違いました。ただし、比べ方で順番が逆になります。最後の1戸に水が届くまでで比べると、阪神・淡路大震災は91日、東日本大震災は約6か月で、東日本のほうが長くかかりました。一方で東日本は1週間で57%、約3週間で90%が復旧しており、全体の戻りは早かったのです。差を生んだのは地震の規模ではなく何が壊れたかで、津波で水源が被害を受けた水道事業者は、断水期間が平均92日でした。

この記事では、2つの震災の水道の復旧を国の資料で並べ、なぜ日数の見え方が逆になるのか、そして自社の備蓄日数を考えるときにどの数字を使えばよいのかを整理します。BCP対策で「過去の震災では何日で水が戻ったのか」と聞かれたときに、1つの数字で答えないための記事です。

根拠の数字|2つの震災を並べる

阪神・淡路大震災は内閣府と兵庫県の記録、東日本大震災は厚生労働省が水道事業者の報告を精査してまとめた最終報告書(平成25年3月)から取っています。

項目阪神・淡路大震災(平成7年1月17日)東日本大震災(平成23年3月11日)
断水した戸数兵庫県内10市7町で126万5,730戸(全給水戸数の約90%)19都道県・264水道事業者で約256.7万戸
全体の戻り方2月末(発災から約6週間)に復旧率93.6%。倒壊家屋の多い地区と道路崩壊の激しい地区を除いて復旧1週間で57%、3月末(約3週間)で90%が復旧
最後の1戸まで最も遅かった神戸市で4月17日に全戸通水(内閣府資料の記載で91日後)全戸通水完了まで約6か月(厚生労働省 水道復興10年報告書)。最終報告書では、津波被災地の復旧困難地域を除いて最長7か月
復旧できなかった戸数―津波や土砂災害で家屋ごと流出し、約4.5万戸が復旧困難
主な壊れ方液状化などの地盤変動による配水管を中心とした被害。浄水場の池状施設の漏洩、導水路トンネルの崩落も停電・津波・液状化・余震が重なった。停電だけが原因の断水が約3割

出典:内閣府「阪神・淡路大震災教訓情報資料集」【05】道路・鉄道・ライフラインの被害/【01】上水道の復旧、兵庫県「阪神・淡路大震災の支援・復旧状況」、内閣府 専門調査会 参考資料2、厚生労働省健康局水道課「東日本大震災水道施設被害状況調査 最終報告書」平成25年3月 第1章、厚生労働省「東日本大震災 水道復興10年報告書」令和4年6月。

東日本大震災について、最終報告書は次のように書いています。

厚生労働省健康局水道課「東日本大震災水道施設被害状況調査 最終報告書」平成25年3月 第1章

「一週間で57%が復旧。3月末(約3週間)で90%が復旧。復旧困難地域(津波被災地)を除き、最長断水期間は7ヶ月。」
「1万戸に減少したのは6月末、復旧がほぼ完了したのは9月末となっており、応急復旧期間が著しく長期化している。」

9割が戻るまでは速く、残りの1割が長い。これが東日本大震災の水道の姿です。同じ報告書の序文は、水道被害について「一般的な東日本大震災に対する印象と若干異なる姿も見えてくる」と書いています。

では、何が長引かせたのか。最終報告書は、津波を受けたかどうかと、何が壊れたかで水道事業者を分け、断水期間の平均を出しています。

水道事業者の分け方事業者数最大断水率の平均断水期間の平均
全体25540.4%12日
津波を受けていない事業者21233.8%6日
 うち浄水場・配水池などの土木構造物に被害あり1582.3%16日
 うち土木構造物に被害なし19730.1%6日
津波を受けた事業者4373.0%39日
 うち水源に被害あり(塩水障害を伴う)783.9%92日
 うち拠点施設に被害あり(水源は無事)2076.5%37日
 うち拠点施設・水源とも被害なし1663.9%18日

出典:厚生労働省「東日本大震災水道施設被害状況調査 最終報告書」平成25年3月 第1章 表1.10。報告書は「拠点施設の被害は断水に大きな影響を及ぼし、特に津波浸水による水源被害は断水期間等に甚大な影響を与えることが確認された」としています。

津波を受けなかった事業者の平均は6日、水源が海水をかぶった事業者の平均は92日。同じ地震の中で、15倍の差がついています。「東日本大震災は6か月」という数字は、この表のいちばん下の側が作ったものです。

