停電で冷暖房が止まった会社にとどまるなら、水・主食・毛布に加えて、カイロや防寒着、床に敷く物、冷却グッズや電池式扇風機、携帯トイレを備えます。内閣府と東京都が3日分の数量を示しているのは水・主食・毛布だけで、暑さ寒さの物は自社で数えます。品目より先に、非常用電源が届く待機部屋と使えるトイレを決めてください。環境省は、避難所ではトイレの利用をためらって水分を控え、熱中症のリスクが高まるとしています。

BCP対策で備蓄をそろえたあと、「真夏や真冬に停電したら、社内で一晩もつのか」と気づいた総務の方に向けた記事です。熱中症や寒さの資料の多くは避難所と在宅避難を相手に書かれていて、会社向けにまとまったものはありません。国・東京都・環境省の公表資料を、会社の待機に読み替えて整理します。

根拠の資料|数量があるのは3品目、暑さ・寒さは「対策の中身」だけが書かれている

まず、会社の備蓄で数量の目安が示されている品目を確かめます。

資料書いていること
内閣府「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」令和8年1月 参考資料23日分の目安は、水が1人1日3リットル(計9リットル)、主食が1人1日3食(計9食)、毛布が1人1枚。「その他の品目については、物資ごとに必要量を算定」
東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」令和5年3月 17・19ページ停電で空調が使えないときに備え、「毛布やカイロ、乾電池等で使用できる冷暖房機器等を準備しておきましょう」。発災後は「照明設備や空調設備等必要な措置を講じ、施設内待機可能な環境を確保」

カイロや乾電池式の冷暖房機器は、品目として名前が挙がっていても、何人にいくつという数はありません。対策の中身を詳しく書いているのは、避難所と被災者向けの資料です。

資料暑さ・寒さについて書いていること
環境省「熱中症環境保健マニュアル 2022」66〜69ページ(自然災害時の注意事項)エアコンや扇風機が使えないときは、涼しい服装、風通しをよくする、体を冷やす(濡れたタオルを肌に当ててうちわであおぐ、冷却グッズ、電池式扇風機、水シャワー等)。水分は「1時間あたりコップ1杯程度が目安」。汗を多くかくときは塩分も。避難所ではトイレの利用をためらい水分摂取を控える傾向があり、脱水による熱中症リスクが高まる
内閣府・消防庁・厚生労働省・環境省「災害時の熱中症予防〜避難生活・片付け作業時の注意点〜」のどが渇いていなくてもこまめに水分・塩分をとる。気温・湿度・暑さ指数(WBGT)を確認する。応急処置の手順では、大量に汗をかいている場合は塩分の入ったスポーツドリンクや経口補水液、食塩水がよいとしている
環境省 事務連絡「被災住民等の熱中症対策について(周知依頼)」令和8年7月28日令和8年熊本地震を受けて、九州5県の熱中症予防対策担当部局あてに出されたもの。「停電等により、冷房設備が使用できない状況においては一層注意が必要」。避難所や作業場所等に暑さ指数(WBGT)や熱中症予防行動を表示する等して注意を喚起するよう、市町村等への周知を依頼
内閣府「避難生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」令和6年12月改定暑さ寒さ対策に留意し、規模や設備状況に応じて冷暖房の整備や備蓄を進める。その際、電源の確保のほか、換気や乾燥対策も併せて検討する
内閣府「避難所運営等避難生活支援のためのガイドライン(チェックリスト)」令和6年12月改定東日本大震災の避難所は「暖房は限定的」だった。対策項目「暑さ・寒さ対策を検討する」に、防寒着の確保、日光の直射を避ける、冷暖房器具・設備の備蓄・確保、空調の早期復旧。健康面の項目に「熱中症」「低体温症」「一酸化炭素中毒」

暑さ指数(WBGT)は、気温・湿度・輻射熱から出す熱中症の危険度の指標です。環境省が載せている日本生気象学会の指針では、日常生活での区分を次のように置いています。

暑さ指数(WBGT)区分生活活動の目安・注意事項(抜粋)
31以上危険すべての生活活動でおこる危険性。高齢者においては安静状態でも発生する危険性が大きい
28以上31未満厳重警戒室内では室温の上昇に注意する
25以上28未満警戒中等度以上の生活活動でおこる危険性
25未満注意一般に危険性は少ないが、激しい運動や重労働時には発生する危険性がある
出典:環境省 熱中症予防情報サイト「暑さ指数(WBGT)について」(日本生気象学会「日常生活における熱中症予防指針Ver.4」2022 より改編)。

