必要です。備蓄は会社単位ではなく、拠点ごとに持ちます。内閣府のガイドラインは「被災の可能性がある」全ての事業者に、事業所内で勤務する全従業員の3日分を目安として示しています。本社から運ぶ前提も置けません。東京では震度6弱以上で環状七号線から都心方向への車両が通行禁止になり、大都市圏の鉄道は少なくとも3日間止まる想定です。

この記事では、支店・営業所・サテライトオフィスのような小さな拠点について、備蓄が必要な根拠、拠点ごとの数え方、合算して数えたときに起きるずれを整理します。BCP対策の備蓄を本社の分だけで止めている会社が、拠点を1つずつ足していくための記事です。

根拠の数字|対象は「事業所内で勤務する全従業員」

資料書いてあること小さな拠点にとっての意味
内閣府ガイドライン 参考資料2(令和8年1月)対象となる企業等は「大規模地震発生により被災の可能性がある国、都道府県、市区町村等の官公庁を含む全ての事業者」。対象となる従業員等は「雇用の形態(正規、非正規)を問わず、事業所内で勤務する全従業員」。目安は3日分地域の限定がない。東京都外の支店にも同じ3日分の考え方がかかる
東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」条例Q&A(令和5年3月)「事業者」には「従業員数を問わず、あらゆる企業や業界団体等の法人及び、事業を行う場合における個人が含まれます」5人の営業所も対象から外れない
同 条例Q&A対象は「発災時及びその直後に職場にいるであろう従業者が3日間待機できる量」数えるのは拠点の名簿ではなく、その拠点に居合わせる人数
東京都震災対策条例 第10条事業者は「事業所単位の防災計画」を作成しなければならない都内の拠点は、1つ増えるごとに計画も1本増える
警視庁「大震災発生時の交通規制」震度6弱以上で、環状七号線から都心方向への車両は通行禁止。国道4号・17号・20号・246号など7路線は緊急自動車専用路になり、一般車両は通行禁止都心の拠点へ、発災直後に社用車で物資を届けることはできない
内閣府ガイドライン 第1部の前提大都市圏内の鉄道・地下鉄は「少なくとも3日間は運行の停止が見込まれて」いる備蓄を使う3日間と、運べない期間が重なる

出典:内閣府(防災担当)「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」令和8年1月 3ページ・参考資料2(32ページ)、東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」令和5年3月 46〜47ページ、東京都震災対策条例 第10条、警視庁「大震災(震度6弱以上)が発生した場合、次の交通規制が実施されます。」(いずれも2026年9月26日確認)。

前提の切り分け|東京都の条例と国のガイドラインは、届く範囲が違う

支店が複数の都道府県にまたがる会社では、最初にここを分けておくと話が混ざりません。

東京都帰宅困難者対策条例は、東京都内の拠点にかかります。3日分の備蓄は努力義務で、罰則はありません。東京都外の支店は、この条例の対象外です。ただし、条例の対象外であることは、備蓄が要らないことを意味しません。そこで効くのが国の資料です。

内閣府のガイドライン参考資料2は、地域を限定していません。「被災の可能性がある」全ての事業者を対象に、事業所内で勤務する全従業員の3日分を目安として示しています。東京都外の支店の備蓄を社内で説明するときの根拠は、こちらになります。なお東京都以外の自治体が独自の条例を持っている場合もあるため、拠点の所在地ごとに確認してください。

もう1つ、計画の側の義務があります。東京都震災対策条例 第10条は、都内の事業者に「事業所単位」の防災計画の作成を求めており、こちらは努力義務ではなく「作成しなければならない」です。規模の下限はありません。義務と努力義務の境目は企業に防災備蓄の義務はありますかで整理しています。

