先に決めておくべきです。国のガイドラインは、従業員を施設内に待機させる計画を事業所防災計画等で定め、待機場所は「安全確保が出来る場所」に設置するとしています。備蓄の置き場所、トイレの数、非常用電源を回す範囲は、どれも「どの階に、何人がとどまるか」から逆算して決まります。待機場所が決まっていない会社は、備蓄の置き場所も決められません。

根拠の数字

「どこにとどめるか」について、公的な資料が書いていることを原文のまま並べます。中心になるのは、首都直下地震帰宅困難者等対策連絡調整会議の「事業所における帰宅困難者等対策ガイドライン」(令和6年7月26日)です。

資料と箇所書かれていること(原文)
事業所ガイドライン 3ページ「企業等は、事業所防災計画等において、従業員等の施設内待機に係る計画を定めておく」
同 3ページ「円滑な備蓄品の配布ができるよう、備蓄場所についても考慮する」
同 7ページ「従業員等の待機場所や怪我人の応急救護所については、安全確保が出来る場所に設置する」
同 3ページテナントビル・複合ビルでは「ビルの施設管理者や他の入居者と連携し、建物ごとの個別の事情に応じて、あらかじめ役割分担を取り決める」
同 16ページ(計画の例)「来所者用の待機場所の設定」「非常用電源による電源供給の必要範囲の設定(非常用エレベーター、照明等)」
東京都 帰宅困難者対策ハンドブック 14ページ「女性用の休憩・就寝スペースなどの確保」「妊産婦、障害のある方などに対してどのような配慮が必要か把握」
東京都帰宅困難者対策条例 第4条第2項事業者は、従業者との連絡手段の確保に努めるとともに、「待機し、又は避難する場所の確認」その他必要な準備を行うことを従業者へ周知するよう努めなければならない

全国向けの内閣府「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」(令和8年1月)も、企業等が平時にやることの1番目に「施設内待機の計画策定と従業員等への周知」を置き、あわせて「地震発生時や待機中の火災発生のおそれについても想定すべきである」としています。

「何階に」「何か所」という数字は、どの資料にもありません

書かれているのは「決めておくこと」と「安全確保ができる場所に」という条件だけです。何階を待機場所にするかは、建物の造りと人の配置で会社ごとに変わるため、国も都も数字で決めていません。決めるのは自社です。そして上の表の2行目のとおり、備蓄の置き場所は「配布ができるよう」に考えるもの、つまり待機場所のあとに決まるものとして書かれています。

この基準は誰向けか。自社にどう読み替えるか

読み替えるときに押さえておくことが4つあります。

  1. 首都圏の会社だけの話ではありません。事業所ガイドラインは都心南部直下地震(平日昼12時)を想定して書かれていますが、同じ資料が「本想定に限らないことに留意する必要がある」と書いています。全国向けの内閣府ガイドラインにも、同じ施設内待機が書かれています。
  2. 自社ビルとテナントでは、決められる範囲が違います。事業所ガイドラインは、建物や周辺が安全でない場合の対応について「テナントビルの場合は、施設管理者の指示に従うものとする」としています。テナントの会社は、自社だけで待機場所を決めきれません(下の「実務でつまずく点」1で扱います)。
  3. 「待機場所」と「一時滞在施設」は別の話です。一時滞在施設は、行き場のない外部の帰宅困難者を受け入れる施設です。この記事で扱うのは、自社の従業員と来客を社内のどこにとどめるかです。一時滞在施設になるときの条文は東京都の帰宅困難者対策条例では、企業は何を求められていますかにまとめました。
  4. とどまる人数は、在籍人数ではありません。東京都は、備蓄の対象を「発災時及びその直後に職場にいるであろう従業者」と説明しています。待機場所の広さを見積もる人数も同じです。数え方は従業員100人の会社は、防災備蓄を何人分そろえればいいですかで扱っています。

何を1と数えるのか

数えるのは「階」ではなく「待機区画」です。待機区画とは、人が実際にとどまって夜を越す場所1か所のことです。同じ階でも、会議室とエレベーターホールは別の区画として数えます。区画ごとに、次の5つを書き出します。

区画ごとに書くこと単位それで何が決まるか
とどまる人数人水・食料・毛布の数と、置く場所
床面積(通路を除く)㎡その人数が横になれるかどうか
同じ階で使える便器個室の数携帯トイレを付ける便器が足りるかどうか
非常用電源の照明・コンセント有/無停電した夜に、その区画で過ごせるかどうか
備蓄の置き場所までの距離階段の階数エレベーターが止まった状態で配れるかどうか

