外回りや出張で社外にいる社員の分を、会社が別枠で積む公表基準はありません。東京都は、3日分の備蓄の対象を「発災時及びその直後に職場にいるであろう従業者」と説明しています。社内に同時にいる人の最大で数えていれば、外出の多い会社でもその数に収まります。ただし外出中の社員は、訪問先の備蓄も一時滞在施設も当てにできません。会社が決めておくのは、社員の居場所の把握と、戻るか、その場にとどまるかのルールです。

営業や保守、配送など、昼間に社外へ出ている社員が多い会社で、BCP対策の備蓄を何人分にするか決めかねている総務の方に向けた記事です。東京都の帰宅困難者対策ハンドブック(条例Q&A)、首都直下地震帰宅困難者等対策連絡調整会議の事業所向けガイドライン、内閣府のガイドライン、警察庁の運転者向けの措置をもとに、外出中の社員を数に入れるかどうかと、数の代わりに決めておくことを整理します。

根拠の資料|備蓄の対象は「職場にいるであろう従業者」、外出中の社員には「所在の把握」

資料書いていること
東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」令和5年3月 47ページ(条例Q&A)Q「全従業者が常に職場にいるわけではないのですが、厳格に全従業者×3日分の数の備蓄が必要でしょうか」。A「一斉帰宅抑制のため、発災時及びその直後に職場にいるであろう従業者が3日間待機できる量を備えていただきたいという趣旨です」
同 46ページ(条例Q&A)来客者・利用者向けの備蓄は、鉄道などの公共交通事業者と集客施設には努力義務を課している。その他の事業者については明文の規定はないが、条例の趣旨から「可能な限り備蓄をお願いいたします」
首都直下地震帰宅困難者等対策連絡調整会議「事業所における帰宅困難者等対策ガイドライン」令和6年7月26日 8ページ外出する従業員等の所在確認:従業員等は、訪問先の事前連絡、訪問先変更の連絡を行うなどにより、発災時に企業等が所在を把握できるよう努める。また、被災した場所から会社もしくは自宅の距離に応じて従業員がとるべき対応を検討しておくことも望ましい
内閣府(防災担当)「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」令和8年1月 5ページ・7ページ「行き場のない帰宅困難者」は、勤務先や学校など安全に待機できる場所がない者(例:観光客、買い物客)。企業等の備蓄では「備蓄品の保管場所の分散や従業員等への配布を検討する」
同 13ページ・35ページ一時滞在施設の受入期間は原則72時間(3日間)(協定例)。施設は滞在者に、備蓄品に限りがあり食料等の配布ができない場合があることなどを理解してもらう
東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」2ページ/東京都防災ホームページ「一時滞在施設などの情報」都内の帰宅困難者は約453万人、そのうち職場や学校など身を寄せる場のない行き場のない帰宅困難者は約66万人と推計(令和4年5月の被害想定)。一時滞在施設の確保状況は1,310か所・533,644人分(令和8年1月1日現在)
警察庁「大地震が発生したときに運転者がとるべき措置」(交通の方法に関する教則の抜粋)運転中は道路の左側に停止し、カーラジオ等で情報を聞く。車を置いて避難するときは、できるだけ道路外へ。道路上に置くときは左側に寄せ、エンジンを止め、キーは付けたままか車内の分かりやすい場所に置き、ドアはロックしない

都の説明は、全従業者の頭数ではなく、そのとき職場にいるであろう人数で量を決める考え方です。外出中の社員については、国の事業所向けガイドラインが求めているのは物ではなく、どこにいるかを会社がつかめることと、距離に応じた行動を決めておくことです。

前提の切り分け|社外にいる社員は、3つの立場のどれかになる

地震が起きた瞬間に社外にいた社員は、いる場所によって立場が変わります。

いた場所その社員の立場水・食料・トイレを持っているのは
取引先の会社の中訪問先にとっての来客訪問先。ただし一般の事業者の来客分は明文の規定がなく「可能な限り」(都Q&A)
路上・駅・移動中の車職場に戻れなければ行き場のない帰宅困難者一時滞在施設。ただし開設情報が出てから、数に限りあり
自社の別の拠点(支店・工場など)その拠点の在館者その拠点の備蓄