この数字は誰向けか。自社にどう読み替えるか

  1. 2つの震災は、壊れた場所の広さがまったく違います。阪神・淡路は兵庫県の10市7町に被害が集中し、その地域の約9割が断水しました。東日本は19都道県・264事業者に広がり、その中には停電が解消すればすぐ戻った事業者も、津波で水源を失った事業者も含まれます。「全体の何%が戻ったか」は、分母の中身が違うので単純には比べられません。
  2. 断水期間の平均は、水道事業者ごとの平均です。自社の建物が何日目に復旧するかを言い当てる数字ではありません。自社がどの行に入るかで、日数は桁が変わります。
  3. 「復旧」は、水道事業者側の話です。道路の下の本管まで水が来ても、建物の中の給水管や受水槽、加圧ポンプが無事でなければ蛇口からは出ません。この段階の違いは災害のあと、水道はどのくらいで復旧しますかで4段階に分けて整理しています。この記事の日数は、その手前までの話です。
  4. これから起きる地震の見通しは、別の資料で見ます。首都圏なら、中央防災会議が令和7年12月19日に公表した都心南部直下地震の被害想定が、上水道について「復旧予測日数は、前回想定時と同様に、1か月程度を要する」としています。過去の震災の数字は、その見通しに「なぜそうなるのか」という中身を与えるものとして使います。

数え方|「何日で復旧したか」は3通りある

「阪神は91日、東日本は6か月」と「東日本は3週間で9割」は、どちらも正しい数字です。数えているものが違います。

数え方何を数えているか阪神・淡路東日本見えるもの
① 最後の1戸まで被災地全体で全戸に通水が終わった日91日後約6か月いちばん壊れた場所の日数
② 全体の9割前後まで断水した戸数のうち、大半が戻った日約6週間で93.6%約3週間で90%地域全体の戻りの速さ
③ 事業者ごとの断水期間1つの水道事業者の中で断水が続いた日数の平均―全体12日。壊れ方で6日〜92日壊れ方と日数の関係

①は目を引きますが、自社にとっては「最悪の場所の日数」です。②は地域の平均で、自社が残りの1割に入るかどうかは分かりません。自社の備蓄に使えるのは③の考え方です。自社の拠点の水が止まるとしたら、停電で止まるのか、管が壊れて止まるのか、浄水場や水源が被害を受けて止まるのか。その違いで日数が決まります。

もう1つ、数え方の落とし穴があります。東日本大震災の総断水戸数256.7万戸は、一度戻ってから余震でもう一度止まった戸数を足していません。最終報告書によれば、4月初旬の最大余震のときの再断水を延べで数えると294.6万戸になります。「断水が1回で終わる」前提で日数を数えると、この分が抜けます。

日数の置き方|7日を目標、3日を必須の第1段階に

公表されている備蓄の基準は3日分です。内閣府のガイドラインと東京都帰宅困難者対策条例第7条第2項が示す日数で、発災後72時間を人命救助に充てるため、従業員を社内にとどめておく期間から来ています。水道が戻るまでの日数から決まった数字ではありません。

当社では、7日分を到達点に置き、3日分をそこへ至る第1段階としてご提案しています。これは公的な基準ではなく当社の置き方です。この記事の数字で言えば、東日本大震災で津波を受けなかった水道事業者の断水期間でさえ、平均6日でした。3日分では平均に届きません。実際には3日分から段階的に始める会社が多数で、当社もその順序を否定していません。品目ごとの日数の決め方は防災備蓄は何日分そろえればいいですかで整理しています。

計算例|壊れ方ごとの断水期間を、自社の人数に当てはめる

東日本大震災の平均断水期間(6日・16日・39日)を、そのまま自社の断水の日数だと仮定して、水と携帯トイレの量に直します。この読み替えは当社によるもので、公表資料にこの形の数字はありません。「自社がどの行に入るかで、量がどれだけ変わるか」をつかむための表です。

仮定した断水の日数100人・水100人・携帯トイレ(都内の拠点)300人・水300人・携帯トイレ(都内の拠点)
3日(公表基準の備蓄日数)900L1,950枚2,700L5,850枚
6日(津波を受けていない事業者の平均)1,800L3,900枚5,400L11,700枚
7日(当社の到達点)2,100L4,550枚6,300L13,650枚
16日(浄水場・配水池などに被害があった事業者の平均)4,800L10,400枚14,400L31,200枚
39日(津波を受けた事業者の平均)11,700L25,350枚35,100L76,050枚

計算式は、水が「人数 × 1日3L × 日数」、携帯トイレが「人数 × 1日5回 × 日数 ×(1+予備率20%+東京都10%)」です。1日3Lは内閣府「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」参考資料2、1日5回は内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」の数値です。予備率20%は当社の置き方です。上乗せは掛け合わせずに足し、数量に乗せています。東京都の10%は帰宅困難者のための共助分で、都内の拠点だけが対象です。都外の拠点では(1+20%)で計算するので、100人・7日分なら4,200枚になります。アレルギー対応の特別食や要配慮者用トイレなど、実人数に紐づく品目には上乗せを乗せません。

