受け入れる法律上の義務はなく、断ることもできます。ただ国のガイドラインは、建物の安全を確かめたうえで、受け入れを検討するのが望ましいとしています。受け入れるなら、受入条件への署名をもらう書面、受け入れる場所と定員、外部の人の分の備蓄の3つを先に決めておきます。施設側の責任を法律で一律に免除する仕組みは、今のところありません。

BCP対策を担当する総務の方に向けた記事です。大地震で電車が止まると、駅や路上で足止めされた人が、近くのオフィスビルに「中に入れてほしい」と来ることがあります。断ってよいのか、入れたあとで余震で天井が落ちたら会社の責任になるのか、配った非常食で体調を崩されたらどうなるのか。内閣府のガイドライン(令和8年1月)の参考資料「施設管理者の損害賠償責任について」と、東京都の帰宅困難者対策ハンドブックをもとに、受け入れる前に決めておくことを整理します。

根拠の資料|国は「受け入れを検討」、責任は「一律には免除できない」

資料書いていること
内閣府(防災担当)「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」令和8年1月 第3章事業者は、地方公共団体の要請に応じて施設を一時滞在施設として提供することを検討し、受け入れられる場合は市町村と協定を結ぶ(11ページ)。あらかじめ一時滞在施設になっていない施設でも、安全を確かめたうえで、施設管理者の判断で開設を検討するなど柔軟に対応することが望ましい(14ページ)。開設期間は原則として発災後72時間(3日間)、広さは床面積約3.3㎡当たり2人(通路は算入しない)が目安(10ページ)
同ガイドライン 参考資料7「施設管理者の損害賠償責任について」余震で天井が崩落するなど、建物が原因で受け入れた人が損害を受けた場合、施設管理者に賠償責任が生じることも考えられるが、これを法制度で一律に免責とすることは現状では困難(39ページ)。施設管理者は善管注意義務(通常期待されるレベルの注意義務)をもって対応する。それでも損害が生じた場合に備え、受入条件(建物・施設の瑕疵に基づく損害賠償責任の免責特約等を含む)に合意したうえで利用してもらう契約行為が有効(40ページ)
同ガイドライン 第3章 3.一時滞在施設の運営(発災時)受け入れるときに受入者の留意事項への署名等をもらう。「受入に当たって署名等を拒否する者は、受入を拒否してもよい」(15ページ)
東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」令和5年3月従業員が施設内にとどまれるよう3日分の水・食料等を備蓄し、外部の帰宅困難者(来社中の顧客・取引先や発災時に建物内にいなかった帰宅困難者など)のために、10%程度の量を余分に備蓄(6ページ)。一時滞在施設の確保について民間事業者に協力を求めており、窓口は各区市町村(8ページ)
首都直下地震帰宅困難者等対策連絡調整会議「事業所における帰宅困難者等対策ガイドライン」令和6年7月26日企業等は、3日分の備蓄を行う場合も、共助の観点から外部の帰宅困難者のために、例えば10%程度の量を余分に備蓄することも検討していく(4ページ)。社内にとどまる間に、必要に応じて近隣住民を社屋に受け入れている建設会社の取組を紹介(13ページ)

東京都帰宅困難者対策条例は、一時滞在施設を確保するために、知事が国・区市町村・事業者に協力を求めると定めています(第12条第2項)。事業者に外から来た人の受け入れを義務づける条文はありません。一方で、すでに建物の中にいる来客など施設の利用者については、保護のために必要な措置を講じるよう努めることを求めています(第8条第3項・努力義務)。外から来た人と、中にいる来客は分けて考えます。東京都は、外部の帰宅困難者のために備蓄を10%程度余分に持つことも勧めています(ハンドブック6ページ)。条例全体で何が求められているかは東京都の帰宅困難者対策条例では、企業は何を求められていますかで扱っています。

