内閣府が2026年3月に公表した調査(回答1,759社)では、全従業員分の備蓄を「3日分以上」持っている会社は、水で45.1%、食料品で42.5%、簡易・携帯トイレで33.1%でした。日数で聞いた3品目の中でいちばん手薄なのはトイレで、「備蓄なし」が35.2%と、水(17.5%)のほぼ2倍です。日数で聞いた3品目とも、3日分以上そろえている会社は半数に届いていません。比べる相手は他社ではなく、基準と自社の人数です。

BCP対策の備蓄を進める前に「よその会社はどこまでやっているのか」を知りたい総務の方、稟議で「他社の状況は」と聞かれた方に向けた記事です。内閣府の「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」の最新版と前回版を並べ、数字の読み方と、自社をこの表に当てはめる方法を整理します。

根拠の数字|内閣府の調査で、全従業員分の備蓄がある会社の割合

調査は「貴社の災害時における全従業員用の備蓄状況(飲料水、食料品、携帯用トイレ、毛布)」を品目ごとに聞いています。水・食料品・トイレは「あり(1、2日分)」「あり(3日分以上)」「なし」の3択、毛布は「あり」「なし」の2択です。

品目3日分以上1、2日分なし
飲料水45.1%33.7%17.5%
食料品42.5%31.0%22.8%
簡易/携帯用トイレ33.1%28.5%35.2%
毛布あり 51.3%―45.7%
全体(n=1,759)。無回答は3〜4%で、表からは省いています。出典:内閣府「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査結果」令和8年3月 114〜121ページ

会社の規模で分けると、差がはっきり出ます。

品目大企業中堅企業その他企業
飲料水 3日分以上66.1%43.0%40.1%
食料品 3日分以上65.3%41.4%36.6%
トイレ 3日分以上55.7%32.1%27.1%
トイレ なし12.2%37.1%40.9%
毛布 あり76.0%46.5%46.8%
出典:同上 20ページ(図表2-11)。区分の定義は次の「前提の切り分け」を参照

あわせて、何らかの備蓄がある会社(n=1,479)に「従業員以外の帰宅困難者用にも余分に備蓄しているか」を聞いています。余分に備蓄しているのは32.6%、していないのは66.4%でした(同122ページ)。

2年前の調査と比べると

前回の調査(令和6年3月公表・回答1,826社)にも同じ設問があります。

項目(全体)前回 令和6年3月今回 令和8年3月
飲料水 3日分以上48.1%45.1%
食料品 3日分以上45.8%42.5%
トイレ 3日分以上32.4%33.1%
トイレ なし41.6%35.2%
毛布 あり48.9%51.3%
帰宅困難者用に余分に備蓄28.0%32.6%
無回答(水の設問)0.2%3.8%
出典:内閣府「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査結果」令和6年3月 18ページ(図表2-13・2-14)、令和8年3月 20ページ

トイレの「なし」は6.4ポイント下がりましたが、今回は無回答が3%前後に増えているので、差の一部は無回答に移っただけかもしれません。水と食料品の「3日分以上」はむしろ3ポイントほど下がっています。2年で大きく進んだとは言えない、というのが素直な読み方です。

前提の切り分け|この調査に入っている会社、入っていない会社

この数字を自社と比べる前に、調査の範囲を確かめておきます。

  • 答えたのは本社で、結果は会社単位です。調査の対象は「本所・本社・本店及び単独事業所」で(同3ページ)、調査票は支店などの状況も反映して本社の担当部署が答えるよう求めています(調査票 記入上の注意8)。支店をどこまで反映したかは答えた会社に任されており、拠点ごとの内訳は出ません
  • 資本金の小さい会社は入っていません。大企業・中堅企業・その他企業は資本金と常用雇用者数で分けられており、いちばん小さい区分でも資本金5,000万円超(小売業・サービス業の中堅企業)です。たとえばサービス業では、資本金10億円以上かつ常用雇用者101人以上が大企業、資本金5,000万円超10億円未満かつ101人以上が中堅企業、資本金1億円超かつ100人以下がその他企業です(同4ページ)
  • 会社が自分で答えた数字です。何人分を「全従業員」と数えたか、期限切れの分を含めたかは、答えた会社に任されています
  • 日数の区切りは「3日分以上」までです。7日分そろえている会社が何%かは、この調査からは分かりません
  • 品目ごとの集計です。「水はあるがトイレはない会社」が何%かは、公表された表からは出せません

調査は2025年11月1日〜12月26日に、5,052社へ郵送で送り、1,759社が答えています(回収率34.8%)。抽出率の違いは、規模・業種ごとに補正して集計されています(同3〜4ページ)。

