会社で携帯トイレを選ぶときは、価格より先に、1回分の凝固剤で固まる量(吸水量)、大便にも使えるか、使用期限、袋と凝固剤が1回分ずつそろっているかを表示で確かめます。携帯トイレの表示には法令や業界団体の基準がなく、経済産業省は吸水量の推奨値を400mlとする案を示した段階です。表示にない項目はメーカーに問い合わせ、試しに使ってから大量に買います。

BCP対策で携帯トイレをこれから買う、または買い替える総務の方に向けた記事です。カタログを並べても比べる項目がそろっておらず、「結局、値段で選んだ」になりやすい買い物です。国・自治体の公表資料で何が言えて何が言えないのかを分けたうえで、発注前に確かめる項目を整理します。

根拠の数字|表示の決まりはなく、国は「400ml」を案として出した段階

まず、携帯トイレの性能や表示について、公表されている資料が何を書いているかを並べます。当社が確認した範囲では、携帯トイレの性能を定めた国の基準や規格はまだありません。

資料書いていること
福井県消費生活センター「試買テスト結果報告書(携帯トイレ)」令和6年度「携帯トイレの表示に関する法令上の規定は無く、業界団体による基準等も無い」。そのため、店頭で買った7銘柄の実際の表示を見比べている
経済産業省「災害時に活用する簡易トイレ・携帯トイレに関する現状と今後取り組むべき方向性」令和8年3月23日今後の取組の方向性(案)として、凝固材の有無、1回あたりの吸水量、凝固材の量、利用期限、抗菌・防臭効果の有無、性能等の試験方法(水か食塩水か、吸水時間など)、保存期間の表示を推奨。吸水量の推奨値は「400mlとしてはどうか」。分類や性能の標準化に向けたJIS規格は「検討」
内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(令和6年12月改定)携帯トイレを「既存の洋式便器につけて使用する便袋タイプ。吸水シートや凝固剤で水分を安定化させる」と定義。1日の使用回数は5回
経済産業省の資料は「災害時に活用する携帯・簡易トイレの適切な普及に向けた検討会」第2回の資料2(14ページ)。方向性は(案)で、決まった基準ではない。

では、実際に買っている側は何を見て選んでいるのか。経済産業省が全国の市区町村に聞いたアンケート(1,235自治体が回答・全基礎自治体の約7割)に、携帯トイレの選定基準があります。

携帯トイレを選ぶ基準(最大5つまで)回答数912に対する割合
価格が安い60967%
抗菌・消臭効果がある49354%
利用者が使いやすい46751%
使用期限が長い35639%
収納性が高い31835%
設置がしやすい29232%
凝固機能が高く、凝固スピードが速い25027%
使用時に安全である20422%
n=912。備蓄している物資が複数ある場合は複数回回答しているため、自治体の数ではなく回答の数。割合は当社が912で割ったもの。上位8項目のみ。出典:経済産業省 製造産業局 生活製品課「災害時に活用する簡易トイレ・携帯トイレに関する現状と今後取り組むべき方向性」令和8年3月23日 5ページ

資料自身も「携帯トイレは価格第一で次いで抗菌・消臭性能」「凝固能力よりも抗菌・消臭を重視する傾向」とまとめています。同じ資料は、2024年度に自治体・警察・消防などが調達した簡易トイレ・携帯トイレのうち、仕様が確認できた73件の要件も調べています。

調達の仕様書に書かれていた要件(簡易・携帯の合計73件)件数割合
規格品・例示品(実際の製品名)を挙げている6284.9%
防臭袋の有無4460.3%
説明書の同封4358.9%
消臭効果/抗菌効果各35各47.9%
製品保証(メーカー等による品質保証期間)2432.9%
保存期間(使用期限)2331.5%
吸水量の表記1216.4%
凝固剤の性能:試験対象79.6%
凝固までの時間22.7%
主な項目を抜粋。吸水量の表記・凝固までの時間・試験対象は、いずれも凝固剤の性能の項目。政府の入札情報サービスで2024年度の案件を調べたもので、73件は簡易トイレ・携帯トイレの調達216件のうち仕様が確認できたもの。調査した216件の発注元には、都道府県・市区町村のほか警察・消防・自衛隊関係なども含む。出典:同資料 11・12ページ