数え方|拠点ごとに人数を出し、拠点ごとに切り上げる

拠点が複数あるときの数え方は、1拠点のときと同じ手順を拠点の数だけ繰り返すことです。全社の人数を先に合計して、あとで拠点に配るのではありません。

手順やること合算で数えると起きること
① 拠点ごとの人数その拠点に発災時にいるであろう人数を出す。在宅勤務・外勤を引き、常駐の委託業者や派遣を足す営業職が多い支店と内勤の本社で、在館の割合が違うのに同じ率で引いてしまう
② 拠点ごとの上乗せ東京都内の拠点にだけ、東京都の帰宅困難者上乗せ(10%程度)をかける都外の拠点にまで10%が乗る、または都内の拠点から10%が落ちる
③ 拠点ごとの切り上げ便器の基数や箱の数は、拠点ごとに端数を切り上げる小さな拠点の「0.1基」が合計の中で消える
④ 拠点ごとの置き場所その拠点の中で、人がとどまる場所に寄せて置く「本社の倉庫にある」ことが、支店では何の役にも立たない

①の人数の出し方は従業員100人の会社は、防災備蓄を何人分そろえればいいですかで扱っています。支店でも同じ式が使えます。ここを拠点ごとに正確に数えておくことが、そのまま予算を通す材料になります。予算が通らない原因は、金額の大きさよりも「なぜこの支店にこの数なのか」が自社の判断にしか見えないことです。拠点別の人数が出ていれば、支店の分を削れと言われたときにも、その支店の何人分が消えるのかを示せます。

日数の置き方|7日を目標、3日を必須の第1段階に

公表されている基準は3日分です。内閣府のガイドラインと東京都帰宅困難者対策条例 第7条第2項が示す日数で、発災後72時間を人命救助に充てるため、従業員を社内にとどめておく期間から来ています。内閣府のガイドラインは同時に「3日分以上の備蓄についても検討する」とも書いています。

当社では、7日分を到達点に置き、3日分をそこへ至る第1段階としてご提案しています。これは公的な基準ではなく当社の置き方です。実際には3日分から段階的に導入する企業が多数で、当社もその順序を否定していません。拠点が多い会社では、全拠点で3日分をそろえることを先にし、7日分への上積みはそのあとにするほうが、本社だけ7日分で支店がゼロという状態を作らずに済みます。

計算例|従業員100人・3拠点の会社と、300人・4拠点の会社

拠点ごとの人数は仮の値です。①の手順で出した「その拠点に発災時にいるであろう人数」として読んでください。水と主食は公表基準(1人1日3リットル・3食)をそのまま掛けています。携帯トイレは1日5回に、当社が置いている予備率20%と、東京都内の拠点についてのみ東京都の帰宅困難者上乗せ10%を、掛け合わせずに足しています(都内は1+0.2+0.1=1.3、都外は1.2)。

従業員100人の会社人数(仮)水 3日/7日携帯トイレ 3日/7日便器(50人に1基)
本社(東京都内)70人630L/1,470L1,365回分/3,185回分2基
大阪支店(東京都外)25人225L/525L450回分/1,050回分1基
サテライトオフィス(東京都内)5人45L/105L98回分/228回分1基
拠点ごとに数えた合計100人900L/2,100L1,913回分/4,463回分4基
全社を本社扱いで合算した場合100人900L/2,100L1,950回分/4,550回分2基
従業員300人の会社人数(仮)水 3日/7日携帯トイレ 3日/7日便器(50人に1基)
本社(東京都内)180人1,620L/3,780L3,510回分/8,190回分4基
名古屋支店(東京都外)70人630L/1,470L1,260回分/2,940回分2基
福岡支店(東京都外)40人360L/840L720回分/1,680回分1基
サテライトオフィス(東京都内)10人90L/210L195回分/455回分1基
拠点ごとに数えた合計300人2,700L/6,300L5,685回分/13,265回分8基
全社を本社扱いで合算した場合300人2,700L/6,300L5,850回分/13,650回分6基

水3L・主食3食は内閣府ガイドライン参考資料2、1日5回と50人に1基は内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」、7日分=35回分は経済産業省「トイレ備蓄 忘れていませんか」。予備率20%は当社の置き方です。主食は水と同じく1人1日3食で、表の水の行と同じ比率になります。