数え方|自社がどの欄に入るかは、いちばん少ない品目で決まる

自社をこの表に当てはめるときは、品目ごとに「人数×日数」の数量に届いているかを確かめます。

  • 1日分の量:水は1人1日3リットル、主食は1日3食、毛布は1人1枚(東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」15ページ)。トイレは1人1日5回(内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」)
  • 人数:在籍人数ではなく、発災時に職場にいるであろう従業者です。東京都は条例Q&Aでそう答えています。数え方は従業員100人の会社は、防災備蓄を何人分そろえればいいですかに書いています
  • 判定:水が3日分あってもトイレが1日分なら、トイレの行は「1、2日分」です。備蓄全体の水準は、いちばん少ない品目で見ます

「備蓄はある」とだけ社内で報告していると、この表のどの欄に入るのかが誰にも分かりません。品目ごとに日数で言えるようにしておくと、足りない品目だけを予算に載せられます。数の根拠が自社の思い込みではなく人数と基準から出ていれば、稟議で金額を問われても説明が通ります。

計算例|従業員100人と300人が「3日分以上」の欄に入るには

発災時に職場にいる人数を100人・300人として、各品目の数量を出します。

品目1人あたり100人・3日分300人・3日分100人・7日分300人・7日分
水1日3リットル900リットル2,700リットル2,100リットル6,300リットル
主食1日3食900食2,700食2,100食6,300食
トイレ1日5回1,500回分4,500回分3,500回分10,500回分
毛布1枚100枚300枚100枚300枚
上乗せを入れる前の数量です

日数は、公表されている基準が3日分です。当社では7日分を到達点に置いており、3日分は完了ではなく第1段階と考えています。調査の「3日分以上」の欄に入ることは、到達点ではなく出発点です。3日分と7日分の使い分けは防災備蓄は何日分そろえればいいですかに書いています。

トイレの「1、2日分」は、100人なら500〜1,000回分です。3日分の1,500回分との差は500〜1,000回分で、ここが調査で3割弱の会社が止まっている場所です。回数の考え方と、便器の数との関係は災害用トイレは何人に1基必要ですかで扱っています。

当社ではこの数量に、トイレの予備率20%を足しています。東京都内の拠点はさらに帰宅困難者上乗せの10%を足し、掛け合わせずに1+0.2+0.1=1.3倍とします。100人・3日分のトイレなら1,500回分が1,800回分、都内の拠点なら1,950回分です。300人なら4,500回分が5,400回分、都内なら5,850回分です。帰宅困難者上乗せの10%は東京都のハンドブックが示すものなので、当社では都内の拠点が対象としています。

実務でつまずく点

1. トイレの「備蓄なし」は、水の2倍ある

日数で聞いた水・食料品・トイレの3品目のうち、「なし」がいちばん多いのはトイレの35.2%で、水の17.5%のほぼ2倍です。大企業に限っても、水の「なし」4.4%に対してトイレは12.2%と、差は3倍近くあります。品目ごとの集計なので、水はあってトイレはない会社が何%かまでは言えません。言えるのは、トイレを備えている会社が水・食料品より少ないところまでです。なお毛布は「なし」が45.7%とさらに多いのですが、毛布だけは日数ではなく「あり・なし」で聞いています。

しかも地震のあとは、断水していなくても建物のトイレを流せない時間があります。水が出ることと、トイレが使えることは別です。理由は断水していなくても、会社のトイレを流してはいけないのはなぜですかに書いています。水が3日分あってトイレがない会社は、3日間の待機のうち、トイレの分だけが成り立ちません。

2. 「あり」の3分の1以上は、1、2日分にとどまっている

水を「あり」と答えた会社は78.8%ですが、そのうち33.7ポイントは「1、2日分」です。トイレでは「あり」61.6%のうち28.5ポイントが1、2日分です。社内で「備蓄はあります」と報告されていても、それが何日分かを聞かないと、どの欄に入るのかは分かりません。入社や異動で人数が増えると、買った時点で3日分あった量が、いつの間にか1、2日分の側に移っていることもあります。

3. 全体の割合と比べて安心してしまう

中堅企業とその他企業では、トイレの「なし」が37.1%・40.9%と、大企業(12.2%)の3倍あります。全体の数字は規模の違う会社を合わせた割合なので、自社と比べるときは同じ規模の行を見ます。そのうえで、大企業の行は「同じことができている会社がこれだけある」という目安として使えます。ただし、どの行と比べても3日分以上の会社は7割に届きません。他社と同じ水準であることは、基準を満たしていることを意味しません。

