あります。ただし、東京都と同じように「従業員のための備蓄」を「3日分」と日数まで条例に書いていたのは、今回条文を確認した東京都以外の22自治体のうち横浜市だけでした。千代田区は語尾が都より強い「しなければならない」です。11自治体では該当する条文が見つかりませんでした。どの条文にも罰則はなく、条例がない地域でも国のガイドラインはすべての事業者を対象にしています。

BCP対策で東京都の帰宅困難者対策条例を調べた総務・防災担当の方が、支店や工場を持っていると次に詰まるのがここです。「大阪や横浜の拠点にも、同じような決まりはあるのか」。この記事では、東京都以外の主な府県と政令市など22自治体の条例を例規集・公式サイトの原文で確かめ、何がどこまで書かれているかを並べます。東京都の条例そのものの中身は東京都の帰宅困難者対策条例では、企業は何を求められていますかにまとめています。

根拠の数字|条例ごとに「目的」「日数」「語尾」が違う

事業者に備蓄や一斉帰宅の抑制を求める条文が見つかった自治体を、東京都と並べます。見るのは4か所です。備蓄の目的が従業員のためと書かれているか、一斉帰宅の抑制(従業員を社内にとどめること)が書かれているか、日数が書かれているか、語尾が「しなければならない」か「努める」かです。

自治体・条例備蓄の条文(目的)一斉帰宅の抑制日数備蓄の語尾
(比較)東京都 帰宅困難者対策条例第7条第2項 従業者の飲料水・食糧等第7条第1項3日分努めなければならない
横浜市 災害時における自助及び共助の推進に関する条例第13条第2項 従業者等のための食料・飲料水等第13条第1項(事業所内での待機の指示)少なくとも3日分努めなければならない
千代田区 災害対策基本条例第8条第2項 従業員等のため食糧・飲料水等第5条第3項(帰宅困難者となった従業員等が地域の混乱を生じさせないように)記載なししなければならない
千葉県 防災基本条例第20条 帰宅困難者となった従業者の一斉帰宅の抑制を図るための生活必需物資第15条・第39条(待機の方針の周知・待機の指示)記載なし努めるものとする
仙台市 防災・減災のまち推進条例第4条 自ら・家族・従業員等の安全を確保するための物資等第10条第2項(帰宅困難者となった場合のための備え)記載なし努めるものとする
神奈川県 地震災害対策推進条例第11条第3項 食料・飲料水等(目的の記載なし)第17条第4項(施設内での待機の指示)記載なし努めるものとする
横浜市 震災対策条例第8条第2項 食料・飲料水等(目的の記載なし)第21条第3項記載なし図らなければならない
静岡県 地震対策推進条例第14条第2項 食料・飲料水等(目的の記載なし)第14条第4項(施設への待機の要請)記載なし努めなければならない
大阪市 防災・減災条例第23条第2項 主語は「市民及び事業者」第25条第5項(施設内での待機の指示)記載なし努めなければならない
名古屋市 防災条例第14条第2項 主語は「市民及び事業者」第23条第3項記載なし努めなければならない
愛知県 地震防災推進条例第6条第1項第4号 食料及び飲料水(目的の記載なし)事業者向けの条文は見つからず記載なし努めなければならない
京都府 災害からの安全な京都づくり条例第48条第2項 被災者の避難、救出、救護等に必要な物資第50条第4項(従業員と来所者の一斉帰宅等の抑制)事業者の条文には記載なし努めなければならない
広島県 防災対策基本条例事業者の備蓄の条文は見つからず第42条第1項(従業者への帰宅の一時見合せの呼びかけ)記載なし—

出典:各自治体の例規集・公式サイト掲載の条例全文(記事末尾の出典一覧を参照)。2026年10月3日確認。

一方、次の11自治体では、確認した条例の中に事業者へ従業員の備蓄や一斉帰宅の抑制を求める条文が見つかりませんでした。川崎市、埼玉県、さいたま市、千葉市、宮城県、大阪府、兵庫県、神戸市、京都市、福岡県、福岡市です。これは「確認した範囲では見つからなかった」という意味で、規則や要綱まで含めて「存在しない」と言い切るものではありません。

