懐中電灯・携帯ラジオ・乾電池は、国のガイドラインで会社が備える「特に必要性が高いもの」に挙がっていますが、数量の目安はありません。当社では、明かりは「暗いと動けない場所」ごとと動く役割の人数分、ラジオは対策本部と待機区画に1台ずつ、乾電池は機器が決まってから使う時間で数えることをおすすめしています。建物の非常灯は、法令上30分点けば足りる避難のための設備です。

BCP対策を担当する総務の方に向けた記事です。水や非常食には「1人1日3リットル」「1日3食」という目安があるので、人数を掛ければ数が出ます。懐中電灯やラジオには、その目安がありません。「全員分」と書くと多すぎる気がし、「数本」と書くと足りるのか説明できない。国と東京都の資料が何を書いていて何を書いていないのか、建物の非常灯がどこまで当てにできるのかを確かめたうえで、数え方と、買ったあとにつまずく点を整理します。

根拠の資料|品目の名前は挙がっているが、何個という数はどこにもない

資料書いていること
内閣府(防災担当)「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」令和8年1月 参考資料2数量の目安は水(1人1日3リットル)・主食(1人1日3食)・毛布(1人1枚)だけで、「その他の品目については、物資ごとに必要量を算定」。会社が備える「特に必要性が高いもの」の例に携帯ラジオ、懐中電灯、乾電池が入っている(32ページ)
東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」令和5年3月同じ並びで携帯ラジオ・懐中電灯・乾電池を例示(15ページ)。停電で空調が使えないときに備え「毛布やカイロ、乾電池等で使用できる冷暖房機器等を準備しておきましょう」(17ページ)。発災後は「照明設備や空調設備等必要な措置を講じ、施設内待機可能な環境を確保」(19ページ)
首都直下地震帰宅困難者等対策連絡調整会議「事業所における帰宅困難者等対策ガイドライン」令和6年7月 参考3施設内待機の計画の例に「テレビ・ラジオ・無線機などの情報入手手段の準備」として「情報入手手段の運用方法(電源の確保を含めた管理等)」「情報入手手段の数量、配置場所」、さらに「非常用電源による電源供給の必要範囲の設定(非常用エレベーター、照明等)」(15〜16ページ)
東京消防庁「事業所防災計画(帰宅困難者対策)作成例」備蓄品の別表の「その他の物資」に携帯ラジオ・懐中電灯・乾電池(単1から単4)・拡声器。水や食料には1人1日の量が書かれているが、これらには書かれていない。災害関連情報を集めて従業員等へ伝えるため「あらかじめ停電時を考慮した情報収集手段及び提供方法を定めておく」
建築基準法施行令 第126条の5/昭和45年建設省告示第1830号(大田区の解説)建物の非常用の照明装置は、停電時に予備電源で30分以上点灯し、床面で1ルクス(蛍光灯・LEDは2ルクス)以上を保ち、「避難を速やかに行うための照明器具」
消防法施行規則 第28条の3第4項第10号誘導灯の非常電源は、誘導灯を有効に20分間作動できる容量以上(消防庁長官が定める要件に当たる建物の避難口・廊下・階段などに設けるものは60分間)
内閣府「大規模地震に備えるための家庭での停電対策について」(家庭向けパンフレット)夜間の停電では出口や床の段差、ガラスの破片が見えず避難が困難になる。懐中電灯や足元灯を備え、情報を得るためにラジオや予備の電池を常備する。手動で充電できるラジオもある

国の整理では、懐中電灯・ラジオ・乾電池は、数量まで示された水・主食・毛布の次の「特に必要性が高いもの」の層にあります。この層の分け方は防災備蓄で、絶対に必要なものと、そうでもないものはありますかで扱っています。ここで押さえたいのは、品目の名前は複数の資料に繰り返し出てくるのに、何個という数はどの資料にも無いことです。

前提の切り分け|人数と日数で掛ける品目ではない

水や食料は、1人が1日に使う量に人数と日数を掛けて数えます。懐中電灯とラジオは、何人で使っても1本、何日使っても1本です。当社では、社員数ではなく「どこが暗くなるか」「誰が動くか」「どこで情報を受け取るか」で数えることをおすすめしています。日数が効いてくるのは、機器の中で減っていく乾電池だけです。

