夜間や休日のために、防災備蓄の量を別に増やす必要はありません。備蓄の人数は、1日のうちで社内に最も多く人がいる時間で数えるので、多くの会社では夜間・休日の人数は平日の昼の人数の内側に収まります。夜間・休日に崩れるのは量ではなく、倉庫の鍵を開けて配る人がいないことです。例外は交代勤務の会社で、2つの班が重なる引き継ぎの時間が最大になるため、その人数で数え直します。

BCP対策で備蓄をそろえたあと、「夜中に揺れたら、誰がこれを開けるのか」と聞かれて答えに詰まった総務の方に向けた記事です。国の被害想定、内閣府と東京都のガイドライン、東京都の事業所向けマニュアルをもとに、夜間・休日に備蓄のどこが効かなくなるのか、何を先に決めればよいのかを整理します。

根拠の資料|国の数字は「平日の昼」を前提にしている

資料書いていること
内閣府「大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」令和8年1月 3ページ(第1部の前提)大規模地震が平日昼12時に発生し、大都市圏の鉄道・地下鉄は少なくとも3日間止まる前提で組み立てている
同ガイドライン 参考資料2(32ページ)3日分の目安は、水が1人1日3リットル(計9リットル)、主食が1人1日3食(計9食)、毛布が1人1枚。会社が備える物の例に懐中電灯、乾電池、携帯ラジオなど
中央防災会議 首都直下地震対策検討WG「都心南部直下地震の被害想定【定量的な被害量】」令和7年12月19日 3・41ページ帰宅困難者(東京都市圏で約840万人)は平日の12時に発生した場合の推計。被害の場面は「冬・深夜」「夏・昼」「冬・夕」の3つで、冬・深夜は「オフィスや繁華街の滞留者や、鉄道・道路利用者が少ない」
東京都「帰宅困難者対策に関する検討会議 報告書」令和3年12月 3・26ページ令和3年10月7日22時41分の千葉県北西部地震(都内最大震度5弱)では、大きな被害はなかったが鉄道が止まり、帰宅困難者を含む滞留者が発生した。「夜間の徒歩帰宅はより困難になる」
東京都「東京事業所防災実践マニュアル」2025年版 83ページ「たとえば夜間発災の場合など、限られた従業員で初動対応を実施する態勢を確かめましょう」

国の帰宅困難者対策は、平日の昼に起きた場合を基準に組まれています。社内の備蓄の計画も、ふだんの勤務時間を思い浮かべて作られることがほとんどです。それ自体は正しい順番です。人がいちばん多い時間に足りるように数えておけば、人の少ない時間にも量は足ります。足りなくなるのは量以外のところです。

前提の切り分け|夜間・休日に変わるのは「人数」ではなく「誰がいるか」

変わるもの平日の昼夜間・休日
社内にいる人数最大(備蓄はこの数で数える)少ない。昼の数の内側に収まる(交代勤務を除く)
社内にいる人の顔ぶれ総務・管理職を含む全部署残業中の社員、夜勤、休日出勤、常駐の警備・設備管理など。総務がいないことが多い
倉庫の鍵・置き場所を知っている人いるいないことがある
停電したときの明るさ窓の光で動ける真っ暗。最初に要るのは明かり
帰すかどうか一斉帰宅を抑えて社内で待機暗い中を歩かせない。少なくとも朝までは社内
あとから会社に来る人少ない復旧にあたる要員が自宅から集まってくる

夜間・休日用に、もう1セット別の備蓄を持つ必要はありません。同じ備蓄を、昼にいない人でも使える状態にしておく、というのがこの記事の答えです。

数え方|1日の中でいちばん多い時間を探す

備蓄の人数は、在籍人数ではなく、拠点に同時にいる人数の最大で数えます。在宅勤務の比率を引き、常駐する協力会社や来客を足す当社の数え方は、従業員100人の会社は、防災備蓄を何人分そろえればいいですかで扱っています。

夜間・休日を考えるときに確かめるのは、その「最大」がどの時間に来るかです。日勤だけの事務所なら、平日の昼が最大になります。夜間・休日は、昼の数より少ないことを確かめれば足ります。交代勤務がある工場、コールセンター、物流拠点などは、次の班が来てから前の班が帰るまでの引き継ぎの時間に、2つの班が同時にいます。この重なりが1日の最大になるので、日勤の人数だけで数えると足りなくなります。

計算例|従業員100人の事務所と、300人の交代勤務の拠点

人数は説明のための例です。数量は内閣府ガイドライン参考資料2の目安(水は1人1日3リットル、主食は1人1日3食、毛布は1人1枚)を3日分で掛けています。

場面社内にいる人数(例)水(3日分)主食(3日分)毛布
A社(日勤のみ・従業員100人)平日の昼80人720リットル720食80枚
A社 平日の22時(残業6人+常駐の警備2人)8人72リットル72食8枚
A社 休日(休日出勤3人+常駐の警備2人)5人45リットル45食5枚
B社(2交代・従業員300人)日勤だけで数えた場合180人1,620リットル1,620食180枚
B社 引き継ぎの時間(日勤180人+夜勤100人)280人2,520リットル2,520食280枚

