防災備蓄の訓練は、備蓄を「開ける・配る・使う」まで実際に手を動かし、安否確認の手段も動かして、うまくいかなかった点を記録し手順を直すことです。首都直下地震の帰宅困難者対策の事業所向けガイドラインは、自衛消防訓練などの際に施設内待機の手順も確かめ、年1回以上の訓練を検証して計画に反映するとしています。いつもの避難訓練に、鍵を開け、配り、携帯トイレを1つ開けてみる時間を足します。

BCP対策を担当する総務の方に向けた記事です。備蓄をそろえ、一覧で期限も管理している。それでも、発災当日にその箱を開けたことのある人が社内に1人もいなければ、備蓄は倉庫から出てきません。国と東京都の資料が訓練について何を書いているかを確かめたうえで、備蓄を使う訓練で何をすればいいのか、どこでつまずくのかを整理します。

根拠の資料|国と都は「年1回以上」「待機の手順も確かめる」「トイレは使い方の訓練まで」と書いている

資料書いていること
首都直下地震帰宅困難者等対策連絡調整会議「事業所における帰宅困難者等対策ガイドライン」令和6年7月26日 6.企業等は、地震を想定して自衛消防訓練等を定期的に実施する際に、併せて施設内待機に関する手順等についても確認し、必要な場合は改善を行う。また、年1回以上の訓練を定期的に実施し、結果を検証して、必要に応じて施設内待機に係る計画等に反映させる(9ページ)
同ガイドライン 参考(施設内待機計画の例)帰宅困難者対策訓練の実施時期の例に「震災を想定した自衛消防訓練の一部として実施、毎年9月」、訓練の内容の例に「従業員等の待機、備蓄品の配備、家族との安否確認」(16ページ)
内閣府(防災担当)「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」令和8年1月企業等の平時の対策に「年1回以上の実動訓練や図上訓練等による定期的な手順の確認と改善」を挙げる(8ページ)。従業員等が安全に帰宅できたかを報告するツールを用意し、訓練により動作を確認することが望ましい(50ページ)
東京都「東京トイレ防災マスタープラン」令和7年3月事業者は、携帯トイレや簡易トイレについて、従業員や顧客等の外来者が混乱することなく使用・維持管理するためのマニュアルを作成するとともに、訓練や研修を実施(26ページ)
東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」令和5年3月訓練の例に、全社訓練・部署別の訓練・社内宿泊訓練・社外訓練。訓練後はアンケートなどで課題を洗い出し、マニュアル等の見直しに反映する。建物を共有する企業間で合同訓練を行うなど協力体制づくりに努める(16ページ)
東京都「東京事業所防災実践マニュアル」2025年版あまり訓練をしたことのない事業所は、小規模な避難訓練や非常時の情報連絡訓練から。避難訓練や情報連絡訓練は工夫すれば少人数・短時間でもでき、できれば年間複数回。訓練で「うまくいかない」のは当たり前で、見つかった課題を共有して改善する(114〜117ページ)

事業所ガイドラインには、参考事例として1社の訓練も載っています。平成24年2月に東京駅会場で行われた帰宅困難者対策訓練では、21階建ての本社ビルの大部分の従業員が参加し、自衛消防訓練と連動させて、一斉帰宅の抑制、備蓄品の配布、情報収集と連絡、家族との安否確認を訓練の項目にしています(事業所ガイドライン 10ページ)。同じガイドラインは、施設内待機計画の例でも、訓練の内容に「備蓄品の配備」を挙げています(16ページ)。

前提の切り分け|避難訓練は「出る」訓練、備蓄の訓練は「とどまる」訓練

毎年の避難訓練は、多くの場合、建物の外へ出る訓練です。一方、大地震のあとに国と東京都が会社に求めているのは、むやみに移動を開始せず、安全を確かめたうえで社内にとどまることです。備蓄は、このとどまる側で使います。事業所ガイドラインが「自衛消防訓練等を実施する際に、併せて施設内待機に関する手順等についても確認」と書いているのは、同じ日に両方を確かめるという意味です。

上の資料のうち、事業所ガイドラインと東京都の資料は首都直下地震を想定した首都圏・東京都向けです。内閣府のガイドライン(令和8年1月)は大規模な帰宅困難者の発生全般を対象にしていて、そこでも年1回以上の訓練が平常時の対策に入っています。都外の拠点でも、考え方はそのまま使えます。