前提の切り分け|避難所向けの資料を、会社の待機に読み替える

上の資料は避難所・在宅避難・片付け作業を相手にしています。会社にそのまま当てはまる部分と、読み替えが要る部分を分けると次のとおりです。

資料の場面会社ではどう読むか
避難所に多くの人が集まり、室温が上がる(環境省マニュアル)会議室に社員を集めて待機するのと同じ状態。人が多い部屋ほど熱がこもる
停電が長引くなら、特に高齢者・こども・障害者は、冷房が動いている避難所への避難も検討する(4省庁のリーフレット)会社の中では、非常用電源が届く部屋がそれにあたる。どの部屋に電源が届くかを先に知っておく
避難所の管理者は、非常用電源の調達や大型扇風機・スポットクーラーの活用を考える(環境省マニュアル)会社では総務やビルの管理会社がこの役になる。発電機の燃料と供給範囲は建物の設計で決まっている
片付け作業は2人以上で、一定時間ごとに休憩と水分・塩分(4省庁のリーフレット)点検、片付け、備蓄の運び出しをする社員がこれにあたる。座って待つ社員とは別に考える

もう1つ切り分けておくのが、2025年6月1日に施行された職場の熱中症対策です。労働安全衛生規則第612条の2は、熱中症を生ずるおそれのある作業について、報告の体制と、作業からの離脱・身体の冷却・医師の診察などの手順を定めて周知するよう事業者に求めています。対象は、厚生労働省(富山労働局)の説明で「WBGT28度又は気温31度以上の作業場において行われる作業で、継続して1時間以上又は1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれるもの」です。災害時に座って待つことが「作業」にあたるかは、規則にも説明にも書かれていません。一方で、停電した建物で片付けや点検を続ける社員は、この条件に入ることがありえます。

数え方|人で数える物、部屋で数える物、時間で数える物

暑さ・寒さの備えは、全部を「1人あたり」で数えると過大にも過小にもなります。何を1と数えるかで分けます。

数える単位品目の例数量の目安
人水、毛布、携帯トイレあり(水3リットル/日・毛布1枚・トイレは1日5回程度。下の計算例)
人カイロ、防寒着、塩分を含む飲料、冷却グッズ国・都の資料に数の目安は無い
部屋乾電池式の扇風機・冷暖房機器、温度計(暑さ指数を見られるもの)、照明資料に数は無い。待機に使う部屋の数で決まる
時間乾電池、携帯の充電手段、発電機の燃料資料に数は無い。何時間動かすかと、機器の消費で決まる

部屋で数える物を人数分買うと、使い道のない数が積み上がります。逆に、乾電池を「1部屋に1パック」で決めると、夜を越す時間に足りるかどうかが分かりません。待機部屋の数と、何時間しのぐかが決まらないと、この2列は数えられません。だから品目を選ぶ前に、待機部屋を決めるのが先になります(社員を会社のどの階にとどめるか)。

計算例|従業員100人と300人で、水・毛布・携帯トイレを数える

数量の目安がある品目を、3日分で数えます。東京都内の拠点では、外部の帰宅困難者のために10%程度を余分に備蓄するよう東京都が呼びかけています(帰宅困難者上乗せ・都内の拠点が対象/同ハンドブック6ページ)。携帯トイレには、当社では予備率20%を置いています。当社では、率が2つあるときは掛け合わせずに足し、数量に乗せます(携帯トイレは1+0.2+0.1、水と毛布は1+0.1)。

品目(数え方)100人・都外100人・都内300人・都外300人・都内
水(3リットル×3日)900リットル990リットル2,700リットル2,970リットル
毛布(1人1枚・日数で増えない)100枚110枚300枚330枚
携帯トイレ(1日5回×3日)1,800回分1,950回分5,400回分5,850回分
カイロ・冷却グッズ・乾電池式の機器国・都の目安なし。待機部屋の数と、しのぐ時間から自社で決める
水と毛布は内閣府ガイドライン参考資料2の目安。携帯トイレの1日5回は内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」。都外の携帯トイレは予備率20%(当社の置き方)を乗せた数。都内の列は、水・毛布・携帯トイレとも帰宅困難者上乗せ10%を足した数。

