流せなくなる場合があります。停電で止まるものは2つあります。1つは上の階へ水を送るポンプで、便器を流す水が来なくなります。もう1つは地下の排水槽から汚水をくみ上げるポンプで、地下階のトイレは水があっても流す先がなくなります。非常用発電機がある建物でも、これらのポンプにつながっているとは限りません。

BCP対策でトイレの備蓄を考えるとき、多くの方は「断水したら流せない」までは知っています。抜けやすいのは、水が出ていても流せない階がある、という排水側の話です。この記事では、停電で何が止まるのかを給水と排水に分け、自社の建物で何を確かめればよいか、確かめた結果を備蓄の数にどうつなげるかまでを整理します。地震のあとに流してはいけない理由そのものは断水していなくても、会社のトイレを流してはいけないのはなぜですかにまとめています。

根拠の数字|停電で止まるのは「水を送る側」と「流す先」

内閣府のトイレのガイドラインは、災害時に起こりうる事態ごとに、トイレを確保するうえでの制約を一覧にしています。停電の行には、次の2つが書かれています。

事態トイレを確保するうえでの制約(原文)
停電「戸別浄化槽ブロアーが停止すると、水洗トイレが使えなくなる」
停電「特にマンション等では、水が汲みあがらず、水洗トイレが使えなくなる」

出典:内閣府(防災担当)「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」平成28年4月(令和6年12月改定)6ページ。2026年10月5日確認。

ここに書かれているのは、水を上の階へ送る側の話です。オフィスビルには、もう1つ電気に頼っている設備があります。地下の排水槽です。東京都環境局のマニュアルは、排水槽がある理由をこう説明しています。

資料書かれていること
東京都環境局「ビルピット臭気対策マニュアル」平成24年3月 1ページ「ビルの地下にある厨房やトイレ等は、下水道管より低い位置にあるため、排水を自然流下で排水することができない」。そのため排水をポンプでくみ上げて下水道に出すまで、一時的にためる槽が排水槽。「地下部分(場合によっては地上部も含む。)」の排水が対象
東京都「建築物における排水槽等の構造、維持管理等に関する指導要綱(ビルピット対策指導要綱)」第2条第3号排水槽=「建築物から排除される汚水又は雑排水を集め、これをポンプによってくみ上げ排除するために貯留する槽」
同 第4条第1項第2号排水槽の有効容量は「(1日平均排水量÷地階への1日の給水時間)×2.0〜2.5」の範囲内。1時間あたりの平均的な流入量の2.0〜2.5倍を上限とする

出典:東京都環境局「ビルピット臭気対策マニュアル」平成24年3月/東京都「ビルピット対策指導要綱」昭和61年6月25日(最終改正 平成16年12月28日)。2026年10月5日確認。

つまり、停電でくみ上げが止まれば、地下階のトイレは便器に流す水があっても、流した先が下水道へ出ていきません。流した分は槽の中にたまる一方になります。

この話は誰向けか。自社にどう読み替えるか

内閣府のガイドラインは避難所向けで、例に挙がっているのはマンションです。ただ、水を上の階へポンプで送り、地下の排水をポンプでくみ上げる仕組みは、オフィスビルも同じです。読み替えるときは、自社の建物を次の3つの点で見ます。

確かめる点停電で起きること出典
給水の方式(受水槽方式/増圧ポンプ方式/直結直圧)受水槽方式と増圧ポンプ方式は、道路の下の水道管に水が来ていてもポンプが止まって各階に送れない守口市水道局「停電の影響によるマンション等での断水について」
トイレの排水がどこへ流れるか(そのまま下水道へ/地下の排水槽へ)排水槽に入る系統は、くみ上げが止まると流す先がなくなる東京都環境局 マニュアル/ビルピット対策指導要綱
下水道か浄化槽か浄化槽はブロアーが止まると水洗トイレが使えなくなる内閣府 トイレガイドライン 6ページ