そして、この表のどの条文にも罰則はありません。京都府の条例には罰則の章がありますが、対象は別の条文の違反で、第48条・第50条は入っていません。

この話は誰向けか。自社にどう読み替えるか

条例は、その自治体の中にある拠点にだけかかります。本社の所在地ではなく、拠点ごとに見ます。東京本社の会社でも、横浜支店には横浜市の条例が、大阪支店には大阪市の条例がかかります。逆に、本社が東京にあるからといって、都外の拠点に東京都の条例はかかりません。

市と、その市を含む府県の両方に条例がある場合は、両方がかかります。横浜市の拠点なら、横浜市の2つの条例と神奈川県の条例の3本です。東京23区の拠点なら、東京都の条例に加えて、千代田区のように区の条例があることもあります。

条例が見つからなかった地域の拠点は、何の根拠もないわけではありません。内閣府の帰宅困難者等のガイドラインは、対象を「被災の可能性がある」官公庁を含む「全ての事業者」とし、従業員は「事業所内で勤務する全従業員」としています。地域は限っていません。都外の拠点の備蓄を社内で説明するときの国の根拠は支店やサテライトオフィスにも、防災備蓄は必要ですかにまとめています。

何を1と数えるのか

数える単位は拠点×その拠点にかかる条例です。法人で1つではありません。拠点が4つあり、それぞれ市と府県の両方に条例があれば、確かめる条文は最大で8本になります。

もう1つ数え間違えやすいのが、「備蓄」と書かれた条文を、すべて従業員の分と数えてしまうことです。上の表で、備蓄の目的を従業員のためと書いているのは東京都・横浜市・千代田区・千葉県・仙台市の5つでした。大阪市と名古屋市の条文は主語が「市民及び事業者」で、京都府の条文が求めているのは「被災者の避難、救出、救護等」に使う物資です。同じ「備蓄」でも、誰の分を何のために置くのかが違います。

備蓄する人数は、どの条例の下でも在籍人数ではなく、発災時にその拠点にいるであろう人数で数えます。数え方は従業員100人の会社は、防災備蓄を何人分そろえればいいですかにまとめています。

計算例

水だけで比べます。国のガイドラインの目安は1人1日3リットル、3日分で9リットルです。人数は各拠点に発災時にいるであろう人数(仮の数字)です。

従業員100人の会社本社(千代田区)営業所(名古屋市)
在館人数(仮)70人30人
かかる条例東京都 帰宅困難者対策条例・震災対策条例/千代田区 災害対策基本条例名古屋市 防災条例/愛知県 地震防災推進条例
従業員のための備蓄と書いた条文あり(都は努力義務、区は「しなければならない」)なし(備蓄の主語は「市民及び事業者」)
条文にある日数3日分(都)なし
水3日分(人数×9L)630L270L
東京都の帰宅困難者上乗せ10%対象対象外
従業員300人の会社本社(千代田区)支店(横浜市)支店(大阪市)支店(福岡市)
在館人数(仮)150人60人50人40人
従業員のための備蓄と書いた条文あり(都・区)あり(市)なし見つからず
条文にある日数3日分(都)少なくとも3日分(市)なしなし(市のガイドラインに「最低3日分」)
水3日分(人数×9L)1,350L540L450L360L
東京都の帰宅困難者上乗せ10%対象対象外対象外対象外
稟議に書く根拠都条例 第7条第2項・区条例 第8条第2項市条例 第13条第2項内閣府ガイドライン 参考資料2内閣府ガイドライン 参考資料2/福岡市ガイドライン

東京都の帰宅困難者上乗せ10%は、外部の帰宅困難者のための共助分として東京都が示しているもので、東京都内の拠点が対象です。横浜や大阪の支店に一律で乗せません。在宅勤務の比率を引くときの10%とは別のものなので、社内では「東京都の帰宅困難者上乗せ」と名前で呼びます。

日数について。条例やガイドラインに書かれている3日分は公表された基準ですが、当社では備蓄の到達点を7日分と置いています(水なら1人21リットル)。これは公表基準ではなく当社の置き方で、実際には3日分から段階的に始める会社のほうが多く、それは現実的な順序だと考えています。3日分と7日分で何が何倍になるかは防災備蓄は何日分そろえればいいですかにまとめています。

