防災備蓄を見直すきっかけは、年1回の定期の見直しに加えて、被害を待たずに、社内の人数や働き方が変わったときに置きます。内閣府の実態調査(令和8年3月公表)では、自然災害で被害を受けた会社が被害後に続けている・新たに始めた取組の最多が「備蓄品の購入・買増し」(50.4%)でした。被害のあとに手を入れる形を避けるには、数量を出し直すきっかけを先に決めておきます。

BCP対策や防災備蓄の担当になり、「前回そろえた備蓄は、いつ見直せばいいのか」と迷っている総務の方に向けた記事です。実際に被害を受けた会社が後から何をしたのかを内閣府の調査で確かめ、国のガイドラインが挙げている見直しの条件を、備蓄に読み替えて整理します。

根拠の数字|被害を受けた会社は、後から備蓄に手を入れている

内閣府の「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」(令和8年3月公表)は、2011年3月の東日本大震災以降を目安に、自然災害で事業の継続に影響を受けたことがあるかを聞いています(問24、n=1,759)。

回答全体大企業中堅企業その他企業
直接被害を受けた17.0%30.8%19.1%11.9%
間接被害を受けた15.7%17.3%21.3%12.3%
直接、間接被害の両方を受けた8.2%11.6%10.6%5.9%
被害を受けていない55.0%37.6%44.7%65.5%
「不明」2.8%・無回答1.4%(全体)は省略。「直接被害」は店舗・工場・設備の損壊等による物的損害、「間接被害」は売上高減少、取引先被害の影響による損害、従業員が出勤できない等の物的損害以外の損害。出典:内閣府(防災担当)「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査結果」令和8年3月 86ページ(問24)

被害を受けた会社(直接・間接・両方の合計で全体の約4割)には、続けて2つのことを聞いています。被害を受けた際に有効だった取組(問27)と、被害後も実施している取組、及び被害後に新たに実施した取組(問28)です。どちらも複数回答で、n=805です。

取組被害を受けた際に有効だった(問27)被害後も実施・新たに実施(問28)
備蓄品(水、食料、災害用品)の購入・買増し36.4%(3位)50.4%(1位)
安否確認や相互連絡のための電子システム(含む災害用アプリ等)導入38.8%43.9%
訓練(安否確認、帰宅、参集等)の開始・見直し30.2%43.5%
社員とその家族の安全確保39.9%(1位)37.0%
BCP策定・見直し19.3%33.7%
特になし7.9%9.4%
複数回答。対象は問24で直接・間接・両方の被害を受けたと答えた会社(n=805)。全体上位5項目のうち一部(問27の「リスクに対する貴社の基本的な対応方針の策定」33.8%、問28の「緊急時の避難に係る安全確保の手順、避難方法、避難経路の明確化」35.6%)は省略。出典:同調査 16ページ(図表2-7)・17ページ(図表2-8)・92ページ(問27)・95ページ(問28)

問28で「備蓄品の購入・買増し」は、大企業64.4%、中堅企業47.2%、その他企業45.2%と、すべての規模で最も高くなっています。なお問28は「被害後も続けている取組」と「被害後に新しく始めた取組」を1つの設問で聞いているので、50.4%の全部が被害のあとで新しく買い増した会社という意味ではありません。言えるのは、被害を受けた会社が被害後に取り組んでいることとして、備蓄がいちばん多く挙がった、というところまでです。

見直しの時期については、内閣府の「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)が次のように書いています。

経営者は、BCMの見直しを、自社の事業戦略や次年度予算を検討する機会と連動して、定期的(年に1回以上)に行う必要がある。加えて、自社事業、内部または外部環境に大きな変化があったときにも見直しを行うべきであり、さらに、自社がBCPを発動した場合もその反省を踏まえてBCMの見直しを実施すべきである。(Ⅶ 見直し・改善、30ページ)

つまり国の指針は、見直しのきっかけを「年1回の定期」「大きな変化」「BCPの発動(災害で計画を実際に使ったとき)」の3つで示しています。そして調査の数字は、実際に被害を受けたあとに備蓄へ手を入れている会社が多いことを示しています。

