会社で出た使用済みの携帯トイレは、自治体が回収しに来てくれる前提で備えてはいけません。廃棄物処理法は、事業活動に伴う廃棄物を事業者が自らの責任で処理すると定めており、国と東京都の資料で回収の段取りが書かれているのは避難所と家庭のごみです。会社がやることは2つです。契約先の収集業者に災害時の回収を確かめること、来ない間は備蓄日数分を社内に置き切る場所と袋を用意することです。
BCP対策で携帯トイレをそろえ、使用済みの袋を置く場所まで決めた総務・防災担当の方が、次に詰まるのが「で、それはいつ、誰が持っていくのか」です。置き場所の話は防災備蓄の倉庫はどのくらいの広さが必要ですかで扱いました。この記事は、その先の回収を扱います。
根拠の数字|回収の主語は、どの資料でも会社ではない
| 資料 | 書いてあること | 会社にとっての意味 |
|---|---|---|
| 廃棄物処理法 第3条(豊島区の事業者向けページが条文を掲載) | 「事業者は、その事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならない」 | 会社で出たごみは、会社が処理する。これが平時の原則 |
| 環境省「災害時の一般廃棄物処理に関する初動対応の手引き」令和3年3月改訂 48ページ | 「災害時においても事業活動に伴う廃棄物は、事業者が処理責任を有する」 | 災害が起きても、この原則は外れない |
| 内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」令和6年12月改定 27ページ | 「ゴミ処理担当は、使用済み携帯トイレは、長期間避難所に留めることがないよう、定期的な回収を手配すること」。主語は市町村の担当 | 「定期的な回収」は市町村が避難所に対して手配するもの。会社は書かれていない |
| 東京都「東京トイレ防災マスタープラン」令和7年3月 31ページ | 区市町村は、使用済み携帯トイレ等を生活ごみ・避難所ごみと合わせて収集運搬・処分する。都内では住民の在宅避難による携帯トイレ等の使用が多くなることを踏まえて体制を作る | 自治体の回収は、家庭と避難所の量に合わせて組まれる |
| 同 16ページ | 道路閉塞に加え、区部における車両数の不足などを原因とした、使用済み携帯トイレ等の収集・し尿処理の遅れが懸念される | 家庭と避難所の分だけでも、回収は遅れる見込み |
| 同 26ページ(事業者の役割) | 携帯トイレ等を3日分を目安に備蓄する/従業員や来客が混乱せず使用・維持管理するためのマニュアルを作り、訓練や研修を行う | 使ったあとの管理まで、会社の役割に入っている |
出典:豊島区「事業者の責務・事業系廃棄物の処理委託」2026年8月24日更新、環境省「災害時の一般廃棄物処理に関する初動対応の手引き」令和3年3月改訂、内閣府(防災担当)「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」令和6年12月改定、東京都「東京トイレ防災マスタープラン」令和7年3月(いずれも2026年10月2日確認)。
前提の切り分け|「携帯トイレは可燃ごみ」は、家庭の話
東京トイレ防災マスタープランは、使用済み携帯トイレ等について「自治体によるが、可燃ごみとして回収することが多い」と書いています。ここだけ読むと「燃えるごみの日に出せばいい」と思えます。しかしこれは、区市町村が家庭と避難所から集める話です。
会社のごみは、平時から区の収集に乗っていないことが多くあります。港区は事業者向けのページの題名からして「事業者から出るごみ・資源は、廃棄物収集運搬業者に収集・処理を依頼してください」です。豊島区は、一度民間業者に委託した事業所は原則として区の収集を利用できず、委託するなら区の事業系一般廃棄物の収集運搬の許可を得た業者に、としています。千代田区が事業系ごみを収集するのは「家庭ごみの収集業務に支障がないと区が認めるときに限り」で、排出量は日量平均50キログラム未満が条件です。
災害時は、家庭ごみと避難所ごみの収集そのものが遅れると東京都が見込んでいる状況です。平時でさえ区の収集に乗っていない会社のごみを、そのときだけ区が引き受けてくれる前提は立ちません。ルールは区ごとに違います。自社の拠点がある区のルールを、平時のうちに確かめてください。
数え方|袋の枚数と、重さで数える
使用済みの袋は、算定対象人数×5回×日数で出ます。1日5回は内閣府のトイレのガイドラインの数字です。算定対象人数は在籍人数ではなく、発災時に職場にいる人の数です(数え方は従業員100人の会社は、防災備蓄を何人分そろえればいいですか)。
回収の話では、枚数だけでなく重さも数えます。同じガイドラインは、平均的な排泄量を1回あたり約200〜300mlとしています。水と同じ重さとみなすと、1回0.2〜0.3kgです。ここに袋や凝固剤の重さは入っていないので、実際はこれより重くなります。
置き場所と保管用品は、買った袋の枚数まで見込んでおきます。当社は携帯トイレの袋の数量に、予備率20%と、東京都内の拠点だけ帰宅困難者上乗せ10%を、掛け合わせずに足して(1+0.2+0.1=1.3)乗せています。使い切れば、その枚数がそのまま使用済みになります。