2つのことが読み取れます。1つは、合算すると携帯トイレは多めに、便器は少なめに出ることです。携帯トイレが多めに出るのは、都外の拠点にまで東京都の10%が乗るからです。便器が少なく出るのは、5人や10人の拠点の端数が合計の中で消えるからです。拠点ごとに数えると、100人の会社で便器は2基ではなく4基になります。既設の洋式便器が断水時にも使える拠点では、その数を差し引いて構いません。

もう1つは、小さな拠点ほど1人当たりの量が割高になることです。5人の拠点にも便器は1基要り、箱は1箱から買うことになります。予算が限られているときに削りたくなるのは、この割高な小さな拠点です。ただ、削った瞬間にその拠点の5人の3日分がゼロになります。削るなら、拠点を落とすのではなく、全拠点の3日分をそろえたうえで7日分への上積みを先送りにするほうが、穴が残りません。品目の優先順位は防災備蓄で、絶対に必要なものと、そうでもないものはありますかで整理しています。

実務でつまずく点

1. 「本社から運べばいい」が、いちばん通らない3日間に頼っている

支店に備蓄を置かない理由として最も多いのが、「何かあれば本社の倉庫から持っていく」です。しかし警視庁は、東京で震度6弱以上の地震が起きた直後から、環状七号線から都心方向への車両の通行を禁止し、国道4号・17号・20号・246号、目白通り・新目白通り、外堀通り、高速道路・首都高速道路の7路線を緊急自動車専用路にして一般車両を通さないとしています。環状八号線から都心方向への通行も抑制されます。

内閣府のガイドラインも、帰宅の判断にあたって「自動車利用については、緊急通行車両を優先する交通規制が行われている可能性がある」と書き、大都市圏の鉄道は少なくとも3日間止まる前提を置いています。つまり備蓄を使う3日間は、そのまま物資を運べない3日間です。本社から郊外の支店へ向かう場合も、途中の道路の状況は分かりません。拠点に置いていない物資は、その3日間は無いものとして数えてください。

2. シェアオフィスやサテライトは、運営会社の備蓄を当てにしている

東京都の条例Q&Aは、複数の会社が入居するビルの備蓄について「原則として事業者単位の備蓄としているため、各テナントの努力義務」と答えています。ビルの管理会社が持つものではありません。

シェアオフィスやサテライトオフィスについては、東京都のハンドブックにも内閣府のガイドラインにも、名指しした記述はありません。手がかりになるのは2つです。1つは、東京都の条例第8条第3項が、集客施設以外の施設の設置者・管理者にも「施設利用者の保護のために必要な措置」に努めるよう求めていること。もう1つは、同じQ&Aが、来客者・利用者向けの備蓄について一般の事業者には「明文をもって規定はしていません」としていることです。運営会社が何かを備えていても、それは利用者向けで、量の定めはありません。自社の社員が毎日そこで働いているなら、その人数は自社の「職場にいるであろう従業者」として数え、運営会社には何が何人分あるかを1度聞いておくのが確実です。

3. テナントの支店は、とどまる判断そのものをビル側と分け合っている

首都直下地震帰宅困難者等対策連絡調整会議の「事業所における帰宅困難者等対策ガイドライン」は、テナントビルや複合ビルの企業に対し、ビルの施設管理者や他の入居者と「あらかじめ役割分担を取り決める」よう求めています。建物や周辺が安全でない場合は「テナントビルの場合は、施設管理者の指示に従う」とも書いています。本社が自社ビルで、支店がテナントという会社では、本社の手順書をそのまま支店に配っても動きません。支店ごとに、管理会社との役割分担を1枚にしておく必要があります。社員をどこにとどめるかの決め方は地震のとき、社員を会社のどの階にとどめるかは、先に決めておくべきですかで扱っています。

