BCP(事業継続計画)では、備蓄は「事前対策の実施計画」の1項目として書きます。ただし内閣府の「事業継続ガイドライン」は、備蓄の品目と数量を自分では決めておらず、拠点のある自治体の条例等を参考にするよう脚注で示しているだけです。BCPの備蓄の欄には「誰の分を・何日分・どの基準で」を自社で書き、全員が社内で待機する分と、残って業務を続ける要員の分を分けて数えます。

BCP対策の担当になり、計画書の中に備蓄をどう入れればいいか迷っている総務の方、監査や稟議で「BCPと備蓄の量はどうつながっているのか」と聞かれた方に向けた記事です。国のガイドラインで備蓄がどこに出てくるかを確かめ、計画書に書く行と数え方を整理します。

根拠の数字|国のガイドラインで、備蓄が出てくる3か所

内閣府の「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)は、企業の規模や業種を問わない指針です。義務ではありません。この中で備蓄に触れている箇所は、次の3つです。

どこに出てくるか書かれていること計画書のどこに当たるか
表1.2-1 従来の防災活動とBCMの比較(6ページ)備蓄は「防災活動」の側の対策として、耐震補強・二次災害の防止と並んで挙がっている。BCMの「現地復旧戦略」は防災活動と共通する対策が多いとされる位置づけ(防災とBCPの重なる部分)
表5.1.1.2-1 初動段階で実施すべき事項の例(22ページ)対策本部の仕事として「水・非常用食料等の必要な物資を配給(備蓄の活用、必要に応じ追加調達)」と、帰宅が危険な場合の「待機指示」緊急時の対応手順
5.1.2 事前対策の実施計画(24〜25ページ)平常時から実施する事前対策の例として「備蓄品、救助用器具等の調達」。計画には担当体制・予算確保・調達先・実施スケジュールを含める事前対策の実施計画
出典:内閣府(防災担当)「事業継続ガイドライン -あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」令和5年3月

そして3つ目の「備蓄品」には脚注(脚注83)が付いています。要約すると次のとおりです。

備蓄品の品目及び数量については、拠点が所在する地域の地方公共団体が制定する条例等を参考とし、企業特性に応じた備蓄方法を検討する。例として、東京都帰宅困難者対策条例は、従業員が施設内に留まれるよう必要な3日分の飲料水や食料等の備蓄を努力義務としている。

実際にBCPを作った会社が何を書いているかは、内閣府の実態調査(令和8年3月公表)で分かります。BCPを策定済みの会社(1,058社)に記載している項目を聞いたところ、上位3つと、備蓄に関わる項目は次のとおりでした。

BCPに記載している項目全体大企業中堅企業その他企業
従業員の安全確保95.0%98.0%93.9%94.4%
災害対応チーム創設77.4%89.2%77.9%72.2%
水、食料等の備蓄75.3%84.4%72.9%72.9%
重要業務の決定68.1%77.6%66.1%65.3%
目標復旧時間の設定52.5%62.2%49.1%50.4%
複数回答。対象はBCPを策定済みの会社(n=1,058)。出典:内閣府「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査結果」令和8年3月 59ページ(問14)

BCPを作った会社の4社に3社は、備蓄を計画書に書いています。一方で、重要業務をいつまでに戻すかを決める「目標復旧時間」を書いている会社は約半数です。この差が、後で説明する「要員の分の日数が決まらない」につながります。

前提の切り分け|BCPの備蓄と、防災の備蓄は別物ではない

ガイドラインは、防災活動の主な目的を「身体・生命の安全確保」「物的被害の軽減」、BCMの主な目的を「身体・生命の安全確保に加え、優先的に継続・復旧すべき重要業務の継続または早期復旧」としています。どちらも身体・生命の安全確保から始まり、BCMはそこに重要業務を続ける話を足しています。ガイドラインも、BCMと防災活動を並行して進めるべきだとしています。

