車椅子の社員がいる会社で先に決めるのは、携帯トイレの枚数ではなく、その人がとどまる階で使える便器です。地震でエレベーターが止まると、車椅子の人は別の階へ移れません。内閣府のトイレのガイドラインは、バリアフリートイレを一般のトイレの個数に含めず、別に確保するよう求めています。当社でも、要配慮者用のトイレは一般用とは別枠で数えています。
BCP対策の備蓄を見直していて、車椅子で働いている社員の分をどう考えればよいか迷った方に向けた記事です。何が増えて何が増えないのか、どこに何を置くのか、社内でどう説明するかを、国と東京都の資料に沿って整理します。
根拠の数字|国の資料が求めているのは「別枠」と「使える場所」
| 資料 | 書いてあること | 会社にとっての意味 |
|---|---|---|
| 内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(令和6年12月改定)1ページ | 和式便器が多いと、「車いす使用の身体障害者にとっては、トイレの使用が極度に困難となる」 | 便器の形が合わなければ、数があっても使えない |
| 同 8ページ | 障害者用のトイレを一般用とは別に確保するよう努める。高齢者・障害者への対応として「洋式便器を確保する」「トイレまでの動線を確保する」「トイレの段差を解消する」「介助者も入れるトイレを確保する」 | 便器だけでなく、そこまでの通り道と広さが要る |
| 同 9ページ | バリアフリートイレは「上記の個数に含めず」、人数やニーズに合わせて確保することが望ましい | 一般用(50人に1基)から差し引かない |
| 東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」(令和5年3月)30〜31ページ | 肢体不自由者は段差等で避難行動が難しい場合があり、避難の際には車いす等の補助具と避難支援者が必要。発災時は「災害による傷病により配慮が必要になる場合も考えられます」 | いま車椅子の社員がいなくても、けが人が同じ条件になる |
| 国土交通省「エレベーターの地震対策の取組みについて(報告)」(令和2年7月14日) | 大阪府北部の地震(最大震度6弱)で、大阪府のエレベーターの55.8%が運転休止。復旧は1ビル1台ずつで、一般の建物は優先順位の5番目 | 車椅子の人は、発災した階から動けない前提で考える |
| バリアフリー法 第14条・第16条、同法施行令 第4条・第5条・第14条 | 車椅子使用者用便房の設置が義務になるのは、病院・百貨店・官公署などの特別特定建築物(2,000㎡以上の新築等)。一般の事務所は特定建築物で、基準に合わせるのは努力義務 | 自社が入るビルに、車椅子で使えるトイレが各階にあるとは限らない |
出典:内閣府(防災担当)「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」平成28年4月(令和6年12月改定)1・8・9ページ、東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」令和5年3月 30・31ページ、国土交通省 住宅局 建築指導課「エレベーターの地震対策の取組みについて(報告)」令和2年7月14日 表1・11〜13ページ、高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法)第14条・第16条、同法施行令 第4条第8号・第5条・第14条(いずれも2026年9月29日確認)。
前提の切り分け|避難所向けの資料を、会社にどう読み替えるか
内閣府のトイレのガイドラインは、市町村が避難所を運営するための資料です。会社は避難所ではありません。ただ、東京都の帰宅困難者対策条例のもとで社員を3日間とどめる会社は、「歩けない人を含む大勢が、何晩か同じ建物で過ごす」という点で避難所と同じ状況になります。便器の形・通り道・介助者の入れる広さという条件は、建物が避難所か会社かで変わりません。
もう1つの切り分けは、建物の設備は会社の持ち物ではないということです。テナントとして入っている会社は、車椅子使用者用便房がどの階にあるかを自分では決められません。知っているのはビルの管理会社です。この記事で「確かめる」と書いている項目の多くは、管理会社への1本の問い合わせで済みます。
なお、要配慮者は車椅子の人だけではありません。視覚・聴覚に障害のある人、内部障害のある人、妊娠中の人で必要な配慮は違います。この記事は、トイレと移動の制約がいちばん大きい車椅子の場合に絞っています。
数え方|増えるのは「袋」ではなく「便座」と「場所」
災害時のトイレは、便器(座る場所)と携帯トイレの袋(使う回数分)の2つに分けて数えます。車椅子の社員がいて変わるのは、前者だけです。