日数の置き方も添えておきます。公表基準は3日分です。当社では7日分を到達点に置き、3日分を第1段階と考えています。たとえば100人・都外なら、水は7日分で2,100リットルになります。数の出どころを示せると「なぜこの量なのか」に答えられるので、予算の説明もしやすくなります。暑さ・寒さの品目のように公的な数が無いものほど、部屋の数と時間という根拠を添えて出すことが大事です。

実務でつまずく点

1. 暑さ対策を買いそろえても、トイレが使えないと社員は水を飲まない

環境省のマニュアルは、避難所での熱中症の要因として、水が使えない・衛生的でない・行きにくい・人目が気になるといった理由でトイレの利用をためらい、水分摂取を控える傾向を挙げています。その結果、脱水による熱中症のリスクが高まります。対策として書かれているのは、トイレを十分に確保し、場所や使い方を丁寧に伝えて、水分補給をためらわない環境を作ることです。

会社でも同じことが起きます。停電と断水が重なると、既設の便器はそのままでは使えません(断水していなくても流してはいけない理由)。冷却グッズや扇風機をそろえても、トイレの準備が無ければ社員は水を控えます。暑さ対策の点検は、まず携帯トイレの数と、待機部屋の近くで使える個室があるかから始めます。水の数を足す前に確かめる点です。

2. 非常用電源が、待機する部屋まで届いていない

事業所における帰宅困難者等対策ガイドラインの施設内待機の計画例には、「非常用電源による電源供給の必要範囲の設定」という項目があります。範囲を決める項目がある以上、非常用電源は建物の全部には届かないと考えておくべきです。計画例が供給先として例示しているのも「非常用エレベーター、照明等」で、空調の名前はありません(停電と非常用発電機の供給範囲)。

電源が届く部屋が分かれば、暑い日・寒い日の待機はそこへ寄せられます。届かない部屋を使うなら、乾電池式の扇風機や照明を、その部屋の数だけ置くことになります。テナントの会社は、供給範囲を管理会社に聞いてください。

3. 冬に燃焼式の暖房を使うのに、換気の手順が無い

内閣府の取組指針は、冷暖房の整備や備蓄を進める際に、電源の確保と並べて「換気や乾燥対策も併せて検討」するとしています(衛生管理の段落の記述です)。チェックリストの健康面の項目には、低体温症と並んで一酸化炭素中毒が入っています。燃焼式の器具と換気を結びつけるのは、この2つを並べた当社の整理です。電気が使えないときにカセットガスや灯油の暖房器具を使う場合、換気をしないまま締め切った会議室で使えば、この危険を持ち込みます。

燃焼式の器具を備蓄に入れるなら、どの部屋で使うか、窓や扉を開けて換気するのは誰がいつか、を一緒に決めます。決められないなら、カイロ・毛布・防寒着のように燃やさずに暖を取る物を厚くするほうが扱いやすくなります。カセットボンベを調理と暖房のどちらに使うかで本数も変わります(カセットボンベの本数の考え方)。

4. 熱中症の手順が、平時の作業場にしか無い

2025年6月の改正で、条件に当てはまる作業をする事業者は、報告の体制と、作業からの離脱・身体の冷却・医師の診察などの手順を定めることになりました。厚生労働省(富山労働局)の説明では、報告の連絡先と担当者、緊急連絡網や緊急搬送先の連絡先・所在地も、あらかじめ定める内容に挙がっています。第612条の2第2項は、この手順を「作業場ごとに」定めるとしています。停電した事務所での待機まで、その手順に入っているかを確かめてください。

すでにある手順は、待機の計画に流用できます。誰に報告するか、どこで体を冷やすか、を待機部屋ごとに決め直すだけです。そのとき、部屋の暑さを誰が見るかも決めます。環境省は、避難所や作業場所に暑さ指数を表示するなどして注意を呼びかけるよう、被災県に周知を依頼しています。会社なら、待機部屋ごとに温度計を置き、数字を見て声をかける係を決めておく形です。片付けや点検をする社員には、4省庁のリーフレットどおり、2人以上で動き、一定時間ごとに休憩と水分・塩分をとる決まりを付けます。

5. 冬の備えを「毛布1人1枚」で終わらせている

毛布1人1枚は、国の目安の中で唯一の寒さの備えです。ただ、チェックリストは別に、防寒着の確保と、寝床の改善を挙げています。床に長く横になるとエコノミークラス症候群や埃の吸い込みが心配されるとして、毛布や通気で寒さ暑さを和らげつつ、マットや段ボールの簡易ベッドを開設時から使えるようにするのが望ましいとしています。