ですから、備蓄を「防災計画(総務)の話」と「BCP(経営企画)の話」に分けて、別々に数える必要はありません。1つの備蓄を、2つの目的で数えると考えると整理できます。

  • 全員が社内で待機するための分(防災・帰宅困難者対策の目的)…発災時に社内にいる人全員。日数は東京都条例などの3日分が最低ライン
  • 残って業務を続ける要員の分(BCPの目的)…対策本部や重要業務の担当として社内に残る人。日数は自社のBCPで決める

なお、東京都の条例がかかるのは都内の事業所です。都外の拠点では、その拠点のある自治体の条例や計画を確かめます。都道府県ごとの違いは東京都以外の自治体にも、企業に防災備蓄を求める条例はありますかで扱っています。BCPを作っていない会社でも、都内の事業所なら条例の努力義務はかかります。義務の範囲は企業に防災備蓄の義務はありますかにまとめています。

数え方|要員の分は「上乗せ」で数える

要員も、発災時には社内にいる人の1人です。ですから要員の分を全員分とは別に丸ごと数えると、最初の3日分を二重に積むことになります。数え方は次の2段です。

  1. 全員の3日分=発災時に社内にいる人数 × 1日の量 × 3日
  2. 要員の上乗せ分=要員の人数 × 1日の量 ×(要員の日数 − 3日)

1の人数は在籍人数ではありません。数え方は従業員100人の会社は、防災備蓄を何人分そろえればいいですかで扱っています。2の要員の日数は、国の機関に例があります。中央防災会議の「南海トラフ地震防災対策推進基本計画」には、外務省の指標として「参集要員の1週間分、参集要員以外の職員等の3日分程度」の備蓄品確保率が載っています。

日数の置き方について、当社の考えも書いておきます。3日分は全員に必須の最低ラインで、当社では全員7日分を目標に置いています。ただ、いきなり全員7日分にする会社は少なく、3日分から段階的にそろえる会社が多いのが実情です。要員の分だけ先に7日にするのは、その途中の段階として現実的な順序です。

計算例|従業員100人の会社と、従業員300人の会社

発災時に社内にいる人を100人と300人、要員をその1割(10人と30人)、要員の日数を7日と置いた例です。要員の人数はBCPで決めた実際の人数に置き換えてください。1日の量は、水3リットル・主食3食(内閣府 帰宅困難者対策ガイドライン)、トイレ5回(内閣府 避難所のトイレのガイドライン)です。携帯トイレには、当社が置いている予備率20%を乗せています。

品目全員の3日分要員の上乗せ(4〜7日目)合計(BCPに書く数量)参考:全員の7日分
100人(要員10人)
水900L120L1,020L2,100L
主食900食120食1,020食2,100食
携帯トイレ(予備率20%込み)1,800回分240回分2,040回分4,200回分
300人(要員30人)
水2,700L360L3,060L6,300L
主食2,700食360食3,060食6,300食
携帯トイレ(予備率20%込み)5,400回分720回分6,120回分12,600回分
水=3L×人数×日数、主食=3食×人数×日数、携帯トイレ=5回×人数×日数×(1+0.2)。東京都の帰宅困難者上乗せ(10%)は含めていません

要員の上乗せは、全員の3日分に対して1割強です。全員を7日分にするのに比べれば、増える量はずっと小さく済みます。しかも「要員はBCPで決めた目標復旧時間に合わせて7日、それ以外は条例の3日」と、数の根拠をすべて計画書の中で説明できます。予算が通らない原因は金額の大きさより、数の根拠が担当者の判断に見えることのほうが多いので、ここを計画書で示せることが予算への近道になります。

東京都内の拠点では、外部の帰宅困難者のための10%(帰宅困難者上乗せ)を足します。対象は都内の拠点だけです。率は掛け合わせずに足し、携帯トイレなら数量×(1+0.2+0.1)とします。

