会社の防災備蓄で、ヘルメットの全員分は必須ではありません。国や東京都に全員分を求める基準はなく、内閣府のガイドラインと東京都のハンドブックでは数量の目安がない「企業ごとに検討」の品目で、都の条例Q&Aも「各事業者の事情に応じてご判断ください」としています。当社では、まず揺れのあと建物の中で役割を持って動く人の分をそろえ、全員分は予算に応じて広げることをおすすめしています。

BCP対策を担当する総務の方に向けた記事です。水や非常食は「1人1日3リットル」「1日3食」と目安があるので数えられます。ところがヘルメットは、カタログを見ても資料を見ても「何人分」が書かれていません。国と東京都の資料が何を書いていて何を書いていないのかを確かめたうえで、数の決め方と、買ったあとにつまずく点を整理します。

根拠の資料|ヘルメットは「品目の例」には載っているが、数量の目安はどこにもない

資料書いていること
内閣府(防災担当)「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」令和8年1月 参考資料2数量の目安は水(1人1日3リットル)・主食(1人1日3食)・毛布(1人1枚)だけで、「その他の品目については、物資ごとに必要量を算定」。ヘルメットは(備考)の「企業ごとに必要な備蓄品を検討していくことが望ましい」の例に、非常用発電機・工具類・軍手・自転車・地図などと並ぶ(32ページ)
東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」令和5年3月同じ構造で、ヘルメットは企業ごとに検討する品目の例(15ページ)。条例第7条第2項の「知事が定めるところ」を写した49ページにも同じ例示がある。外部の帰宅困難者(来社中の顧客・取引先など)のために10%程度を余分に備蓄(6ページ)。条例Q&Aの「備蓄の努力義務にマスクやヘルメットなどの防災用品は含まれますか」には、「第7条で明記しているのは水と食料ですが、『その他災害時における必要な物資』を備えることも規定しており、各事業者の事情に応じてご判断ください」(47ページ)
同ハンドブック 発災時の業務例「安否情報確認、受付設置、備蓄品管理」の業務に「安全確保のため、ヘルメット・手袋等の配布」が入っている(14ページ)
東京消防庁「事業所防災計画(帰宅困難者対策)作成例」備蓄品の別表で、ヘルメットは軍手・工具類・拡声器などと並ぶ「その他の物資」。水や食料には1人1日の量が書かれているが、ヘルメットには書かれていない。備蓄品の保管場所はエレベーターの停止に備えて分散させる
東京都震災対策条例に基づく事業所防災計画に関する告示(都内の事業所)事業所防災計画の「震災に備えての事前計画」に「救出、救護等の資器材及び非常用物品の準備及び保管に関すること」がある。防火管理の消防計画を届け出る事業所は、消防計画にこの事項を定めて届け出れば、事業所防災計画を作成したものとみなされる(防災管理の消防計画では、事業所の実態に応じて必要な事項)
労働安全衛生法 第44条の2/同法施行令 第14条の2第12号物体の飛来・落下や墜落による危険を防ぐための保護帽は、型式検定の対象。検定に合格した旨の表示が付されていないものは「使用してはならない」(法第44条の2第7項)
内閣府 同ガイドライン(企業等の施設内待機のための備蓄)「備蓄品の保管場所の分散や従業員等への配布を検討する」。外部の帰宅困難者(来客者等)のために「例えば、10%程度の量を余分に備蓄する」(7ページ)
内閣府 同ガイドライン(個人の平時の備え)帰宅困難者等になる可能性のあるすべての人が、勤務先に常備しておく徒歩帰宅の備えの例は「歩きやすい靴、日常行動範囲の地図、救急用具等」(48ページ)。例にヘルメットの名前は出てこない

資料に「層」という言葉はありませんが、当社の整理では、ヘルメットは「数量の目安まで示されている水・主食・毛布」「特に必要性が高いとされる簡易トイレなど」のあとの3番目の層です。この層の分け方は防災備蓄で、絶対に必要なものと、そうでもないものはありますかで扱っています。