| 数えるもの | 数え方 | 車椅子の社員がいると |
|---|---|---|
| 一般用の便器 | 算定対象人数50人に1基(長期化したら20人に1基)。既設の洋式便器は、携帯トイレを付ければ1基と数える | 変わらない |
| 要配慮者用の便器 | 当社では、要配慮者5人に1基と置き、一般用とは別枠で確保しています(使用時間が長くなるため) | 1基以上が別に要る |
| 携帯トイレの袋 | 算定対象人数 × 1日5回 × 日数。車椅子の社員もこの人数に入っている | 増えない |
一般用の数え方は「災害用トイレは何人に1基必要ですか」で詳しく書いています。要配慮者5人に1基は国の基準ではなく、当社が置いているドラフト値です。車椅子の社員が1人でも3人でも、端数は切り上げて1基になります。ただし3人が別々の階にいるなら、1基では足りません。要配慮者用の便器は、人数より先に「どの階に要るか」で数が決まります。
もう1つ大事なのは、要配慮者用の便器には上乗せを乗せないことです。当社は携帯トイレの袋の数量に、予備率20%と、都内の拠点だけ帰宅困難者上乗せ10%を、掛け合わせずに足して(1+0.2+0.1=1.3)乗せています。しかし要配慮者用トイレは、実際にいる人の数に紐づくものなので、上乗せすると「いない人の分」を積むことになります。
日数は「7日目標・3日必須」で置きます。公表基準は3日分(内閣府・東京都)で、これが最低ラインです。当社では7日分を到達点と置いており、3日分は第1段階と位置づけています(備蓄は何日分そろえるべきか)。車椅子の社員にとって日数はとくに効きます。内閣府の帰宅困難者のガイドラインは、4日目以降は徒歩で帰れる人から帰すことを原則とし、自力で徒歩帰宅できない障がい者等は「何らかの搬送手段を確保して」帰宅させるとしています。歩いて帰れる人より、会社に残る時間が長くなりやすい側です。
計算例|算定対象人数100人と300人
100人の会社に車椅子の社員が1人、300人の会社に3人(同じ階)いる場合です。袋の枚数は都内の拠点で、当社の上乗せ(1+予備率20%+帰宅困難者上乗せ10%)を乗せた数です。
| 品目 | 計算式 | 100人(うち車椅子1人) | 300人(うち車椅子3人) |
|---|---|---|---|
| 一般用の便器(発災当初) | 人数 ÷ 50 | 2基 | 6基 |
| 一般用の便器(長期化) | 人数 ÷ 20 | 5基 | 15基 |
| 要配慮者用の便器 | 要配慮者数 ÷ 5(切り上げ・上乗せなし) | 1基 | 1基 |
| 携帯トイレの袋(3日分) | 人数 × 5回 × 3日 × 1.3 | 1,950枚 | 5,850枚 |
| 携帯トイレの袋(7日分) | 人数 × 5回 × 7日 × 1.3 | 4,550枚 | 13,650枚 |
都外の拠点では帰宅困難者上乗せを乗せないので、袋は(1+20%)で計算します。100人・3日分なら1,800枚です。表を見て分かるとおり、車椅子の社員がいてもいなくても、袋の枚数は1枚も変わりません。変わるのは要配慮者用の1基と、それを置く場所です。予算に響くのは袋ではなく、1基分の便座です。
実務でつまずく点
1. 車椅子で使えるトイレが、とどまる階に無い
一般のオフィスビルには、車椅子使用者用のトイレを置く義務がありません。バリアフリー法で車椅子使用者用便房の設置が義務になるのは、病院・百貨店・ホテル・不特定多数が使う官公署などの特別特定建築物で、床面積2,000㎡以上の新築等をするときです。事務所は「特定建築物」の側で、基準に合わせるのは努力義務です(自治体が条例で対象を広げている場合があります)。2025年6月1日から、特別特定建築物は原則として各階に車椅子使用者用便房を1つ以上設けることになりましたが、これも義務としては事務所に及びません。
そのため、車椅子で使えるトイレが1階にしか無いオフィスビルは珍しくありません。平時はエレベーターで降りれば済みます。しかし地震でエレベーターが止まれば、上の階にいる車椅子の社員はそのトイレまで行けません。まず管理会社に「車椅子使用者用便房は何階にあるか」を聞き、社員をとどめる階と突き合わせます。とどめる階の決め方は「地震のとき、社員を会社のどの階にとどめるかは、先に決めておくべきですか」で扱っています。
ここを数え落とすと、要配慮者用の1基を「ビルにあるから不要」として予算から外すことになります。どの階に何があるかを正確に数えておけば、「なぜこの1基が要るのか」を稟議で説明でき、予算が通りやすくなります。
2. 袋はあるのに、座る場所が無い
携帯トイレは、便器に取り付けて使う袋です。車椅子の人は、便器に乗り移れなければ袋があっても使えません。普通の個室は、車椅子のまま入って介助者と一緒に乗り移るには狭いことがほとんどです。和式便器は、ガイドラインの言葉どおり「極度に困難」です。