資料の向きも分けておきます。内閣府のガイドラインは全国の企業向け、事業所のガイドラインは首都直下地震を想定して国と都県などの会議がまとめたもので、東京都のハンドブックと東京消防庁の作成例は都内の事業所向けです。どの資料も数量は示していないので、都外の会社でも数え方は変わりません。

もう1つは、建物に付いている照明との関係です。非常灯(非常用の照明装置)と誘導灯は、停電した建物から人を外へ出すための設備で、法令が求める点灯時間は30分と20分(一部60分)です。社内に3日間とどまる間の明かりは、この設備の役目に入っていません。非常用発電機から照明に電気を送るビルもありますが、どの区画まで届くかは建物ごとに違います。事業所のガイドラインも「非常用電源による電源供給の必要範囲の設定」を計画の項目に入れています。

数え方|3つに分けて、場所の一覧から数を出す

当社では、明かりと情報の備えを次の3つに分けて数えることをおすすめしています。

分け方何のためか数の出し方(当社のすすめ)
A. 据え置きの明かり暗いと動けない場所で、誰が来ても手に取れるようにする倉庫の外・待機区画・トイレ・階段など、場所の一覧に1つずつ。倉庫の中にしまい込まない
B. 手に持つ明かり揺れのあと建物の中を動く人(初期消火・救護・点検・備蓄品の配布など)が両手を使えるようにする消防計画や防災計画・BCPで役割を決めた人数
C. 情報を受け取る機器停電で館内放送や社内のディスプレイが止まっても、災害の情報と鉄道の運行状況を受け取って伝える対策本部に1台+待機区画ごとに1台。館内放送の代わりに拡声器

Aを「場所」で数える考え方は、夜間・休日の発災を扱った夜間や休日に大地震が起きたら、会社の防災備蓄はどう考えればいいですかの「暗いと動けない場所ごとに置く」と同じです。Bをヘッドライトにするかどうかは、両手で何をするかで決めます。けが人を運ぶ、備蓄の箱を配る、階段を上り下りする人には、手で持つ懐中電灯より両手が空く形が向いています。

乾電池は、機器の数が決まってから数えます。1台ごとに「入れる本数」と「使う時間のあいだに何回入れ替えるか」を掛けます。入れ替えの回数は、取扱説明書に書かれた連続使用時間と、使う時間(夜の長さ×とどまる日数)から出します。だから乾電池は、機器を選ぶ前に「何本」と決めることができません。

とどまる日数の置き方も書いておきます。国と東京都が示す目安は3日分です(東京都の条例では努力義務)。当社ではこれを全員に必要な最低ライン、7日分を目標に置いていますが、3日分から段階的に積み増す会社が多く、それが現実的な順序です。乾電池の入れ替え回数は、まず3日分で数えます。

計算例|従業員100人の5階建てと、300人の10階建て

フロア数と役割の人数は説明のための仮の数です。待機区画は各階に1か所、役割を持って動く人は各階2人と置いています。

100人・5フロア300人・10フロア
A. 据え置きの明かり(各階の待機区画・トイレ・階段に1つずつ)1530
A. 倉庫の外に置く分11
B. 手に持つ明かり(各階2人)1020
明かりの合計2651
C. ラジオ(対策本部1台+各階の待機区画1台)611
C. 拡声器(対策本部)11
乾電池機器ごとに「入れる本数×入れ替えの回数」。機器が決まってから数える同左

人数が3倍になっても、明かりは2倍弱です。数を決めているのが人数ではなくフロアと場所だからです。逆に言えば、同じ100人でも、ワンフロアの会社と5フロアに分かれた会社では、必要な数がまったく違います。社員数に比例させて「100人なら100本」と書くと、ワンフロアの会社では多すぎ、フロアの多い会社では階段が抜けます。

実務でつまずく点

1. 建物の非常灯は、30分点けば足りる設備として作られている

停電すると、天井の非常灯と緑色の誘導灯が点きます。これがあるから明かりは大丈夫、と考えている会社は少なくありません。ところが、非常用の照明装置に法令が求めているのは、予備電源で30分以上点灯し、床面で1ルクス(蛍光灯・LEDは2ルクス)以上を保つことです。誘導灯の非常電源は20分間(消防庁長官が定める要件に当たる建物の避難口・廊下・階段などは60分間)です。どちらも、停電した建物から人を外へ出すまでの明かりで、社内に朝までとどまるための明かりではありません。

