オフィスの防災備蓄は、加熱調理を前提にしなくて構いません。カセットコンロとボンベは、水・主食・毛布・トイレのあとに足す品目です。国と東京都は、携帯用ガスコンロを「特に必要性が高いもの」ではなく「企業ごとに検討」する品目の例に置いています。数えるなら用途をお湯を沸かすことに絞ります。当社では50人に1日1本と置いています。100人・7日分で14本です。

「1人1週間6本」という数字を見て、社員の人数を掛けようとしている方がいるかもしれません。これは農林水産省の家庭向けの目安です。そのままオフィスに当てはめると、100人で600本になります。この記事では、BCP対策の備蓄でカセットコンロとボンベをどう位置づけるか、何本と数えるか、置き方と使い方でつまずく点を整理します。

根拠の数字|国が示しているのは「家庭の目安」と「企業ごとに検討」

資料書いてあることオフィスにとっての意味
内閣府ガイドライン 参考資料2(令和8年1月)数量の目安は水・主食・毛布の3つ。「特に必要性が高いもの」は毛布・簡易トイレ・衛生用品・敷物・ラジオ・懐中電灯・乾電池・救急医療薬品類。調理器具(携帯用ガスコンロ、鍋等)は備考の「企業ごとに必要な備蓄品を検討していくことが望ましい」の例コンロは第1層の品目ではない。数量の目安も無い
東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」(令和5年3月)同じ構成。調理器具(携帯用ガスコンロ、鍋等)は「事業継続等の要素も加味し、企業ごとに必要な備蓄品を検討」の例都内の拠点でも扱いは同じ
農林水産省「災害時に備えた食品ストックガイド」(平成31年3月)「1人/1週間当たり、カセットボンベ約6本の備蓄が必要」。使用期限はボンベ約7年、コンロ約10年家庭の備蓄の目安。同じページの例は米2kg×2袋・乾麺など、炊く・ゆでる品目が並ぶ
同ガイドアルファ米は「お湯で約15分、水で約60分」。発災当日は「余震で火が使えないことも想定」し、水と調理不要な非常食を主食は火が無くても食べられる形でそろえられる
製品評価技術基盤機構(NITE)2025年8月28日2020〜2024年の5年間に、カセットボンベ等の事故は204件。うち火災189件置けば終わりではなく、使い方と保管の決まりが要る

出典:内閣府(防災担当)「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」令和8年1月 参考資料2(32ページ)、東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」令和5年3月 15ページ、農林水産省「災害時に備えた食品ストックガイド」平成31年3月 2・10・11・14ページ、NITE「備えただけでは、憂いあり」2025年8月28日(いずれも2026年9月27日確認)。

前提の切り分け|家庭の6本は「炊事」の数、オフィスは「湯沸かし」の数

農林水産省の「1人1週間6本」は、家庭の食品備蓄のガイドに書かれた数字です。同じガイドの「家庭備蓄の例(1週間分/大人2人)」には、カセットボンベ12本と並んで、米2kg×2袋、そうめん・パスタなどの乾麺が挙がっています。米を炊き、麺をゆでる暮らしを1週間続けるための本数です。

オフィスの備蓄は前提が違います。国と東京都が主食の例に挙げているのは、アルファ化米・クラッカー・乾パン・カップ麺の4つです。炊飯や煮炊きをする品目は入っていません。火を使うとしても、アルファ化米を早く戻すお湯や、カップ麺・インスタントの汁物に注ぐお湯までです。

そこで当社では、オフィスは炊事をしない前提で、カセットボンベを湯沸かし用途に限って数えています。係数は50人に1日1本と置いています。公表された基準ではなく、当社の算定での置き方です。家庭の6本を採らないのは、炊事を前提にした数字だからです。

数え方|人数は「算定対象人数」、日数は「7日目標・3日必須」

掛ける人数は在籍人数ではありません。発災時に職場にいるであろう人数です。在宅勤務・協力会社・来客・徒歩帰宅を足し引きした算定対象人数を使います。出し方は従業員100人の会社は、防災備蓄を何人分そろえればいいですかで扱っています。

