家庭向けのローリングストック(普段の食品を少し多めに買い、古いものから食べて買い足す方法)は、社員食堂や飲食店のように毎日食材を使う事業所でなければ、会社ではそのまま回りません。東京都の事業所向けマニュアルも、ローリングストックを勧めているのは自宅の備えの章です。事業所の章で求めているのは、期限の一覧と、入れ替えのときに従業員へ配って食べてもらうことです。会社では「期限で回す」形にします。

BCP対策の備蓄を見直していて、「家庭で勧められているローリングストックを、会社でもやればいいのでは」と考えた総務の方に向けた記事です。家庭のやり方のどこが会社で引っかかるのか、会社でやるなら何をどの順で回すのかを、農林水産省と東京都の公表資料にそって整理します。

根拠の数字|国と東京都がローリングストックについて書いていること

資料書かれていること
農林水産省「災害時に備えた食品ストックガイド(2)簡単!ローリングストック」「普段の食品を少し多めに買い置きしておき、賞味期限を考えて古いものから消費し、消費した分を買い足すことで、常に一定量の食品が家庭で備蓄されている状態を保つための方法」。ポイントは「費用、時間の面で、普段の買い物の範囲でできる」「買い置きのスペースを少し増やすだけで済む」。備蓄食品は「非常食」と「日常食品」の2種類に分けて備える
農林水産省「防災備蓄収納のチェックポイント」「災害専用」(主に災害時に使用し、日常では使用しない物)と「日用品も含めたローリングストック用」(日常で使用し、かつ災害時にも使用する物)に分ける
東京都「東京事業所防災実践マニュアル」2025年版 76〜77ページ(自宅での被災に備える)日常備蓄(ローリングストック)とは、普段使っている食料品や生活用品を少し多めに購入して備えること。「なくなる前に購入し、ストックの古いものから使用していくことで、賞味期限や使用期限を切らすことなく備蓄しておくことが可能」
同 90〜93ページ(事業所の備蓄)備蓄品ごとの賞味期限・使用期限が違う場合は「品目」「納品日」「期限」「配置場所」がわかるように一覧にする。水や食料品の更新に際してはフードロス対策を積極的に進め、従業員などへ直接配布して消費してもらう。「飲食店など一定の食材や燃料を常に有している事業所は、発災時の備蓄としての活用方法も考えておくとよい」
同 94〜95ページ(備蓄の目安)3日分の目安は1人あたり水1日3リットル・計9リットル、主食1日3食・計9食、毛布1枚。対象は雇用形態を問わず事業所内で勤務する全従業員
内閣府(防災担当)「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」令和8年1月 参考資料2・39ページ「水や食料の選択に当たっては、賞味期限に留意する必要がある」。一時滞在施設では、賞味期限切れの備蓄食料の提供は「慎重に検討し、提供する場合には、その旨の事実を告げること」
農林水産省「防災備蓄用の水は賞味期限が切れたら使用できなくなりますか。」長期保存水の賞味期限は5〜10年、通常のミネラルウォーターは約2年
出典は記事末尾にまとめています(確認日:2026年10月8日)

同じ東京都のマニュアルの中で、ローリングストックという言葉が出てくるのは自宅の章だけです。事業所の章では、この言葉を使わずに「一覧にする」「更新のときに配って消費してもらう」と書いています。家庭と会社で、同じ目的に別の手段を当てていると読めます。

前提の切り分け|家庭のローリングストックが成り立つ3つの条件

農林水産省の定義をほどくと、家庭のローリングストックは次の3つがそろって初めて回ります。

条件家庭一般的なオフィス
普段からその食品を食べている毎日の食事で減っていく非常食を普段食べる人はいない。減らすには「食べる機会」を会社が作る必要がある
普段の買い物の範囲で買い足せるスーパーで1袋多く買うだけ発注・検収・支払いの手続きがある。買い足すたびに社内の手続きが1回走る
常に一定量が残っている家族の人数分が目安人数×日数の必要数を、1日も下回らないことが求められる

一般的なオフィスでは、3つとも家庭と条件が違います。だから会社の備蓄は、農林水産省の分け方でいう「災害専用」が中心になります。災害専用の品は日常で減らないので、期限が来る前に入れ替える必要があります。この入れ替えを、期限の早い順に計画どおり回すのが、会社でのローリングストックです。

例外は、社員食堂や飲食店、食品を扱う店舗のように、食材を毎日使っている事業所です。東京都のマニュアルも、こうした事業所には「発災時の備蓄としての活用方法も考えておく」よう書いています。ただしこの場合も、日々の在庫は日によって増減します。必要数に数えてよいのは、いちばん在庫が少ない日にも残っている分だけです。