読み取りたいのは、7日分で届くのは6日の行までだということです。16日や39日の行を社内の備蓄だけで埋めようとすると、置き場所も予算も現実的ではなくなります。そこから先は、社内に積み増すのではなく、給水拠点で水を受け取る段取りや、他の拠点から送る段取りで埋める領域です。どこまでを備蓄で持ち、どこから先を段取りで持つか。その線を引くのが、日数を決めるということです。

この線の引き方が、そのまま予算の通りやすさになります。予算が通らない原因は、金額の大きさよりも、数の根拠が自社判断に見えることのほうが多いからです。「東日本大震災で津波を受けなかった事業者でも平均6日」まで書ければ、3日分から7日分へ上げる理由を国の資料で説明できます。

実務でつまずく5つの点

1. 復旧したあとの余震で、振り出しに戻る

東日本大震災では、本震から約1か月後の4月7日に最大震度6強の余震があり、一度戻った地区で24.3万戸がもう一度断水しました(45事業者)。4月11日・12日の余震でも再断水が起きています。福島県いわき市について、最終報告書は、本震からの復旧で全戸復旧まであと少しだったところに余震が来て、仮復旧用の仮設管を設けていた箇所なども再び被害を受け、全戸が再断水したと記録しています。

備蓄の計画は、たいてい「断水が1回起きて、戻ったら終わり」という形で組まれています。実際には、水が戻った日に備蓄はかなり減っていて、そこへ2回目が来ます。断水が解消した日に、使った分を補充する手順を、BCP対策の文書に1行入れておいてください。誰が数えて、誰が発注するのか。平時に決めておかないと、戻った安心感でそのままになります。

なお、水が出るようになっても、トイレを流してよいかは別に判断が要ります。手順は断水していなくても、会社のトイレを流してはいけないのはなぜですかにまとめています。

2. 水道管が無事でも、停電だけで断水する

最終報告書は、東日本大震災の断水のうち、施設に被害がなく停電だけが原因だった断水を約76.3万戸(総断水戸数の約30%)と推計しています。浄水場やポンプが電気で動いているためです。

停電の影響は、地形でも変わりました。最も断水率が高かった茨城県(80.5%)について、報告書は、平野部が多いため自然に流れ下る方式ではなくポンプで押し出す方式の割合が高く、「停電が断水に影響し易い水道システム」だったと分析しています。全面的な停電があった事業者で比べると、自家発電設備を使った事業者の最大断水率は平均41.2%、使わなかった事業者は58.7%でした。ただし厚生労働省の調査概要では、自家発電設備の燃料の調達状況は、回答した157事業者の約73%が1日未満でした。

同じ構造が、自社の建物の中にもあります。ビルの上階へ水を上げる加圧ポンプは電気で動きます。水道事業者の側が止まらなくても、建物が停電すれば上の階の蛇口は止まります。自社の建物が受水槽方式か直結方式か、停電時にポンプが止まるかは、管理会社に聞けば1回で分かります。

3. 「東日本は6か月」を自社の日数だと思う。逆に「6日」を安心材料にする

「6か月」を聞いて、6か月分の水を備蓄しようとする必要はありません。それは津波で水源や家屋を失った地域の最後の1戸の日数です。一方で、「津波が来ない場所なら平均6日」を聞いて、3日分で十分だと考えるのも誤りです。6日は平均で、しかも3日より長い。浄水場や配水池に被害が出た事業者では平均16日でした。

最終報告書は、震度と断水期間の関係も出しています。津波を受けなかった事業者でも、市町村の最大震度が6弱なら平均10日、6強なら平均14日でした。どちらの数字を持ち出されても、「その数字は何を数えたものか」と聞き返せるようにしておくことが、社内の議論をかみ合わせる近道です。

4. 漏れている水を止めないと、水圧が上がらない

阪神・淡路大震災の復旧が長引いた理由の1つは、漏水でした。内閣府の教訓情報資料集によれば、神戸市では地震後1〜2時間で水位がゼロになった配水池が19か所にのぼり、配水管・給水管の被害で大量の水が流れ出ました。復旧の段階でも、当初は水圧が上がらず、漏水の音で壊れた場所を探すことが困難をきわめたと記録されています。倒壊した建物では、止水栓を閉めるためにがれきを取り除く必要もありました。

さらに神戸市などでは、2月中旬に上流の阪神水道企業団からの受水量を増やせず、通水試験ができないため復旧が停滞しました。自社の地域の復旧日数は、自社の近くの工事だけで決まるわけではありません。上流の施設や水量でも止まります。

自社側でできることは、建物の中の漏水を広げないことです。水が戻ってきたときに社内の配管が壊れていれば、そこから漏れます。給水の元栓や止水栓がどこにあり、誰が閉めるのかを、管理会社と平時に確認しておいてください。