床面積の目安として公表されている数字は、内閣府ガイドラインの一時滞在施設の目安「床面積約3.3㎡当たり2人の収容(必要な通路等の面積は算入しない)」だけです。これは外部の帰宅困難者を受け入れる施設向けの目安で、企業が自社の従業員をとどめる場所の基準ではありません。ほかに公表された目安が無いため、この記事では広さを見積もる出発点として使います。

計算例:従業員100人の会社と、従業員300人の会社

発災時にとどまる人数を、100人と300人として数えます。床面積は内閣府の一時滞在施設の目安(3.3㎡当たり2人・通路別)、トイレは内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」の目安(災害発生当初は約50人に1基、長期化したら約20人に1基、1人1日5回)、水は東京都の目安(1人1日3リットル)で計算しています。

項目100人がとどまる300人がとどまる
必要な床面積(通路を除く)165㎡495㎡
通路を除いて50㎡使える部屋に換算4室10室
便器の数(当初・50人に1基)2基6基
便器の数(長期化・20人に1基)5基15基
トイレの使用回数(3日分)1,500回4,500回
水(3日分)900リットル(2リットル6本入りで75箱)2,700リットル(225箱)

この表で見てほしいのは、便器の行です。便器は動かせません。300人を1つの階の大会議室にまとめると、その階に長期化で15基分の個室が要ります。自社のその階に個室がいくつあるか、数えてみてください。逆に、100人ずつ3つの階に分けてとどめれば、各階に要るのは当初2基・長期化5基です。待機区画の分け方は、広さではなく便器のある場所で決まることが多いのはこのためです。女性用と男性用の割合(3対1)と、そのための振り替えの考え方は災害用トイレは何人に1基必要ですかにまとめました。

この区画ごとの数は、稟議でそのまま使えます。予算が通らない原因は、たいてい金額の大きさではなく、数の根拠が自社の判断に見えることです。「◯階の会議室に◯人、同じ階の個室は◯、足りない分の携帯トイレは◯回分」と区画ごとに書けていれば、数量の根拠を説明できます。正確に数えることが、予算を通すための近道です。

上の表は、公表された目安をそのまま掛けた素の数量です。当社では、7日分を到達点、3日分を必須ラインとして提案しています。公表基準(内閣府ガイドライン・東京都条例)の3日分は最低限そろえる量で、目指す先ではないという考え方です。ただし実際には3日分から段階的に導入する企業のほうが多く、それは妥協ではなく現実的な順序だと考えています。7日分にすると、100人の会社のトイレの使用回数は3,500回です。また当社では、携帯トイレの数量に予備率20%を、東京都内の拠点についてのみ外部の帰宅困難者のための10%を、掛け合わせずに足す形(1+0.2+0.1=1.3)で乗せています。100人・3日分なら、都内の拠点で1,950回分、都外の拠点で1,800回分です。いずれも公表された基準ではなく、当社の置き方です。何日分で設計するかは防災備蓄は何日分そろえればいいですかで扱っています。

実務でつまずく点

1. テナントビルでは、とどまるかどうかを最後に決めるのは自社ではない

事業所ガイドラインは、建物や周辺が安全でないときの対応について、はっきり書いています。

「事業所における帰宅困難者等対策ガイドライン」令和6年7月26日 12ページ

「建物や周辺が安全でない場合は、企業等は、行政機関からの一時滞在施設等の開設情報等を基に、一時滞在施設等へ従業員等を案内又は誘導する。(略)また、テナントビルの場合は、施設管理者の指示に従うものとする。」

自社で「4階の会議室にとどまる」と決めていても、ビルの施設管理者が退去を指示すれば、それに従うことになります。同じガイドラインは、帰宅を始めるときの判断材料にも「テナントビルの場合は、施設管理者を含む」と書いています。とどまる判断にも、帰し始める判断にも、ビル側が入っているということです。

だからガイドラインは、複合ビルでは「あらかじめ役割分担を取り決める」としています。テナントの会社が管理会社に聞いておくことは3つです。発災後に建物の安全を確認するのは誰か。エレベーターホールや廊下などの共用部を、待機に使ってよいか。非常用電源は、どこまで電気を送る設計か。この3つの答えが無いまま決めた待機場所は、当日に使えないことがあります。