前提の切り分け|「飛び込みで来た人」と「協定で受け入れる人」は違う

同じ「外部の人を入れる」でも、2つの場合があります。1つは、区市町村と協定を結んで一時滞在施設になり、行政から案内された人を受け入れる場合です。もう1つは、協定を結んでいない会社に、足止めされた人が直接来る場合です。この記事が主に扱うのは後者です。

どちらの場合も、受け入れた人への責任の考え方(善管注意義務・受入条件の合意)は同じです。違いが出るのは、行政の支援です。国のガイドラインは、協定を結んでいない施設でも、避難所として供与される場合は災害救助法に基づく費用の支弁の対象になるとしたうえで、支援や費用の支弁を受けるためにも、開設状況や運営状況を市町村と共有することが望ましいとしています(16ページ)。開設したら、市町村に知らせておくのが望ましいということです。

なお、東京都の「10%程度を余分に」は都内の拠点の話です。都外の拠点は、所在地の自治体の考え方を確かめてください(東京都以外の自治体にも、企業に防災備蓄を求める条例はありますか)。

数え方|外部の人の分は「従業員の分の外側」に積む

東京都の10%は、従業員の3日分に上乗せする分です。従業員の分の中から外部の人に回す前提で数えると、受け入れた瞬間に従業員の分が足りなくなります。この10%の対象には、都の例示どおり来社中の顧客・取引先も含まれます。ただ、来客が常に多い事業所では10%では足りないため、当社では来客の数を別に積んだうえで10%を乗せています。何人分を数えるかの全体は従業員100人の会社は、防災備蓄を何人分そろえればいいですかで扱っています。

日数の置き方も確認しておきます。東京都の目安は3日分で、外部の人を受け入れる期間も、国のガイドラインでは原則72時間(3日間)です。そのため外部の人の分は3日分で計算できます。一方、従業員の分について当社では、3日分を必ずそろえる最低ラインとし、7日分を到達点に置いています。3日分は完了ではなく第1段階です。

計算例|従業員100人と300人の会社(都内の拠点)

東京都の目安(1人1日 水3リットル・主食3食、毛布1人1枚)と、内閣府のトイレのガイドラインの1日5回で、3日分を計算します。従業員全員が社内にとどまると仮定し、来客の分は入れていません。

品目(3日分)100人:従業員の分100人:外部の人の分(10%)300人:従業員の分300人:外部の人の分(10%)
水900リットル90リットル2,700リットル270リットル
主食900食90食2,700食270食
毛布100枚10枚300枚30枚
携帯トイレ1,500回分+予備率20%の300回分150回分4,500回分+予備率20%の900回分450回分
受け入れに使う床面積の目安(10%分の備蓄で3日間まかなえる人数を受け入れる場合)―10人で約16.5㎡―30人で約49.5㎡

携帯トイレの予備率20%は、当社が算定に置いている値です。当社では、率が2つあるときは掛け合わせずに足し、数量に(1+予備率20%+東京都10%)を掛けています。100人なら1,500回分×1.3で1,950回分です(災害用トイレは何人に1基必要ですか)。床面積は国のガイドラインの「約3.3㎡当たり2人」で割り戻した値で、通路の面積は含みません。10%は備蓄を余分に持つ量の目安で、受け入れる人数の基準ではありません。受入定員は、建物と受け入れる場所の広さから別に決めます。

実務でつまずく点

1. 署名をもらう書面がなく、断る基準もない

国のガイドラインは、特に民間施設では、受入条件を掲示し、承諾したことを示す署名ができる書面・帳票を準備しておくよう求めています(12ページ)。そして、署名等を拒否する人は受け入れを拒否してもよいと書いています(15ページ)。書面がない会社は、この線を引けません。

ガイドラインが例に挙げる受入条件は、善意で開設していて停電の中で運営する場合があること、施設管理者の指示に従うこと、建物・施設の瑕疵による事故を含め故意又は重過失がない限り責任を負わないこと、体調を崩したり感染症にかかったりしても同様であること、持ち物は基本的に預からないこと、余震や停電で急に閉鎖することがあること、移動の指示に従うこと、負傷者の治療はできず備蓄に限りがあること、などです(13ページ)。災害の当日に文面を考える時間はありません。受付で使う用紙と、入口に貼る掲示を、平時に作っておきます。