テナントで入居している会社は、どれも自社では分かりません。ビルの管理会社に聞く項目です。都心のテナントビルでも、郊外の自社工場でも、聞くことは同じ3つです。

なお、ここで扱うのは停電だけが起きた場合です。地震で停電した場合は、水が出ても排水管の無事を確かめるまで流さない、が先に来ます。東京都も、地震では停電・断水・排水管の破損でトイレが使えなくなることがあり、「排水管が損傷していないことを確認できるまでは、トイレの使用は控えましょう」としています(東京都総務局総合防災部「事業所防災リーダー通信」Vol.36、2023年12月4日)。

数え方|便器の数ではなく「階ごとの系統」で数える

停電のときに使える便器を数えるときは、便器の数ではなく、階ごとに「水が来るか」と「流す先があるか」の2つで見ます。1つでも欠けた階の便器は、停電中は数えません。

階便器に流す水流す先停電のみのとき
地上階(排水がそのまま下水道へ)来ない(給水ポンプ停止)ある(自然流下)バケツで水を運べば流せる場合がある
地上階(排水が地下の排水槽へ)来ないない(くみ上げ停止)流せない
地下階来ない、または受水槽から汲めるない(くみ上げ停止)水があっても流せない
浄化槽の拠点方式によるブロアー停止水洗トイレは使えない(内閣府)

注意したいのは、この表は携帯トイレの数を減らす根拠にはならないことです。停電だけのときに流せる階があっても、地震では点検が済むまでどの階も流せません。携帯トイレの数は、地震の場合を前提に、建物にいる人全員の分で数えます。この表が役に立つのは、停電のときにどの階のトイレを開け、どの階を閉めるかを前もって決めておくためです。

数える日数は、当社では7日分を目標に置き、3日分を必ずそろえる第1段階としています。公表基準は3日分(内閣府ガイドライン・東京都条例)で、3日分から段階的に導入する企業が多数です。当社では携帯トイレの数量に予備率20%を足し、東京都内の拠点に限って東京都の帰宅困難者上乗せ10%を足しています(掛け合わせず足し算で、1+0.2+0.1=1.3)。1日の使用回数は内閣府のトイレガイドラインの5回です。

計算例|100人と300人の事業場

停電で地上階を「バケツで流す」運用にした場合に要る水と、携帯トイレで受けた場合の数を並べます。バケツ1回の水量は江東区のガイドブックの「3〜6L程度」、飲み水は内閣府の帰宅困難者等ガイドラインの1人1日3リットルです。掛け合わせは当社の計算です。

項目100人300人
1日のトイレ回数(1人5回)500回1,500回
バケツで流す水(1回3〜6L)1日分1,500〜3,000L4,500〜9,000L
参考:飲み水(1人1日3L)1日分300L900L
携帯トイレ 3日分(都外:数量×1.2)1,800回分5,400回分
携帯トイレ 3日分(都内:数量×1.3)1,950回分5,850回分
携帯トイレ 7日分(都外/都内)4,200/4,550回分12,600/13,650回分

バケツで流す水は、飲み水の5〜10倍になります。100人の事業場で1日1.5〜3トンです。停電したビルで、この量の水を階段で上の階へ運び続けるのは現実的ではありません。バケツで流す運用は「限られた階で、限られた回数だけ」と考え、受け皿の本体は携帯トイレに置くのが順当です。

この数を出すときに、建物の給水と排水の方式を管理会社に確かめてあると、稟議で「なぜこの数なのか」に答えられます。予算が止まる原因は金額の大きさより、数の根拠が自社の思い込みに見えることです。設備を確かめたうえで数えることが、予算を通すいちばんの近道になります。

実務でつまずく点

1. 地下階のトイレは、水が出ていても流せない

停電で困るのは「水が来ないこと」だと思われがちですが、地下は逆です。非常用の給水栓から受水槽の水を汲めて、便器に流す水は手元にある、という場面もあります。それでも、流した汚水を下水道へ上げるポンプが止まっていれば、流す先はありません。「地下のトイレは水が出るから使える」と案内すると、排水槽に汚水をためていくことになります。