前提の切り分け|この基準は誰向けか、自社にどう読み替えるか

資料対象拘束力
内閣府「事業継続ガイドライン」令和5年3月規模・業種を問わない全ての企業・組織ガイドライン。罰則なし
内閣府「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査結果」令和8年3月資本金5,000万円超などの条件に当たる会社。本社等の担当部署が会社単位で回答統計調査。基準ではない
東京都「東京事業所防災実践マニュアル」2025年版都内の事業所手引き。罰則なし
出典:各資料(2026年10月11日確認)

読み替えの要点は2つです。1つ目に、ガイドラインの見直しの条件はBCM(事業継続マネジメント)全体に向けて書かれており、備蓄だけを名指ししてはいません。ただし内閣府は事前対策の例に「備蓄品、救助用器具等の調達」を挙げているので、BCMを見直せば備蓄も対象に入ります。2つ目に、実態調査の数字は小さな会社を含んでいない自己申告の集計です。「他社もこうしている」の根拠としては使えますが、「中小企業の実態」として使うことはできません。

何を1と数えるのか|見直しは「数量を出し直すこと」

「備蓄を見直した」という言葉は、会社によって中身が違います。期限の切れたものを同じ数だけ買い直した、倉庫の中を点検した、品目を1つ足した。どれも見直しと呼ばれますが、この記事でいう見直しは算定の数量を出し直すことです。

理由は、備蓄の数量が人数から計算されているからです。数量の出発点は在籍人数ではなく、発災時に社内にいる人数です。東京都の「東京事業所防災実践マニュアル」は、テレワークなどで全員が出社していない会社について「出社状況に合わせて数を調整しても構いません」としたうえで、「全従業員が出社する日が決められているなどの場合は、最大の人数に合わせましょう」と書いています。出社の人数が変われば、正しい数量も変わります。数え方の全体は従業員100人の会社は、防災備蓄を何人分そろえればいいですかにまとめています。

ですから、見直しのきっかけを1つと数える単位は「算定の前提になっている人数が変わったこと」です。期限が来たことそのものは数量を変える理由ではありませんが、人数を確かめ直す合図には使えます。

計算例|出社の上限が変わったのに、見直さなかった場合

在宅勤務の方針が変わり、出社する人数の最大が在籍の6割から8割5分に増えた会社を例にします。備蓄は6割の時点の人数で算定したまま、という想定です。

品目(1人あたり3日分)在籍100人:前回(60人)在籍100人:いま(85人)足りない分
水(1日3L×3日=9L)540L765L225L
主食(1日3食×3日=9食)540食765食225食
毛布(1人1枚)60枚85枚25枚
トイレの使用回数(1日5回×3日=15回)900回1,275回375回
品目(1人あたり3日分)在籍300人:前回(180人)在籍300人:いま(255人)足りない分
水(1日3L×3日=9L)1,620L2,295L675L
主食(1日3食×3日=9食)1,620食2,295食675食
毛布(1人1枚)180枚255枚75枚
トイレの使用回数(1日5回×3日=15回)2,700回3,825回1,125回
出典:内閣府(防災担当)「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」令和8年1月改定 参考資料2(水3L・主食3食・毛布1枚)/内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」令和6年12月改定(1日5回。避難所向けの値を事業所に当てはめたもの)。わかりやすくするため、常駐する協力会社・来客・徒歩で帰れる人の差し引きは省いています

どちらの規模でも、足りない分は前回の数量の4割強(25人÷60人、75人÷180人)にあたります。倉庫の中身は何も減っていないので、点検では見つかりません。期限どおりに入れ替えていても、同じ数を買い直している限り見つかりません。

携帯トイレについて、当社では算定人数の誤差と、災害時のストレスによる使用回数の増加を見込んで、予備率20%を数量に乗せて置いています。上の例では100人の会社で1,080回分が1,530回分に、300人の会社で3,240回分が4,590回分になり、差はそれぞれ450回分と1,350回分です。これは当社が導出した値で、公表基準ではありません。東京都内の拠点では、東京都が推奨する、外部の利用客などのための10%程度の上乗せを数量に足しますが、都外の拠点には乗せないので、この表には入れていません。