数え方|「棚にある数」ではなく「期限内にある数」

会社の備蓄で数えるのは、倉庫に何食あるかではなく、期限内のものが何食あるかです。内閣府のガイドラインは、一時滞在施設で期限切れの備蓄食料を配る場合に「慎重に検討し、提供する場合には、その旨の事実を告げること」としています。期限切れの在庫は、そのまま必要数に入れられません。この考え方は防災備蓄の管理は、総務が1人でも回せますかでも扱いました。

そのうえで、入れ替えの量は次の式で決まります。

必要数=算定対象人数 × 1日あたりの量 × 日数

1年あたりの入れ替え量=必要数 ÷ 期限の年数(買う年を均等に分けた場合)

算定対象人数は在籍人数ではなく、同時に社内にいる人数の最大値から考えます。数え方は従業員100人の会社は、防災備蓄を何人分そろえればいいですかにまとめています。

日数は、公表されている基準が3日分です。当社では7日分を到達点に置いており、3日分は完了ではなく第1段階と考えています。下の計算例は両方を並べています。

計算例|従業員100人と300人で、毎年どれだけ入れ替えるか

水は1人1日3リットル(内閣府・東京都)で計算します。期限は、農林水産省が示す長期保存水の下限5年と、通常のミネラルウォーターの約2年の2通りです。

算定対象人数・日数水の必要数長期保存水(5年)を5年に分けて買う通常のミネラルウォーター(約2年)で回す
100人・3日分900リットル毎年180リットル毎年450リットル(500ミリリットル900本=1人年9本)
100人・7日分(当社の到達点)2,100リットル毎年420リットル毎年1,050リットル(500ミリリットル2,100本=1人年21本)
300人・3日分2,700リットル毎年540リットル毎年1,350リットル(500ミリリットル2,700本=1人年9本)
300人・7日分(当社の到達点)6,300リットル毎年1,260リットル毎年3,150リットル(500ミリリットル6,300本=1人年21本)
水の量は内閣府ガイドライン参考資料2の1人1日3リットル、期限の年数は農林水産省の回答から計算

読み方は2つあります。1つ目は、長期保存水を一度にそろえると、5年後の同じ年に900リットル(100人・3日分)を一度に入れ替えることになる点です。買う年を5つに分けておけば、毎年の作業は180リットルで済みます。2つ目は、通常のミネラルウォーターで回す場合、社員1人が年9本(3日分)を飲めば回る計算になる点です。会議や来客用にペットボトルの水をすでに買っている会社なら、その購入をこの備蓄に寄せられます。

主食も考え方は同じです。100人・3日分なら900食、7日分なら2,100食を、期限の年数で割った数だけ毎年入れ替えます。期限の年数は品目ごとに違うので、手元の製品の表示で確かめてください。

計算例には、外部の帰宅困難者のための上乗せ(東京都が言う10%)を含めていません。これは東京都内の拠点が対象で、足す場合は入れ替えの量も同じ割合で増えます。

この表のように、毎年何をどれだけ入れ替えるかを人数と期限から数字で出せると、予算の説明が「今年いくら買うか」から「毎年これだけ更新が要る」に変わります。数の根拠が担当者の勘に見えないことが、更新の予算を毎年通す近道です。

実務でつまずく点

1. 東京都のマニュアルは、会社にローリングストックを勧めていない

意外に知られていませんが、東京都の「東京事業所防災実践マニュアル」でローリングストックが出てくるのは、自宅での被災に備える章(76〜77ページ)です。事業所の備蓄の章(90〜95ページ)には、この言葉が出てきません。代わりに求めているのが「品目・納品日・期限・配置場所」の一覧と、更新のときに従業員へ配って食べてもらうことです。

家庭のやり方をそのまま社内に持ち込むと、「普段から食べる」部分が会社には無いので、結局だれも食べずに期限を迎えます。会社で先に作るべきなのは、食べる習慣ではなく、期限の一覧です。

2. 配ってから買うと、その間は必要数を割る

東京都のマニュアルは家庭のローリングストックについて「なくなる前に購入し」と書いています。会社の入れ替えでも順番は同じです。古い分を先に配ってしまい、新しい分の納品が遅れると、その間の地震には足りない状態で向き合うことになります。

順番は、新しい分の納品 → 検収 → 一覧の更新 → 古い分の配布、です。納品日を一覧に入れておくよう東京都が書いているのは、この順番を後から確かめるためでもあります。

3. 期限が1年に集まり、その年だけ作業と費用が跳ねる

備蓄を初めてそろえた年に全部を買うと、期限も全部同じ年に来ます。100人・3日分なら、水900リットルと主食900食の入れ替えが同じ年に重なります。家庭のローリングストックが「少しずつ」回るのに対して、会社の備蓄は放っておくと「数年に一度、まとめて」になります。

会社でローリングストックの考え方を生かすなら、いちばん効くのは買う年をずらすことです。たとえば今年は水、来年は主食、というように品目で分けるか、同じ品目を年ごとに少しずつ買います。予算の組み方は防災備蓄で、絶対に必要なものと、そうでもないものはありますかの「賞味期限の管理を買った後に考えている」でも触れています。