表を見ると分かるとおり、水の量は条例の有無では変わりません。変わるのは、稟議に書ける根拠の行です。大阪支店の450リットルは、条例がなくても必要な量です。

実務でつまずく点

1. 都の条例より、区の条例のほうが語尾が強いことがある

これがいちばん知られていません。千代田区災害対策基本条例 第8条第2項は「事業者は、従業員等のため、食糧、飲料水その他の災害時における生活必需物資を備蓄しなければならない」と定めています。東京都の条例の語尾は「備蓄するよう努めなければならない」なので、同じ東京の中で、区の条例のほうが一段強い書き方になっています。

同じ第5条第3項も「事業者は、災害時において、帰宅困難者となった従業員等が、地域の混乱を生じさせることのないようにしなければならない」です。罰則の定めはありませんが、都の条例だけを見て「努力義務です」と稟議に書くと、区の条文と食い違います。23区内の拠点は、都の条例に加えて区の例規集も引いてください。今回確認した区は千代田区だけで、ほかの区については確かめていません。

都内の事業者には、備蓄そのものとは別に「事業所防災計画の作成」が「しなければならない」と定められています。義務と努力義務の境目は企業に防災備蓄の義務はありますかにまとめています。

2. 「備蓄」と書いてあっても、従業員の分とは限らない

検索で「〇〇県 条例 事業者 備蓄」と引くと、多くの自治体で条文が出てきます。ただし京都府の第48条第2項が求めているのは「被災者の避難、救出、救護等」に必要な物資の備蓄で、従業員が社内にとどまるための飲料水や食料ではありません。大阪市・名古屋市の条文は、市民と事業者をひとまとめにした一般的な備蓄の努力です。

稟議に条文を引くときは、主語・目的・日数・語尾の4点を書き写してください。「条例で備蓄が求められています」の1行だけだと、決裁者が条文を開いたときに「これは社員の分の話ではない」と言われます。数の根拠が自社判断に見えると予算は通りにくく、逆に条文を正確に引いた数は、そのまま説明に使えます。

3. 「3日分」は条例ではなく、ガイドラインや指針に書かれていることが多い

条文に日数まで書いていたのは東京都と横浜市だけでした。ところが、条例に日数がない、または条例そのものが見つからなかった地域でも、自治体の指針には3日分が出てきます。

  • 京都市「事業所帰宅困難者対策指針」:「従業員が施設内に留まれるよう,一人当たり3日分の水・食料等を備蓄することを目指します」
  • 福岡市「事業所における帰宅困難者対策ガイドライン」(令和4年3月):「備蓄量の目安は最低3日分とする」
  • 愛知県の事業者向けチラシ:「従業員が留まれるように最低3日分は飲料水・食料などの備蓄を!」

例規集だけを引いていると、これらは出てきません。条例が見つからなかったら、次に自治体の防災・危機管理のページで「帰宅困難者」「事業所」を引きます。条例ではないので努力義務ですらありませんが、拠点の所在地の行政がどう呼びかけているかは、稟議の根拠として十分に使えます。

4. 待機は求められているのに、物資の条文がない地域がある

広島県防災対策基本条例 第42条第1項は、事業者に「従業者への帰宅の一時見合せの呼びかけ等帰宅困難者の発生抑制に努めるものとする」と定めていますが、今回確認した範囲では事業者の備蓄を定めた条文はありませんでした。神奈川県・静岡県・大阪市・名古屋市も、待機の条文はあっても備蓄の条文に「従業員のため」とは書いていません。

社員を社内にとどめれば、その間の水・食料・トイレが要ります。待機の条文があって物資の条文がない地域ほど、物資の根拠を国のガイドラインで補う必要があります。トイレの数の出し方は災害用トイレは何人に1基必要ですかにまとめています。

5. 拠点の数だけ、確かめ直す時期が来る

条例は改正されます。今回確認した中でも、仙台市の条例には令和8年4月1日施行の改正が、宮城県の条例には令和7年10月9日施行の改正が入っていました。拠点が4つあれば、4つの自治体の改正を追うことになります。稟議や計画に条文を引いたときは、条例名・条番号と一緒に、確認した日付を残してください。次の担当者が「いつの条文か」で迷わずに済みます。