上の表は公表基準の3日分で計算しています。当社では、3日分を必ずそろえる第1段階、7日分を目標と置いています。7日分で数えれば、足りない分も7/3倍に広がります。日数の考え方は防災備蓄は何日分そろえればいいですかにまとめています。

実務でつまずく点

1. 被害を受けた会社が被害後の取組にいちばん多く挙げたのは、BCPではなく備蓄だった

被害を受けた会社に、被害後に取り組んでいることを聞くと、「BCP策定・見直し」は33.7%で、「備蓄品の購入・買増し」の50.4%を大きく下回ります(問28)。被害を受けた際に有効だった取組でも、「BCP策定・見直し」は19.3%で、備蓄の36.4%を下回っています(問27)。被害のあとに手を入れる対象として、計画書より備蓄のほうが多く挙がっています。

調査は「なぜ備蓄に手を入れたか」までは聞いていません。ただ当社の見立てでは、備蓄の不足は平時の点検では見えにくく、実際に使う日に見えるものです。被害だけを見直しのきっかけにすると、足りなかった分は、その被害の最中には間に合いません。だから見直しのきっかけは、被害の前にも置く必要があります。

2. 「うちは被害を受けたことがない」の被害には、間接被害が入る

調査の「被害」には、建物や設備が壊れた直接被害だけでなく、従業員が出勤できない、取引先の被害で売上が減った、といった間接被害が含まれています。2011年以降で、直接・間接・両方の被害を受けた会社は合計で約4割(40.9%)でした。大企業に限ると、「被害を受けていない」は37.6%にとどまります。

自社の建物が無事だったことは、備蓄を見直さなくてよい理由になりません。自然災害で従業員が出勤できない日があったなら、それは国の調査でいう間接被害にあたります。ガイドラインも、BCPを発動するほどではないトラブルが起きた場合にも見直しを行うことが望ましいとしています(脚注96)。

3. 人数が変わっても、備蓄は自動では変わらない

ガイドラインは、点検で見る点として「人事異動や取引先の変更等による当然必要な修正」と、「事業所、製造ライン、業務プロセス等の業務実施方法の変更」などの事業の変化を挙げています(7.1.2)。備蓄に読み替えると、算定の前提になっている人数が動く場面がこれにあたります。

  • 在宅勤務や出社日の方針が変わった(出社の最大人数が動く)
  • 採用で人が増えた、部署ごと別のフロアに移った
  • 常駐する協力会社や派遣の人数が変わった
  • 事務所を移転した、拠点を新しく借りた(拠点ごとに数え直す)

どれも人事や総務の別の窓口で決まるので、備蓄の担当者に連絡が来ないまま進みがちです。拠点が増えたときの数え方は支店やサテライトオフィスにも、防災備蓄は必要ですかにまとめています。

4. 期限の入れ替えを、見直しと取り違える

非常食や水には期限があるので、数年ごとに入れ替えの発注が回ってきます。このとき前回と同じ数を発注すると、上の計算例のような人数の変化は反映されません。入れ替えは「同じものを新しくする作業」で、見直しは「数量を出し直す判断」です。入れ替えの発注の前に人数を確かめる1行を手順に入れておくと、期限が見直しの合図として働きます。期限で回す運用はローリングストックは、会社の防災備蓄でもできますかにまとめています。

5. 他社のトラブルや、国の被害想定の変更も見直しの機会になる

ガイドラインの脚注96は、BCPを発動するほどではない日常的なトラブルが起きた場合にも見直しを行うことが望ましいとし、「一定の関係のある他の企業のBCP発動が、自社のBCPやBCMの見直し・改善の機会になることもある」と書いています。脚注99は、政府の被害想定や新たな脅威の発生があれば、あわせて考慮することを推奨しています。