5. 拠点ごとに「どの壊れ方の側か」を見ていない

複数の拠点がある会社では、備蓄を全拠点同じ考え方で置くことが多いはずです。ただ、東日本大震災の表が示すとおり、同じ地震でも、津波を受けた地域と受けなかった地域では断水期間が6日と39日、水源が被害を受ければ92日と、桁が変わりました。国土交通省の資料では、気仙沼市の南明戸水源場で塩水障害の影響が270日間続いた例が挙げられています。

備蓄の到達点(当社では7日分)は拠点ごとに変える必要はありません。変わるのは、その先を埋める段取りの優先順位です。沿岸部や津波浸水が想定される場所の拠点は、7日分を使い切ったあとに他の拠点から水や携帯トイレを送る段取りを先に決めておく。拠点をまたいだ融通は、発災後に考え始めても間に合いません。

社内でどう説明するか

「過去の震災では何日で水が戻ったのか」は、稟議や役員への説明でほぼ必ず出る質問です。1つの数字で答えると、別の数字を持ち出されたときに説明が崩れます。数え方の違いを先に置くと、議論がかみ合います。

過去の震災の水道の復旧日数は、数え方で見え方が変わります。最後の1戸まででは、阪神・淡路大震災が91日、東日本大震災が約6か月でした。一方、東日本大震災は1週間で57%、約3週間で90%が復旧しています。

厚生労働省の最終報告書(平成25年3月)によれば、断水期間を左右したのは壊れ方です。津波を受けなかった水道事業者の断水期間は平均6日、浄水場・配水池などに被害があった事業者は平均16日、津波を受けた事業者は平均39日でした。

現行の備蓄は3日分で、津波を受けなかった事業者の平均6日にも届きません。よって、3日分を第1段階と位置づけ、水・主食・災害用トイレを7日分へ上積みすることを提案します。7日分を超える期間は、備蓄の積み増しではなく、給水拠点の利用と拠点間の融通の段取りで対応します。

最後の一文が効きます。「6か月分を積むのか」という反論を先に閉じられるからです。予算の通し方そのものは防災備蓄の予算を、社内でどう通せばいいですかで扱っています。

予算が足りず、7日分を一度にそろえられないときに最後まで削らないのは災害用トイレです。水には給水拠点という細いながらも代わりの手段がありますが、トイレには代わりがありません。余震で再断水したときに真っ先に足りなくなるのもトイレです。品目ごとの優先順位は防災備蓄で、絶対に必要なものと、そうでもないものはありますかで整理しました。

よくある誤解

よく聞く言い方実際
東日本大震災のほうが大きかったから、水道の復旧も全体に遅かった全体の戻りは東日本のほうが早く、1週間で57%、約3週間で90%が復旧しています。長かったのは残りの一部で、津波で水源や拠点施設が被害を受けた地域です
最近の震災ほど、技術が進んで早く戻る最後の1戸までは、阪神・淡路の91日より東日本の約6か月のほうが長くかかりました。能登半島地震でも本管の復旧に約5か月かかっています。日数を決めるのは年代ではなく壊れ方です
水道管が壊れなければ、水は止まらない東日本大震災では、施設に被害がなく停電だけが原因の断水が約76.3万戸、総断水戸数の約30%と推計されています
一度水が戻れば、断水は終わり約1か月後の余震で、一度戻った地区の24.3万戸が再び断水しました。いわき市では全戸が再断水しています
津波の来ない場所なら、3日分で足りる津波を受けなかった水道事業者の断水期間は平均6日です。浄水場などに被害があれば平均16日でした

まとめ

  • 最後の1戸まででは、阪神・淡路91日、東日本約6か月で東日本が長い。全体の9割前後まででは、阪神・淡路が約6週間で93.6%、東日本が約3週間で90%で、東日本が早い
  • 差を生んだのは壊れ方。東日本大震災の断水期間の平均は、津波を受けなかった事業者6日、浄水場などに被害あり16日、津波を受けた事業者39日、水源に被害あり92日
  • 阪神・淡路では、漏水で水圧が上がらず壊れた場所の発見が困難をきわめ、上流からの受水量を増やせず通水試験ができない時期もあった
  • 東日本では、停電だけが原因の断水が約3割、約1か月後の余震で24.3万戸が再断水。断水は1回で終わらない前提で、補充の手順を決めておく
  • 公表基準は3日分。当社では7日分を到達点に置き、3日分を第1段階としています。7日分を超える期間は、給水拠点と拠点間の融通の段取りで埋める

この記事の出典

当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。自社の人数と拠点で数えると7日分がいくつになるかは、算定で出せます。

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