消火訓練・避難訓練の回数は、消防法の側で決まります。年2回以上の消火訓練・避難訓練が義務づけられているのは消防法施行規則第3条第10項が列挙する防火対象物で、一般の事務所は列挙に入っておらず、回数は消防計画で定めます。この点と、既存の訓練の回に議題を足す考え方は、防災備蓄の管理は、総務が1人でも回せますかで整理しました。この記事では、その議題で何をするかを扱います。

数え方|「やった」ではなく「直した手順が残った」で1回と数える

事業所ガイドラインは、年1回以上の訓練に続けて「当該訓練の結果について検証するとともに、必要に応じて施設内待機に係る計画等に反映させる」と書いています。訓練の回数を数えるときに外しやすいのが、この後半です。当社では、次の5つを確かめ、直した手順が一覧やマニュアルに残ったところで1回と数えています。これは公表された基準ではなく、当社の置き方です。

確かめることやること根拠になる資料
1. 開ける倉庫・キャビネットの鍵を、担当者以外の人が取りに行って開ける都の実践マニュアル(鍵の保管場所などアクセス方法も一覧に)90〜91ページ
2. 配る何人に・何を・どれだけ・どこで渡すかを、実際の人数で回してみる事業所ガイドライン 計画例「備蓄品の配備」16ページ/10ページの訓練事例
3. 使う携帯トイレを1つ実際に便器にかぶせる。非常食を1つ作ってみる東京トイレ防災マスタープラン 26ページ(使用・維持管理の訓練)
4. つなぐ安否確認と、家族との伝言の手段を実際に動かす事業所ガイドライン 9ページ(安否確認の訓練)/内閣府ガイドライン 50ページ
5. 記録するかかった時間、足りなかった物、分からなかった人を書き残し、手順を直す事業所ガイドライン 9ページ(検証・反映)/ハンドブック 16ページ(アンケート)

5つを1日で全部やる必要はありません。都のマニュアルは、避難訓練や情報連絡訓練について、少人数・短時間で年に何度か重ねることを勧めています。当社では備蓄の訓練も同じ考え方で、たとえば春の避難訓練で「開ける・配る」、秋の訓練で「使う・つなぐ」と分けることをおすすめしています。これでも1年で一巡します。

計算例|訓練で開ける分は、入れ替えの分から出す(100人と300人)

「開けるともったいない」は、訓練を止める理由としてよく出てきます。そこで、訓練に回せる量を数で出しておきます。人数は同時に社内にいる最大の人数(従業員100人の会社は、防災備蓄を何人分そろえればいいですか)、主食は1人1日3食、携帯トイレは1人1日5回(内閣府のトイレのガイドライン)で計算しています。公表されている目安は3日分で、当社では3日分を欠かさない第1段階、7日分を到達点と置いています。携帯トイレには、当社では予備率20%を乗せています。

項目100人300人
主食の必要数(3日分)900食2,700食
主食の必要数(7日分・当社の到達点)2,100食6,300食
期限5年の主食を5年に分けて買った場合、毎年入れ替える量(3日分)180食540食
同じく、1人あたりに直すと1.8食1.8食
携帯トイレ(3日分・当社の予備率20%込み)1,800回分5,400回分
全員が1回ずつ試した場合に使う数100回分(約5.6%)300回分(約5.6%)
各階の担当者2人だけが開ける場合(3フロアの例)6回分(約0.3%)6回分(約0.1%)

読み方は2つです。1つ目は、主食は入れ替えで毎年出る分だけで、1人あたり2食近くを試食に回せることです。期限の年数は製品ごとに違うので、手元の表示で確かめてください。入れ替えの考え方はローリングストックは、会社の防災備蓄でもできますかで扱っています。2つ目は、携帯トイレは全員が試すと予備率の枠(100人なら300回分)の3分の1を使うので、当社では各階の担当者が見本として開け、ほかの人は見て覚える形をおすすめしています。開けた分はその月のうちに補充し、補充した日を一覧に書きます。