実務でつまずく5つの点

1. BCPを作っても、備蓄の数量の根拠はできない

意外に知られていないのがここです。国の事業継続ガイドラインは、備蓄品を事前対策の例に挙げていますが、品目と数量は脚注1つで自治体の条例等に任せています。BCPの様式を埋めれば数量まで決まるわけではありません。

このため、「BCPに備蓄を書いた」ことと「備蓄の量に根拠がある」ことは別です。監査で「この数量はどこから来たのか」と聞かれたとき、BCPの計画書を見せても答えにはなりません。計画書の備蓄の欄に、参考にした条例・ガイドラインの名前と、掛け算の式を1行書いておくと、BCPと数量が初めてつながります。

2. 項目名を「水、食料等」で止めると、トイレが抜ける

実態調査の選択肢は「水、食料等の備蓄」という書き方です。計画書の項目名もこの言い方で止めると、トイレは「等」の中に入ったまま、数えられずに残りがちです。

同じ調査で全従業員分の備蓄を聞いた設問では、簡易・携帯トイレが「なし」の会社は35.2%で、飲料水(17.5%)のほぼ2倍でした(詳しくはほかの会社は、防災備蓄をどこまでそろえていますか)。中小企業庁の「事業継続力強化計画 策定の手引き」の対策事例では、備蓄すべき物資を「簡易トイレ、浄水器、飲食料、毛布、保温シート、カセットコンロ・ボンベ、ラジオ、救急セット、衛生用品」と書き出しています。計画書には品目を1つずつ書き出し、それぞれに数量を付けます。なぜトイレを落とせないかは断水していなくても、会社のトイレを流してはいけないのはなぜですかで扱っています。

3. BCP側の資料と、条例側の資料で、数える人が違う

同じ「備蓄」でも、資料によって数える相手が違います。

資料数える人目的
中小企業庁「事業継続力強化計画 策定の手引き」(事業継続の側)災害発生直後から活動する従業員数(対策本部要員)事業を止めないために残る人を支える
東京都帰宅困難者対策条例(帰宅困難者対策の側)発災時に事業所にいる従業者全員一斉帰宅を抑え、社内での待機を保つ

どちらかが間違っているのではなく、目的が違うので数える人が違います。BCP側の資料だけを見て要員の分しか積まないと、待機する大多数の分が抜けます。条例側だけを見て全員の3日分で終えると、残って働く人の4日目以降が抜けます。両方を1つの表で数えるのが、さきほどの2段の数え方です。

4. 目標復旧時間を決めていないと、要員の日数が決まらない

ガイドラインは事前対策について、「決定された目標復旧時間、目標復旧レベルを達成できるようにする前提として早急に実施すべきとされた事前対策は、実施が遅延しないよう十分留意しなければならない」と書いています。当社では、要員の備蓄を「目標復旧時間まで、業務を戻す要員を社内で支える」ための事前対策と考えています。

ところが、BCPを策定済みの会社でも、目標復旧時間を記載しているのは52.5%です。目標復旧時間が空欄のままだと、要員を何日支えればいいかの根拠がありません。その場合は、まず条例の3日分を全員にそろえ、目標復旧時間を決めた時点で要員の日数を足す、という順番にします。日数を2段に分ける考え方は防災備蓄は何日分そろえればいいですかで詳しく扱っています。

5. 「配る」と「待機させる」を、初動の手順に書いていない

ガイドラインの初動の表では、物資の配給と待機の指示は対策本部の仕事として並んでいます。備蓄は事前対策の計画に「何をいくつ」と書いただけでは使えません。緊急時の手順の側に、次の3つを書いておきます。

  • 誰が保管場所の鍵を開け、誰が配るか(不在のときの代わりの人も)
  • 社員をどの階・どの部屋にとどめるか
  • どの時点で帰宅を指示するか、または待機を続けるか

とどめる場所が決まると、置き場所も決まります。順番は地震のとき、社員を会社のどの階にとどめるかは、先に決めておくべきですか、置き場所の決め方は会社の備蓄品は、どこに置けばいいですかで扱っています。