資料は、調達が「凝固剤そのものの性能よりも、付属する消臭・抗菌の効果や、防臭袋や説明書の有無に焦点を当てている」と見ており、要件は「自治体等によってかなり幅がある」としています。公的な調達でも、仕様に吸水量を書いている例は少数です(73件中12件)。

前提の切り分け|この数字は誰向けか、自社にどう読み替えるか

上の数字は、自治体や警察・消防などの公的機関が買うときのものです。自治体が価格を1位にしているのは「そう選んでいる」という事実で、会社にとっての正解ではありません。会社で読み替えるときは、次の3つの違いを押さえます。

自治体(避難所)会社(オフィス)
使う人誰が来るか事前にわからない社員が中心。使い方を事前に教えられる
使う場所避難所の便器や仮設の場所自社のビルの既設の洋式便器(和式は使えない。携帯トイレと簡易トイレの違いを参照)
使用済みの袋避難所のごみとして自治体が扱う事業所のごみは原則として自治体の家庭ごみの収集に乗らない。回収まで社内に残る(使用済みの携帯トイレは誰が回収するか)

つまり会社では、自治体より「使い方を説明できる製品か」「社内に何日か置いても臭いが漏れないか」の重みが大きくなります。また、福井県の調査は県内の小売店で買った7銘柄を比べたもので、市場の全製品の傾向を示したものではありません。数字は「こういう差がある」という手がかりとして使います。

何を1と数えるのか|「1回分」=袋1枚と凝固剤1回分

携帯トイレは、箱やセットの数ではなく「何回分か」で数えます。福井県の7銘柄は、5回分入りが4銘柄、10回分入りが1銘柄、30回分入りが2銘柄でした。同じ「1箱」でも、固められる回数は6倍違います。

数えるときの基準は、袋ではなく凝固剤の数です。7銘柄のうち6銘柄は袋と凝固剤が同じ数でしたが、1銘柄は凝固剤5個に対して袋が6枚入っていました。袋が余っても、固められる回数は増えません。2銘柄には、汚物用の袋とは別に処理袋や持ち運び袋も入っていました。

もう1つ、1回分で大便にも使えるかを確かめます。7銘柄のうち6銘柄はパッケージのどこかに大便にも使える旨の表示がありましたが、1銘柄は表示がありませんでした。大便に使えない製品を選ぶと、大便用を別に用意することになり、数え方も置き方も二重になります。ただし「使える」は「固まる」と同じではありません。大便に使えると書いた銘柄のうち2銘柄は、凝固剤は水分を固めるもので大便を固めることはできない旨も書いていました。大便の後に袋の中がどうなるかは、注意書きまで読んで確かめます。

計算例|100人と300人で、何回分・何箱になるか

数量は「人数×1日5回×日数」で出します(1日5回は内閣府のガイドライン。経済産業省は1人あたり35回分=7日分の備蓄を示しています)。日数は、当社では7日分を目標、3日分を必須(第1段階)と置いています。3日分は完了ではなく、そこから7日分へ積み増していく順番です(何日分そろえるか)。

上乗せは、当社では予備率20%を置いています。さらに当社では、東京都内の拠点だけ、東京都が示す外部の帰宅困難者のための10%程度を足し、率は掛け合わせずに足し算にしています。都外は1+0.2=1.2、都内は1+0.2+0.1=1.3を数量にかけます。

同時に社内にいる人数3日分・都外(×1.2)3日分・都内(×1.3)7日分・都外(×1.2)7日分・都内(×1.3)
100人(素の数=3日1,500回分・7日3,500回分)1,800回分1,950回分4,200回分4,550回分
300人(素の数=3日4,500回分・7日10,500回分)5,400回分5,850回分12,600回分13,650回分
人数は同時に社内にいる人数で数える(在籍の全員ではない。何人分そろえるか)。10%は東京都内の拠点だけ。

同じ回数でも、何回分入りの製品を選ぶかで、箱の数が大きく変わります。

必要な回数5回分入りなら10回分入りなら30回分入りなら
100人・7日分・都内=4,550回分910箱455箱152箱(151.7を切り上げ)
300人・7日分・都内=13,650回分2,730箱1,365箱455箱
1回分=凝固剤1回分で数える。