とどまる階に車椅子使用者用便房が無いなら、会議室などの個室を1部屋、要配慮者用のトイレ兼休憩の場所として決めておきます。そこに置くのは、便座と処理袋がセットになった簡易トイレです。内閣府のガイドラインは、簡易トイレには介護用のポータブルトイレのように手すりが付いている物もあること、室内に置ける小型で持ち運べることを挙げています。内閣府の帰宅困難者のガイドラインも、受け入れる側の施設に要配慮者のスペースを設け、別室を確保することが望ましいとしています。
3. 避難と介助の担当が決まっていない
東京都のハンドブックは、車椅子の人の避難には補助具と避難支援者が必要だとしています。トイレも同じで、乗り移りに手が要る人は、介助する人がいて初めて使えます。発災時の社内は、けが人の救護・安否確認・備蓄品の配布が同時に走るので、その場で手の空いた人を探すことになると間に合いません。
ハンドブックは、要配慮者自身にも「介助者の確保、避難場所や避難経路の確認、安否確認手順等を、事前に企業等と情報共有しておきましょう」と呼びかけています。介助の段取りは、会社が一方的に決めるものではなく、本人と一緒に決めるものです。あわせて、生活に必要な薬や補装具は、可能なものを勤務先に常備しておくよう本人に勧めています。
4. 全社員に障害の有無を聞くところから始めてしまう
要配慮者の人数を出そうとして、全社アンケートで障害の有無を聞くのはやめてください。身体障害があることは、個人情報保護法の要配慮個人情報です(同法施行令 第2条第1号)。取得には原則としてあらかじめ本人の同意が必要で(同法 第20条第2項)、集めた時点で保管・更新の段取りまで背負うことになります。備蓄の話はそこで止まります。
東京都のハンドブックも、企業が事前に要配慮者の情報を把握しておくよう書いています。ただし同じページで、要配慮者自身に「事前に企業等と情報共有しておきましょう」と呼びかけています。把握は、本人から伝えてもらう形で足ります。算定に要るのは「その拠点に要配慮者が何名いるか」という人数だけです。事前に名簿を作らなくても当日の個別対応が回る理由は、個人の健康情報を集めずに、防災備蓄の算定はできますかで整理しています。当社の算定でも、要配慮者は人数のみを扱い、氏名は持ちません。車椅子で働いている社員がいる会社なら、机の高さや通路の配置などの合理的配慮について、すでに本人と話し合っているはずです(障害者雇用促進法にもとづく合理的配慮指針は、事業主が本人と話し合い、その意向を尊重して措置を決めるよう定めています)。新しく調べるのではなく、その話し合いに「災害時のトイレと避難」を1項目足すのが近道です。個人の情報を集めずに数量を出す考え方は、アレルギーのある社員の分の記事でも同じです。
5. 「車椅子の社員はいないから関係ない」で閉じてしまう
東京都のハンドブックは、発災時には災害による傷病で配慮が必要になる人も出るとして、事前に把握している人以外にも配慮の要る人がいないか情報を集めるよう求めています。足をけがした社員や、来社中の取引先も同じ条件になります。
予算が限られているなら、ここで便座を先に買う必要はありません。先にやるのは、要配慮者用の部屋を1つ決めることです。部屋を決めるのに費用はかかりません。車椅子の社員が入社したときに、その部屋に手すり付きの簡易トイレを1基足せばよい状態にしておけば、備蓄の計画を作り直さずに済みます。
社内でどう説明するか
稟議や監査では、次の3点を並べると通りやすくなります。
- 国の資料の位置づけ:「内閣府のトイレのガイドラインは、バリアフリートイレを一般のトイレの個数に含めず、別に確保するよう求めている」
- 自社の建物の事実:「当ビルで車椅子使用者用便房があるのは○階だけ。社員をとどめる○階には無く、エレベーターが止まると行けない」
- 費用の中身:「携帯トイレの袋の枚数は全員分に含まれており増えない。追加は要配慮者用の簡易トイレ○基分。置き場所は会議室○に決めた」
このうち、外に任せられる部分と社内に残る部分は分かれます。数量の算定、要配慮者用トイレの品選び、期限や在庫の管理は外に出せます。本人との話し合い、介助する人の指名、どの部屋を使うかの決定は、社内にしか決められません。ここは代行できないので、担当者の仕事として稟議に書いておきます。
よくある誤解
| 誤解 | 実際 |
|---|---|
| 車椅子の社員の分、携帯トイレを多めに買う | 袋の枚数は変わらない。本人も算定対象人数に入っている。増えるのは要配慮者用の便座と場所 |
| バリアフリートイレが1基あるので、一般用から1基引ける | 内閣府のガイドラインは「上記の個数に含めず」別に確保するとしている |