A社は、平日の昼の80人分があれば、夜間・休日の量は足ります。買い足すものはありません。B社は、日勤だけで数えると100人分、水にして900リットル足りません。夜勤の班が帰る前に揺れたら、夜勤の100人も社内にとどまるからです。

トイレは、内閣府の避難所のトイレのガイドラインが1人1日5回程度の使用を想定しており、3日分で1人15回分です。当社では携帯トイレの数量に予備率20%を、東京都内の拠点ではさらに帰宅困難者のための10%を足し算で乗せています(都内の拠点が対象です)。この上乗せは数量に乗せるもので、夜間・休日でも数え方は変わりません。

日数の置き方も書いておきます。3日分は全員に必須の最低ラインで、当社では7日分を目標に置いています。いきなり全員7日分にする会社は少なく、3日分から段階的に積み増すのが現実的な順序です。上の表は、その第1段階の3日分で計算しています。

実務でつまずく点

1. 国の帰宅困難者の数字は「平日の昼12時」の想定。夜の場面は自社で点検するしかない

内閣府のガイドラインは、平日昼12時に大地震が起きる前提で組み立てられています。首都直下地震の被害想定でも、帰宅困難者約840万人という推計は平日の12時に起きた場合の数字です。

国の想定をなぞって作った計画は、「総務がいて、全員がいる時間」でしか点検されていないことがあります。一方、同じ被害想定は、被害の場面を冬・深夜、夏・昼、冬・夕の3つに分けています。冬・深夜は、オフィスにいる人は少ない代わりに、多くの人が自宅で寝ている時間です。地震は時間を選びません。一度だけでいいので、「平日の夜22時に揺れたら、誰が何をするか」で計画を読み直してください。読み直すと、次の2〜5のどれかがたいてい見つかります。

2. 鍵を持つ人と置き場所を知る人が、夜はいない

備蓄倉庫は施錠されているのが普通で、鍵は総務の担当者が持っていることが多いはずです。夜間・休日には、その人が社内にいません。東京都の事業所向けマニュアルは、夜間発災のように限られた従業員で初動対応をする態勢を確かめるよう求め、あわせて発災時の責任者と、責任者が不在の場合の代行順序を決めておくよう書いています(83ページ)。

決めることは3つです。夜間・休日に社内にいる人(警備員、夜勤の責任者など)が倉庫を開けられるか。開けた人が、どこに何があって、どう配ればよいかを知っているか。トイレの使い方の掲示や配り方の手順が、倉庫の扉の内側など、開けた人がすぐ見る場所にあるか。内閣府の事業継続ガイドラインも、夜間・休日に不測の事態が起きることを想定して、BCPをキーパーソンの自宅にも配っておくことが有効としています(26ページ脚注88)。置き場所の分け方と鍵の本数の関係は、会社の備蓄品は、どこに置けばいいですかで扱っています。

3. 夜にいるのは、名簿に載っていない人のことがある

夜間・休日の社内にいるのは、社員とは限りません。常駐の警備員や設備管理の担当者は協力会社の人で、社員名簿には載っていません。夜は、社内にいる人の大半がこの人たちということもあります。

人数の数え方で常駐の協力会社を足していれば、量は足ります。抜けやすいのは、その人たちが「この備蓄を使ってよい」と知っているかどうかです。ビルの管理会社と契約している警備員なら、ビル側の備蓄があるかどうかも含めて、夜にいる人がどちらの備蓄を使うのかを管理会社と先に決めておきます。

4. 夜は帰さない。夜にいた人は、少なくとも朝まで社内にいる

令和3年10月7日22時41分の千葉県北西部地震では、都内で最大震度5弱を観測し、大きな被害はなかったものの、鉄道が止まって帰宅困難者を含む滞留者が出ました。東京都の検討会議の報告書は、これを教訓として挙げ、「夜間の徒歩帰宅はより困難になる」と書いています(3・26ページ)。東京都の事業所向けマニュアルも、帰宅方法を考える参考の例に「悪天候や夜間の帰宅は控える」を挙げています(108ページ)。

人数が少ないから、と言って夜にいた人を歩いて帰すのは、昼に一斉帰宅させるのと同じ危険があります。夜にいた人は少なくとも朝までは社内にとどまり、備蓄を使う前提で考えます。冬の深夜なら、停電で暖房が止まった中で朝を待つことになります。寒さへの備えは停電で冷暖房が止まった会社に社員がとどまるとき、暑さ・寒さ対策の備蓄は何が要りますかで扱っています。

5. 夜の停電で最初に要るのは、水でも食料でもなく明かり

昼の停電なら、窓の光で倉庫まで歩けます。夜の停電では、倉庫にたどり着く前に足元が見えません。内閣府のガイドラインは、会社が備える物の例に懐中電灯と乾電池を挙げています(参考資料2)。事業所における帰宅困難者等対策ガイドラインも、施設内待機の計画の例に、非常用電源で照明などをどこまで動かすかの範囲を決める項目を入れています(参考3)。