どの立場でも、自社の本社の倉庫の中身は届きません。外出中の社員の分を本社に積み増しても、その社員の手には渡らないということです。だから外出中の社員について考えるのは、量ではなく「戻ってくるか」と「その場で何を持っているか」になります。

他の拠点から出張で来ている社員は、来ている拠点の在館者として数えます。拠点ごとの数え方は支店やサテライトオフィスにも、防災備蓄は必要ですかで扱っています。東京都以外の地域へ出張している社員は、その地域の対策に従うことになります。都以外の条例は東京都以外の自治体にも、企業に防災備蓄を求める条例はありますかで整理しています。

数え方|「外出の多い日」ではなく「全員が戻る日」で数える

当社は、備蓄の人数を在籍人数ではなく、同時に建物にいる人の最大で数えています。そこに常駐する協力会社・派遣と平均的な来客を足し、在宅勤務と徒歩で帰れる人の比率を引きます(当社の算定の置き方。式は従業員100人の会社は、防災備蓄を何人分そろえればいいですかで扱っています)。

外回りの多い会社で気をつけるのは、「最大」をどの日で測るかです。営業が出払っている平日の昼に数えると、在館人数は少なく出ます。朝礼や全社会議、月末の締めなど、外回りの社員が社内に戻っている日が1日の最大です。その日の人数で数えていれば、外出中の社員はそこに含まれています。

もう1つは、「近くにいたら会社に戻る」というルールを作る場合です。戻ってくる社員は、地震のあとに社内にいる人になります。外出の多い時間帯の在館人数で数えた会社は、戻ってくる人数を足して、それでも全員がそろう日の最大を超えないかを確かめます。

計算例|従業員100人と300人の会社

人数は説明のための仮の値です。外出の扱いだけを比べるため、協力会社・来客・在宅勤務・徒歩帰宅の補正は省いています。100人の会社は営業30人、300人の会社は営業90人が昼間は外回りに出ているとします。

数え方100人の会社300人の会社
A. 営業が出払った平日の昼の在館人数70人210人
B. Aに「近くにいたら戻る」営業(半分と仮定)を足した人数85人255人
C. 全社会議の日など、全員がそろう日の最大95人285人
算定に使う人数(BとCの大きいほう)95人285人

Cで数えていれば、外出中の社員のための別枠は要りません。Aで数えてしまうと、100人の会社で25人、300人の会社で75人が抜けます。内閣府ガイドラインの3日分の目安(水は1人1日3リットル、食料は1日3食)で言えば、100人の会社で水225リットル・225食、300人の会社で水675リットル・675食が足りない計算です。

Cの人数で数量を出すと次のとおりです。トイレは1人1日5回で数えます。日数は、当社では7日分を目標、3日分を必須と置いています。3日分は公表されている最低ラインで、当社はそこを第1段階として、7日分まで段階的にそろえる順番を提案しています。携帯トイレには、当社では予備率20%を、東京都内の拠点に限って帰宅困難者上乗せ10%を、掛け合わせずに足し算で数量に乗せています(1+0.2+0.1=1.3)。

品目95人・3日分95人・7日分285人・3日分285人・7日分
水855リットル1,995リットル2,565リットル5,985リットル
食料855食1,995食2,565食5,985食
携帯トイレ(上乗せ前)1,425回分3,325回分4,275回分9,975回分
携帯トイレ(都内・上乗せ後 ×1.3)1,853回分4,323回分5,558回分12,968回分

端数は切り上げています。都外の拠点では10%を乗せず、×1.2で数えます。

実務でつまずく点

1. 訪問先の会社が、来客の分を備蓄しているとは限らない

取引先の会議室で地震に遭えば、社員はその会社の来客です。ところが東京都の条例Q&Aは、来客者向けの備蓄について、鉄道事業者と集客施設以外の一般の事業者には「明文をもって規定はしていません」と書き、「可能な限り備蓄をお願いいたします」とするにとどめています。訪問先にとどまれても、水や食料が回ってくるとは限りません。