4. 配るなら、食べ方を覚える場にする

入れ替えで出た古い分を、ただ机に置いて配るだけでは、持ち帰られて終わることが多くなります。東京都の「事業所防災リーダー通信」(2025年2月17日)は、流通大手の企業グループが2024年9月に149人で非常食の試食訓練を行い、ローリングストックの推進につなげた事例を紹介しています。

試食にすると、発災当日に初めて袋を開けて困ることが減ります。農林水産省のガイドは、アルファ米は「お湯で約15分、水で約60分」としています。発災直後は火を使わない前提で考えるので、水で戻すと1時間かかることを、社員が事前に知っているかどうかで当日の動きが変わります。

なお、期限が切れたものを社外の人に配る場面では、内閣府のガイドラインのとおり、事実を告げる手順が要ります。期限切れの扱いは会社の防災備蓄で、非常食は1人1日何食で計算しますかの「期限切れの備蓄は『あるから配る』ができない」に書きました。

5. 回せない品目が、一覧から漏れる

ローリングストックで回せるのは、普段も食べたり飲んだりする水と食料だけです。携帯トイレ、毛布、カセットボンベは普段使わないので、配って減らすことができません。こうした品目ほど「食品ではないから」と期限の一覧から抜けやすくなります。使用期限の表示があるものは、食品と同じ一覧に入れておきます。

農林水産省のガイドは、カセットボンベの使用期限を約7年としています。ボンベの扱いは会社の防災備蓄で、カセットボンベは何本必要ですかにまとめました。食べて回す品目と、期限で入れ替える品目を、同じ一覧に並べておきます。

社内でどう説明するか

「ローリングストックをやりたい」という提案は、上司から「非常食を誰が食べるのか」と聞かれて止まりがちです。次の3行で、家庭の方法とは違う形でやると先に伝えます。

  1. 東京都の事業所向けマニュアルにならい、備蓄は「品目・納品日・期限・配置場所」の一覧で期限の早い順に管理する
  2. 入れ替えは新しい分の納品を先にし、古い分は試食訓練などで従業員に配って消費する
  3. 買う年を分け、毎年の入れ替え量を人数と期限から出して、更新の予算として毎年計上する

3つ目の数字があると、「今年だけの話か」と受け取られずに済みます。いまある備蓄の棚卸しを期限の早い順に並べる方法は防災備蓄の見直しは、何から手をつければいいですかで扱っています。

よくある誤解

よくある理解実際
家庭と同じローリングストックを会社でもやればよい家庭の方法は「普段から食べる」「普段の買い物で足す」が前提。東京都の事業所向けマニュアルは、事業所の章ではこの言葉を使わず、期限の一覧と更新時の配布を求めている
倉庫にある数がそのまま備蓄数数えるのは期限内の数。期限切れを社外の人に配るなら、内閣府のガイドラインのとおり事実を告げる手順が要る
古い分を配ってから新しい分を買えばよいその間は必要数を割る。納品 → 一覧の更新 → 配布の順にする
長期保存品なら入れ替えを考えなくてよい期限が長くても、一度にそろえれば同じ年に全部の期限が来る。買う年をずらさない限り、作業と費用は数年に一度まとめて来る
携帯トイレや毛布も、食品と同じように回せる普段使わない品目は配って減らせない。使用期限の表示があるものは、食品と同じ一覧で入れ替えの年を決めておく

まとめ

  • 家庭のローリングストックは、社員食堂や飲食店のように毎日食材を使う事業所でなければ、会社ではそのまま回らない
  • 東京都の事業所向けマニュアルが会社に求めているのは、「品目・納品日・期限・配置場所」の一覧と、更新時に従業員へ配って消費してもらうこと
  • 入れ替えは新しい分の納品を先に。配ってから買うと、その間は必要数を割る
  • 会社でいちばん効くのは買う年をずらすこと。100人・3日分の水900リットルも、5年に分ければ毎年180リットル
  • 水と食料以外(携帯トイレ・毛布・ボンベ)は回せないので、同じ一覧で期限を管理する

この記事の出典

この記事は国と自治体の公表資料にもとづく一般的な整理です。賞味期限・使用期限の年数は製品ごとに違うので、手元の製品の表示を優先してください。

この記事の論点だけでも、期限の一覧、納品と配布の順番、買う年の分け方、配るときの段取り、回せない品目の期限、社員食堂の在庫の数え方と、確かめることが6つあり、入れ替えは毎年やってきます。備蓄は人の命に関わるので1つも落とせず、これを担当者1人が覚えて回し続けるのは現実的ではありません。当社はそのための管理の仕組みをご用意しています。

当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。自社の人数で数えると、どの品目がいくつ要るかは、算定で出せます。

コメント

コメントする