自社が被害を受けていなくても、取引先や同じビルの会社が被害を受けた、近くで大きな地震があった、国が被害想定を改めた、という出来事は、自社の数量を確かめ直す機会として使えます。ガイドラインは点検の観点に「法令改正などの環境変化」も挙げており(7.1.2)、当社では国の関連ガイドラインの改訂もこれに準じて扱っています。令和8年には備蓄に関わる改訂が実際に起きており、その中身は防災備蓄の管理は、総務が1人でも回せますかにまとめています。

社内でどう説明するか|見直しは「年1回の議題」と「きっかけの一覧」の2本立て

ガイドラインは、経営者による見直しを次年度予算の検討と連動させるよう求めています。そこで社内には、年1回の議題と、その間に起きたら数量を出し直すきっかけの一覧を、セットで出します。

きっかけ出し直すもの根拠
年1回(次年度予算の検討時期)全拠点の人数と数量、期限の一覧事業継続ガイドライン Ⅶ
出社方針・採用・異動で人数が動いたその拠点の数量同 7.1.2/東京事業所防災実践マニュアル
移転・拠点の新設新しい拠点の数量と置き場所同 7.1.2
期限による入れ替えの発注(合図として使う)発注前に人数を確かめる当社の運用の提案
被害・トラブル・取引先の被害・国の被害想定の変更足りなかった品目と数量同 Ⅶ・脚注96・脚注99

稟議で使える言い方は、たとえば次のとおりです。「内閣府の実態調査では、被害を受けた会社が被害後に取り組んでいることの最多が「備蓄品の購入・買増し」(50.4%)でした。当社は被害の前に数量を出し直すため、年1回の見直しに加え、出社の人数が変わったときに数量を算定し直します」。

このとき、数量の根拠を人数から示せるかどうかで、予算の通りやすさが変わります。当社では、予算が通らない原因は金額の大きさより、数量が担当者の感覚に見えることにあると考えています。出社の人数を正確に数え直して式で示せば、追加の購入は「総務の希望」ではなく「人数が変わった結果」として説明できます。稟議の段取りは防災備蓄の予算を、社内でどう通せばいいですかにまとめています。

よくある誤解

よくある理解実際
見直しは、期限が切れたときにすればよい期限は入れ替えの合図で、それだけで数量は変わらない。同じ数を買い直すと人数の変化が抜けるので、発注前に人数を確かめる
被害を受けていないので、見直す理由がない国の調査の「被害」には、従業員が出勤できない等の間接被害も入る。2011年以降で約4割の会社が被害を受けている
被害を受けた会社は、まずBCPを作り直している被害後に取り組んでいることの最多は「備蓄品の購入・買増し」(50.4%)。BCP策定・見直しは33.7%
倉庫を点検すれば、足りないかどうか分かる点検で分かるのは減ったもの。人数が増えて足りなくなった分は、数量を出し直さないと出てこない
見直しは担当者が決めればよい内閣府は見直しの主語を経営者とし、次年度予算の検討と連動させるよう求めている

まとめ

  • 被害を受けた会社が被害後に取り組んでいることの最多は、備蓄品の購入・買増し(50.4%)。被害だけを見直しのきっかけにすると、足りなかった分はその被害には間に合わない
  • 国のガイドラインは、見直しを年1回以上(次年度予算と連動)、大きな変化があったとき、BCPを発動したときに行うとしている
  • 備蓄の見直しは「数量を出し直すこと」。きっかけは、算定の前提になっている人数が変わったとき
  • 期限による入れ替えは見直しではない。発注の前に人数を確かめる1行を入れる
  • 社内には「年1回の議題」と「きっかけの一覧」をセットで出し、追加の購入を人数の変化から説明する

この記事は内閣府・東京都の公表資料にもとづく一般的な整理です。調査の数字は、資本金などの条件に当たる会社の自己申告を集計したものです。

この記事の論点だけでも、出社の人数、採用と異動、協力会社の人数、拠点の増減、期限の入れ替え、社外の出来事と、見張るきっかけが6つあります。備蓄は人の命に関わるので1つも落とせず、これを担当者1人が覚えて回し続けるのは現実的ではありません。当社はそのための管理の仕組みをご用意しています。

当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。自社の人数で数えると、どの品目がいくつ要るかは、算定で出せます。

この記事の出典

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