東京消防庁の停電時の対策も、誘導灯について「自衛消防隊等による避難誘導体制を再確認する」としています。非常電源は所定の時間を過ぎれば止まる前提で書かれています。非常用発電機から照明へ電気を送る建物もありますが、どの区画まで届くか、燃料が何時間もつかは建物ごとに違います。テナントの会社は、ビルの管理会社に「停電したとき、自社の区画で何時間、どの照明が点くか」を聞いておきます。その答えが、Aの据え置きの明かりを置く場所の一覧になります。

2. 買い置きの電池を、袋や箱にばらしてまとめて入れておくと破裂することがある

製品評価技術基盤機構(NITE)は、買い置きのボタン電池の包装をはがし、ほかの電池と同じ袋に入れておいたところ、電池同士が触れてショートし、破裂して袋が焦げた事故を紹介しています。事故防止の注意は「電池を保管するときは、他の電池や金属製のものと接触させないでください」です。

備蓄の箱に、懐中電灯の予備の単3、ラジオの単4、どこかで余ったボタン電池を、ばらしてまとめて入れていないかを確かめます。当社では、乾電池は買ったときの包装のまま保管し、使いかけの電池を備蓄の箱に戻さないことをおすすめしています。

3. 停電中の明かりに、ろうそくやライターを使わない

千葉市消防局は、停電時には自動火災報知設備やスプリンクラーなどの消防用設備が機能しないことがあり、在館者に火気の使用に注意するよう周知することを求めています。内閣府も、停電中に火を使う場合は、余震で火元の器具が倒れて火災になる危険があるとしています。柏市消防局は、ろうそくを使うなら火をつけたまま離れない、倒れないように安定させる、閉め切った場所で一度に多く使わない、などの注意を挙げています。

火災を見つける設備も消す設備も止まっているかもしれない建物で、大勢が一晩過ごすことになります。当社では、会社の備蓄の明かりは電池式に限り、ろうそくは備蓄の一覧に入れないことをおすすめしています。社員がスマートフォンのライトで代わりにすると、安否確認に使う電池が減ります。スマートフォンの電源の考え方は停電したとき、会社にとどまる社員のスマートフォンの充電はどう備えればいいですかで扱っています。

4. 電池の新旧を混ぜて入れると、液漏れする

NITEは「新旧の電池を混ぜて使うと過放電を引き起こし液漏れします。交換時はすべて新しいものにしてください」としています。点検の日に、懐中電灯から1本だけ抜いて新しい電池に替える、ということをすると、この状態になります。

入れ替えるときは、機器1台の電池を全部まとめて替えます。予備の乾電池は、同じ時期に買ったものを1台分の組で持っておきます。柏市消防局も、停電に備えて事前に懐中電灯の電池を確認しておくよう呼びかけています。電池を機器に入れたまま保管するか、外しておくかは、機器と電池の取扱説明書に従ってください。どちらにするかを決めたら、棚卸しの手順に書いておきます。

5. ラジオを置いただけでは、情報は社員に届かない

事業所のガイドラインは、ラジオなどの情報入手手段について、数量と配置場所に加えて「運用方法(電源の確保を含めた管理等)」を決めておくよう計画の例に入れています。東京消防庁の作成例も、情報収集の手段だけでなく、従業員等への「提供方法」を停電時を考慮して定めておくとしています。

誰がラジオを聞き、聞いた内容を何に書いて、どこに貼るのかが決まっていないと、ラジオは対策本部の机の上で鳴っているだけになります。館内放送が止まった建物で、各階の待機区画に伝える手段も要ります。東京消防庁の作成例には拡声器も例に挙がっています。当社では、館内放送の代わりに待機区画へ伝える手段として使うことを想定しています。都内の事業者等には、東京都帰宅困難者対策条例 第11条第2項で、従業者・利用者等への災害関連情報等の提供の努力義務もあります。掲示の手段の考え方は停電したとき、会社にとどまる社員のスマートフォンの充電はどう備えればいいですかでも扱っています。

6. 機器ごとに電池のサイズがばらばらで、予備がかみ合わない

東京消防庁の作成例は、備蓄の乾電池を「単1から単4」と書いています。懐中電灯は単1、ラジオは単3、ヘッドライトは単4と、機器ごとにサイズが違うと、予備の電池をサイズごとに数え、サイズごとに期限を見ることになります。停電の夜に、余っている単3を単1の懐中電灯に使うこともできません。