社内でどう説明するか|計画書の備蓄の欄に書く7行

ガイドラインは、事前対策の実施計画に担当体制・予算確保・調達先・実施スケジュールを含めるよう求めています。これを備蓄の欄に当てはめると、次の7行になります。

行書くこと記入例(100人の拠点)
1. 目的全員の待機と、要員の業務継続一斉帰宅を抑えて全員が待機し、対策本部要員が目標復旧時間まで業務を続けられるようにする
2. 数える人全員の人数と要員の人数発災時に社内にいる最大100人/うち要員10人
3. 日数全員と要員で分けて全員3日(東京都条例)/要員7日(目標復旧時間に合わせる)
4. 品目と数量品目を書き出し、式を添える水1,020L(3L×人数×日数)ほか、表のとおり
5. 置き場所と配る人緊急時の手順と対応させる各階の保管場所/配布は総務の担当者、不在時は各階の係
6. 予算と調達先初年度と、毎年の入れ替え分初年度の購入費と、期限が来る年の入れ替え費を次年度予算に計上
7. 見直しの時期経営の年間サイクルに合わせる毎年の予算編成の前に、人数・期限・置き場所を見直す

稟議や監査では、次のように言えます。「備蓄はBCPの事前対策の実施計画に位置づけています。数量は、国のガイドラインが参考とするよう求めている拠点の自治体の条例(当社の拠点では東京都条例)の3日分を全員に、BCPで定めた要員には目標復旧時間に合わせて7日分を置き、品目ごとに人数×1日の量×日数で算出しています」。見直しの時期を予算編成と合わせることは、ガイドラインも会計年度・決算期などの経営サイクルに合わせるのが望ましいとしています。見直しの順番は防災備蓄の見直しは、何から手をつければいいですか、予算の通し方は防災備蓄の予算を、社内でどう通せばいいですかで扱っています。

よくある誤解

誤解実際
備蓄は防災の話で、BCPとは関係ないガイドラインは備蓄を事前対策の例に挙げ、初動では対策本部が物資を配給するとしている。防災活動とBCMは並行して進めるべきとされる
BCPに備蓄を書けば、数量は国の基準どおりになるガイドラインは品目と数量を自治体の条例等に任せている。数量の根拠は自社で書く
BCPの備蓄は、残る要員の分だけでよい要員の分は上乗せ。全員が待機する分は、都内の事業所なら条例の努力義務として別にかかる
BCPに入れるなら、全員7日分でないといけない全員の3日分が最低ライン。要員の分から段階的に伸ばしてよい(当社の到達点は全員7日分)
BCPを作るまで、備蓄は待ったほうがよいガイドラインは「できることから取組を開始し」とする。全員の3日分はBCPの有無に関係なく数えられる

まとめ

  • BCPでは、備蓄は「事前対策の実施計画」の1項目。初動の手順では、対策本部が配給と待機の指示を担う
  • 国の事業継続ガイドラインは、備蓄の品目と数量を自治体の条例等に任せている。BCPを作っても数量の根拠は自動ではできない
  • 全員が待機する分(条例の3日分)と、残る要員の分(BCPで決める日数)を、1つの表で2段に数える
  • 要員の日数は目標復旧時間と並べて決める。目標復旧時間がまだなら、全員の3日分から始める
  • 計画書には品目を書き出し、式・置き場所・配る人・予算・見直しの時期まで書く

この記事は内閣府・中小企業庁・中央防災会議・東京都の公表資料にもとづく一般的な整理です。要員の人数と日数は、各社のBCPで決めるものです。

この記事の論点だけでも、全員の人数、要員の人数、要員の日数、品目ごとの数量、配る人、更新の予算と、確かめることが6つあります。備蓄は人の命に関わるので1つも落とせず、これを担当者1人が覚えて回し続けるのは現実的ではありません。当社はそのための管理の仕組みをご用意しています。

当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。自社の人数で数えると、どの品目がいくつ要るかは、算定で出せます。

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