2. 非常用電源が届く範囲を知らないまま、待機場所を決めている

事業所ガイドラインの計画の例には、「非常用電源による電源供給の必要範囲の設定(非常用エレベーター、照明等)」という項目があります。範囲を設定する項目があるということは、非常用電源は建物の全部に届く前提ではないということです。

東京都のハンドブックは、発災後の対応として「照明設備や空調設備等必要な措置を講じ、施設内待機可能な環境を確保」を挙げ、停電で空調が止まったときに備えて「毛布やカイロ、乾電池等で使用できる冷暖房機器等を準備しておきましょう」としています。昼間に選んだ広い会議室が、停電した夜には真っ暗で、携帯電話の充電もできない場所になることがあります。待機区画は、非常照明とコンセントが生きる場所から選んでください。届かない区画を使うなら、乾電池式の照明と暖を取るものを、その区画の近くに置くことになります。

3. 「広い部屋」を選んで、物が落ちてくる場所にしている

ガイドラインが待機場所の条件として書いているのは、広さではなく「安全確保が出来る場所」です。同じガイドラインは、東京消防庁のハンドブックを引いて、オフィスの安全スペースの例を「廊下、エレベーターホール、会議室、ミーティングエリア」と挙げています。背の高い棚やキャビネットが並ぶ執務エリアは入っていません。

内閣府ガイドラインも、一時滞在施設の受入場所を選ぶ条件として「余震等の可能性を考慮して、滞在者が負傷しないよう、天井部等から物が落下するおそれのある場所を避けることが重要である」としています。一時滞在施設向けの記述ですが、自社の待機区画を選ぶときにもそのまま使える条件です。高い位置に照明や吊り物がある吹き抜けや、ガラス面の大きい窓際は、広くても外します。

高層階では、もう1つ条件が加わります。事業所ガイドラインは「ビルの高層階(概ね10階以上)では、長周期地震動対策として、家具類のキャスターのロックや吊り下げ式の照明の揺れ防止等も行う」としています。そして待機中の火災も想定に入れるよう、内閣府ガイドラインは求めています。待機区画から階段までの通路に、備蓄の箱を積まないでください。

4. 女性用と要配慮者用の場所を、発災してから探している

東京都のハンドブックは、発災時に社内で必要になる業務を3つの群に分け、そのうち「衛生・救護」の群に「女性用の休憩・就寝スペースなどの確保」「妊産婦、障害のある方などに対してどのような配慮が必要か把握」「必要に応じた簡易トイレの設置」を並べています。内閣府ガイドラインも、一時滞在施設を開くときに「受入スペース、女性専用スペース、要配慮者スペース、運営要員専用スペース及び立入禁止区域(危険箇所や事務室等)等を設定する」とし、要配慮者スペースは「別室を確保することが望ましい」としています。

これらは発災後に空いている部屋を探して割り当てると、たいてい残った場所になります。平時に決めておくのは、場所だけで足ります。誰が妊娠中か、誰に障害があるかといった個人の情報を、先に集めておく必要はありません。ハンドブックも「把握」を発災時の業務として書いています。先に「女性用の休憩・就寝はこの部屋」「配慮が要る人は別室のこの部屋」と区画を決めておけば、当日はそこへ案内するだけです。

5. 来客の待機場所が「従業員と同じ」で終わっている

事業所ガイドラインの計画の例は、来客について独立した項目を立てています。平時に決めておくのは「来所者数の想定」「来所者向けの備蓄の種類や数量」「来所者用の待機場所の設定」。発災後の手順として決めておくのは「各部署にいる来所者数の把握方法」「来所者の待機場所への誘導の手順」です。

来客は、社内の階段の位置も、どこに誰がいるかも知りません。会議室や応接室にいる来客を、誰が待機区画まで連れていくのかを決めていないと、来客はその場に残されます。来客を守る側に立つことを求めている条文の話は東京都の帰宅困難者対策条例では、企業は何を求められていますかで扱っています。

6. 決めた場所で、一度も夜を過ごしていない

事業所ガイドラインは、年1回以上の訓練で施設内待機の手順を確認し、結果を計画に反映させるよう求めています。東京都のハンドブックは訓練の例に「社内宿泊訓練」を挙げ、建物を共有する企業間での合同訓練も勧めています。

図面の上で決めた待機区画は、実際に使うと問題が出ます。夜になると照明が足りない、床が冷たくて毛布1枚では眠れない、トイレまでが遠い、女性用の区画の前を全員が通る。どれも昼間の打ち合わせでは出てきません。1晩とどまる訓練が難しければ、せめて発災を想定した時間帯に、決めた区画へ全員が移動してみてください。それだけで、区画の広さと便器の距離の見込み違いは分かります。