事務所の床で一晩を過ごすと、毛布1枚は掛けるか敷くかのどちらかにしか使えません。内閣府ガイドラインの品目の例には敷物(ビニールシート等)も入っています。冬の待機を考えるなら、掛ける物と敷く物を分けて数えてください。

社内でどう説明するか|「季節の備え」ではなく「待機を続けるための条件」として出す

暑さ・寒さの品目は、稟議で「快適さのための物」と受け取られがちです。説明の軸は、社内待機を続けられるかどうかの条件だという点に置きます。東京都のハンドブックは、空調などの措置で施設内に待機できる環境を確保すること自体を、発災後の対応に挙げています。

件名:停電時の待機環境(暑さ・寒さ)の備蓄について

当社の備蓄は水・主食・毛布を国の目安どおりそろえていますが、停電で空調が止まった場合の備えがありません。環境省は停電で冷房が使えない状況では熱中症に一層の注意が必要としており、東京都のハンドブックも乾電池等で使える冷暖房機器の準備を求めています。国・都に数量の目安が無いため、待機部屋〇室(うち非常用電源が届くのは〇室)と、〇時間しのぐ前提で数えました。あわせて、トイレを使えないと社員が水分を控えるため、携帯トイレを〇回分に増やし、待機部屋の近くの個室で使えるようにします。燃焼式の暖房器具は換気の担当を決めるまで購入しません。

監査や役員から「数の根拠は」と聞かれたら、人で数えた物は国の目安、部屋と時間で数えた物は自社の待機計画、と答え分けられるようにしておきます。

よくある誤解

よくある理解実際
熱中症は、夏の屋外で起きるもの環境省は、停電等で冷房設備が使えない状況では一層の注意が必要としている(令和8年7月28日の事務連絡)。暑さ指数31以上では、高齢者は安静にしていても発生する危険性が大きいとされる
水を1人1日3リットルそろえれば、暑さの分も入っている3リットルは国が示す飲料水の目安で、暑さで増やす数字は、この記事で参照した国・都の資料には無い(3リットルが指している水)。環境省は、こまめに少しずつ、1時間あたりコップ1杯程度を目安としている
冷却グッズを人数分そろえれば暑さ対策は済む環境省の共通の対策は、涼しい服装・風通し・体を冷やす・水分と塩分。冷やす物の前に、電源が届く部屋と、水分を控えさせないトイレの準備が要る
冬は毛布があれば足りる内閣府のチェックリストは、防寒着・冷暖房器具・寝床の改善を別に挙げている。床で過ごすなら敷く物も要る
職場の熱中症対策の義務は、災害時には関係ない災害時の待機が対象かは書かれていない。ただ、WBGT28度又は気温31度以上の場所で、継続して1時間以上又は1日4時間を超えて見込まれる片付けや点検は、平時と同じ条件に当てはまりうる

まとめ

  • 内閣府と東京都が3日分の数量を示しているのは水・主食・毛布だけ。カイロ・冷却グッズ・乾電池式の機器は、数を自社で決める
  • 人で数える物、部屋で数える物、時間で数える物に分ける。部屋と時間の数は、待機部屋と非常用電源の範囲が決まってから出る
  • 暑さ対策の点検はトイレから。トイレを使いにくいと水分を控え、脱水による熱中症のリスクが高まる(環境省)
  • 燃焼式の暖房は換気の手順とセットで。決められなければ、燃やさずに暖を取る物を厚くする
  • 平時の熱中症の手順(報告先・冷やす場所)を、待機部屋ごとに決め直して流用する

この記事は国・東京都・環境省の公表資料にもとづく一般的な整理です。熱中症が疑われる症状が出たときの対応は、4省庁のリーフレットの応急処置の手順に従い、必要に応じて医療機関の判断を受けてください。

この記事の論点だけでも、待機部屋の数、非常用電源の範囲、トイレの数と使える個室、換気の担当、部屋ごとの暑さを見る係、敷く物と掛ける物と、確かめることが6つあります。備蓄は人の命に関わるので1つも落とせず、これを担当者1人が覚えて回し続けるのは現実的ではありません。当社はそのための管理の仕組みをご用意しています。

当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。自社の人数で数えると、どの品目がいくつ要るかは、算定で出せます。

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