と都で、数量も呼び方もそろっています。

この3リットルは、何の水を指しているのか

備蓄する側の資料だけを見ていると、ここが分かりません。水を配る側、つまり水道事業者の資料を見ると、3リットルの位置づけがはっきりします。

国土交通省が水道事業者向けに示している「地震対策マニュアル策定指針」には、災害のあとに水道事業者が配る水の量の目標が、日数ごとに並んでいます。

地震発生からの日数目標水量住民の水の運搬距離(都市部の例)備考(水用途)
地震発生〜3日まで3リットル/人・日概ね1km以内飲料等
7日20〜30リットル/人・日概ね250m以内飲料、水洗トイレ、洗面等
14日被災前給水量(約250リットル/人・日)概ね10m以内
出典:国土交通省水管理・国土保全局上下水道審議官グループ「地震対策マニュアル策定指針」令和8年3月 表-2.1「応急給水量等の目標設定例」(同表の出典は「水道の耐震化計画等策定指針」)。これは水道事業者が設定する目標の例であり、復旧の実績ではありません

発災から3日までの3リットルには、用途が「飲料等」と明記されています。水洗トイレと洗面が用途に入ってくるのは、20〜30リットルに増える7日目からです。

同じ表の注記は、さらに踏み込んでいます。20リットルとする場合について、「水洗トイレの水量は、風呂の貯めおき水や河川水等 水道以外で確保する」としています。つまり水道の側は、最初の数日どころか1週間の時点でも、トイレの水まで面倒を見る前提を置いていません。

普段の使用量が1人1日約250リットルですから、3リットルは平常時の約1.2%です。この数字は「いつもどおり過ごせる量」ではなく、水道が止まっている間、人が生き延びるための飲み水の量として置かれています。会社が3日分を備えるというのは、行政の応急給水が回り始めるまでの飲み水を、自分で持っておくということです。

何を1リットルと数えるのか

数量を計算する前に、数える対象を2つ確かめてください。

  • 人数は在籍人数ではありません。東京都の条例Q&Aは、備蓄の対象を「発災時及びその直後に職場にいるであろう従業者」としています。数え方は従業員100人の会社は、防災備蓄を何人分そろえればいいですかで整理しています
  • 社内にある水のすべてが備蓄になるわけではありません。内閣府が品目として挙げているのは「ペットボトル入り飲料水」です。受水槽の水、給湯室の蛇口、ウォーターサーバーの設置台数は、この9リットルの代わりにはなりません。理由は後述します

もう1点、主食を戻すための水を、3リットルの内側に見るか外側に見るかを決めておいてください。アルファ化米やカップ麺は、水かお湯を注いで食べる前提の食品です。内閣府は水・主食・毛布の3品目以外を「物資ごとに必要量を算定」としているので、調理に使う水は各社が算定する側に入ります。飲み水の9リットルをそのまま調理にも使う設計なら、実際に飲める量はその分だけ減ります。

従業員100人・300人で計算すると

項目計算式100人300人
水(3日分)人数 × 3L × 3日900L2,700L
水(7日分)人数 × 3L × 7日2,100L6,300L
2Lペットボトル(3日分)リットル数 ÷ 2450本1,350本
6本入りの箱(3日分)本数 ÷ 675箱225箱
重さ(3日分)1L=1kg900kg2,700kg
1人1日3リットルは内閣府ガイドライン参考資料2の数値。本数・箱数・重さの換算は当社によるものです

備蓄品の中で、水はいちばん重い品目です。100人・3日分でも900kg、300人なら2.7トンになります。ここが置き場所の制約に直結するので、買う前に床と動線を確認してください。床の耐荷重と必要な面積は防災備蓄の倉庫はどのくらいの広さが必要ですかにまとめています。

3日分にするか7日分にするかで、水の量はそのまま2.3倍になります。水は日数に正比例する品目の代表です。日数の決め方は防災備蓄は何日分そろえればいいですかで扱っています。