前提の切り分け|ヘルメットは「日数で掛ける品目」ではない

水や食料は、1日に使う量に日数を掛けて数えます。ヘルメットは使っても減らないので、日数を掛けません。3日分でも7日分でも、1人がかぶるのは1個です。だから「何日分」ではなく「何人が、いつ、どこでかぶるか」が数を決めます。

もう1つの切り分けは、義務かどうかです。東京都の帰宅困難者対策条例が事業者に求めている3日分の備蓄は努力義務で、条文に名前が出ているのは水と食料です。都はヘルメットを含めるかを事業者の判断に委ねています。上の資料のうち、東京都と東京消防庁の資料は都内の事業所向けで、内閣府のガイドラインは全国の企業向けです。どちらも数量は示していません。

数え方|社員数ではなく「使う場面」で3つに分ける

当社では、ヘルメットを使う場面を3つに分けて、場面ごとに数えることをおすすめしています。

場面誰がかぶるか数の出し方
A. 揺れのあと、建物の中を動く初期消火、けが人の救護、建物の点検、備蓄品の配布など、役割を持って動く人消防計画や防災計画・BCPで役割を決めた人数。交代要員も含める
B. 社内にとどまる・建物の外へ避難するその時間に社内にいる社員と協力会社の人(来客は10%の分で数える)同時に社内にいる最大の人数。ほかの備蓄品と同じ数え方
C. 帰宅するときに貸す徒歩で帰る人国の資料に、帰宅用としての名前は出てこない。貸すなら戻らない前提で数える

Aは、東京都の業務例でいう「ヘルメット・手袋等の配布」を受ける人より前に、建物の中を動く人です。当社では、役割がある以上この人数分は欠かせないと考え、Bの「全員分」はAがそろってから広げることをおすすめしています。Bの人数は、揺れたときに社内にいる最大の人数です。在宅勤務の人は引き、協力会社の人は足します。ただし、あとで徒歩で帰る人も揺れた時点では社内にいるので、水や食料の算定のようには引きません(人数の数え方は従業員100人の会社は、防災備蓄を何人分そろえればいいですか)。

計算例|100人と300人の会社

Aの人数は会社ごとに違います。ここでは計算の形を見るために、100人の会社を5フロア、300人の会社を10フロアとし、Aの役割を持つ人を「各階2人」と仮に置きます。この「各階2人」は国や都の基準ではなく、交代要員を含めない、例として置いた数です。Bには来客を含めていません。

数え方100人(5フロア)300人(10フロア)
A. 役割を持つ人(各階2人と仮に置いた場合)10個20個
B. 社内にいる社員と協力会社の人(同時在館の最大人数が100人・300人の場合)100個300個
Bに、内閣府のガイドラインと東京消防庁の作成例が例として示す「10%程度」を、来客など外部の人の分として足す場合110個330個

読み方は2つです。1つ目は、AとBで数が10〜15倍違うことです。予算が限られるなら、当社ではまずAの10個・20個を、検定に合格した保護帽でそろえることをおすすめしています。2つ目は、10%は内閣府が「例えば」と書いている来客など外部の人の分で、一律の義務ではないことです。外部の人を受け入れるかどうかの考え方は災害時、会社の前で足止めされた人が「中に入れてほしい」と来たら、受け入れるべきですかで扱っています。

実務でつまずく点

1. 「防災用」で買ったヘルメットに、検定の表示がない

工事現場でかぶる保護帽は、労働安全衛生法で型式検定の対象になっています。対象は、物体の飛来・落下や墜落による危険を防ぐための保護帽で、検定に合格した旨の表示が付いていないものは「使用してはならない」と定められています(法第44条の2第7項、施行令第14条の2第12号)。長野労働局の資料は、検定に合格した保護帽の内側には検定番号や製造年月が書かれたラベルが貼られていると説明し、オートバイ用やスポーツ用のヘルメットを使うのは「論外」としています。