実務でつまずく点

1. 避難訓練は外に出て終わるので、備蓄の箱が一度も開かない

毎年訓練をしている会社でも、備蓄の箱を開けたことがないのは珍しくありません。避難訓練は、建物の外や集合場所に出て人数を数えたところで終わることが多く、そこから先の「とどまる」場面がないからです。東京都のチェックリストも、自衛消防訓練などの際に施設内待機の手順を併せて確かめているかを、独立した確認項目にしています(ハンドブック 22ページ)。

事業所ガイドラインの参考事例でも、一斉帰宅の抑制と備蓄品の配布が同じ日の訓練項目に並んでいます。当社では、避難訓練の解散前に、15分だけ「社内にとどまる場合」に切り替え、倉庫の前まで行って箱を開ける形をおすすめしています。それだけで、発災当日に初めて箱を開けるという状態はなくなります。

2. 鍵と置き場所を知っているのが、担当者1人だけ

東京都の実践マニュアルは、実際の備蓄の量と置き場所のほか、鍵の保管場所などアクセスする方法もまとめて一覧にし、従業員間で共有するよう書いています(90〜91ページ)。訓練では、あえて担当者以外の人に鍵を取りに行ってもらいます。鍵が担当者の机の引き出しにある、倉庫がビルの管理会社の管理で夜間は開かない、といったことは、棚卸しで数が合っていても見えません。

担当者が不在の夜間・休日にだれが開けるかは、夜間や休日に大地震が起きたら、会社の防災備蓄はどう考えればいいですかで扱っています。テナントビルで倉庫や共用部の扱いが自社だけで決まらない場合は、東京都のハンドブックが勧める建物を共有する企業間の合同訓練(16ページ)に、管理会社も入ってもらう形が近道です。

3. 携帯トイレは「見れば分かる」と思われている

東京都のトイレの計画は、事業者の役割として、携帯トイレや簡易トイレを従業員や顧客等の外来者が混乱することなく使用・維持管理するためのマニュアル作成と、訓練や研修を挙げています(26ページ)。使い方だけでなく「維持管理」まで書かれているのがポイントです。袋をかぶせる、凝固剤を入れる、口を縛る、使い終わった袋をどこへ運ぶか、までが1回の使用です。

都の実践マニュアルも、発災直後から携帯トイレに切り替えられるよう、備蓄場所を把握し、使用方法を掲示できるよう準備しておくよう書いています(60〜61ページ)。訓練で実際に1つ開けてみると、掲示する紙に何を書けばいいかがその場で分かります。来客にも使ってもらう前提なので、文字だけでなく手順の図があるほうが伝わります。既設の便器の使い方は災害用トイレは何人に1基必要ですかで、使用済みの袋の行き先は使用済みの携帯トイレは、誰が回収してくれますかで扱っています。

4. 「うまくいった」で終わり、手順が直らない

都の実践マニュアルは、訓練で「うまくいかない」「思い通りにならない」のは当たり前だとし、見つかった課題を参加者と共有して少しずつ改善するよう書いています(114〜117ページ)。決まり事を実践できるかを確かめる「できるようになる」訓練と、既存のマニュアルではうまくいかない場面に気づく「課題に気づく」訓練を分けて考えると、失敗を書き残しやすくなります。

書き残すときは、数で残します。配り終えるまで何分かかったか、何人分が足りなかったか、何人が携帯トイレの使い方を知らなかったか。数があれば、不足の買い足しを稟議に書くとき、担当者の感想ではなく会社の記録として説明できます。当社が商談でうかがう限り、予算が止まる理由は金額の大きさより、数の根拠が担当者の判断に見えることにあります。

5. 人が入れ替わると、去年の訓練が効かない

都の実践マニュアルには、安否確認訓練を就業時間内と時間外に、全社・部署別で繰り返している製造業(従業員1,000名以上)の事例が載っています。繰り返すことで、組織改編、新入社員の追加、個人アドレスの変更などに対応できるとしています(116〜117ページ)。備蓄も同じで、去年鍵を開けた人が異動していれば、今年はまた誰も開けたことがない状態に戻ります。

内閣府のガイドラインは、従業員が安全に帰宅できたかを報告するツールを訓練で動作確認することが望ましいとしています(50ページ)。事業所ガイドラインは、家族との安否確認の訓練にも努めるとし、毎月1日・15日に災害用伝言板サービスを体験利用できることを社内報などで周知する例を挙げています(9ページ)。家族との連絡手段については会社の防災備蓄は、社員の家族の分まで必要ですかで整理しています。