2. 「書面があれば責任を負わない」と思い込む

受入条件の合意は、国のガイドラインが「有効」とする備えですが、責任がなくなる保証ではありません。条件の文面自体が「故意又は重過失がない限り」と書いています。ガイドラインは、施設管理者が善管注意義務を果たすために、平時に次のことをするよう努めるとしています(39ページ)。

  • 受け入れの運営計画(またはそれを含む防災計画)を作っておく
  • 受入可能人数をあらかじめ決めておく(入れすぎると、全員を危険にさらす)
  • 家具の転倒・落下・移動の防止と、ガラスの飛散防止をしておく
  • 発災時に点検する箇所(構造だけでなく天井や天井の設備、使う予定のトイレ)を決め、チェックシートを作っておく

書面は最後の備えで、先にあるのは建物の点検と定員です。極めて大きな余震などでは不可抗力として免責が認められる場合もあると考えられる、とも書かれていますが(41ページ)、それを当てにして準備を省くことはできません。

3. 外部の人の分の備蓄が、従業員の分に食われる

上の計算例のとおり、10%は従業員の分の外側に積む量です。ところが実際には、従業員の3日分がそろっていない段階で外部の人を入れると、従業員の分から配ることになります。ガイドラインの受入条件に「備蓄品に限りがあり食料等の配布ができない場合がある」と入っています。こうした事態も想定した条件です。

外部の人の分を何人分にするかは、従業員の人数を正しく数えられて初めて決まります。人数の根拠があいまいなまま「10%」と書くと、稟議で「その10%は何の10%か」と聞かれて止まります。従業員の人数を正確に出すことが、外部の人の分の予算を通す近道です。なお、東京都の民間一時滞在施設向けの補助は、この外部の人の分の購入費の6分の5を補助します(1人あたりの上限あり)が、従業員用の3日分を先に完備していることが条件で、区市町村と受入協定を結ぶこと(予定を含む)が前提です(会社の防災備蓄の購入に、補助金や助成金は使えますか)。

4. 受け入れる場所が、執務室と分かれていない

国のガイドラインは、受け入れる場所、受入定員、運営する人、備蓄品の配布手順、要配慮者への対応、セキュリティ・警備体制などを、運営計画で決めておくよう求めています(12ページ)。発災時には、受け入れるスペースのほか、女性専用スペース、要配慮者スペース、運営要員専用スペース、立入禁止区域(危険箇所や事務室等)を分けます(14ページ)。受け入れる場所は、天井から物が落ちるおそれのある場所や、暗い部屋・入り組んだ場所を避けます(12ページ)。

社員を社内のどこにとどめるかが決まっていない会社は、外部の人をどこに入れるかも決められません。順番は、社員の待機場所が先です(地震のとき、社員を会社のどの階にとどめるかは、先に決めておくべきですか)。テナントビルでは、共用部を使えるか、警備員や管理会社に受け入れを伝える手順があるかも、ビル側と確かめておきます。ガイドラインも、警備員や施設管理業者と開設していることを共有するよう書いています(14ページ)。

5. 賞味期限が切れた非常食を、黙って配る

国のガイドラインは、平時から備蓄食料の賞味期限などの衛生管理に気をつけ、発災時には賞味期限を確かめ、切れたものを配るかは慎重に検討し、配る場合はその事実を告げるよう求めています(15・39ページ)。

ガイドラインには「無償譲渡である場合には、免責される可能性がある(民法第551条)」ともあります(39ページ)。ただし、参考資料7の末尾(41ページ)に載っている民法第551条の条文は、2020年4月に施行された改正の前の文言です。現行の第551条は「贈与者は、贈与の目的である物又は権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定する」となっています。「無料で配れば責任を負わない」と社内で言い切らず、扱いは顧問弁護士に確かめてください。期限の近い物を入れ替えておくのが、いちばん確実な備えです。