実務でつまずく5つの点

1. ビルの受水槽は満水でも、停電すると1滴も出ない

いちばん知られていないのに、いちばん大きいのがここです。受水槽を持つビルには、常に数トンの水が入っています。ところがその水を各階へ送っているのはポンプです。停電でポンプが止まれば、水槽が満水でも蛇口からは出ません。断水していなくても、です。

この水を使えるようにする設備が非常用給水栓です。千葉県は「災害等により貯水槽のポンプが停止し、各お部屋に水を送れなくなった時、非常用給水栓が設置されている場合は、貯水槽内に貯まっている水を活用することができます」と説明しています。水槽に直接つける蛇口だと考えてください。

ただし、あとから思いついて開けられるものではありません。千葉県の場合、設置には図面と誓約書の提出、技術基準に基づく承認、専門業者による施工、検査、そして平常時の不正使用を防ぐための封印という手順が必要です。使用時の基本料金・使用料金は発生しませんが、使用後に使用届を提出します。手続きも工事も、平常時にしかできません。

自社ビルなら自社の判断で、テナントならビル管理会社に「非常用給水栓が付いているか」を確認してください。付いていれば、目の前の数トンが使える水に変わります。手続きの方法は水道事業者ごとに違うので、所在地の水道局に問い合わせるのが確実です。

2. 賞味期限が切れた備蓄水を、そのまま捨てている

農林水産省は「防災備蓄用の水は賞味期限が切れたら使用できなくなりますか」という問いに、こう答えています。

「賞味期限は、定められた方法により保存した場合において、期待される全ての品質の保持が十分に可能であると認められる期限」であり、飲料水は賞味期限を過ぎても一律に飲めなくなるものではありません。

賞味期限が切れたからと慌てて処分しないで、いざというときに役立ててください。

同じ回答は、長期保存水の賞味期限は5〜10年、通常のミネラルウォーターは約2年としています。つまり、何を買うかで入れ替えの回数が5倍変わります。2年ものを100人分そろえると、担当者は2年ごとに450本を出して450本を入れることになります。

予算が通らないときに、ここは判断材料になります。長期保存水は1本あたりの単価が上がりますが、入れ替えの手間と廃棄の量は減ります。買うときの金額だけでなく、保有している間に何回入れ替えるかで比べてください。

3. 給水車が来ても、運ぶのは自社の誰か

先ほどの国土交通省の表には、目標水量と並んで「住民の水の運搬距離」という欄があります。発災から3日までの都市部の例は「概ね1km以内」です。これは1km歩けば水があるという意味であって、1km運ばなくてよいという意味ではありません。

同じ指針は、必要な給水車の台数を「被災人口×1人1日あたり給水量3L ÷ 給水車両容量」という式で見積もっています。水は1リットルが1kgです。100人分の1日分でも300kg、20リットルのポリタンクなら15個ぶんになります。

社内に3日分を置いておく意味は、ここにあります。備蓄があれば、最初の3日は誰も水を取りに行かなくて済みます。逆に、備蓄を3日分で止めるなら、4日目以降は誰が・何を使って・どこまで取りに行くのかを決めておく必要があります。運搬用の容器(ポリタンクや給水袋)は水の備蓄とは別の品目で、備蓄リストから漏れやすいところです。

4. 手洗いとトイレの水を、3リットルの中で考えている

冒頭の結論に戻ります。3リットルは飲料等の水です。国土交通省の表で水洗トイレと洗面が用途に入るのは20〜30リットルの段階で、しかも注記は「20リットルとする場合、水洗トイレの水量は、風呂の貯めおき水や河川水等 水道以外で確保する」としています。

オフィスに風呂はなく、河川水を汲みに行く運用も現実的ではありません。そのため会社の備蓄では、トイレは水で流すのをやめて、携帯トイレに置き換えるのが基本形になります。水を増やして水洗を続ける設計は、量の桁が合いません。1人1日5回の使用回数で水洗を維持しようとすると、必要な水は飲料の何倍にもなります。