これは自社が受け入れる側に回ったときも同じです。自社に来ている来客は、自社が持っていなければ誰も持っていません。当社は来客を、平均的な来客数として実数で積んでいます。東京都内の拠点に乗せる帰宅困難者上乗せ10%は、外部の帰宅困難者のための共助の分で、来客分とは別のものです。

2. 一時滞在施設は、行き場のない帰宅困難者の全員分はない

路上や駅で地震に遭い、職場に戻れない社員は、一時滞在施設を頼ることになります。東京都が確保している一時滞在施設は1,310か所・533,644人分(令和8年1月1日現在)です。一方、都の被害想定(令和4年5月)は、職場や学校など身を寄せる場のない行き場のない帰宅困難者を約66万人と推計しています。時点の違う2つの数字を並べただけでも、受け入れ先は全員分には届いていません。

しかも都は、事前に公表している施設でも被害の状況によっては受け入れができない場合があり、開設の情報が出てから行動するよう求めています。内閣府のガイドラインは、滞在する人に「備蓄品に限りがあり食料等の配布ができない場合がある」ことを理解してもらうよう施設側に求めています。一時滞在施設は、職場にいられない人のための最後の受け皿として考えておくのが実態に合っています。

3. 外回りが多い日に数えて、戻ってくる社員が抜ける

計算例のAのように、ふだんの昼の在館人数で数えると、全員がそろう日や、地震のあとに戻ってくる社員の分が抜けます。入退館の記録が取れるなら、直近1年で在館が最大だった日を見ます。記録がなければ、朝礼や全社会議の出席者数、月末の締めの日の人数が手がかりになります。

ここを正確に数えておくことは、予算の通しやすさにも直結します。稟議で「在籍100人だから100人分」と書くと、なぜその数なのかを説明できません。「全員がそろう日の最大が95人」と書ければ、数量の根拠が自社の勘ではなく記録になり、承認する側も判断しやすくなります。

4. 社員がどこにいるか、会社が分からない

事業所向けガイドラインは、外出する社員が訪問先を事前に連絡し、訪問先が変わったら連絡することで、発災時に会社が所在をつかめるようにすることを求めています。東京都ハンドブックの事業者向けチェックリストにも同じ項目があります(21ページ)。予定表に「外出」とだけ書く運用では、地震のあとにどこを探せばいいか分かりません。

予定表は、停電や通信の混雑で開けないこともあります。当社は、安否確認の返信項目に「いまいる場所」と「これから戻るか、その場にとどまるか」を入れておくことをおすすめしています。社内にいる人数が地震のあとにどう変わるかが、その返信で分かります。

5. 営業車で会社へ戻ろうとする

警察庁は、運転中に大地震が起きたら道路の左側に停止し、カーラジオ等で情報を聞いてから行動するよう求めています。東京23区で震度6弱以上の地震が起きると、環状7号線の内側への車の流入を禁止し、環状8号線の内側への流入を抑制する交通規制が行われることがあり、警察庁は都心部への車両移動と都心部での車両使用の自粛を呼びかけています。東日本大震災の日は、都区部の16時台〜23時台の平均速度が時速6.2キロでした。

車を置いて離れるときは、できるだけ道路の外へ移し、やむを得ず道路に置くなら左側に寄せてエンジンを止め、キーは付けたままか車内の分かりやすい場所に置き、ドアはロックしません。営業車に積んでおいた水や携帯トイレは、車を離れるときにかばんへ移せる量でなければ使えません。社用車の使い方のルールに、この手順を書き足しておきます。

6. 外回りのかばんに、何も入っていない

内閣府のガイドラインは、企業等の備蓄について「備蓄品の保管場所の分散や従業員等への配布を検討する」としています(7ページ)。外回りの社員にとって、配られた分がかばんに入っていることが、訪問先でも路上でも使える唯一の備えになります。警視庁の「帰宅困難者心得10か条」も、携帯電話と携帯ラジオをポケットに、机の中にチョコやキャラメル、と身の回りに持つ備えを挙げています。