4. 支店に「誰が見るか」が決まっていない

備蓄品は、支店に届けた日から期限が進みます。本社の総務が全拠点の期限を遠隔で追うのは現実的ではありません。内閣府のガイドラインは、企業等に「施設ごとの行動ルール」を策定するよう求めています(22ページ)。行動ルールと同じく、備蓄の確認も拠点ごとに担当を置く前提で組むほうが回ります。

東京都内の拠点であれば、東京都の「事業所防災リーダー」制度が使えます。ハンドブックは「事業所ごとに防災担当者などを『事業所防災リーダー』に登録していただくと」、平時も災害時も東京都からの災害情報をメールやLINEで直接受け取れると案内しています(11ページ)。支店の担当者を決めたら、まず登録してもらうのが手軽な最初の一歩です。

5. 拠点ごとの災害の確認を、全部精緻にやろうとして止まる

支店ごとに想定される災害は違います。ただ、中小企業庁の「事業継続力強化計画 策定の手引き」は「複数の拠点を持つ場合、個々の拠点ごとの詳細な被害想定までは不要です」と明記しています。拠点ごとにハザードマップで1行書き、根拠資料の名前を添えれば足ります。見直しの手順は防災備蓄の見直しは、何から手をつければいいですかにまとめています。

社内でどう説明するか

支店の備蓄を稟議にかけるときは、金額より前に次の4行を置くと、「本社にあるからいいのでは」という反論に先回りできます。

行書き方の例
1. 対象の根拠「内閣府ガイドライン参考資料2は、被災の可能性がある全ての事業者に、事業所内で勤務する全従業員の3日分を目安として示している。都外の支店も対象」
2. 拠点に置く理由「震度6弱以上で環状七号線から都心方向への車両は通行禁止(警視庁)。鉄道は少なくとも3日間止まる想定(内閣府)。発災後に本社から運ぶ前提は置かない」
3. 拠点別の内訳「拠点ごとに人数を出し、東京都の帰宅困難者上乗せ10%は都内の拠点にだけ計上。便器は拠点ごとに切り上げ」
4. 段階「全拠点の3日分を第1段階とし、7日分への上積みは次年度以降に検討する」

拠点別の内訳表を添えると、議論が「総額が高い」から「この支店の数は合っているか」に変わります。後者のほうが通ります。稟議の組み立て方は防災備蓄の予算を、社内でどう通せばいいですかで整理しています。

よくある誤解

よくある理解実際
従業員が数人の拠点は対象外東京都の条例Q&Aは「従業員数を問わず」。内閣府の参考資料2も「全ての事業者」
東京都外の支店は条例の対象外なので要らない条例は都内だけだが、内閣府の参考資料2は地域を限定していない。都外の支店の根拠はこちら
本社の倉庫から運べば足りる震度6弱以上で環状七号線から都心方向は車両通行禁止。鉄道も少なくとも3日間は止まる想定
全社の人数で計算してから拠点に配ればよい都外の拠点に10%が乗り、小さな拠点の便器の端数が消える。拠点ごとに数えて切り上げる
シェアオフィスは運営会社が備えている運営会社の備えは利用者向けで量の定めがない。自社の社員の分は自社で数える

まとめ

  • 支店・営業所・サテライトオフィスにも備蓄は必要。国の目安は「全ての事業者」の「事業所内で勤務する全従業員」3日分
  • 本社から運ぶ前提は置かない。震度6弱以上で環状七号線から都心方向は車両通行禁止、鉄道は少なくとも3日間止まる想定
  • 人数・上乗せ・切り上げはすべて拠点ごと。東京都の帰宅困難者上乗せ10%は都内の拠点だけ
  • 予算が足りないときは、拠点を削らず、全拠点の3日分を先にそろえて7日分への上積みを後にする
  • テナントやシェアオフィスの拠点は、ビル側・運営会社側と役割を1枚にしておく

この記事の出典

当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。自社の拠点ごとの人数で数えると、それぞれの拠点にいくつ要るかは、算定で出せます。

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