社内でどう説明するか

拠点ごとに1行ずつ、次の形で書けば足ります。

  1. (条例がある拠点)「横浜支店:横浜市 災害時における自助及び共助の推進に関する条例 第13条第2項が、従業者等のための少なくとも3日分の備蓄を求めている(努力義務・罰則なし・2026年10月3日確認)」
  2. (条例が見つからない拠点)「大阪支店:所在地の条例に従業員の備蓄を定めた条文は見当たらない。内閣府ガイドライン 参考資料2が、被災の可能性があるすべての事業者に3日分を目安として示している」
  3. (数量)「各拠点の在館人数×1人1日3リットル×日数で算出した」

「条例がない拠点は後回し」という議論になったら、計算例の表を見せてください。水の量は条例の有無で変わらず、変わるのは根拠の行だけです。予算の組み立て方そのものは防災備蓄の予算を、社内でどう通せばいいですかにまとめています。

よくある誤解

よくある理解実際
企業の備蓄の条例があるのは東京都だけ横浜市・千代田区・千葉県・仙台市などにも、従業員のための備蓄を求める条文があります
条例はどこも「3日分」日数まで条文に書いていたのは、今回確認した範囲では東京都と横浜市だけです
東京23区内なら、都の条例だけ見ればよい千代田区の条例は「備蓄しなければならない」で、都より語尾が強い書き方です
「備蓄」と書いた条文があれば、社員の分の根拠になる京都府の条文は被災者の避難・救護等の物資、大阪市・名古屋市は市民と事業者の一般的な備蓄です
条例がない地域の拠点には、備蓄は要らない内閣府ガイドラインは地域を限らず「全ての事業者」を対象にしています。京都市・福岡市のように指針で3日分を示している自治体もあります
条例に違反すると罰則がある今回確認した備蓄・一斉帰宅の抑制の条文には、どれも罰則がありません

まとめ

  • 東京都以外にも、事業者に従業員の備蓄や一斉帰宅の抑制を求める条例はある。ただし「従業員のため」「3日分」まで書いていたのは横浜市だけ
  • 千代田区は「備蓄しなければならない」で、都の条例より語尾が強い。23区内の拠点は区の条例も引く
  • 「備蓄」の条文は、主語・目的・日数・語尾の4点を書き写す。従業員の分とは限らない
  • 条例がない地域でも、自治体の指針(京都市・福岡市など)や国のガイドラインが3日分を示している
  • 水の量は条例の有無で変わらない。拠点ごとに変わるのは、稟議に書く根拠の行

「条例がない地域だから、何もしなくてよい」という読み方は成り立ちません。拠点ごとに確かめる順番は3つです。

  1. 所在地の府県と市区町村の例規集で、「帰宅困難者」「備蓄」「事業者」を引く。両方に条例があれば両方がかかります
  2. 見つからなければ、自治体の防災・危機管理のページで帰宅困難者対策の指針やガイドラインを探す。3日分はここに書かれていることが多い
  3. それでもなければ、内閣府のガイドラインを根拠に置く。対象は地域を限らない「全ての事業者」です

この記事の出典

調べた範囲:東京都以外の22自治体(神奈川県・横浜市・川崎市・埼玉県・さいたま市・千葉県・千葉市・千代田区・静岡県・宮城県・仙台市・京都府・京都市・大阪府・大阪市・兵庫県・神戸市・愛知県・名古屋市・福岡県・福岡市・広島県)の防災・震災対策の基本となる条例。ほかの区市町村は確認していません。

この記事の論点だけでも、拠点ごとに府県と市区町村の条例、自治体の指針、国のガイドラインと確かめる先が3段あり、拠点が4つあれば最大で12か所、しかも条例は改正されます。備蓄は人の命に関わるので1つも落とせず、人数・日数・品目ごとの数量と合わせて、これを担当者1人が覚えて回し続けるのは現実的ではありません。当社はそのための管理の仕組みをご用意しています。

当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。拠点ごとの人数で数えると、どの拠点に何がいくつ要るかは、算定で出せます。

コメント

コメント一覧 (1件)

コメントする