4. 帰宅困難者上乗せを、拠点を選ばずに考えている

何らかの備蓄がある会社のうち、従業員以外の帰宅困難者用に余分に備蓄しているのは32.6%で、前回の28.0%から少し増えました。調査の設問は「自治体では…従業員分+10%程度を余分に備蓄するよう事業者に呼びかけています」という聞き方です。

当社の算定では、この10%を乗せるのは東京都内の拠点だけにしています。東京都の帰宅困難者対策ハンドブックが、外部の帰宅困難者のために10%程度を余分に備蓄するよう示しているためです。都外の拠点にも一律で乗せると、数量が1割ふくらみます。反対に、都内の拠点なのに乗せていないなら、上乗せを検討する対象です。都外の拠点は、その自治体の条例や計画が何を求めているかを拠点ごとに確かめます(東京都以外の自治体にも、企業に防災備蓄を求める条例はありますか)。なお、来客の多い会社は、10%とは別に来客の数を実数で積みます。

5. 会社全体の答えで、支店も足りていると考えてしまう

この調査は、支店の状況も反映して本社が答える形です。結果は会社ごとに1つの答えなので、支店・営業所・工場のどこが足りていないかは表に出てきません。自社に当てはめるときも、会社全体で3日分以上と言えるかどうかとは別に、拠点ごとに人数と日数で数え直す必要があります。拠点ごとの数え方は支店やサテライトオフィスにも、防災備蓄は必要ですかで扱っています。

社内でどう説明するか

他社の数字は、それだけで予算の理由にはなりません。「みんなやっていないなら急がなくていい」とも「みんなやっているから買う」とも読めてしまうからです。稟議では、他社の数字を「自社の位置」を示すために使い、量の根拠は基準と人数で示します。たとえば次のように書けます。

「内閣府の令和7年度調査(令和8年3月公表)では、当社と同じ中堅企業で簡易・携帯トイレを3日分以上備えているのは32.1%、備えていないのは37.1%でした。当社は現在1日分で、発災時に社内にいる想定の100人に対し、内閣府ガイドラインの1日5回で3日分の1,500回分に届いていません。今年度はトイレを3日分まで、次年度以降に7日分まで上積みします。」

この書き方なら、他社比較は「遅れていない/遅れている」の判断材料にとどまり、数量は基準から出ていることが伝わります。稟議の組み立て方は防災備蓄の予算を、社内でどう通せばいいですかに書いています。

よくある誤解

誤解実際
ほかの会社もそれほど備えていないので、後回しでよい他社の実施率が低いことは、基準が下がることを意味しません。東京都の条例が事業者に求める3日分は、他社の実施率と関係なく同じです
水と食料があれば、備蓄は一通りそろっている日数で聞いた水・食料品・トイレのうち、「なし」がいちばん多いのはトイレ(35.2%)で、水のほぼ2倍です。地震のあとは断水していなくても流せない時間があります
「備蓄あり」と答えられれば十分「あり」には1、2日分も含まれます。水の「あり」78.8%のうち33.7ポイントは1、2日分です
取引先に求められてから整えれば間に合うBCPを策定(予定)した最も大きなきっかけが「取引先の要請」だった会社は4.2%です。最も多いのは「リスクマネジメントの一環として」の35.0%でした(同14ページ)

まとめ

  • 内閣府の令和8年3月公表の調査では、全従業員分を3日分以上備えている会社は、水45.1%・食料品42.5%・トイレ33.1%
  • 日数で聞いた3品目でいちばん手薄なのはトイレ。「なし」35.2%は水(17.5%)のほぼ2倍で、中堅企業・その他企業では4割前後
  • 答えたのは資本金5,000万円超の会社の本社で、結果は会社単位。拠点ごとの内訳と、7日分の割合はこの調査から分からない
  • 自社の位置は、いちばん少ない品目の日数で決まる。比べるときは同じ規模の行を見る
  • 稟議では、他社の数字は自社の位置を示すために使い、量の根拠は基準と人数で示す

この記事は内閣府と東京都の公表資料にもとづく一般的な整理です。調査の数字は回答した会社の自己申告で、補正のうえで集計されたものです。

この記事の論点だけでも、品目ごとの日数、発災時にいる人数、1、2日分と3日分の差、帰宅困難者上乗せの対象拠点、本社以外の拠点と、確かめることが5つあります。備蓄は人の命に関わるので1つも落とせず、これを担当者1人が覚えて回し続けるのは現実的ではありません。当社はそのための管理の仕組みをご用意しています。

当社は非常用トイレをはじめとする防災備蓄品を扱っており、備蓄数量の算定のご相談も承っています。自社の人数で数えると、どの品目がいくつ要るかは、算定で出せます。

この記事の出典

コメント

コメントする