待機場所が決まると、備蓄の置き場所が決まる

順番を整理すると、次のとおりです。

  1. とどまる人数を数える(在籍人数ではなく、発災時にいるであろう人数と来客)
  2. 待機区画を決める(安全確保ができる場所・同じ階の便器・非常用電源の範囲)
  3. 別に取る区画を決める(女性用の休憩・就寝、要配慮者の別室、来客、応急救護、立入禁止)
  4. 備蓄の置き場所を決める(各待機区画から、階段で配れる距離に)
  5. 訓練で使ってみて、直す

4番目の置き場所の決め方、つまりエレベーターが止まった前提で何フロア分を階段で運べるか、品目ごとにどこへ置くかは会社の備蓄品は、どこに置けばいいですかで扱っています。待機区画がまだ決まっていない会社が、とりあえず置き場所を等間隔で決めると、運ぶ回数は減っても、要るものが要る階に無いという形で残ります。

社内でどう説明するか

施設内待機の計画に「待機場所」の欄を作り、次の6行を埋めてください。この6行が埋まれば、備蓄の数量と置き場所の稟議は、そこから逆算した数字として出せます。

項目書き方の例
とどまる人数発災時に在館しているであろう人数◯人(うち来客の想定◯人)
待機区画◯階◯◯会議室(◯㎡・◯人)、◯階エレベーターホール(◯㎡・◯人)
区画ごとの便器◯階の個室◯(うち女性用に振り替える個室◯)
電源非常用電源の照明・コンセントが届く区画は◯と◯(管理会社に確認済み)
別に取る区画女性用の休憩・就寝=◯、要配慮者(別室)=◯、来客=◯、応急救護=◯、立入禁止=◯
根拠事業所における帰宅困難者等対策ガイドライン(令和6年7月26日)3・7・16ページ/東京都 帰宅困難者対策ハンドブック(令和5年3月)14ページ

「待機場所は各自の席」と書いてある計画は、この6行が空欄のままです。決裁者に見せるときは、決めた区画に丸を付けたフロア図を1枚添えると、議論が早く終わります。東京都の条例は、待機の方針を事業所防災計画等に書いて従業者へ周知し、定期的に確認・改善することまで求めています。

よくある誤解

誤解実際
待機場所は、各自の席でよいガイドラインの条件は「安全確保が出来る場所」です。安全スペースの例に挙がっているのは廊下、エレベーターホール、会議室、ミーティングエリアで、背の高い棚が並ぶ執務エリアは入っていません
備蓄の置き場所を先に決めればよいガイドラインは備蓄場所を「円滑な備蓄品の配布ができるよう」考えるものとして書いています。配る先、つまり待機場所が先です
いちばん広い部屋に全員を集めればよい便器は動かせません。300人を1つの階に集めると、長期化で15基分の個室がその階に要ります
テナントでも、自社のフロアのことは自社で決められる建物や周辺が安全でない場合、テナントビルでは施設管理者の指示に従うとされています。管理会社との役割分担を先に決めます
女性用や要配慮者用の場所は、発災してから用意すればよい発災後に探すと残った場所になります。平時に決めるのは場所だけで、個人の情報を集めておく必要はありません
停電しても、非常用電源があるから大丈夫計画の例に「電源供給の必要範囲の設定」があるとおり、全部に届く前提ではありません。届く区画を管理会社に確認します

まとめ

  • どの階にとどめるかは、先に決めておく。国のガイドラインは施設内待機の計画を事業所防災計画等で定め、待機場所は「安全確保が出来る場所に設置する」としている
  • 「何階に」「何か所」という数字は公表されていない。決めるのは自社で、条件は安全・便器・非常用電源の3つ
  • 備蓄の置き場所は、待機場所のあとに決まる。ガイドラインは備蓄場所を「円滑な備蓄品の配布ができるよう」考えるものとしている
  • テナントビルでは、施設管理者の指示に従う。共用部の使い方と非常用電源の範囲を、管理会社と先に決める
  • 女性用の休憩・就寝、要配慮者の別室、来客の待機場所は、区画だけ平時に決めておく。決めたら訓練で一度使ってみる

この記事の出典

当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。自社の人数と階数で数えたとき、どの階に何をいくつ置くことになるかは、算定で出せます。

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