小分けの箱は配りやすい一方で、数が増えて置き場所と棚卸しの手間がかさみます。大箱は置きやすい一方で、フロアや個室ごとに分けるときに開封が要ります。どちらが合うかは置き場所の決め方しだいです(倉庫の広さ・置き場所)。

予算が足りないときは、性能の条件を外して単価を下げるより、まず全員分の3日分をそろえ、翌年度以降に7日分へ積み増す順番を、当社ではおすすめしています。数の根拠(人数×5回×日数)と、製品を選んだ根拠(表示とメーカーの回答)を分けて示せることが、稟議で予算を通す近道です。

実務でつまずく点

1. 「1回で何mlまで固まるか」を確かめずに買っている

経済産業省は、吸水量の推奨値を400mlとする案を示しています。ところが福井県が店頭で買った7銘柄のうち、凝固剤1回分で固まる量(「1袋で約600ccの尿を吸収する」)を表示していたのは2銘柄だけでした。前の節の表のとおり、自治体などの調達仕様でも吸水量を書いていたのは73件中12件、凝固までの時間は2件です。

表示がないから性能が低い、とは言えません。福井県のテストでは、表示がなかった銘柄も含めて7銘柄すべてが600mLの水道水を固めました。ただしこれは水道水での試験で、尿で試したものではありません。経済産業省は今後の方向性の案で、試験方法(水か食塩水か、吸水時間など)の表示も推奨しています。試験の条件が違えば、数字はそのまま比べられません。

会社でやることは、発注前にメーカーへ1回分の吸水量と、その試験条件(何で・何分で)を問い合わせ、回答を記録に残すことです。条件がそろわない数字は、大小を比べません。

2. 「固まりにくい場合がある」と、箱に書いてある

福井県の7銘柄のうち6銘柄に、「尿に異常がある場合や、薬の服用状況によっては固まりにくい」旨の表示がありました。また1銘柄は、使い方の注意として、凝固剤をふりかける前にトイレットペーパーを袋に入れると、紙が水分を吸って凝固性能が弱くなる場合がある旨と、「大便、嘔吐物、ティッシュ等が多くて固まりが弱い場合はコップ1杯の水やお茶等を入れる」旨を書いていました。

どちらも、使う人が知らなければ現場で困る内容です。会社では、買った製品の注意書きを読み、紙を入れる順番と、固まらないときの対処を、使い方の掲示と事前の説明に入れておきます。外国籍の社員がいる場合の伝え方は、外国籍の社員がいる会社の記事で整理しています。

3. 取り付け・取り外しで手間取る製品がある

福井県の調査では、モニター9人が家庭のトイレで実際に使って評価しました。取り付けと取り外し(始末)のしやすさは、汚物用の袋の構造が特殊な銘柄や、凝固剤の袋を手で破りにくい銘柄で評価が低い傾向でした。固まりやすさは評価がばらつき、傾向は見いだせなかったとしています。

福井県は消費者へのアドバイスとして、防災用品は買ったら実際に使ってみることが望ましいとしています。会社では、大量に発注する前に数回分を取り寄せ、総務の数人が実際に取り付けて外してみるのが確実です(当社の提案です)。カタログでは、袋の破りやすさまではわかりません。

4. 袋の厚さで、臭いの漏れを判断している

会社では、使用済みの袋が回収まで社内に残ります。そのため臭いの漏れは、自治体より重い条件です。福井県の調査では、袋の口を結んで3日後でも、7銘柄中6銘柄で「臭いがしない」が過半数でした。一方で、袋の厚さは0.03〜0.08mmと2倍以上の差がありましたが、臭いの漏れと袋の厚さに関連は見いだせなかったとしています。

厚さの数字だけで選ばず、防臭袋が付いているか、付いていなければ別に用意するかを確かめます。自治体などの調達でも、防臭袋の有無は73件中44件が要件にしていました。