日数は「7日目標・3日必須」で置きます。公表基準は3日分(内閣府・東京都)で、これが最低ラインです。当社では7日分を到達点と置いており、3日分は第1段階と位置づけています(備蓄は何日分そろえるべきか)。回収の話では、日数がそのまま「社内に残る量」になります。
計算例|100人と300人で、社内に残る量
回収が一度も来なかった場合に、社内に残る量です。重さは排泄物だけで、袋と凝固剤は含みません。
| 算定対象人数 | 1日あたり | 3日分(第1段階) | 7日分(当社の到達点) |
|---|---|---|---|
| 100人 | 500袋/約100〜150kg | 1,500袋/約300〜450kg | 3,500袋/約700〜1,050kg |
| 300人 | 1,500袋/約300〜450kg | 4,500袋/約900〜1,350kg | 10,500袋/約2,100〜3,150kg |
100人の会社でも、1日分だけで約100〜150kgになります。千代田区が平時に事業系ごみを収集する条件(日量平均50キログラム未満)と比べると、2〜3倍です。「少しなら区に出せる」という発想が成り立たない量だということが、数字で分かります。
この表は、人数・回数・日数・排泄量という公表された数字だけで出ています。稟議で「保管場所と保管用の袋になぜこれだけ要るのか」と聞かれても、この式をそのまま見せれば答えられます。数の根拠が自社の判断ではなく公表基準から出ていることが、予算を通す近道になります。
実務でつまずく点
1. 国のガイドラインの「定期的な回収を手配する」を、自社にも当てはまると思っている
内閣府のトイレのガイドラインには、使用済み携帯トイレを長期間留めないよう定期的な回収を手配すること、と書かれています。これを読んで「回収は手配されるもの」と受け取る方が多いのですが、この文の主語は市町村のゴミ処理担当で、対象は避難所です。会社に回収を手配してくれる人は、この文書のどこにも書かれていません。
環境省の初動対応の手引きは、避難所から出るごみでさえ「事業系一般廃棄物として管理者が処理する」としています。そのうえで、災害時も事業活動に伴う廃棄物は事業者が処理責任を負うと書いています。回収の段取りは、会社が自分で決めておく項目です。
2. 契約先の収集業者に、使用済みの携帯トイレのことを聞いていない
平時に事業系ごみを民間の収集業者に委託している会社は、災害時もまずその契約先が窓口になります。ただ、平時の契約は紙ごみや弁当がらを前提にしていて、汚物の入った袋を何百キロ単位で出すことは想定されていません。確かめることは3つです。
- 使用済みの携帯トイレを、いまの契約の品目で引き取れるか(区分は区と業者のルールで決まります)
- 災害時に来られるか。来られないとしたら、どのくらいで再開する想定か
- 出すときの形(箱に入れるか、袋のままか、量の上限はあるか)
ビルのテナントの場合は、ごみの契約がビル全体で管理会社にまとめられていることがあります。その場合は、聞く相手が管理会社になります。誰が契約しているかを、先に確かめてください。
3. 何日分を社内に置くかを、決めていない
今回確かめた国・東京都・環境省の資料には、発災から何日で使用済み携帯トイレの回収が始まるかという目安はありませんでした。東京都は、区部の車両不足などで収集の遅れが懸念されると書いています。目安が無い以上、計画の上では備蓄した日数分がすべて社内に残る前提で場所を決めるのが安全側です。
7日分を目指して備蓄を増やすと、使用済みの量も同じ割合で増えます。100人の会社なら3,500袋、排泄物だけで約1トンです。携帯トイレの枚数を増やすときは、置き場所も一緒に増やす必要があります。
4. 袋をそのまま積み上げている
国立環境研究所の災害廃棄物情報プラットフォームに掲載された解説(大正大学 岡山朋子、2020年7月)は、使用済み携帯トイレの収集運搬を行った事業者の話として、可燃ごみと分け、段ボール箱などに入れて新聞紙などで固定し、さらにその箱を大きなビニール袋に入れて出すと、収集車で集めても便袋が破裂して中身が飛び散る事態を防げる、と紹介しています。
袋のまま積むと、下の袋が重さで破れます。東京都の帰宅困難者対策ハンドブックも、保管場所とあわせて「保管用のビニール袋、消臭剤、汚物圧縮保管袋等」を用意するよう書いています。回収に出すための箱と袋も、備蓄品の1つとして数えてください。
5. 自分の区の計画を見ていない
東京トイレ防災マスタープランは、区市町村が作るトイレの計画の記載例として、「避難所や各家庭・事業所等からの災害用トイレの分別排出」を整理するよう示しています。区によっては、事業所からの出し方を計画に書いている場合があります。
つまり「区は会社のごみを一切集めない」とも言い切れません。決めるのは区です。拠点のある区の災害廃棄物処理計画やトイレの計画に、事業所の扱いが書かれているかを一度確かめてください。拠点が複数の区にあれば、区の数だけ確かめることになります。
社内でどう説明するか
「回収は区が来るのでは」と聞かれたときは、次の3行で足ります。
- 根拠:「災害時においても事業活動に伴う廃棄物は、事業者が処理責任を有する」(環境省 初動対応の手引き)。国のガイドラインで回収を手配するのは、市町村が避難所に対して
- 量:算定対象人数×5回×日数。100人・3日分で1,500袋、排泄物だけで約300〜450kg(内閣府ガイドラインの数字から計算)
- 対応:契約先の収集業者に災害時の回収を確認する。来るまでの間は、備蓄日数分を置ける場所と保管用の箱・袋を確保する