東京都の指導要綱は、排水槽の有効容量を1時間あたりの平均的な流入量の2.0〜2.5倍以内としています。悪臭の原因になる腐敗を防ぐため、排水を長くためない設計を求めているからです(同マニュアルは、滞留時間が長いと硫化水素ができやすいと説明しています)。排水槽は、停電の間の汚水を何日も受けておくための槽ではありません。なお、この要綱は法令ではなく東京都の行政指導の基準で、要綱より前からある排水槽には容量の基準を当てはめないことができるとされています。自社の建物の槽の大きさは、管理会社に聞いて確かめます。

2. 地上階でも、排水を地下の槽に集めている建物がある

「地上階のトイレは重力で流れるから大丈夫」とは言い切れません。東京都環境局のマニュアルは、排水槽で受ける排水を「地下部分(場合によっては地上部も含む。)」と書いています。地上階のトイレの排水も、いったん地下の槽に集めてからくみ上げている建物があります。

図面を見ないと分からないので、管理会社には「何階のトイレの排水が、排水槽を通るか」をそのまま聞きます。答えによって、停電中に開けられる階が決まります。

3. 非常用発電機があっても、ポンプにつながっているとは限らない

「うちのビルは発電機があるから大丈夫」という声はよく聞きます。ところが国のガイドラインは、非常用電源をどこへ回すかを決めておくべき項目として挙げています。事業所向けの帰宅困難者等対策ガイドラインは、施設内待機の計画の例に「非常用電源による電源供給の必要範囲の設定(非常用エレベーター、照明等)」と「非常用電源の確保(稼動時間、燃料種類や容量 等)」を並べています。例に挙がっているのはエレベーターと照明で、ポンプではありません。

庁舎や病院などの防災拠点向けに国土交通省がまとめたガイドラインも、停電時の対策例として「負荷を任意に切り替えることができる配電系統の設定」や、目標の時間だけ運転できる電源と燃料の備蓄を挙げています。拠点となる建物ですら、どこへ電気を回すかは設計して決めるものだということです。管理会社に聞くのは「発電機は給水ポンプと排水ポンプに電気を送るか」「何時間動くか」の2点です。

4. 電気が戻っても、すぐには水が出ないことがある

守口市水道局は、停電で止まったポンプについて「復電すれば水は出るようになりますが、建築物によってはポンプ等の再起動が必要となる場合があります」と案内しています。停電が直れば元どおり、とは限りません。夜間や休日に復電したとき、誰がポンプの状態を確かめるかを決めておく必要があります。

江東区のガイドブックも、「停電や断水が復旧しても、給排水設備が損傷している場合があります」として、復旧したときの手順と依頼する業者を前もって決めておくよう書いています。連絡先の一覧に、管理会社と設備業者の夜間の窓口を入れておきます。

5. バケツで流すなら、紙は流さず、水の出どころを決めておく

江東区のガイドブックは、バケツで流すときの水量を「3〜6L程度」とし、トイレットペーパーは配管が詰まる原因になるので燃やすごみとして処分するよう書いています。ペットボトルでは十分な水量を一気に流せないので、バケツを使うことも勧めています。

水の出どころも決めておきます。停電で受水槽からのくみ上げが止まっても、非常用の給水栓があれば槽の水を使える建物があります(守口市水道局は、1階の散水栓などから給水できる場合も挙げています)。どこから汲めるかは会社の備蓄で、水は1人1日何リットル必要ですかで整理しています。ただし、その水は飲み水と同じ槽から出ます。流す水に使ってよい量の線引きも、あわせて決めておきます。

6. 階ごとの使い方を、貼り紙にしていない

東京都が公表している企業の取組事例に、停電のときのトイレの使い方を階ごとに決めている会社があります(川崎地質株式会社・従業員355人)。停電で地下の貯水槽から屋上へのくみ上げができなくなり、トイレの利用に大きな支障が出るため、「トイレ利用フロー」を作っています。

場面この会社のフロー
地震の直後トイレの安全と給排水管の系統(破損・漏水の有無)を確認。だめなら使用不可にして簡易トイレを設営
停電(水が出ない・水で流せない)全階で利用を制限。1階は大小とも利用可、2〜9階は小のみで紙は流さない
流す水地下の貯水槽を災害時の水源にし、簡易ポンプで地上へ上げてバケツで流す。紙は流さない
電気が戻ったら全階を通常どおり使用