懐中電灯の個数は、国も都も数を示していません。当社では、人数ではなく、倉庫の前、待機する区画、トイレ、階段という「暗いと動けない場所」ごとに置くことをおすすめしています。倉庫の中にしまい込むと、倉庫まで行く明かりがありません。1本は倉庫の外、夜にいる人が手を伸ばせる場所に置きます。

6. 夜間・休日に起きたら、社内に残る人より「あとから来る人」が多い

夜間・休日の発災では、社内にいるのは少人数でも、そのあと復旧にあたる要員が自宅から集まってきます。東京都のマニュアルには、深夜や休日を想定して、会社から5キロ圏内に住む社員が実際に歩いて会社に集まる訓練をしている建設会社の例が載っています(84ページ)。内閣府の事業継続ガイドラインは、従業員が集まれるかどうかを考えて、代替拠点を夜間・休日用と勤務時間内用に分けて複数用意すべき場合も多いとしています(17ページ脚注55)。

集まってきた要員は、揺れた時点で社内にいなかった人です。在館者の人数で数えた備蓄には入っていません。要員の分を何日分、どこに置くかは、BCP(事業継続計画)に、防災備蓄はどう書けばいいですかの「要員の上乗せ」で整理しています。代替拠点を夜間・休日用に別に決めているなら、その拠点にも要員の分が要ります。

予算が限られているときの順番

日勤だけの会社なら、夜間・休日の対策で最初にやることにお金はかかりません。鍵を夜にいる人が開けられるようにする、夜にいる人の名簿(協力会社を含む)を作る、「夜22時に揺れたら」で計画を一度読み直す、の3つです。買うものがあるとすれば、倉庫の外に置く懐中電灯と乾電池です。交代勤務の会社は、引き継ぎの時間の人数で数え直し、足りない分を買い足すのが先です。ここを後回しにすると、夜勤の班の分がそっくり抜けます。

社内でどう説明するか

「夜や休日の分も買い足すべきではないか」と聞かれたときは、量の話と運用の話を分けて答えます。言い方の例です。

「備蓄の人数は、1日のうちで社内に最も多く人がいる時間(当社では〇〇時台・〇〇人)で数えており、夜間・休日に社内にいる人数(最大〇人)はこの内側に収まるため、量の買い足しは不要です。夜間・休日の課題は量ではなく、倉庫を開けて配る人がいないことです。東京都の事業所向けマニュアルが求める、限られた従業員で初動対応をする態勢として、鍵の保管場所と開けてよい人、配り方の手順、夜間に在館する協力会社の扱いを決め、倉庫の外に懐中電灯を置きます。」

交代勤務の拠点がある場合は、「引き継ぎの時間に〇人が同時にいるため、算定人数を〇人から〇人に改めます」と、数え直した結果を添えます。数の根拠が時間帯ごとの在館人数で示せれば、買い足しの稟議も、買い足さない判断も、自社の勘ではなく数で説明できます。

よくある誤解

よくある理解実際
夜間・休日用に、別の備蓄が要る同時在館の最大で数えていれば、夜間・休日の人数はその内側に収まる。要るのは別の備蓄ではなく、昼にいない人でも使える状態
夜なら会社に人はほとんどいないので、関係ない令和3年10月の22時41分の地震でも、鉄道が止まって滞留者が出た(東京都の報告書)。残業・夜勤・警備の人は、少なくとも朝まで社内にとどまる
人数が少ないので、夜にいた人は歩いて帰せばよい東京都の報告書は「夜間の徒歩帰宅はより困難になる」とし、都のマニュアルも夜間の帰宅を控える例を挙げている
従業員300人の工場なら、日勤の人数で数えればよい交代勤務では、引き継ぎの時間に2つの班が同時にいる。その時間の人数が1日の最大になる
鍵は総務が管理しているので安心夜間・休日に総務はいない。東京都のマニュアルは、責任者が不在の場合の代行順序を決めておくよう求めている

まとめ

  • 夜間・休日のために、備蓄の量を別に増やす必要はない。人数は1日のうちで最も多い時間で数えるので、夜間・休日の人数はその内側に収まる
  • 例外は交代勤務。引き継ぎで2つの班が重なる時間の人数で数え直す
  • 夜間・休日に崩れるのは量ではなく、鍵を開けて配る人。夜にいる人(警備・夜勤・協力会社)が開けられ、配り方が分かる状態にする
  • 夜にいた人は歩いて帰さない。少なくとも朝まで社内にとどまる前提で、懐中電灯は倉庫の外に置く
  • 夜間・休日の発災では、あとから集まってくる要員の分は在館者の数に入っていない。要員の分は別に考える

この記事の論点だけでも、1日のうちで人数が最大になる時間、夜間・休日に社内にいる人の名簿、鍵と代行の順序、明かりの置き場所、あとから来る要員の分と、確かめることが5つあり、拠点ごとに繰り返します。備蓄は人の命に関わるので1つも落とせず、これを担当者1人が覚えて回し続けるのは現実的ではありません。当社はそのための管理の仕組みをご用意しています。

当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。自社の人数で数えると、どの品目がいくつ要るかは、算定で出せます。

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