日数の置き方は次のとおりです。国と東京都が示す目安は3日分で、これが最低ラインです。当社では7日分を到達点に置き、3日分を第1段階と位置づけています。3日分から段階的に導入する会社が多く、それは現実的な順序です。ただしカセットボンベは、後で説明するとおり発災直後の3日間に使う場面が少ない品目です。7日分へ上積みするときに一緒に足す考え方が合います。3日と7日の使い分けは防災備蓄は何日分そろえればいいですかで整理しています。

ボンベとコンロは分けて考えます。ボンベは使えば減る消耗品なので、人数と日数で本数が決まります。コンロは減らない器具なので、台数は「同時に何か所でお湯を沸かすか」で決まります。社員をどの階にとどめるかを先に決めておくと、コンロを置く場所と台数も決まります(地震のとき、社員を会社のどの階にとどめるかは、先に決めておくべきですか)。

計算例|100人と300人

算定対象人数当社の置き方(50人に1日1本)3日分当社の置き方 7日分参考:家庭の目安(1人1週6本)を掛けた場合の7日分
100人6本14本600本
300人18本42本1,800本

計算式は「算定対象人数 ÷ 50 × 日数」です。100人なら1日2本、300人なら1日6本になります。右の列は比べるために置いたもので、家庭の目安をそのまま掛けると、当社の置き方の約43倍になります。

実務でつまずく点

1. 家庭の「1人1週6本」を人数に掛けて、稟議が止まる

カセットボンベの本数を調べると、農林水産省の6本に行き当たります。国の数字なので、そのまま稟議の根拠に使いたくなります。ところが100人で600本、300人で1,800本です。数字の出どころは正しくても、オフィスの使い方に合っていません。決裁者に「多すぎないか」と聞かれて答えられず、備蓄の稟議全体が差し戻される原因になります。

用途から数え直せば説明がつきます。「オフィスでは炊事をしない。お湯を沸かす分だけを数えた」と書ければ、本数の根拠を問われても答えられます。予算が通らない原因は金額の大きさより、数の根拠が説明できないことにあります。正確に数えることが、予算を通すいちばんの近道です。

2. 人数分のお湯を急いで作ろうとして、コンロを2台並べる

NITEは、カセットこんろの事故を防ぐポイントとして「カセットこんろを2台以上並べて使用しない」を挙げています。ボンベが熱くなりすぎて破裂するおそれがあるからです。紹介されている事故例では、こんろを2台並べて比較的大きな鉄板で調理していたところ、ボンベが破裂し、6名がやけどを負いました。2014〜2023年度の10年間に報告されたカセットこんろの事故は91件で、調査が終わった86件の約4割は誤使用・不注意が推定されています。

オフィスでお湯が要る場面は、数十人・数百人分を一度に求められる場面です。大鍋を2台のコンロにまたがせる、コンロを横に並べる、といった使い方に近づきやすい環境です。備蓄と一緒に「1台に鍋1つ」「並べない」を使い方のメモとして箱に入れておいてください。台数を増やすなら、置き場所を離して使います。

3. 発災した日に火を使う前提で、主食を選んでいる

農林水産省のガイドは、発災当日について「しばらくは余震で火が使えないことも想定」されるとして、水と調理不要な非常食を挙げています。カセットコンロについても「被災しても余震が少なくなる頃から使えます」と書いています。コンロは初日から当てにする道具ではありません。

そのため、主食はお湯が無くても食べられる形でそろえておきます。乾パンとクラッカーはそのまま食べられます。アルファ米は水でも約60分で戻ります。国が挙げる主食の例4つのうち、お湯が要るのはカップ麺だけです。カップ麺を主食の中心に置くと、コンロとボンベが第1層の品目に格上げされてしまいます。主食の例示のうち水や湯が要るものについては会社の防災備蓄で、非常食は1人1日何食で計算しますかで扱っています。お湯に使う水を9リットルの内側から出すかどうかも、そこで決めておく論点です。