社内でどう説明するか

「受け入れるか、受け入れないか」を先に決めようとすると、責任の話で止まります。決めるのは、受け入れるとしたら何を用意するか、です。受け入れの判断そのものは、発災時に建物を点検してから施設管理者がするもので、平時に決めておくのはその条件です。

稟議の書き方の例

大規模地震で社外の帰宅困難者が来た場合に備え、受入条件の書面と掲示、受け入れる場所と定員(〇階〇〇室・〇人)を定めます。受け入れは、発災時の建物点検の結果を見て判断します。

国のガイドラインは、施設側の責任を法律で一律に免除することは困難としたうえで、受入条件への署名による合意を有効な備えとしています。署名を拒否する人は受け入れを断れます。

備蓄は、従業員の3日分を先に整え、東京都が勧める外部の帰宅困難者の分(10%程度)は次の段階で積み増します。

予算が限られるときは、削る順番を明確にします。先に削らないのは従業員の3日分です。外部の人の分は、東京都のチェックリストと事業所向けのガイドラインが「例えば10%程度」「検討」と書いており、後回しにできます。一方で、受入条件の書面、受け入れる場所と定員、点検のチェックシートは、お金がほとんどかかりません。備蓄を積む前でも、ここは先に作れます。

よくある誤解

誤解実際
会社には、足止めされた人を受け入れる義務がある事業者に、外から来た人の受け入れを義務づける法律・都条例の条文はない(建物の中にいる来客の保護は都条例第8条第3項の努力義務)。国は事業者に提供の「検討」を求め、都は協力を求めている
災害時の善意の受け入れなら、何があっても責任は問われない国のガイドラインは、法制度で一律に免責とするのは現状では困難としている。善管注意義務を果たし、受入条件に合意してもらうのが備え
受入条件の書面にサインをもらえば、責任はゼロになる条件の文面自体が「故意又は重過失がない限り」。建物の点検や定員の管理を省いてよい理由にはならない
東京都の10%で、来客の分もまかなえる都の例示には来社中の顧客も含まれるが、来客が常に多い事業所では10%では足りない。当社では来客の数を別に積み、そのうえで10%を乗せている。都内の拠点が対象
協定を結んでいない会社は、受け入れてはいけない国のガイドラインは、協定がない施設でも安全を確かめたうえで開設を検討するなど柔軟な対応が望ましいとしている。開設したら、市町村に知らせておくのが望ましい

まとめ

  • 足止めされた人を受け入れる法律上の義務はなく、断ることもできる。ただ国のガイドラインは、建物の安全を確かめたうえで受け入れを検討するのが望ましいとし、東京都は外部の帰宅困難者のために10%程度を余分に備蓄するよう勧めている(都内の拠点)
  • 施設側の責任を法律で一律に免除する仕組みはない。国のガイドラインは、善管注意義務を果たしたうえで、受入条件への署名で合意してもらうことを有効な備えとし、署名を拒否する人は受け入れを断ってよいとしている
  • 平時に決めるのは、受入条件の書面と掲示、受け入れる場所と定員(約3.3㎡当たり2人)、点検のチェックシート、外部の人の分の備蓄
  • 外部の人の分は従業員の分の外側に積む。従業員100人の会社なら、3日分で水90リットル・主食90食・毛布10枚・携帯トイレ150回分が目安
  • 賞味期限が切れた非常食は、配るなら事実を告げる。「無料で配れば免責」とは言い切らず、顧問弁護士に確かめる

この記事の論点だけでも、受入条件の書面、断る基準、受け入れる場所と定員、建物の点検箇所、外部の人の分の備蓄、市町村への連絡と、確かめることが6つあります。備蓄は人の命に関わるので1つも落とせず、これを担当者1人が覚えて回し続けるのは現実的ではありません。当社はそのための管理の仕組みをご用意しています。

当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。自社の人数で数えると、どの品目がいくつ要るかは、算定で出せます。

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