社内でどう説明するか

備蓄を使う訓練は、新しい予算を必要としません。使うのは、すでにある避難訓練の回と、入れ替えで出る古い分です。説明のときは「訓練を増やす」ではなく「いまの避難訓練の最後に、国のガイドラインが挙げる項目を足す」と伝えると通りやすくなります。

稟議・社内連絡の書き方の例

〇月の避難訓練の最後に、施設内待機の手順の確認(30分)を加えます。内容は、備蓄倉庫の解錠(担当者以外が実施)、備蓄品の配布の手順確認、携帯トイレの使用方法の確認(各階の担当者が実演)、安否確認システムの動作確認です。

首都直下地震の帰宅困難者対策の「事業所における帰宅困難者等対策ガイドライン」(令和6年7月26日)は、自衛消防訓練等の際に施設内待機の手順も確認し、年1回以上の訓練の結果を検証して計画に反映するとしています。東京都のトイレの計画(令和7年3月)も、事業者に携帯トイレの使用・維持管理の訓練を挙げています。

試食・実演に使う物は、期限が近く入れ替え予定の分から出し、使った分は当月中に補充します。訓練で見つかった不足(時間・数量)は記録し、次回の備蓄計画に反映します。

予算が限られるときも、訓練は削る対象になりません。お金がかかるのは開けた分の補充だけで、上の計算例のとおり、各階の担当者が開ける形なら携帯トイレは数回分です。削るなら、当社では社内宿泊訓練のような大がかりな形を後回しにし、「開ける・配る・使う」の3つは毎年残すことをおすすめしています。

よくある誤解

誤解実際
事務所も、訓練は年2回やらなければならない年2回以上が定められているのは消防法施行規則第3条第10項が列挙する防火対象物で、一般の事務所は入っていない。回数は消防計画で定める
備蓄の訓練は、宿泊訓練のような大がかりなものが必要都の実践マニュアルは、まず小規模な避難訓練や情報連絡訓練から始めるよう勧めている。避難訓練や情報連絡訓練は少人数・短時間でも実施できる
携帯トイレや非常食は、開けるともったいない入れ替え予定の分から出せば、在庫は減らない。当社では、開けた分を当月中に補充して一覧に書くことをおすすめしています
訓練がうまくいけば成功都の実践マニュアルは、訓練で「うまくいかない」のは当たり前で、見つかった課題を共有して少しずつ改善するよう書いている。国のガイドラインも結果の検証と計画への反映までを求めている
会社の安否確認システムがあれば、家族との連絡も大丈夫事業所ガイドラインは、会社と従業員の連絡とは別に、従業員と家族の安否確認の訓練にも努めるとしている(毎月1日・15日の体験利用の周知)

まとめ

  • 防災備蓄の訓練は、備蓄を「開ける・配る・使う」まで実際に手を動かし、うまくいかなかった点を記録して手順を直すこと
  • 首都直下地震の帰宅困難者対策の事業所向けガイドラインは、自衛消防訓練等の際に施設内待機の手順も確かめ、年1回以上の訓練の結果を検証して計画に反映するとしている
  • 東京都のトイレの計画は、事業者に携帯トイレの使用・維持管理のマニュアルと訓練を挙げている。来客も使う前提で、使い方を掲示できるようにしておく
  • 訓練に使う物は入れ替えの分から出す。100人・3日分なら主食は毎年180食が入れ替え対象で、1人あたり約1.8食を試食に回せる(期限5年の場合)
  • 「やった」ではなく、直した手順と不足の数が残ったら1回。人が入れ替わるので毎年くり返す

この記事の論点だけでも、鍵の場所、配る手順、携帯トイレの使い方と使ったあとの置き場所、家族との連絡手段、訓練で見つかった不足の記録と補充と、確かめることが6つあります。備蓄は人の命に関わるので1つも落とせず、これを担当者1人が覚えて回し続けるのは現実的ではありません。当社はそのための管理の仕組みをご用意しています。

当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。自社の人数で数えると、どの品目がいくつ要るかは、算定で出せます。

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