加えて、水が出ていても流してはいけない場面があります。下水道側の被害が確認されるまで水洗トイレを使わない、というのが内閣府ガイドラインの考え方です。この点は断水していなくても、会社のトイレを流してはいけないのはなぜですかで詳しく整理しています。手洗いについても、水ではなく手指消毒剤とウェットティッシュで代替する前提で品目を組んでください。

5. ウォーターサーバーを備蓄に数えている

ウォーターサーバーがあるから水は足りている、という会社は少なくありません。ボトルの中身は確かに飲料水ですが、備蓄として数えるには3つ確認が要ります。

  • サーバー本体は電源が要ります。停電時は、ボトルから直接注ぐ手段(非常用コックの有無)を確認してください
  • 常時置いてある本数が備蓄量です。配送が止まれば補充されません。「月に何本届くか」ではなく「いま社内に何本あるか」で数えます
  • 賞味期限が短い場合があります。通常のミネラルウォーターの賞味期限は約2年です(農林水産省)。長期保存水を前提にした更新サイクルとは別に管理することになります

数えてはいけないということではありません。数えるなら、備蓄台帳に本数と期限を載せて管理対象にしてください。台帳に載っていない水は、災害当日に何本あるか誰も知らない水です。

社内でどう説明するか

水の予算は、金額が分かりやすいぶん「多すぎないか」を必ず聞かれます。次の3点をそろえておくと、稟議でも監査でも答えられます。

  • 数の根拠:内閣府ガイドライン参考資料2の「1人1日3リットル、計9リットル」。国の公表資料であって、社内で決めた数ではありません
  • 対象人数の根拠:在籍人数ではなく、発災時に職場にいるであろう人数から算定したこと。その計算過程を1枚にしておきます
  • 用途の根拠:3リットルは飲料等の水であること。国土交通省の表を添えれば、「トイレや手洗いの分は別に要る」という話が、担当者の意見ではなく資料の話になります

もうひとつ、平常時の法令も使えます。事務所衛生基準規則 第十三条(給水)第1項は、事業者に「労働者の飲用に供する水その他の飲料を十分に供給するようにしなければならない」と定めています。平常時から飲み水を供給する立場にある、という事実です。災害時に従業員を社内にとどめる方針を採るなら、その延長として説明できます。

よくある誤解

よくある理解実際
3リットルあれば手洗いやトイレもまかなえる3リットルの用途は「飲料等」。水洗トイレと洗面が用途に入るのは20〜30リットルの段階(国土交通省)
賞味期限が切れた備蓄水は捨てるしかない賞味期限は品質保持の期限で、飲料水は過ぎても一律に飲めなくなるものではない(農林水産省)
ビルの受水槽に水があるから大丈夫停電でポンプが止まると蛇口から出ない。非常用給水栓の設置は平常時の手続きが必要
給水車が来るので3日分で足りる3日までの拠点給水は運搬距離「概ね1km以内」が目安。運ぶのは自社の誰か
水も他の品目と同じように増える水は日数に正比例し、重さが最大。3日分→7日分で量も重さも約2.3倍になる

まとめ

  • 会社の備蓄水は1人1日3リットル、3日分で9リットル(内閣府ガイドライン参考資料2)
  • この3リットルの用途は「飲料等」。手洗い・洗面・トイレの水は含まれていない(国土交通省 表-2.1)
  • 品目は「ペットボトル入り飲料水」。受水槽やウォーターサーバーは、そのままでは代わりにならない
  • 100人・3日分で900リットル=900kg。備蓄品の中でいちばん重く、置き場所の制約に直結する
  • 賞味期限は品質保持の期限であり、切れた水をすぐ捨てる必要はない(農林水産省)

この記事の出典

当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定と保管計画についてのご相談も承っています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

株式会社MOSHIMO HACKは、非常用トイレをはじめとする防災用品の製造・販売と、企業の備蓄数量の算定を行っています。代表の寺澤は災害備蓄管理士(一般社団法人 防災安全協会)および防災士。「作っている側」と「資格を持って算定している側」の両方から、企業の備蓄について書いています。

コメント

コメント一覧 (1件)

コメントする

目次