災害のあと事務所で使うヘルメットにこの規定が当たるかを、この記事で確かめた国の資料ははっきり書いていません。防災用として売られている物には、検定に合格した保護帽とそうでない物があります。当社では、揺れのあと天井材や棚の物が落ちてくるおそれのある場所で点検や片付けをするAの人数分は、検定に合格した保護帽(飛来・落下物用。高い所に上がる作業があるなら墜落時保護用も)を選び、買う前と棚卸しのときに内側のラベルを確かめることをおすすめしています。Bの全員分まで検定品にするかは、予算と使う場面で決めます。

2. 倉庫にまとめてしまい、配るときに取り出せない

東京都の業務例では、ヘルメットは「配布」する物です。配るには、まず取り出せなければなりません。東京消防庁の作成例は、エレベーターの停止に備えて備蓄品の保管場所を分散させるとし、内閣府のガイドラインも保管場所の分散や従業員等への配布を検討するとしています(7ページ)。地下の倉庫や最上階の一室にまとめて置くと、Aの人が最初の1個を取りに行くところでつまずきます。

当社では、Aの分は役割を持つ人の席の近くか各階に置き、Bの分は各階に分けることをおすすめしています。置き場所の決め方全体は会社の備蓄品は、どこに置けばいいですかで扱っています。

3. 期限の表示がないので、一覧から漏れる

ヘルメットには、食品のような賞味期限の表示がありません。何年で交換するという年数も、この記事で確かめた法令や国の資料には書かれていません。交換の時期はメーカーの取扱説明書で確かめます。長野労働局の資料は、亀裂やひび、衝撃の跡、著しい変色、変形、あごひもの損傷などを挙げた、メーカー作成の「保護帽交換の目安 20のチェックポイント」を載せています。

期限で管理する一覧だけを回していると、ヘルメットは一度も点検されないまま何年も置かれます。一覧には、製造年月(内側のラベルに書かれています)と、取扱説明書の交換の目安を1行ずつ書いておきます。期限の表示がない物の管理は災害用トイレの使用期限は、どのくらいですかと同じ考え方です。

4. 帰宅のときに貸すと、戻ってこない

「帰るときにかぶらせたい」という声はよく出ます。ただ、内閣府のガイドラインが、個人が勤務先に常備しておく徒歩帰宅の備えとして挙げる例は、歩きやすい靴、日常行動範囲の地図、救急用具などで、ヘルメットの名前は出てきません(48ページ)。会社が貸す物の話ではありませんが、帰宅用の全員分について、国の資料を根拠として挙げるのは難しいということです。

それでも貸すと決めたなら、家まで持って帰るので、次の災害までに戻ってくる前提は置けません。当社では、帰宅用に貸す分は返ってこない消耗品として、AやBとは別の行で数えることをおすすめしています。帰す順番の考え方は地震のあと、社内にとどまった社員は、いつ・どの順番で帰せばいいですかで扱っています。

5. 数の根拠を、消防計画の役割分担から取っていない

都内の事業所では、事業所防災計画に「救出、救護等の資器材及び非常用物品の準備及び保管に関すること」を定める欄があり、防火管理の消防計画を届け出る事業所は消防計画にこれを定めます。Aの人数は、同じ計画で決めている初期消火・救護・点検などの役割の人数から出せます。都外の事業所は、自社の消防計画や防災計画・BCPの役割分担から読み替えてください。

ここがつながっていないと、稟議で「なぜ10個なのか」「なぜ全員分なのか」と聞かれたときに、担当者の感覚に見えてしまいます。計画の役割分担から数を出せば、ヘルメットの数は会社が決めた計画の数として説明できます。当社が商談でうかがう限り、予算が止まる理由は金額の大きさより、数の根拠が担当者の判断に見えることにあります。稟議全体の組み立ては防災備蓄の予算を、社内でどう通せばいいですかで扱っています。