当社は、外回りの社員には会社の備蓄から携帯トイレなどを分けて持たせる形をおすすめしています。数を増やすのではなく、同じ人の分を置く場所を倉庫からかばんへ分ける考え方です。持たせた分は倉庫の在庫から外れるので、どこに何個あるかを台帳に残し、期限の管理から漏らさないようにします。スマートフォンの電池の持たせ方は停電したとき、会社にとどまる社員のスマートフォンの充電はどう備えればいいですかで扱っています。

予算が限られているときの順番

外出中の社員のためにまずやることは、ほとんどお金がかかりません。最初に、訪問先の事前連絡と、距離に応じて戻るか、その場にとどまるかのルールを決め、営業車を置いて離れる手順と合わせて周知します。次に、全員がそろう日の在館人数で数え直し、その人数の3日分を水と携帯トイレからそろえます。外回りの社員への配布はそのあとで、倉庫の分を分けて持たせるので、総量は増えません。訪問先や一時滞在施設を当てにして、自社の数を減らすことはこの順番に入りません。

社内でどう説明するか

「外回りが多いのだから、在館している人の分だけでいいのでは」「逆に、外出中の人の分も積むべきでは」と意見が分かれたときは、次のように書けます。

「当社の備蓄は、東京都帰宅困難者対策条例の趣旨(都Q&A:発災時及びその直後に職場にいるであろう従業者が3日間待機できる量)に沿って、全員がそろう日の最大在館人数〇人を対象としています。外出中の社員の分を本社に積み増しても本人には届かないため、事業所向けガイドラインに沿って、訪問先の事前連絡と、距離に応じて戻るか、その場にとどまるかのルールを定めます。外回りの社員には、備蓄の一部を分けて持たせます(総量は変わりません)。」

人数の根拠を「全員がそろう日の記録」で示すと、多すぎるという指摘にも、少なすぎるという指摘にも同じ数字で答えられます。

よくある誤解

よくある理解実際
外出中の社員の分も、本社に積んでおくべき本社の倉庫の中身は、社外にいる社員には届かない。都の説明は「職場にいるであろう従業者」が3日間待機できる量
外回りが多いので、ふだんの昼の在館人数で数えればよい全員がそろう日が1日の最大。地震のあとに戻ってくる社員も、社内にいる人になる
訪問先にいれば、その会社が面倒を見てくれる一般の事業者の来客分は明文の規定がなく、都は「可能な限り」とお願いしている段階
路上で被災しても、一時滞在施設に入れる都内の確保は533,644人分(令和8年1月1日現在)、行き場のない帰宅困難者の推計は約66万人(令和4年5月)。開設の情報が出てから向かう
営業車があれば、すぐ会社に戻れる運転中は左側に停止。23区で震度6弱以上なら環状7号線の内側への流入禁止などの交通規制があり、都心部での車両使用は自粛を求められる

まとめ

  • 外出中の社員の分を別枠で積む公表基準はない。都の説明は「発災時及びその直後に職場にいるであろう従業者」が3日間待機できる量
  • 人数は外出の多い日ではなく、全員がそろう日の最大で数える。近くにいたら戻るルールなら、戻る人も社内の数に入る
  • 訪問先の来客分も一時滞在施設も、全員分がそろっているとは限らない
  • 会社が決めるのは、訪問先の事前連絡と、距離に応じて戻るか、その場にとどまるかのルール。営業車を置いて離れる手順も合わせて決める
  • 外回りの社員には、備蓄の一部を分けて持たせる。総量は増やさない

この記事の論点だけでも、最大在館人数の測り方、戻ってくる人の扱い、訪問先の事前連絡、距離に応じたルール、営業車を置いて離れる手順、外回りの社員に持たせた分の期限管理と、確かめることが6つあり、営業の人数や担当エリアが変わるたびに見直しになります。備蓄は人の命に関わるので1つも落とせず、これを担当者1人が覚えて回し続けるのは現実的ではありません。当社はそのための管理の仕組みをご用意しています。

当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。自社の人数で数えると、どの品目がいくつ要るかは、算定で出せます。

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