出典:東京都防災ホームページ「【テーマ別】一斉帰宅抑制推進企業の取組事例」滞在・外出対応「ビル内部の施設利用計画と帰宅時支援」(令和4年度)。

この形がそのまま自社に合うとは限りません。階ごとの使い分けは、前の3つの確認(給水の方式・排水の系統・発電機の範囲)の答えで変わります。東京都も、オフィスのように大勢が共用でトイレを使う施設では一刻も早く使い方を周知することが大切だとして、説明用紙と備蓄をセットで備えるよう勧めています(事業所防災リーダー通信 Vol.36)。決めた使い方は、階ごとに貼り出せる紙にして、携帯トイレと同じ場所に置きます。

社内でどう説明するか

この話は、予算をほとんど使わずに進められます。社内では次の3点で説明できます。

  1. 停電で止まるのは水だけではない。内閣府のガイドラインが停電でトイレが使えなくなると明記しており、地下の排水はポンプでくみ上げている(東京都の要綱)。地震がなくても、台風や事故の停電でトイレが止まる
  2. 確かめるのは3点だけ。給水の方式、トイレの排水が排水槽を通るか、発電機がポンプに電気を送るか。管理会社への問い合わせ1回で分かる
  3. 携帯トイレの数は変わらない。数は地震の場合を前提に全員分で数える。確かめた結果は、停電のときに開ける階と閉める階を決めるのに使う

稟議には「建物設備の確認結果(管理会社回答 ○年○月)に基づき、停電時のトイレ運用を定めた」と1行入れておくと、監査でも説明がつきます。

よくある誤解

よくある理解実際
停電しても、水が出ていればトイレは流せる地下階や、排水を地下の槽に集める系統は、くみ上げのポンプが止まると流す先がない
直結給水だから停電しても水は出る直結でも増圧ポンプ方式は、停電でポンプが止まると各階へ送れない
非常用発電機があるから大丈夫電源をどこへ回すかは決めておく項目で、国の計画例に挙がるのは非常用エレベーターと照明。ポンプにつながっているか、何時間動くかは管理会社に確認する
地下の排水槽にしばらくためておけばよい東京都の要綱は有効容量を1時間あたりの平均流入量の2.0〜2.5倍以内としている。長くためない設計
停電が直ればすぐ元どおりになる建物によってはポンプの再起動が要る。設備が損傷している場合もある
停電のときに流せる階があるなら、携帯トイレは減らせる地震では点検が済むまでどの階も流せない。数は全員分で数える

まとめ

  • 停電で止まるのは2つ。上の階へ水を送るポンプと、地下の排水槽から汚水をくみ上げるポンプ
  • 地下階のトイレは、水が出ていても流す先がない。地上階でも排水を地下の槽に集める建物がある
  • 非常用発電機がポンプにつながっているとは限らない。管理会社に「給水・排水ポンプに送るか」「何時間か」を聞く
  • バケツで流す水は飲み水の5〜10倍。受け皿の本体は携帯トイレで、数は地震を前提に全員分
  • 確かめた結果で、停電時に開ける階・閉める階を決め、貼り紙にして携帯トイレと一緒に置く

この記事の出典

この記事は国と自治体の公表資料にもとづく一般的な整理です。自社の建物の給排水の方式、排水槽の容量、非常用発電機の供給範囲は、建物の所有者または管理会社にご確認ください。

この記事の論点だけでも、給水の方式、排水槽を通る階、浄化槽かどうか、発電機の供給範囲と運転時間、復電後の再起動、流す水の出どころと、確かめることが6つあり、拠点ごとに答えが変わります。備蓄は人の命に関わるので1つも落とせず、これを担当者1人が覚えて回し続けるのは現実的ではありません。当社はそのための管理の仕組みをご用意しています。

当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。自社の人数で数えると、どの品目がいくつ要るかは、算定で出せます。

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