5. 箱に書いてある捨て方を、会社にそのまま当てはめる

福井県の7銘柄は、すべて捨て方を表示していました。5銘柄は「各自治体または避難所等が示す方法に従って」、残りの2銘柄は「不燃ゴミとして」「可燃ゴミとして袋ごと」でした。これは家庭や避難所を想定した書き方です。会社のごみは事業系で、原則として自治体の家庭ごみの収集には乗りません。捨て方は製品の表示ではなく、契約している収集業者に確かめます(使用済みの携帯トイレの回収)。

6. 使用期限の表示がないまま買っている

福井県の7銘柄で使用期限の年数を表示していたのは1銘柄だけでした。期限の表示がなければメーカーに保証の年数を問い合わせ、納品日と一緒に一覧に書きます。詳しくは災害用トイレの使用期限の記事で整理しています。

社内でどう説明するか|「なぜこの製品か」を表示とメーカーの回答で答える

稟議や監査で「なぜこの製品にしたのか、安いほうではだめなのか」と聞かれたら、国の基準がまだないことを先に言い、選んだ根拠を製品の表示とメーカーの回答に置きます。

携帯トイレの表示には法令・業界団体の基準がありません(福井県消費生活センター 令和6年度)。そのため、価格に加えて、1回分で固まる量とその試験条件(経済産業省は推奨値の案として400mlを提示)、大便への使用可否、使用期限、袋と凝固剤の数を、表示とメーカーの回答で確かめて選びました。試用で取り付け・取り外しも確認済みです。数量は、同時に社内にいる〇人×1日5回(内閣府)×〇日分×(1+予備率20%〔当社の値〕+都内の拠点のみ10%)=〇回分です。

「安いものを多く」と「条件を満たすものを必要な数だけ」は、同じ予算でも説明のしやすさが違います。福井県の7銘柄では、単価と、袋の厚さ・凝固剤の量・使用評価などとの関連は見いだせなかったとされています。値段は性能の代わりにならないので、比べる項目を先に決めておくのが要点です。

よくある誤解

よくある理解実際
値段が高いほど性能がいい福井県の7銘柄では、単価と、袋の厚さ・凝固剤の量・使用評価などとの関連は見いだせなかった(7銘柄の結果)。比べる項目を決めて確かめる
袋が厚いほど臭わない同じ調査で、袋の厚さ(0.03〜0.08mm)と臭いの漏れに関連は見いだせなかった。防臭袋の有無を確かめる
吸水量を書いていない製品は性能が低い表示がない銘柄も含め、7銘柄すべてが600mLの水道水を固めた。ただし水道水での試験。表示がないと比べられないので、メーカーに試験条件ごと問い合わせる
国の基準を満たした製品を選べばいい携帯トイレの性能や表示の基準はまだない。400mlは経済産業省の案、JIS規格は検討の段階
箱の数で必要量を数えればいい何回分入りかで回数が6倍違う。凝固剤の数(回分)で数える

まとめ

  • 携帯トイレの表示には法令や業界団体の基準がない。経済産業省は吸水量の推奨値を400mlとする案を示した段階で、JIS規格は検討中
  • 自治体の選定基準は「価格が安い」が最多(912回答中609)。調達仕様でも、吸水量を書いていたのは73件中12件
  • 会社では、1回分で固まる量と試験条件、大便への使用可否、使用期限、袋と凝固剤の数を、表示とメーカーの回答で確かめる
  • 数は箱ではなく凝固剤の回分で数える。100人・7日分・都内なら4,550回分(当社の置き方:予備率20%、都内のみ10%)
  • 大量発注の前に数回分を試し、注意書き(固まりにくい場合・紙の順番)を事前の説明に入れる

この記事は国・自治体の公表資料にもとづく一般的な整理です。製品ごとの性能・期限・捨て方は、必ずその製品の表示とメーカーの案内で確かめてください。

この記事の論点だけでも、吸水量と試験条件、大便への使用可否、袋と凝固剤の数、取り付けやすさ、防臭袋、捨て方、使用期限と、確かめることが7つあります。備蓄は人の命に関わるので1つも落とせず、これを担当者1人が覚えて回し続けるのは現実的ではありません。当社はそのための管理の仕組みをご用意しています。

当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。自社の人数で数えると、どの品目がいくつ要るかは、算定で出せます。

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