| オフィスビルには、どの階にも車椅子用トイレがある | 事務所は車椅子使用者用便房の設置が義務の建物ではない(努力義務)。何階にあるかは管理会社に確かめる |
| 要配慮者の人数を出すには、全社員に障害の有無を聞く必要がある | 障害は要配慮個人情報で、取得には本人の同意が要る。算定に要るのは人数だけ。合理的配慮の話し合いに1項目足す |
| 3日たてば全員帰れる | 自力で徒歩帰宅できない障がい者等は、搬送手段を確保して帰す対象。会社に残る時間が長くなりやすい |
まとめ
- 車椅子の社員がいても、携帯トイレの袋の枚数は増えない。増えるのは要配慮者用の便座と、それを置く場所
- バリアフリートイレは一般用の個数に含めず、別枠で数える(内閣府ガイドライン)。当社では要配慮者5人に1基、上乗せなしで置いている
- 一般の事務所ビルは車椅子使用者用便房の設置義務の対象外。何階にあるかを管理会社に聞き、社員をとどめる階と突き合わせる
- 障害の有無は聞き集めない。算定に要るのは人数だけで、介助と避難の段取りは本人との話し合いで決める
- 予算が限られているなら、先に要配慮者用の部屋を1つ決める。費用はかからない
この記事の出典
- 内閣府(防災担当)「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」平成28年4月(令和6年12月改定)1・8・9・12・14ページ
https://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/2412hinanjo_toilet_guideline.pdf(確認日:2026年9月29日) - 内閣府(防災担当)「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」令和8年1月 14・25ページ
https://www.bousai.go.jp/jishin/kitakukonnan/pdf/kitakukonnan_guideline.pdf(確認日:2026年9月29日) - 東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」令和5年3月 30・31ページ
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/001/369/202303.pdf(確認日:2026年9月29日) - 国土交通省 住宅局 建築指導課「エレベーターの地震対策の取組みについて(報告)」令和2年7月14日 表1・11〜13ページ
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001354002.pdf(確認日:2026年9月18日) - 高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律 第14条・第16条/同法施行令 第4条・第5条・第14条(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000091
https://laws.e-gov.go.jp/law/418CO0000000379(確認日:2026年9月29日) - 国土交通省「トイレ、駐車場及び劇場等の客席の新たなバリアフリー基準について」令和6年6月18日(施行 令和7年6月1日)
https://www.mlit.go.jp/report/press/house05_hh_001011.html(確認日:2026年9月29日) - 厚生労働省「合理的配慮指針」(平成27年厚生労働省告示第117号)
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11704000-Shokugyouanteikyokukoureishougaikoyoutaisakubu-shougaishakoyoutaisakuka/0000078976.pdf(確認日:2026年9月29日) - 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」2-3 要配慮個人情報
https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/(確認日:2026年9月29日)
当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。自社の人数で数えると、一般用と要配慮者用のトイレがそれぞれいくつ要るかは、算定で出せます。
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