予算の話になったときは、保管用の箱・袋・消臭剤は「使用済みの量から出る数」だと説明できます。量が式で出ている以上、削るなら日数の段階(3日分から始める)で削るのが筋で、保管用品だけを削ると、備蓄したトイレが2日目以降に使えなくなります。
よくある誤解
| 誤解 | 実際 |
|---|---|
| 使用済みの携帯トイレは、災害時は自治体が回収してくれる | 国と東京都の資料で回収の段取りが書かれているのは避難所と家庭のごみ。事業活動に伴う廃棄物は、災害時も事業者に処理責任がある |
| 携帯トイレは可燃ごみなので、燃えるごみに出せばいい | 「可燃ごみとして回収することが多い」は区市町村が家庭・避難所から集める話。会社のごみは平時から区の収集に乗っていないことが多い |
| 少しの量なら区の収集に出せる | 100人の会社でも1日約100〜150kg(排泄物だけ)。千代田区が平時に事業系ごみを収集する条件(日量平均50kg未満)の2〜3倍 |
| 回収は数日で再開する | 今回確かめた国・都の資料に、回収再開の日数の目安は無い。東京都は区部の車両不足などによる遅れを懸念している |
| 置き場所を決めれば、回収の準備は終わり | 契約先への確認、出すときの箱と袋、区のルールの確認までが準備 |
まとめ
- 会社で出た使用済みの携帯トイレは、災害時も会社に処理責任がある。自治体の回収を前提にしない
- 国のガイドラインの「定期的な回収を手配」は、市町村が避難所に対してやること
- 量は算定対象人数×5回×日数。100人・3日分で1,500袋、排泄物だけで約300〜450kg
- 契約先の収集業者(ビルなら管理会社)に、災害時に何を・いつ・どの形で引き取れるかを聞く
- 回収の目安が無いので、備蓄日数分を社内に置き切る場所と、箱・袋・消臭剤を用意する
この記事の論点だけでも、区のルール、契約先の業者、置き切る日数、保管用の箱と袋と、確かめることが4つあり、拠点が複数の区にあればその数だけ増えます。備蓄は人の命に関わるので1つも落とせず、トイレの枚数・日数・置き場所といったほかの決まりと合わせて、これを担当者1人が覚えて回し続けるのは現実的ではありません。当社はそのための管理の仕組みをご用意しています。
当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。自社の拠点ごとの人数で数えると、携帯トイレと保管用品がいくつ要るかは、算定で出せます。
この記事の出典
- 環境省 環境再生・資源循環局 災害廃棄物対策室「災害時の一般廃棄物処理に関する初動対応の手引き」令和3年3月改訂 3・48ページ/https://www.env.go.jp/content/900535402.pdf(2026年10月2日確認)
- 内閣府(防災担当)「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」平成28年4月(令和6年12月改定)27ページ/https://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/2412hinanjo_toilet_guideline.pdf(2026年10月2日確認)
- 東京都「東京トイレ防災マスタープラン」令和7年3月 16・26・31・41ページ/https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/030/489/1.pdf(2026年10月2日確認)
- 東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」令和5年3月 17ページ/https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/001/369/202303.pdf(2026年10月2日確認)
- 豊島区「事業者の責務・事業系廃棄物の処理委託(事業者で新規にごみを出す場合)」2026年8月24日更新(廃棄物処理法 第3条の条文を掲載)/https://www.city.toshima.lg.jp/151/kurashi/gomi/jigyosha/009044.html(2026年10月2日確認)
- 港区「事業者から出るごみ・資源は、廃棄物収集運搬業者に収集・処理を依頼してください!」2025年6月6日更新/https://www.city.minato.tokyo.jp/gomigenryou/kurashi/gomi/jigyosho/shushu/(2026年10月2日確認)
- 千代田区「事業者が出すごみ」2026年7月16日更新/https://www.city.chiyoda.lg.jp/koho/kurashi/gomi/jigyosho/index.html(2026年10月2日確認)
- 国立環境研究所 災害廃棄物情報プラットフォーム「災害時におけるトイレとし尿処理について」(大正大学 地域創生学部 岡山朋子)2020年7月/https://dwasteinfo2.nies.go.jp/page/page000135.html(2026年10月2日確認)
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