当社では、新しく買う機器は電池のサイズをそろえることをおすすめしています。内閣府のパンフレットが紹介しているとおり、手回しなどで充電できるラジオもあります。乾電池が切れても使える機器を1台入れておくと、電池の数え違いがあっても情報が途切れません。

場所の一覧から数を出しておくと、この6つのどれかで数が変わっても、どこが何個変わったのかを説明できます。当社では、場所ごとに数えた一覧を稟議の根拠にすることをおすすめしています。数の根拠を示せることが、予算を通す近道になるからです。

社内でどう説明するか

懐中電灯やラジオは単価が低いので、稟議では「なぜこの数なのか」より「なぜ今まで無かったのか」を聞かれがちです。建物の非常灯との役割の違いと、場所で数えた根拠を並べると通りやすくなります。

稟議の書き方の例

停電時の照明と情報収集の手段を整備します。建物の非常用照明は建築基準法施行令と告示にもとづき30分以上点灯する避難用の設備で、社内待機中の照明には当たりません(管理会社に確認した非常用電源の供給範囲:〇〇)。

据え置きの照明は、倉庫の外・各階の待機区画・トイレ・階段の〇か所に各1台、手に持つ照明は消防計画で役割を定めた〇名分、ラジオは対策本部と各階の待機区画の〇台、拡声器は対策本部に1台とします。内閣府のガイドライン(令和8年1月)は携帯ラジオ・懐中電灯・乾電池を特に必要性が高い品目としていますが、数量の目安は示していないため、場所と役割から数を算定しました。

乾電池は機器ごとの使用本数と連続使用時間から3日分を算定し、包装のまま保管します。照明はすべて電池式とし、火気は使用しません。

予算が限られるなら、当社のおすすめの順番は次のとおりです。お金がかからない準備(管理会社への確認、電池のサイズの統一、保管方法の見直し)を先に済ませ、買う物は倉庫の外・階段・トイレの据え置きの明かりと、対策本部のラジオ1台から始めます。待機区画ごとのラジオは、対策本部で聞いた内容を掲示と拡声器で伝える手順が決まっていれば、後に回せます。

よくある誤解

誤解実際
停電しても非常灯が点くので、懐中電灯は要らない非常用の照明装置は30分以上、誘導灯は20分間(一部60分間)点けば足りる避難用の設備。社内にとどまる間の明かりは別に要る
懐中電灯は社員の人数分そろえる国も都も数を示していない。当社では、暗いと動けない場所と、動く役割の人数で数えることをすすめている。人数に比例させるとフロアの多い会社で階段が抜ける
電池は箱にまとめて入れておけば安心電池同士や金属に触れるとショートして破裂することがある(NITE)。包装のまま保管する
電池が切れかけたら、1本ずつ新しいものに替えればよい新旧を混ぜると液漏れする(NITE)。機器1台分をまとめて替える
ろうそくは長持ちするので、停電の備えに向いている停電中は自動火災報知設備やスプリンクラーが機能しないことがある(千葉市消防局)。会社の備蓄の明かりは電池式に限るのが当社のすすめ

まとめ

  • 懐中電灯・携帯ラジオ・乾電池は、国のガイドラインで会社が備える「特に必要性が高いもの」の例。ただし数量の目安はどこにもない
  • 建物の非常灯は30分以上、誘導灯は20分間(一部60分間)点けば足りる避難用の設備。社内にとどまる間の明かりは別に備える
  • 当社のすすめは、明かりを「暗いと動けない場所」と「動く役割の人数」で、ラジオを対策本部と待機区画で数えること。乾電池は機器が決まってから使う時間で数える
  • 乾電池は包装のまま保管し、入れ替えは1台分まとめて。電池のサイズはそろえる
  • 停電中の明かりに火を使わない。ラジオは、聞く人と伝え方まで決めて初めて役に立つ

この記事の論点だけでも、非常用電源が届く範囲、明かりを置く場所の一覧、役割を持つ人数、ラジオを聞いて伝える手順、乾電池の本数と保管方法と、確かめることが5つあり、フロアごと・拠点ごとに繰り返します。備蓄は人の命に関わるので1つも落とせず、これを担当者1人が覚えて回し続けるのは現実的ではありません。当社はそのための管理の仕組みをご用意しています。

当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。自社の人数で数えると、どの品目がいくつ要るかは、算定で出せます。

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