4. ボンベが期限管理のリストから漏れている

ボンベは食品ではないので、賞味期限の一覧に入っていないことがよくあります。農林水産省のガイドは使用期限をボンベ約7年、コンロ約10年としています。NITEは、中のゴム部品(Oリング・パッキン)が年月とともに硬くなってひび割れ、ガス漏れにつながると注意しています。紹介されている事故例は、製造から26年たったボンベを使ってガスが漏れ、火災になったものです。

ボンベは水や食料より入れ替えの周期が長いため、担当者が替わると忘れられがちです。食料と同じ台帳に、製造年と入れ替え予定年を1行ずつ入れてください。NITEは、保管のときにボンベのキャップを付けるよう求めています。キャップを外したままだと劣化を早めるおそれがあるからです。

5. 置き場所と使う場所を、熱と換気で決めていない

NITEの保管の決まりは、ボンベをコンロから外し、室内の40℃未満の場所に置くことです。熱源のそばや直射日光の当たる場所は避けます。農林水産省のガイドは、落ちてけがをしないよう低い位置の棚に置き、コンロとボンベは同じ場所にまとめることを勧めています。

使う場所についても、NITEはテント内や車内のような狭い場所で使わないよう注意しています。周りの物に火が移るおそれがあり、不完全燃焼で一酸化炭素中毒になるおそれもあるからです。オフィスで置き換えると、窓の開かない小部屋や倉庫の中で使わないということです。また、ビルによっては館内での火気の使用に決まりがあります。テナントなら、どこでなら使ってよいかを管理会社に先に確認しておいてください。

社内でどう説明するか

稟議にコンロとボンベを入れるときは、金額より前に次の3行を置きます。

行書き方の例
1. 位置づけ「携帯用ガスコンロは、内閣府ガイドライン参考資料2と東京都ハンドブックで『企業ごとに検討』とされる品目。水・主食・毛布・トイレの後に置く」
2. 本数の根拠「オフィスでは炊事をしないため、湯沸かし用途に限って算定対象人数から数えた。農林水産省の家庭向け目安(1人1週6本)は炊事を前提にした数字なので採らない」
3. 段階「3日分は火を使わずに食べられる主食でそろえる。コンロとボンベは7日分への上積みと一緒に導入する」

予算が削られたときは、先にコンロとボンベを後ろへ回します。水・主食・トイレを削ってコンロを残す、という順番にはしません。品目ごとの優先順位は防災備蓄で、絶対に必要なものと、そうでもないものはありますかで整理しています。

よくある誤解

よくある理解実際
国の目安は1人1週6本だから、人数を掛ければよい農林水産省の家庭向けの目安で、炊く・ゆでる前提。オフィスは湯沸かしに絞って数える
カセットコンロは備蓄の必需品内閣府・東京都とも「企業ごとに検討」の例。数量の目安がある第1層は水・主食・毛布
発災したらすぐにお湯を沸かせる農林水産省は、当日は余震で火が使えないことを想定し、コンロは余震が少なくなる頃から使うとしている
早く沸かすには、コンロを並べて大鍋を使えばよいNITEは2台以上並べての使用をやめるよう注意している。ボンベが過熱されて破裂するおそれがある
ボンベは腐らないので、買ったら置きっぱなしでよい使用期限はボンベ約7年・コンロ約10年。ゴム部品の劣化でガス漏れが起きる

まとめ

  • オフィスの備蓄は加熱調理を前提にしなくてよい。国と東京都はコンロを「企業ごとに検討」する品目に置いている
  • 農林水産省の「1人1週6本」は家庭の炊事の数。人数に掛けると100人で600本になる
  • 当社では湯沸かし用途に限って、50人に1日1本と置いている。100人・7日分で14本
  • 発災当日は火を使わない前提で主食を選び、コンロとボンベは7日分への上積みと一緒に足す
  • 2台並べない・40℃未満の室内に置く・約7年で入れ替える、を備蓄と一緒に決めておく

この記事の出典

当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。自社の人数と日数で数えると、ボンベやコンロを含めて何がいくつ要るかは、算定で出せます。

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