社内でどう説明するか

ヘルメットは、国と都が数量を示していない品目です。だから「全員分が必要です」と書くと根拠を聞かれ、「とりあえず数個」と書くと足りるのかを聞かれます。役割と場面から数を出し、段階に分けて書くと通りやすくなります。

稟議の書き方の例

防災用の保護帽を、2段階で整備します。第1段階は、消防計画で初期消火・救護・点検・備蓄品配布の役割を定めた〇名分(各階〇名)を、労働安全衛生法の型式検定に合格した保護帽で整備し、各階に分散して保管します。第2段階は、同時在館の最大人数〇名分を、水・食料・簡易トイレ(携帯トイレを含む)の整備が済んだあとに検討します。

内閣府のガイドライン(令和8年1月)と東京都のハンドブック(令和5年3月)は、ヘルメットを企業ごとに必要性を検討する品目としており、数量の目安は示していません。都の条例Q&Aも、各事業者の事情に応じて判断するものとしています。

保護帽は製造年月と取扱説明書の交換の目安を備蓄一覧に記載し、棚卸しの際に損傷の有無と検定の表示を確認します。

予算が限られるなら、当社のおすすめは、Bの全員分を後に回すことです。水・主食・毛布と簡易トイレ(携帯トイレを含む)は数量の目安がある、または特に必要性が高いとされている品目なので、先にそろえます。ヘルメットはAの人数分だけを第1段階に入れれば、少ない予算でも役割を持つ人が動ける状態をつくれます。

よくある誤解

誤解実際
東京都の条例で、ヘルメットは全員分の備蓄が求められている条例第7条が明記しているのは水と食料。ヘルメットを含めるかは「各事業者の事情に応じてご判断ください」(都の条例Q&A)
ヘルメットも3日分・7日分で数える使っても減らないので日数は掛けない。数を決めるのは、かぶる人数と場面
「防災用」と書いてあれば、どれでも同じ工事現場などで使う保護帽は、検定の表示がないものの使用が禁じられている(労働安全衛生法第44条の2第7項)。防災用には検定品とそうでない品があるので、内側のラベルで見分ける
ヘルメットは劣化しないので、一度買えば終わり交換の時期はメーカーの取扱説明書で確かめる。亀裂、変色、変形、あごひもの損傷などは交換の目安(長野労働局の資料が載せるメーカー作成のチェックポイント)
帰宅させるときは、ヘルメットを全員に貸すべき内閣府が個人の徒歩帰宅の備えとして挙げる例は歩きやすい靴・地図・救急用具などで、ヘルメットの名前はない。貸すなら戻らない前提で別に数える

まとめ

  • ヘルメットを全員分そろえるよう求める国や都の基準はない。内閣府と都の資料では、数量の目安がない「企業ごとに検討」の品目
  • 数は日数ではなく、かぶる人数と場面で決める。A=揺れのあと建物の中で動く人、B=社内にいる全員、C=帰宅時に貸す分
  • 当社のおすすめは、先にAの人数分をそろえること。消防計画や防災計画の役割分担から人数を出すと、稟議で説明がつく
  • 当社では、Aの分は労働安全衛生法の型式検定に合格した保護帽をおすすめしている。買う前と棚卸しで内側のラベルを確かめる
  • 期限の表示がないので、製造年月と取扱説明書の交換の時期を一覧に書き、各階に分けて置く

この記事の論点だけでも、役割を持つ人の人数、検定の表示、置き場所の分散、製造年月と交換の目安、帰宅時に貸す分の扱いと、確かめることが5つあります。備蓄は人の命に関わるので1つも落とせず、これを担当者1人が覚えて回し続けるのは現実的ではありません。当社はそのための管理の仕組みをご用意しています。

当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。自社の人数で数えると、どの品目がいくつ要るかは、算定で出せます。

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